かってに改蔵 下巻

久米田康治作品は、久米田康治自身の個人史である。
ほとんどの創作は、その創作について語られる時、物語やキャラクター、あるいは背景に流れるその当時の社会情勢などが中心に語られる。物語やキャラクター、当時の社会情勢、意識などが充分に解説され解釈を加えられ、それから“憶測”として作者の深層心理が考察される。作者がどうしてその場面を描いたのか、作者はどんな社会に接地して、どんな情報に精通し、どんな判断で題材を選択したのか。そうした諸々の断片をパズルのように組み合わせて、批評家は作家の人物像を作り出すのである。
かってに改蔵 3巻 (1)しかし久米田康治の創作は例外的である。なぜならば、久米田康治作品は、直接久米田康治自身について語っているからである。
久米田康治がどんな意識でその時代の現象に接し、漫画に取り入れようとしたのか。久米田康治が何を好み、何を嫌い、何を尊敬したのか――。そうした心理的なあらゆる傾向が、何もかも包み隠されず漫画の中で描かれ、キャラクターの口から直裁的に語られ、あるいは批評的に描写された。だから久米田康治作品は、久米田康治自身以外の何物でもない。作者自身の心理的な過程そのものが刻印されている。
『かってに改蔵』のDVDシリーズは、久米田康治のおよそ10年にわたる創作の過程を超特急で追いかけようという特殊な企画である。久米田康治のキャラクターの描き方や漫画のスタイルの変化。通常のシリーズ作品であれば、視聴者の混乱を避けてある程度の作家の変化やムラは刈り取られ、平均的な部分のみがピックアップされてアニメーションというメディアに落とし込んでいくのだが、『かってに改蔵』はむしろ変化の自体を克明に、ダイジェストとして描き、『さよなら絶望先生』へと続く久米田康治の作家としての過程を描いている。『かってに改蔵』の原作における作品スタイルがすでに『さよなら絶望先生』に近い形式を持っているために、『かってに改蔵 下巻』ではカット割りや箇条書きの出し方、擬音を女性声優でなぞるやり方まで、何もかもが『さよなら絶望先生』方式で描かれている。
『かってに改蔵』のDVDシリーズは、久米田康治という人物の過程を描き出した、極めて特殊な形態の“伝記”であるという見方もできる。
かってに改蔵 3巻 (14)前回『かってに改蔵 中巻』の記事を読んだ人は僅か数人……10人にも満たない人数だった。繰り返すが、10人を越えなかった。本当にこのDVDシリーズは売れたのだろうか、と心配になる数字である。『かってに改蔵』DVDの売れ行きが『さよなら絶望先生』のアニメ4期が断念された背景と関係しているのではないだろうか。

