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■2009/10/07 (Wed)
シリーズアニメ■
第1話 駄弁る生徒会
くりむ「メディアの違いを理解せよ!」
桜野くりむが今回のお題を力いっぱい声にした。ホワイトボードには『メディアの違いを理解せよ!』と大きく書かれている。背後の天井近い壁には『生徒会アニメ化緊急会議』の横断幕が張り込まれていた。
鍵「……はあ」
しかし一同の反応はそれぞれだった。
椎名深夏は漫画本をぺらぺら。深夏の妹の真冬はノートパソコンのキーを叩いている。紅葉知弦は読書に集中している。この場でホワイトボードを見ているのは、くりむの右手前に座っている、唯一の男性、杉崎鍵だけだった。
深夏「てか、本当にアニメ化するのか? 『生徒会の一存』だぞ?」
知弦「アニメ、というよりドラマCDで充分って声は大きいわね」
真冬「密林さんの書評はどの巻も同じだ、とか相変わらず話は進んでない、とか……」
くりむ「自虐ネタやめいぃ! ともかく、これは碧陽学園生徒会の世界戦略の第一歩。メディアミックスを展開すれば、お小遣いアップも夢じゃないわ!」
くりむが夢を膨らませてニヤニヤと笑顔。
鍵「お小遣いって……」
くりむ「それには、メディアの違いを理解した展開が必要なの!」
深夏「アニメはアニメなりの見せ方をしたほうがいいと?」
真冬「それって、原作クラッシュ」
くりむ「アレンジ! だいたい部屋の中だけで成立しているアニメなんて、いまどき日曜夕方にしか生息していないわ!」
くりむがテーブルを叩き、激しく捲くしたてる。
深夏が手を上げた。
深夏「はーいはーい! 映像化といえば、やっぱアクションだろ! そうだ、七つ集めると何でも願いが叶う……」
と拳を握る。
鍵「改!」
拳が鍵に落ちた。
真冬「あの、やっぱりこれからの作品は女性に受けることが大切だと思うんです。なので杉崎先輩の他に、もう一人の男性キャラを登場させて、許されない二人のフォーリングラブ要素を……」
鍵「て、これ誰!」
真冬「東池袋近辺じゃ大人気ですよ? 黒い執事さんに続く、大ヒット御礼ですよ」
知弦「それよりまず、アニメのタイトル決めたほうがいいんじゃない?」
深夏「え? 『生徒会の一存』だろ?」
知弦「それは最初の巻だけでしょ?」
知弦が鋭い視線を深夏に向けた。
真冬「『碧陽学園生徒会議事録』とも書いてありますが……」
知弦「長すぎるわね。『生徒会の一存』、略して――“生存”」
くりむ「じゃあさ、ひらがなにしようよ。そんで真ん中に☆とか」
“せい☆ぞん“
深夏「星か! じゃあついでに、星が入った珠を七つ集める話に……」
深夏が拳を握って立ち上がる。
鍵「……エボリューション」
深夏「そっちは口にするな!」
くりむ「仕方ない。じゃあ、いっそのこと新しいタイトルを……」
くりむがホワイトボードにきゅきゅっと文字を書く。
“涼宮……”
くりむ「憂鬱ってどう書くんだっけ?」
鍵「書いちゃ駄目!」
くりむ「書いとけばみんな騙されて見てくれるよ」
鍵「犯罪です!」
唐突に衣装チェンジ。知弦はSFふう全身スーツ。深夏はファンタジー風に半裸の鎧姿と剣。真冬は学園祭ふうゴスロリファッション。
鍵「って何しているんですか?」
知弦「何事も最初が肝心」
深夏「やれることはやっとかないとな」
くりむが魔法少女ふう衣装で、たったっと知弦たちの前に飛び出してくる。そしてカメラを指さし――。
知弦「さあ、始めるザマスよ!」
真冬「行くでガンス」
深夏「フンガー」
くりむ「まともに始めなさいよ!」
鍵「……2重の意味でやばくないですか?」
『生徒会の一存』は冒頭から堂々とごまかしも避けもせず内輪ネタから始まる。そもそも物語が始まっておらず、観る者はどんな物語なのかどんなキャラクター設定なのか知らされないまま、内輪ネタとパロディが延々続く。
しかしこれこそが『生徒会の一存』という作品なのである。この後も『生徒会の一存』は同じキャラクターで舞台を一切動かさず、延々対話を、それも内輪ネタとパロディを繰り返し続ける。だからこの冒頭数分間のシーンは、まさに『生徒会の一存』という作品を直裁的に解説した場面であるといえる。
『生徒会の一存』にオリジナルとして提示される部分は多分ない。すでに他作品で提示されたパターンからキャラクターと物語がカスタマイズされる。もっとも、『生徒会の一存』の個性はキャラクターや物語、背景などにはなく、語りにありそうだ。
