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■2009/09/10 (Thu)
映画:日本映画■
その日、太平洋上の連合艦隊に、新しい司令長官が赴任する。
山本五十六、その人だ。
物語は山本五十六の就任から始まる。
緊迫した時代だった。
戦争の影が去ることはなく、ドイツがヨーロッパへの進撃を続け、日本とアメリカの両国はかつてない緊張状態にあった。
日本の軍令部は、アメリカは軍隊を進めてこないと見て、南方資源地帯確保を狙っていた。
だがアメリカは、ハワイに基地を置き、太平洋艦隊を集結させていた。
「もし、アメリカとの戦闘になったら、奇襲攻撃しかない」
日本とアメリカの緊張は、間もなく開戦の可能性を予感させるようになった。
山本五十六は、アメリカの戦力を冷静に把握していた。
日本軍は来たるべき開戦に備えて情報を集め、訓練を繰り返し、着々と準備を進めていった。
緊張感のない米兵士。高性能レーダーを設置するも「で、何を探すんです」と素人丸出しの軍人たち。右は情報の報告対象から大統領を外している場面。大統領への情報が行き届かなくなった原因だ。ところでご存知のように当初、黒澤明が監督する予定だった。しかし間もなく降板。様々な人が見解や憶測を述べているが、真相は“藪の中”だ。
一方のアメリカには、開戦の予兆はなかった。
軍人たちに緊張感はなく、戦闘訓練もほとんど成果を上げていなかった。
海軍省、海軍情報部だけは日本大使館の情報を傍受し、状況の深刻さを認識していた。
しかし、報告したはずの情報はことごとく大統領の元に届かず、ワシントン隠蔽体質から、必要な情報が現場に報告されなかった。
特にジョージ・マーシャル陸軍参謀長は、“戦争を避けえない場合、アメリカは日本からの第1撃を望む”といった奇妙な伝達を出し、さらに日本からの宣戦布告を1時間も隠蔽して、あたかも日本が一方的な奇襲を仕掛けたように見せかけた。
鑑賞前は勝手ながら『パールハーバー』的な映画だろうと思い込んでいた。ハリウッド資本の映画だから、白人優位主義的な作品だろう、と。だが『トラ!トラ!トラ!』はまったく違う映画だった。『トラ!トラ!トラ!』に登場する日本人はどれも聡明で顔立ちがよく、真面目で勤勉な性格に描かれている。特に驚いたのは、会議のシーンが時代劇風だったこと。じっさい当時の軍人は、まだ武士社会の性格を強く残していた。戦闘のプロである以前に、高潔で詩を好む性格だった。『トラ!トラ!トラ!』はその通りに描かれているのが驚いた。
いよいよ真珠湾攻撃が始まろうとしてる。
映画は様々な視点から、開戦に至るまでのやりとりを多層的に描いていく。
真珠湾攻撃に至るまでの数日間、何が起きたのか。
『トラ!トラ!トラ!』では、いわゆるハリウッド的なエンターティメント性は控えめだ。
クライマックスシーンまでに具体的なアクションは一切ない。
開戦が始まるまでの経緯を、歴史映画として過程を追っていく。
ジョージ・マーシャルの「アメリカは日本からの第1撃を望む」という謎の指示が下され、現場は動揺する。宣戦布告の報告が大統領に届かなかったり、真珠湾の警備を意図的に緩くしたり、不可解な命令が次々と下される。そういうアメリカ側の描写も興味深かった。アメリカ式戦争映画にありがちな、勧善懲悪、戦意高揚、愛国者育成映画とは明らかに異なった、ちゃんと実地調査に基づいて製作された映画だ。個人的な話だが、私は子供時代から「日本軍がいかに悪いか」を教育する映画ばかり見せられていたから、この映画はある意味で衝撃的だった。
歴史考証や、時代考証といった部分に見るべきものがある。
日本は一方的に戦争を求めたわけではないし、現場の軍人は愚かではない。
日本で製作される戦争ドラマのほとんどが、戦争末期の特攻隊とその悲劇だけに限定されて描かれるのを見ると、この映画は新鮮な視点を提供してくれる。
アメリカ側が、秘密主義が徹底されすぎて、情報交流ができず状況を見誤った事実も描かれている
どちらかといえば、日本側に好意的に描かれているようにすら見える。
物語の展開は緩慢で、いかにもエンターティメントしているというアクションはほとんどない。全体として静かで淡々とした構成で、ラストの真珠湾攻撃のシーンに入って一転して激しいアクションシーンに突入する。1/1スケールの戦闘機が木っ端微塵に破壊される。この迫力はデジタルでは出せない(ただし、動かないのだが)
驚いたのは、日本側の描き方だ。
日本の軍人は、みんな能力が高く、勤勉で、努力を決して怠らない。
それに軍司令部同士の対話は、まるで戦国時代を題材にした作品のように描かれている。
実際、この当時の軍人は“武士道”の精神を残した、最後の人達だった。
激しい戦闘の最中、今まさに軍艦が沈み行こうというときでも、心静かに詩を読んだと伝えられる。
『トラ!トラ!トラ!』は、ただ「戦争反対」としか言わない最近の戦争ドラマや、痛快なデジタルアクション満載のハリウッド映画などより、はるかに戦争の事実に直面し、真摯に描いて見せた映画である。
今においても貴重な作品と呼ぶべきだろう。
映画記事一覧
作品データ
監督:リチャード・フライシャー 舛田利雄 深作欣二
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
脚本:ラリー・フォレスター 菊島隆三 小国英雄 黒澤明
出演:山村聡 三橋達也 東野英治朗 田村高廣
〇〇〇千田是也 内田朝雄 安部徹 島田正吾
〇〇〇マーティン・バルサム ジェイソン・ロバーズ