しかし、『かってに改蔵』の全シリーズをあまりにも端的にかいつまんで映像化されてしまったために、一見様にはあまりにも不親切な内容になってしまっている。原作では変化の過程が1週ごとに丹念に描かれてきたが、アニメではその過程がざっくり切り落として映像化してしまったために、熱心な原作読者でない限り、わかりづらい作品になってしまった(一度読んだことがある、という読者でも「?」な部分がたくさんあるだろう)
『かってに改蔵』は確かに1話完結のギャグ漫画であるが、その内容でやらかした多くの事件や現象はデフォルトされずに持ち越され、それがシリーズ全体における変化になっている。キャラクターなどはその一つで、DVDシリーズ上巻と下巻では同じキャラクターでも性格や描き方がまるっきり変わってしまっている。名取羽美の猟奇的な性格に変化したのはあまりにも有名であるが、実際には主人公である勝改蔵も随分違うキャラクターに変わった。坪内地丹などは、もはや人間以外の何かである。(地丹は変化の大きなキャラクターだったため、アニメ版では前半後半で設定が2パターン作られている)
この変化は中心的なキャラクターだけに留まらず、多くのサブキャラクターたちにも影響を与えている。
かってに改蔵 3巻 (10)そのうちの一つを見てみると、『かってに改蔵 下巻』の第6話Bパートにおいて唐突に登場する色黒の少年である。あの少年は坪内地丹の弟・砂丹である。地丹の弟は第1巻では地丹そっくりの肌の色が違うだけのキャラクターだったが、愛蔵版第10巻第14話226ページに再登場したとき、まるっきり別人のさやわかイケメンとして描きなおされた。
かってに改蔵 3巻 (11)また地丹の妹・牡丹もやはり当初地丹そっくりなキャラクターとして描かれていたが、愛蔵版第11巻第8話125ページにおいて再登場したとき、恥ずかがり屋のメガネっ子キャラとして設定が変更されていた。『かってに改蔵』には女の子キャラはまあまあいるのに、メガネキャラがいないという事態のために急遽書き改められたキャラクターである。
アニメ『かってに改蔵 下巻』の第5話Bパートで、山田さんが学園から立ち去るエピソードが描かれているが、実はこれ、次エピソードのための壮大なフリなのである。原作では「さよなら山田さん」の次に「帰ってきた山田さん」が描かれ、「感動的に去ったと思ったら、すぐに帰ってきた」という笑いになっているのである。かってに改蔵 3巻 (3)しかしアニメ版では、フリだけでオチが描かれず、ギャグ漫画らしくない不思議な後味で終わってしまった。アニメ版6話Bパートの背景にちらっと登場するのは、「原作では帰ってきたから」である。
ちなみにこの山田さんにちなんだエピソードは(原作では)この後しばらく続くことになり、山田さんの名前はじわじわと蝕まれてそのうちに山口さんに変わり、実はギャグ漫画の背景で、山田さん山口さんと砂丹の2人が悪と戦うバトル展開が描かれていたという事実が明らかになる。
かってに改蔵 3巻 (4)アニメ版第6話Aパートでは、地丹がなぜか奇妙なぬいぐるみ姿で登場する。原作を見ると、愛蔵版第12巻第4話64ページで無理矢理着ぐるみを着せられ縫い付けられるシーンが描かれている。それきり脱ぐことができなくなり、次のエピソードでもあの格好のままだった、というわけなのである。
かってに改蔵 3巻 (13)アニメ版第6話Bパートかってに改蔵 3巻 (2)で、名取羽美に生贄にされている少女が登場する。このキャラクターが最初に登場したのは愛蔵版第12巻第7話116ページである。名取羽美に対する恐怖のあまり、名取羽美の信者になってしまった少女である。その後何度か登場するものの、最後までキャラクター名は与えられなかった。
また、名取羽美は勝改蔵と同棲している。同棲が始まったのは愛蔵版第9巻第3話50ページからである。「勝」の表札の上に、「名取」の名前が貼り付けられてあるのは、そういう理由である。
泊亜留美もアニメでは一度だけしか登場せず、どんなキャラクターなのかわかりにくい。泊亜留美は地丹の後輩で、地丹が片思いをしてストーカーし続けていた相手である。『かってに改蔵』はキャラクターが年を取らない設定の漫画だが、泊亜留美だけは順調に年を取る設定で、初登場時は中学生、次に高校1年生になり、間もなく改蔵たちと同じ高校2年生に、最後には高校3年生になり改蔵たちより上級生になった。アニメ版に登場する泊亜留美は、すでに改蔵たちより一つ上の学年になっている設定である。
最後に、下巻に入り、またしても中巻とは違うキャラクターの描き方が試みられている。ちょっと見て明らかに違うのは瞳の描き方だ。中巻では瞳孔の黒を中心に置き、周辺に向かって何重かのグラデーションを作る方法で描かれている。下巻では、瞳孔の黒を中心に置き、中心地点より上をBLブラック、下部分のみに明るい色が使われるようになった。
原作を改めて確かめると、愛蔵版第11巻第19話でようやくこの描き方で定着したようだ。その以前のエピソードでもこの瞳の描かれ方は何度も試みられているが、移行期間と見られるエピソードがしばらく続いている。最初に瞳の描かれ方が変わったのは、おそらく愛蔵版第11巻第12話182ページ1コマ目の改蔵のクローズアップショットだろう。その後、徐々に瞳の描かれ方は新しいやり方に変わって行き、第19話で完全に以降完了したようだ。
ざっくりとした説明だが、『かってに改蔵 下巻』はこれだけの解説を前に置かないとわかりづらい作品である、と了解したほうが良いだろう。
かってに改蔵 3巻 (15)モブキャラとして出演し続けた新谷良子。『かってに改蔵 下巻』に入り、ついに名前のある役名を獲得したようだ。改蔵のクラスメイトである「しえちゃん」がそれだ。しえちゃんは原作初期から一応登場していたが、いつの間にか名前が与えられ、独立していたキャラクターに成長した。作品と同じように、新谷良子もそれなりの場所に着地したようである。