『生徒会の一存』はある高校の生徒会を舞台にしている。もちろん、実地的な取材に基づく作品ではない。登場するキャラクターたちの口から「生徒会って何をするんだ」と告白されてしまう。――第1話にして、だ。
だから生徒会を舞台にしているが生徒会の活動は物語の中心になりえない。生徒会室と呼ばれる密室空間は、あくまでもキャラクターを寄せ集める場所に過ぎず、そこを「生徒会」としているのはただそう呼称しているだけだ。その生徒会と呼ばれる場所で、キャラクターたちはテーマ設定もせず、物語の進展を目的とせず、意味のない対話を延々と続けるのだ。
対話の内容はパロディが多いせいか接地点は低い。物語中で交わされる対話はどれも聞き覚えのある内容ばかりだ。聞き覚えのある台詞回しに、聞き覚えのある用語、流行語、スラング……。「誰もが知っている」言葉と知識を、大量に羅列しているだけだ。
言葉の中に新しい何かが見出される機会はない。「誰もが知っている」という範疇から物語を飛躍させられず、新しい知識や哲学が、あるいはそこを出発点とする何かが誕生しそうな期待は抱けそうにない。あえて言うなら、「駄弁る生徒会」ではなく「駄弁るオタク」と呼ぶべきだろう。
とにかく台詞量が多い。登場人物数が5人。新キャラクターの追加はほぼなしで、舞台もそこから移せない。だから5人が常に連続的に掛け合って台詞を紡ぎだしていかねばならない。見ていると楽しい雰囲気だが、作り手は相当緊張するはずだ。
しかし、実際この種類の作品を描くとなれば、作り手にとって大きな試練となる。
一幕劇はただでさえ難易度が高い。並みの脚本家ならば、簡単に弾かれてしまうだろう。そのうちにも台詞が一行も出てこなくなり、途中で作品趣旨を捻じ曲げてでも別展開に活路を、あるいは救いを求めるようになる。
どうにかこうにか書いてみせても、読者がついてこないだろう。同じ場面でどこまで物語を、あるいは言葉を延長させられるか。よほどうまく書かない限り、読者はそこに停滞を感じてしまう。
読者が物語にストレスを感じ、投げ出してしまうパターンには2つある。物語がよく理解できないか、物語が停滞しているように感じるか……。この場合作家は、読者の気持ちを鋭く察して、主人公がその場面からの痛快の脱出劇を描いて物語を別展開へと飛躍させる。
しかし一幕劇は“舞台を移動させない”が絶対的ルールだ。足枷であるといっていい。舞台を移さず、それでいて確実に物語を進行させ、読者に停滞感を与えてはならない。しかも『生徒会の一存』はシリーズ作品として1クール描こうと試みている。……狂気の沙汰としか思えない。
『生徒会の一存』の言葉のやり取りは冒頭から勢いよく、流暢に流れていき、一瞬でも停滞しない。まるで閉所恐怖症のように、台詞が交わされ言葉で埋め尽くされていく。一瞬でも、読者の気分がどこかに逸れる隙すら作らない。
一幕劇は難易度が高いばかりではなく、リスクが異常に高い。書くには相当の能力と労力、それから引き出しの数が必要になる。だが悲しいことに、脚本家の苦労はほとんど理解されない。例えて言えば、未開の地への無謀な冒険に出かけて、宝を得て帰還しても、誰も誉めてくれなくれなければ気付いてさえくれない、という感じだ。よほどの傑作でない限り、読者の痛烈な批判を受けるだけだ。
それでも『生徒会の一存』という作品は、その無謀さに挑戦した。『生徒会の一存』は徹底的に言葉で埋め尽くされる。会話に一瞬でも隙を作らず、笑いに間を作ろうとしない。ただとにかく、持てるすべてを注ぎ込むように、言葉で埋め尽くされる。『生徒会の一存』はライトなデザインとは裏腹に、難題に挑戦している最中なのだ。
作品データ
監督:佐藤卓哉 原作:葵せきな 狗神煌
シリーズ構成・脚本:花田十輝 キャラクターデザイン:堀井久美
美術監督:東潤一 中村恵理 セットデザイン:青木智由紀
CGIディレクター:佐野秀典 色彩設計:松本真司
撮影監督:川口正幸 編集:松村正宏
音響監督:岩浪美和 音楽:かみむら周平
アニメーション制作:スタジオディーン
出演:近藤隆 本多真梨子 斉藤佑圭 富樫美鈴
〇〇〇堀中優希 小菅真美 能登麻美子
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