〇〇〇ジョセフ・コットン ジェームズ・ホイットモア
山本五十六、その人だ。
物語は山本五十六の就任から始まる。
緊迫した時代だった。
戦争の影が去ることはなく、ドイツがヨーロッパへの進撃を続け、日本とアメリカの両国はかつてない緊張状態にあった。
日本の軍令部は、アメリカは軍隊を進めてこないと見て、南方資源地帯確保を狙っていた。
だがアメリカは、ハワイに基地を置き、太平洋艦隊を集結させていた。
「もし、アメリカとの戦闘になったら、奇襲攻撃しかない」
日本とアメリカの緊張は、間もなく開戦の可能性を予感させるようになった。
山本五十六は、アメリカの戦力を冷静に把握していた。
日本軍は来たるべき開戦に備えて情報を集め、訓練を繰り返し、着々と準備を進めていった。
緊張感のない米兵士。高性能レーダーを設置するも「で、何を探すんです」と素人丸出しの軍人たち。右は情報の報告対象から大統領を外している場面。大統領への情報が行き届かなくなった原因だ。ところでご存知のように当初、黒澤明が監督する予定だった。しかし間もなく降板。様々な人が見解や憶測を述べているが、真相は“藪の中”だ。
一方のアメリカには、開戦の予兆はなかった。
軍人たちに緊張感はなく、戦闘訓練もほとんど成果を上げていなかった。
海軍省、海軍情報部だけは日本大使館の情報を傍受し、状況の深刻さを認識していた。
しかし、報告したはずの情報はことごとく大統領の元に届かず、ワシントン隠蔽体質から、必要な情報が現場に報告されなかった。
特にジョージ・マーシャル陸軍参謀長は、“戦争を避けえない場合、アメリカは日本からの第1撃を望む”といった奇妙な伝達を出し、さらに日本からの宣戦布告を1時間も隠蔽して、あたかも日本が一方的な奇襲を仕掛けたように見せかけた。
鑑賞前は勝手ながら『パールハーバー』的な映画だろうと思い込んでいた。ハリウッド資本の映画だから、白人優位主義的な作品だろう、と。だが『トラ!トラ!トラ!』はまったく違う映画だった。『トラ!トラ!トラ!』に登場する日本人はどれも聡明で顔立ちがよく、真面目で勤勉な性格に描かれている。特に驚いたのは、会議のシーンが時代劇風だったこと。じっさい当時の軍人は、まだ武士社会の性格を強く残していた。戦闘のプロである以前に、高潔で詩を好む性格だった。『トラ!トラ!トラ!』はその通りに描かれているのが驚いた。
いよいよ真珠湾攻撃が始まろうとしてる。
映画は様々な視点から、開戦に至るまでのやりとりを多層的に描いていく。
真珠湾攻撃に至るまでの数日間、何が起きたのか。
『トラ!トラ!トラ!』では、いわゆるハリウッド的なエンターティメント性は控えめだ。
クライマックスシーンまでに具体的なアクションは一切ない。
開戦が始まるまでの経緯を、歴史映画として過程を追っていく。
ジョージ・マーシャルの「アメリカは日本からの第1撃を望む」という謎の指示が下され、現場は動揺する。宣戦布告の報告が大統領に届かなかったり、真珠湾の警備を意図的に緩くしたり、不可解な命令が次々と下される。そういうアメリカ側の描写も興味深かった。アメリカ式戦争映画にありがちな、勧善懲悪、戦意高揚、愛国者育成映画とは明らかに異なった、ちゃんと実地調査に基づいて製作された映画だ。個人的な話だが、私は子供時代から「日本軍がいかに悪いか」を教育する映画ばかり見せられていたから、この映画はある意味で衝撃的だった。
歴史考証や、時代考証といった部分に見るべきものがある。
日本は一方的に戦争を求めたわけではないし、現場の軍人は愚かではない。
日本で製作される戦争ドラマのほとんどが、戦争末期の特攻隊とその悲劇だけに限定されて描かれるのを見ると、この映画は新鮮な視点を提供してくれる。
アメリカ側が、秘密主義が徹底されすぎて、情報交流ができず状況を見誤った事実も描かれている
どちらかといえば、日本側に好意的に描かれているようにすら見える。
物語の展開は緩慢で、いかにもエンターティメントしているというアクションはほとんどない。全体として静かで淡々とした構成で、ラストの真珠湾攻撃のシーンに入って一転して激しいアクションシーンに突入する。1/1スケールの戦闘機が木っ端微塵に破壊される。この迫力はデジタルでは出せない(ただし、動かないのだが)
驚いたのは、日本側の描き方だ。
日本の軍人は、みんな能力が高く、勤勉で、努力を決して怠らない。
それに軍司令部同士の対話は、まるで戦国時代を題材にした作品のように描かれている。
実際、この当時の軍人は“武士道”の精神を残した、最後の人達だった。
激しい戦闘の最中、今まさに軍艦が沈み行こうというときでも、心静かに詩を読んだと伝えられる。
『トラ!トラ!トラ!』は、ただ「戦争反対」としか言わない最近の戦争ドラマや、痛快なデジタルアクション満載のハリウッド映画などより、はるかに戦争の事実に直面し、真摯に描いて見せた映画である。
今においても貴重な作品と呼ぶべきだろう。
映画記事一覧
作品データ
監督:リチャード・フライシャー 舛田利雄 深作欣二
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
脚本:ラリー・フォレスター 菊島隆三 小国英雄 黒澤明
出演:山村聡 三橋達也 東野英治朗 田村高廣
〇〇〇千田是也 内田朝雄 安部徹 島田正吾
〇〇〇マーティン・バルサム ジェイソン・ロバーズ
〇〇〇ジョセフ・コットン ジェームズ・ホイットモア
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