第5話 バックトゥザTORAUMA
Aパート・イノセントワールド (愛蔵版第10巻第19話より/冒頭シーン愛蔵版第6巻第8話より)
かってに改蔵 3巻 (5)名取羽美は自転車を押して歩きながら、街の建物を見ていた。ふと商店街の一角が切り崩され、鉄骨むき出しの構造物が組み立てられているのが目に付いた。安全第一のプレートが掲げられ、高い防壁に囲まれ、いま建設の真っ最中といった様子だ。
「再開発か……」
ぼんやりと黄昏れるように言葉を漏らす。
「どうかしたの」
一緒に歩いていた彩園すずが尋ねる。
「昔ここらへん古い商店街があって、私たちの遊び場だったんです」
――それは昭和30年代頃の話。戦後の闇市を辛うじて抜け出せた商店街は、その時代ではそこそこの治安を維持し、人が多く行き交う活気に満ちた場所になっていた。ショウウインドウには新しい時代を象徴するようなテレビや洗濯機といった商品が並び始め、それが大量消費時代の幕開けを予感させていた……。
「まだ生まれてないっつーの! ダメよ、某長期連載ポリス漫画のマネしよーたって」
もとい、せいぜい90年代。この辺りは子供たちの格好の遊び場だった。
「懐かしいなぁ」
「どんな遊びするの?」
過去の思い出に浸り始める羽美に、すずが尋ねる。
「めちゃぶつけとか交差点ベースボールとか、けっこう危ないことして親や先生に禁止されたっけ……」
そんなふうに思い出しながら歩いていると、前方を少し行ったところに改蔵が歩いているのに気付いた。辺りを警戒するようにきょろきょろしながら、こそこそと商店街脇の路地へと忍び込んでいく。
何か怪しい。名取羽美と彩園すずの2人は改蔵の後をついて行くことにした。改蔵はやがて、いかにも怪しい雰囲気を孕んだ、重そうな鉄扉の向う側へと入っていく。その向うは“禁止された遊び”を懐かしむ場所だった……。

Bパート・サヨナラ山田サン (愛蔵版第11巻第13話より)
かってに改蔵 3巻 (6)「山田さんのためにカンパしてください」
改蔵が安っぽい箱を手に、クラスの一同に呼びかける。箱には「カンパ箱」と書かれた紙がセロテープでいかにも即席という感じに貼り付けられている。
「か、カンパって、まさか……」
しえちゃんが声を震わせながら尋ねる。他のクラスの女の子も、青ざめたり汗を浮かべたりして改蔵を見ていた。
「今まで気付かなかった僕の責任でもあるんです」
突然に、名取羽美が改蔵を殴る。血が点々と散った。改蔵の体が横向きになって吹っ飛び、扉にぶつかった。
紛らわしいが、“例のアレ”ではなかったようだ。
改めて解説すると、山田さんが学費を払えないため、学校を辞めなくてはならなくなったそうだ。
「いいの。私、学校を辞める」
しかし山田さんの言葉に深刻な影はなく、かといって努めて明るさを装うわけでもなく、無感情にそう言った。
実は山田さんには、もっと別の悩みがあった。山田さんには足りない物がある。
とある漫画家には才能がなかった。とある経営者には決断力がなかった。とある政治家には愛国心がなかった。山田さんには……人を好きなる心がなかった。

