■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2010/01/05 (Tue)
映画:外国映画■
死者だけが戦争の終わりを見た
〇 プラトン
部族間の抗争は絶えず、30万人の民間の餓死者を生んだ。
最強の部族を率いるアイディード将軍は、首都モガディシオを占拠。間もなく国際世論が動き、米国海兵隊2万人が投入された。
翌年8月。
米国は、精鋭デルタ・フォースを投入し、アイディード逮捕に乗り出した。
だが6週間、事態は進展しなかった。
アイディードに武器提供を行っていた商人。この男の逮捕によって、事態は進展するはずだった。
アイディード支配地区。バカラ・マーケット。
米国はいまだにアイディードの所在を突き止められなかった。だがその日、バカラ・マーケットにアイディード派の幹部が集り、会合が開かれるという情報を得る。
米国は現地人をスパイに雇い、その正確な所在を特定。最強と謳われるブラックホークで突入させ、逮捕する計画を立てた。
イージーな作戦で1時間後には終了し帰還する――予定だった。
しかしそれは、地獄の始まりだった。
この地域でアメリカはとことん嫌われている。単に政治的問題に関わらず、いきなりやってきては市や一族のトップを“犯罪者”として逮捕する。そのついでのように住人を大量に銃殺する。
若者はいつだって戦争を軽んじる。
「たいしたことはないさ」
「すぐ戻ってこれるさ」
戦場には子供の頃、寝物語で聞かされたような心躍る冒険が待っている。自分たちは必ず戦いに勝利し、英雄として帰還する。それに相手は武器すら持っていない一般の住人に過ぎない。自分たちは充分以上の訓練を積んでいる。
だから、どんな作戦も余裕さ。
その期待は失望と絶望で裏切られる。戦争という現実を前に、若者達は初めて恐怖を知り、状況を前に茫然と立ち尽くす。
デルタ・フォースの兵士たちは、そんな若者の典型だ。
戦争を軽んじ、そこで起きようとする事件を理解できず、予測もできない。
兵士たちは戦争の訓練を受けたプロだが、実際の戦争がどんなものであるのか、何一つ知らない。
このロバは実際にいたようだ。この銃撃戦に関わらず生き延び“幸運のロバ”の愛称が与えられた。だが最後には死亡が確認されている。
舞台となるモガディシオはいわゆるスラムだ。道行く人はファッションのごとく軽機関銃を持っている。
略奪や拷問、虐殺するら起こる場所だ。我々が勝手に考えている文明人の条理などここにはない。すべてから解放された渾沌だけがここにはある。
だが不思議なくらい、都市の外には静かな風景が広がっている。
「妙な気分だよ。美しいビーチ。美しい太陽。バカンスだったら最高だ」
そこは天国にもっとも近い場所なのだ。
それでも人々は、望んで塀に囲まれた地獄を住まいにする。
ガリソン少将が見ているモニターは衛星中継されたものだ。ガリソン少将は衛星中継で見た画像で状況を判断し、中継ヘリに連絡、中継ヘリが現場の兵士に連絡するシステムだ。当然のように状況は変わっているし、“本当の現場の状況”は無視されてしまう。これが延々繰り返されてしまう。
“ソマリア強襲作戦”はたった一つにミスにより、大きな失敗を引き起こした。兵士たちはかつて経験のない激しい戦いの中に身を投じていく。
容赦なく迫り来る地獄を前にして、米国兵士たちは現実を乖離させていく。
何人死んだ?
何人負傷した?
何人殺した?
戦争の実体はいつだって非現実的なものだ。そこに投入された兵士にとっても、“戦争”という実体を発見できない。もし“戦争”というものがあったとして、いつからいつまでが“戦争”だったのか。後に語られる機会はあっても、それは飽くまでも断片化された物語ないし状況に過ぎない。子供たちにとっては、父親達が寝物語に語る英雄譚になってしまうだろう。
だが戦争は、すでに始まっているのだ。彼らは始めから地獄の中にいたのだ。
そうだと気付くのが少し遅かった。
兵士たちは何が起きたかわからないまま、煮だった地獄の鍋の中を這い進む。
ここは地獄だ。だが側には天国も同居している。
兵士たちにできる手段は、できるだけ早く、最も激しい渦の中から遁走することだけである。
ソマリア住人達がアメリカ兵氏の死体を裸にして吊るし上げにする。この場面がCNNで報道されたのが映画製作の切っ掛けとなった。
戦争が題材にされているが英雄映画ではない。激しい戦闘が延々続くが、何が起きているのか見ているだけではほとんどわからない。
有名な俳優が何人も出演している。ジョシュ・ハーネットや、オーランド・ブルーム。ユアン・マクレガー、エリック・バナ。いずれも主役をやれるビッグ・スターだ。
だが戦闘が始まると、すぐに誰なのかわからなくなる。みんなメットを被り、ゴーグルをかけ、顔は泥まみれで汚れる。戦闘の場面があまりにも激しく、その兵士がいったい誰なのか考えるゆとりすら与えない。
なぜなら『ブラックホークダウン』は、状況を描き出すことだけを目的としているからだ。
ただただ混乱と危機と破壊と死だけが留まらず迫り来る。映画の鑑賞者も彼らが置かれている状況に飲み込まれ、茫然と眺めているしかできなくなる。
終わりなき地獄の中へ。
いつか終ると信じて、兵士たちとともに心は走り出す。
映画記事一覧
作品データ
監督:リドリー・スコット 原作:マーク・ボウデン
製作:ジェリー・ブラッカイマー
音楽:リサ・ジェラード ハンス・ジマー
脚本:ケン・ノーラン スティーヴン・ザイリアン
出演:ジョシュ・ハートネット ユアン・マクレガー
〇 トム・サイズモア サム・シェパード
〇 エリック・バナ ジェイソン・アイザックス
〇 ジョニー・ストロング ウィリアム・フィクトナー
PR