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■2009/09/12 (Sat)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
10
水の底で濁流を聞くような、そんな感覚が私を取り巻いていた。とくん、と赤い色彩が浮かび上がる。真っ暗闇に、染み付くような暗い赤色だった。
その赤色に、女の子の影が映っているのが見えた。
あれは……、あれは……。
私は考えようと自分の意識を探った。記憶のずっと奥、大事なものがそこに眠っているような気がした。
あの女の子は……。
あたりがうっすらと光を持つのを感じた。ぼんやりした意識が覚醒を始める。目を覚まし始めたのだ。
私ははっと頭をあげた。睡魔を振り払うように辺りを見回した。
夢だったら良かった。夢オチで自分のベッドで目を覚ませばよかった。
でもそこは、狭い部屋の中だった。広さは多分、2畳くらい。壁も天井も真っ黒で、窓がなく、明かりは天井に吊るされている小さな裸電球だけだった。足元はじわりと湿って、藁が敷き詰められていた。
私は、蘭京太郎の秘密の部屋を連想していた。この空間の雰囲気は、あの秘密の部屋に似ているように思えた。
体を起こすと、向かいの壁で可符香がうずくまっているのが見えた。
「可符香ちゃん、私……」
私はまだ目の前が白くかすむのを感じた。でも寝ている場合ではない、と無理に頭を振った。
可符香は、私が訊ねようとした言葉の意味を理解して、首を振った。ここに閉じ込められて、どれだけ経つのか。可符香もわからないようだった。
私はふらふらとしながら立ち上がった。改めて辺りを見回す。立ち上がると天井が低く、手を伸ばせば指先がつきそうだった。壁には一切の継ぎ目はなかった。空気を取り入れるための小さな穴がぽつぽつとあるだけだった。
出入り口は一つだけ。左手に、重そうな鉄扉が立ち塞がっていた。
私は、急にパニックになった。いきなり鉄扉に飛びつき、思い切り叩いた。
「出して! ここから出して!」
私はガンガンと鉄扉を叩いた。
「皆いるんでしょ! 返事して! 千里ちゃん! まといちゃん! あびるちゃん! 藤吉さん!」
しかし返ってきたのは、どこかに跳ね返って木霊のように残響音を残す自分の悲鳴だけだった。
私は力を失って、鉄扉にすがりついたまま膝をついた。体の奥が熱を持って、目に涙が溢れ出した。喉の奥から、嗚咽が漏れた。激しい後悔を感じていた。
「奈美ちゃん、落ち着きなよ。ここには、私と健太郎君しかいないんだよ」
可符香が穏やかな感じで私の背中に声をかけた。
私は涙を拭って、可符香から安らぎを得ようと振り返った。そうして、思わず鉄扉を背に飛び退いてしまった。
可符香が部屋の隅で膝を抱えていた。その膝の上に、小さな頭蓋骨を置いていた。
私はもう一度、床に敷き詰められている藁に目を向けた。たっぷり湿気を吸ってくたびれた藁に、人の骨が混じっていた。骨はばらばらになっていたけど、どれも小さなものだった。
考える必要はなかった。ここで誰かが死んだのだ。しかも、私たちより幼い子供だった。
私は呼吸が詰まるのを感じて、足元にあるすべてを蹴って遠ざけようとした。藁も人骨も、自分の足元から遠ざけようとした。
「何、何なの、可符香ちゃん」
私はさっきとは違う意味で、目から涙を落としていた。
「大丈夫だよ、奈美ちゃん。この子は健太郎君。私のお友達だから」
可符香は頭蓋骨を両掌に持って、にっこりと微笑んでみせた。
次回 P053 第5章 ドラコニアの屋敷11 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P052 第5章 ドラコニアの屋敷
10
水の底で濁流を聞くような、そんな感覚が私を取り巻いていた。とくん、と赤い色彩が浮かび上がる。真っ暗闇に、染み付くような暗い赤色だった。
その赤色に、女の子の影が映っているのが見えた。
あれは……、あれは……。
私は考えようと自分の意識を探った。記憶のずっと奥、大事なものがそこに眠っているような気がした。
あの女の子は……。
あたりがうっすらと光を持つのを感じた。ぼんやりした意識が覚醒を始める。目を覚まし始めたのだ。
私ははっと頭をあげた。睡魔を振り払うように辺りを見回した。
夢だったら良かった。夢オチで自分のベッドで目を覚ませばよかった。
でもそこは、狭い部屋の中だった。広さは多分、2畳くらい。壁も天井も真っ黒で、窓がなく、明かりは天井に吊るされている小さな裸電球だけだった。足元はじわりと湿って、藁が敷き詰められていた。
私は、蘭京太郎の秘密の部屋を連想していた。この空間の雰囲気は、あの秘密の部屋に似ているように思えた。
体を起こすと、向かいの壁で可符香がうずくまっているのが見えた。
「可符香ちゃん、私……」
私はまだ目の前が白くかすむのを感じた。でも寝ている場合ではない、と無理に頭を振った。
可符香は、私が訊ねようとした言葉の意味を理解して、首を振った。ここに閉じ込められて、どれだけ経つのか。可符香もわからないようだった。
私はふらふらとしながら立ち上がった。改めて辺りを見回す。立ち上がると天井が低く、手を伸ばせば指先がつきそうだった。壁には一切の継ぎ目はなかった。空気を取り入れるための小さな穴がぽつぽつとあるだけだった。
出入り口は一つだけ。左手に、重そうな鉄扉が立ち塞がっていた。
私は、急にパニックになった。いきなり鉄扉に飛びつき、思い切り叩いた。
「出して! ここから出して!」
私はガンガンと鉄扉を叩いた。
「皆いるんでしょ! 返事して! 千里ちゃん! まといちゃん! あびるちゃん! 藤吉さん!」
しかし返ってきたのは、どこかに跳ね返って木霊のように残響音を残す自分の悲鳴だけだった。
私は力を失って、鉄扉にすがりついたまま膝をついた。体の奥が熱を持って、目に涙が溢れ出した。喉の奥から、嗚咽が漏れた。激しい後悔を感じていた。
「奈美ちゃん、落ち着きなよ。ここには、私と健太郎君しかいないんだよ」
可符香が穏やかな感じで私の背中に声をかけた。
私は涙を拭って、可符香から安らぎを得ようと振り返った。そうして、思わず鉄扉を背に飛び退いてしまった。
可符香が部屋の隅で膝を抱えていた。その膝の上に、小さな頭蓋骨を置いていた。
私はもう一度、床に敷き詰められている藁に目を向けた。たっぷり湿気を吸ってくたびれた藁に、人の骨が混じっていた。骨はばらばらになっていたけど、どれも小さなものだった。
考える必要はなかった。ここで誰かが死んだのだ。しかも、私たちより幼い子供だった。
私は呼吸が詰まるのを感じて、足元にあるすべてを蹴って遠ざけようとした。藁も人骨も、自分の足元から遠ざけようとした。
「何、何なの、可符香ちゃん」
私はさっきとは違う意味で、目から涙を落としていた。
「大丈夫だよ、奈美ちゃん。この子は健太郎君。私のお友達だから」
可符香は頭蓋骨を両掌に持って、にっこりと微笑んでみせた。
次回 P053 第5章 ドラコニアの屋敷11 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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