Cパート・アル意味、貝ニナリタイ。 (愛蔵版第14巻第1話より)
かってに改蔵 3巻 (7)それはとある冬の日のできごとだった。改蔵と羽美は、炬燵に体を潜り込ませながら、のんびりとテレビを見ていた。
「独占中継! おめでとうトニ・タワラちゃん!! 超豪華結婚披露宴!!」
テレビの画面に大きなテロップが画面全面に現れる。それに続いて、披露宴の様子が映される。赤絨毯の上を、真っ白なウェンディングドレスを身にまとった女と、白スーツの男が手を組んでしずしずと歩いていく。
そんな場面を見ながら。
「ぷっ! 自分デザインのウェンディングドレスって……!」
改蔵がさっそく突っ込む。しかし汗を浮かべながら。
「うそお! 8メートルのベールだってさ……!」
羽美も突っ込む。しかし言葉は震えている。
「ウェンディングケーキが地球ってさあ……」
「本人たち出演の再現ドラマって……」
突っ込みはさらに続くが、発言のたびに勢いは弱くなり、ついに何も言えなくなってしまった。
……そこまでやられたら、もう何も言えません。
何事も中途半端にすると叩かれたり悪口言われたりする。だったら徹底的な過剰さをそこに作り出してしまえば、もう誰も何も言わなくなるのではないだろうか。
ハルウララ人気だってそうだ。50~60連敗なら駄馬だ駄馬だとからかわれるが、100連敗もしたら、もう誰も文句言わない。むしろ応援すらしたくなるというもの。
テストの点数だって、中途半端に悪い点数だから叱られる。全科目堂々の0点だったら、親も諦めてくれるのではないか。
というわけで、ここにやりすぎて何も言われなくなった人たちがいる……。

第6話 孤独な女
Aパート・スレスレ★サーカス (愛蔵版第12巻第5話より)
かってに改蔵 3巻 (8)街にサーカスがやってきた! 広場に大きなテントが設置されて、人々が集まってくる。陽気なピエロが風船を配り、テントの周辺は賑やかな雑踏と笑顔で満たされていた。
テントの中に入っていくと、すでに素晴らしい技の数々が披露されている。定番の玉乗り、ナイフでジャグリング、空中ブランコ……。
「すごーい! すごーい!」
観客席に座る名取羽美が、子供のように興奮して声を上げる。その隣に座る改蔵は、退屈そうにピエロたちの技を冷淡に見つめていた。
次は細い綱の上を、一輪車が渡ろうとする。しかしその途上で、演者がふらふらとバランスを崩し始める。
それに異様な興奮を見せる羽美。
「しーっぱい! しーっぱい! しーっぱい!」
突然立ち上がり、拳を振り上げて叫び始める。
「やめてくださいお客さん! 縁起でもない!」
ピエロが羽美の前に飛び出してくる。しかし羽美は、しばらく一人で「に・く・へ・ん!」コールを続けるのであった。
という羽美は置いておいて、改蔵が鼻の先で嘲笑的な笑いを漏らした。
「綱渡り感に欠けるんじゃないかなぁって」
綱渡りというほど必要に迫られていない。本当の切迫感がそこに演出できていない。本当にギリギリスレスレの綱渡りとはどんなものなのか――改蔵はピエロをもう一つのサーカステントへと連れて行く。

Bパート・近ゴロ、オヘソ出サナイネ。 (愛蔵版第14巻第14話より)
かってに改蔵 3巻 (9)勝改蔵は名取羽美をちらちら見ながら、胸をときめかせていた。ただし顔はこわばり、一杯の汗が浮かんでいる。
「最近、羽美を見ていると、ドキドキしてしまうのです」
改蔵は彩園すずに身の内を告白する。
するとすずは、「あー」と感情のない言葉を長く漏らした。
「それは恋ね」
「恋! そんな! 俺が羽美を好きになるなんて。どうなってしまったんだ俺!」
改蔵は錯乱して部室を飛び出してしまった。
ダットンのアロンの実験によるところの、感情の誤認識である。恐怖心からくる心臓のドキドキと、恋のドキドキと感情が勘違いする現象である。「吊り場理論」という言葉でよく知られているあの現象である。(Wikipedia:吊り橋理論
それを知った羽美。
「ついに改蔵が私のことを好きになったの? 私を見るとドキドキして堪らないと言うのね!」
大喜びの羽美。しかし羽美は、より恐怖を与えると、そのぶん改蔵が自分を好きになってくれると解釈。そういうわけで、羽美による恐怖の虐殺と破壊が始まった……。

かってに改蔵 上巻
かってに改蔵 中巻

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作品データ
総監督:新房昭之 監督:龍輪直征 原作:久米田康治
キャラクターデザイン:山村洋貴 メインアニメーター:岩崎安利
美術監督:飯島寿治 伊藤和宏 ビジュアルエフェクト:酒井基 色彩設計:滝沢いづみ
構成:東冨耶子 構成・脚本:高山カツヒコ 編集:関一彦
撮影監督:江藤慎一郎 音響監督:亀山俊樹 音楽:川田瑠夏
プロデューサー:宮本純乃介 アニメーションプロデューサー:久保田光俊
オープニング主題歌:水木一郎と特撮 エンディング主題歌:新☆谷良子
アニメーション制作:シャフト
出演:櫻井孝宏 喜多村英梨 斉藤千和 豊崎愛生 堀江由衣
    立木文彦 新谷良子 岩男潤子 永田依子 明坂聡美
    小野友樹 千々和竜策 中國卓郎 矢澤りえか MAEDAX
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さよなら絶望先生 第27集

2011.11.14 - 読書:漫画
絶望先生27集 (1)映画化“済”作品!!
いや、初耳だぞそれは。どうやら『劇場版魔法先生ネギま!』と『劇場版ハヤテのごとく!』の同時上映の合間に上映されたらしい。およそ3分の出オチ……短編映画だったようだ。この劇場版は原作者も知らないうちに……と添え書きがあるが? もしかしたら、これが最後の絶望先生映像化作品になるかもしれない。いつかビデオになったら、ぜひ見てみたい作品だ。
表紙絵に選ばれたのは糸色倫。いつものお尻見せポーズ、かと思いきや、堂々と正面を向いた立ち姿で、右手にチェロのネックを掴み、左手には弓が握られ、弓は添えられるようにチェロの玄に当てられている。表情は淡く頬を染めて微笑み、衣装は糸色倫にしては装飾の少ない標準的な和装袴姿で、髪に華をモチーフにした飾りが与えられている。
わずかに右側にそらされた糸色倫のポーズに、左側から足元へ直線的に描かれたチェロとの組み合わせが、糸色倫とチェロというモチーフを重奏的に補強している。
表紙を飾る順番がコミックス前半の背表紙の通りであるとすれば、次巻は大草麻菜実になるはずだ。「そろそろ完結するのでは?」と囁かれるこの作品であるが、全キャラクターが表紙を飾るまでもう少し続いてほしいところである(予定では29集は加賀愛が表紙を飾るはずなのだから)

前巻までのあらすじ
わたくし糸色流華道師範、糸色倫と申します。お花について皆さま、誤解があるようなので、一つ申し上げたい。「花言葉」あれ全部ウソ! だって花が言葉を喋るわけないじゃない。おほほほ・・・・。でもね・・一度だけ聞いた事があるの。深夜に桔梗と撫子が話しているのを聞いた感じからだと、古代ワングル語に似ていて、とてもここでは言えないような悪巧みをしていたの。もう、怖いので花占いをしちゃいます。好き、嫌い、好き、嫌い・・好き・・嫌い・・好き・・殺す・・・・

第261話 春は曙。やうやう難くなりゆくやめ際。
絶望先生27集 (2)「先生、この漫画いつやめるんですかね?」
マガジンを読んでいる藤吉晴美が、とある漫画を糸色望に向けて尋ねる。その作品は不人気を通り越して、なぜ連載しているのか誰が読んでいるのか不明なのに関わらず、なぜかマガジン誌上で長期連載を続ける不思議作品であった。
糸色望は表情を暗く沈ませて、うつむく。
「読者も作者も編集者も、そろそろかなとは思ってはいるんですが……やめるにも物凄くパワーがいるのです」
伏線回収して着地点を決めて広げた風呂敷たたんでうんたらかんたら……。しかもその漫画家は過去作品で、最終回で突然ギャグ漫画ではなくなり、読者を激しく困惑させボロクソに批判された前科を持っている。
「これから熱くなり、体力的に厳しくなるので、涼しくなるまで待って頂きたいかな、と」
望は弱々しい調子でいつもの言い訳を並べはじめた。
「やめるのが難しい」そういうものは漫画だけではなく、様々な分野にその事例が見出せる。
例えば部活の退部。退部理由を原稿用紙100枚書かされた挙句、やっぱり受理されず続けることになったり。
結婚もするよりやめるほうがよっぽど大変。ハンコ押させたり、法廷で有利な証拠集めたり(ていうか、大草さん離婚考えているんだ)
原発もいざ止めようと思っても、何年も冷やし続けなくてはならなくて、やっぱり大変。
やめるにやめられない……だから仕方なく続けている。そういう人や事業、性癖の事例は世の中にはたくさんあるのだ。

第262話 夜の霧
絶望先生27集 (8)日塔奈美は朝から興奮状態だった。
「本当に見たんだって! 小森ちゃんが外出しているの」
そう言っている本人も、にわかに信じられないといった様子だった。
いまいち説明にまとまりのない奈美の話を整理すると、昨日の夜、何かの気配に気付いて目を覚まして窓の外を覗くと、そこに毛布を体に巻いた髪の長い少女が歩いていたという。それはまさしく小森霧……。
しかしそんな話、狼少年のホラ吹きのように誰も信じない。なにせ小森霧は学校引きこもり。しかも全座蓮が認定した公認座敷童子で、もしも小森霧が学校から離れると、老朽化著しい学校が瞬く間に崩れ去ると言われている。だから小森霧が外に出るわけがなく、また出られるはずもないのだ。
が、奈美の話に同意する少女がここに。
「実は私も」
と証拠写真を提示するのは小節あびる。写真に写っているのはまさしく小森霧。猫会議に同席しているらしく、深夜の猫に囲まれ、街灯のスポットライトを浴びている小森霧が映し出されていた。
しかも――写真の中の小森霧は寝ているのだ。
寝ている間は座敷童子としての業務から外され、学校も崩壊しないらしい。
「これで小森ちゃんも、一緒に遠足行けるね!」
というわけで急遽、真夜中の遠足へ向かうことになった。

第263話 どーせ書生気質
絶望先生27集 (9)風浦可符香が大きく体をそらして、東京タワーのてっぺんに目を凝らした。
「先っぽ曲がったままだよね」
東京タワーの一番上、網状に組み込まれた鉄骨の先に備え付けられたシャーペンの芯のような鉄の棒。これが、わずかに折れていた。
「少しは元に戻したらしいですけど。機能的に支障がないのと、あの日の出来事を記憶に留めようとそのままにしてあるのでしょう」
糸色望も東京タワーを見上げて答える。あの日……それはつい先日発生したあの超巨大地震のことである。
余震が来たらまた曲がっちゃうかもしれないから、落ち着くまでそのままにしている。それでそのまま、いつ元に戻していいのかタイミングが掴めない。
「ああわかる。あの日、ウチの家具とかもだいぶ倒れたりしたんですけど……」
日塔奈美が同意の声を上げて頷く。また大きな余震が来るかもしれないから、家中のものを床置きにしたままにしている。で、そのままいつ元に戻すべきかタイミングがわからない。
しかし、そんな状況に憤る少女がここに1人。
「なんですぐ元に戻さないの! そーゆうの一番イライラするの。」
不満の声を上げるのは木津千里であった。
そんなところにやってくる一旧さん。ドア半ばがわずかにへこんでいる。
「いつも同じ場所をぶつけるんで、どーせまたぶつけるから直さないでいるんです」
「すぐに直しなさいよ!」
木津千里が運転席を覗き込んで怒りの声を上げる。
そんな場所をふらりと横切るのは木津多祢。千里は油断なくその髪をひと房、さらっと指先で触れる。
「髪がじっとりしている。昨夜、髪洗った?」
「……昨夜どころか。いや昨夜は洗ってないなぁ……」
多祢は冷や汗を掻きながら、何かごまかすように千里から目を逸らしている。
「きったねー! 毎日洗いなさいよ」
「パサパサになるだろ。毎日洗ったら」
口論が始まる。
どーせまた○○だから今やらなくてもいい……。それはどこか人の怠慢さの真理を突いている。

第264話 あひあひゞき
絶望先生27集 (24)「やっぱり降ってきた。こんな日に傘持ってないなんて」
加賀愛が空を見上げる。どんより曇った雲が、ぱらぱらと緩やかな雨を降らせようとしている。
帰宅の足を早めようとする加賀愛だったが、ふと通り過ぎようとした古道具屋に、雅やかな和傘が置かれているのに気付いた。
欲しいかも……。加賀愛は雨で必要という事情を差し置いて、その和傘に何ともいえない魅力を感じた。加賀愛は思い切って古道具屋ののれんをくぐり、和傘を手に入れた。
で、その翌日の教室。
教室の中なのに関わらず、和傘を広げて手に持っている加賀愛がいた。
「んー」
糸色望はしばらく考えるような顔をしたが、そのうち諦めたように背を向けた。
「何で、突っ込まないんですか?」
木津千里が冷静に尋ねる。
「いや、まあ……。いろいろ事情があるんでしょう」
望は他人事を決め込んだようだ。
どうやらその和傘が加賀愛の手から離れなくなったようだ。しかももし畳もうとすると、ガラスが割れたり誰かが失神してしまったり。
「間違いない。その傘。呪われている。」
千里がビシッと指をさして断定する。
呪われた傘を供養するためには、相思相愛の人と相合傘をしなくてはならないらしい。しかし加賀愛の想い人っていったい……誰?

第265話 あめれおん日記
絶望先生27集 (11)雨が降っていた。屋敷の窓は雨滴をいくつも浮かべ、外の風景は白く溶け始めていた。
糸色望は深刻そうな顔をして、そこに並ぶ少女たちを振り返る。
「この中に雨女がいます!」
まるで推理小説のクライマックスよろしく指をさしながら叫ぶ。
「はい、私雨……」
日塔奈美がここぞと手を挙げてアピールしようとするが、
「梅雨だからでしょ。」
木津千里が当り前のように言う。
「はいはい私が……」
日塔奈美がそれでも手を挙げようと割り込もうとするが、
「梅雨だからでしょ」
小節あびるがしれっと遮る。
「そうですね。梅雨だからですね」
糸色望が窓の外を顔を戻す。その顔に灰色の光が差し込んだ。
「私が雨女です!」
奈美が自分を指差し、声を上げる。
ようやく一同が奈美を注目する。しかしその顔はどれも無表情で信頼はどこにもない。
「証明、できます?」
雨が降っているのは梅雨だから。たとえ奈美が雨女であってそう主張していたとしても、梅雨ではその性質が埋没してしまう。
どんな物事も、時と場合によって埋没してしまうことがしばしばある。梅雨の梅雨女のごとく。
不登校も、夏休みには埋没してしまう。
露出狂も、脱衣場では埋没してしまう。
ロリコンも、平安時代では埋没してしまう。
どうやらこれを機会に、奈美は「雨女キャラ」として売り出そうと目論んでいたようだ。しかしこの梅雨の時期……。
「見て、新聞の折り込みチラシにこんなものが」
風浦可符香が一枚のチラシを奈美に差し出す。チラシには「雨女募集」の文字が大きく書かれていた。

第266話 笹の上のメモ
絶望先生27集 (13)七夕の夜。糸色望と風浦可符香が願い事を一杯吊るした笹を見上げていた。
「ここの笹って願い事が叶うって評判なんですよ」
可符香が穏やかな口調で望に伝える。
「節電でいつもより星がたくさん見えるから、願いが届きやすいのかもしれませんね」
望は笹の向うに見える星空に目を向けた。夜空は星が明るく瞬いている。天の川らしき星屑の筋が夜空を横切っているのが見えた。
「やばいやばい!」
夜の静けさを打ち破るように、少年がばたばたと駆けてきた。
「覚えなきゃ覚えなきゃ。こんなことでは有名中学に受からない!」
少年は単語帳を見つめながら、大急ぎでその場所を駆け抜けようとした。
が、
どーん!
糸色望とぶつかってしまう。単語帳と短冊がばらばらに交じり合って周辺に散ってしまった。少年は「早く覚えなきゃ!」と地面に散った色んなものを集め始める。糸色望も、地面に落ちてしまった短冊を元に戻そうとひろい集めようとする。しかし、少年も望もどうやら酷く近眼な性質らしく……。
ふと、街頭テレビの声が耳に入ってくる。
「ここで臨時ニュースをお伝えします。フランスで革命が発生しました」
まさか……! 糸色望はさっき自分が集めた短冊を確かめた。するとそこに、「フランス革命」と書かれた単語帳が。単語帳はそれだけではなく、笹に一杯吊るされていた。
願い事が叶いやすいと評判の笹。早く回収しないと……。でも異様に成長の早い笹で、早くも望の手の届かないところへ育ってしまった。

第267話 節電中の日本より
絶望先生27集 (16)暑い……。ぎらぎらと突き刺すような熱線は、校舎の内部の温度も容赦なく引き上げさせる。糸色望は暑さにぐったり顔を落としながら廊下を歩いていた。
と、
「節笑中」
そう書かれた紙が掲示板に貼り付けられていた。
「理由があります。笑いは、節電によくないんです」
説明するのは木津千里。
笑いは節電に良くない。それは科学的に認められた事実である。よく、怪談で背筋が寒くなるという。あれは血管が収縮して血行が悪くなるから冷えるのである。それと逆で、笑うと血行がよくなり、体が温まり、結果クーラーを多く使用してしまう。
「つまりギャグ漫画は、節電に不向き」
小節あびるが千里の台詞を引き継ぐように言った。
とにかく笑いは節電の精神を矛盾するので、
「絶対に笑わせてはいけない 絶望先生」
しかし、それを見た風浦可符香は、
「ん。通常通り」

第268話 ペイの拡充(欠番)
盗作が指摘されたため、単行本には収録されず。

第269話 浦田未更新曲
絶望先生27集 (17)糸色望はパナマハットを被り、古い趣を残す蔵井沢の町を歩いていた。
「地元の町は久し振りですね。ああ、佐々木のおばさん」
望が懐かしそうに辺りを見回していると、ふと幼い頃の知り合いであるおばさんがいるのに気付いて挨拶をした。
「おや久し振り。のんちゃん」
望はしばらくおばさんとあれこれ話をして、その場を去った。
それからまた歩いていると、昔の友人がベンチに座っているのに気付いた。
「あ、久し振りだなぁ、ゾムゾム」
望はしばらく友人とあれこれ話して、その場を去った。
「「ゾムゾム」って?」
望の後ろを歩いていた常月まといが尋ねる。
「昔のあだ名です。しかもほんの一時期。小五の一学期だけとかそんな。みんなお互いをそんな感じの呼び方するのが流行ったんです」
ちなみにさっきの友人はひろし君といって、「ピロピロ」と呼ばれていた。
地元に戻ると、人の会話で気付かされる。自分に対する情報の古さに! 夏休みの帰郷。それは未更新の自分に会える時である。

第270話 代理の子
絶望先生27集 (19)糸色望が実家の屋敷の中で、のんびりと本を読んでいた。あたりは人の気配もなく、静寂そのもの。
そこに、旧式の黒電話が騒がしく音を鳴らす。
「はい」
望は受話器を手に取った。
「寄付しろ。金持ちは寄付しろ」
電話はそれだけで切れてしまった。後にはツーと無味乾燥な音が続く。
この頃、糸色家にその手の匿名電話が頻繁にかかっていた。「寄付しろ」や「節電しろ」「消費しろ」といった要求である。
無権代理。“スラックティビスム”である。自分では何も社会活動しないけど、他人に進言し活動させることで、自分も社会に対して何か活動した、あるいは参加したつもりになることである。無権代理は、本人でもないのに勝手に当事者のように振舞うことである。(Wikipedia→スラックティビズム)(Wikipedia→無権代理
例えば、わざわざ遠い県からやってきて、その土地の者のように反対運動に参加したり。
公園なのに、花見をするのに自分のものであるかのように場所代を請求したり。
勝手に網を捕獲して、魚を逃がしたり。

第271話 能動とは何か
絶望先生27集 (21)糸色家のとある一室に、いかめしく装飾が散りばめられた椅子が置かれ、その椅子に時田が堂々と座っていた。その時田の前で、糸色望と倫が正装で畏まって立っている。
「何なりと申し付けください」
望と倫はうやうやしく頭を下げた。
緊張した沈黙が、両者の間を流れた。
「ちょっとお止め下さい。何なのですか、コレは?」
時田がわずかに腰を上げて、望を止めるように手を伸ばした。
前回までのあらすじ……。実は糸色家の正式な後継者は時田であった。現在の糸色家こそ、影武者であったのだ。その事実がいつの間にか忘れられていたが、前回初めて明らかになったため、本来の上下関係に戻したのだ。
「そうか……。そこまで言うのなら仕方ない。長きにわたる隠密生活にピリオドを打ち、時田家が主として復権しようではないか!」
時田は椅子にふんぞり返って尊大な笑い声をもらした。
「では申し付ける! 今までのままで!!」
というわけで、いつもの立場に戻った望たちであった。
「なぜ復権を嫌がる?」
望が尋ねる。
「私は今の立場が好きなんですよ。人に命令するより、命令される立場が好きなのです。では」
時田はいつもの淡々と調子で説明すると、頭を下げながら廊下に引っ込んだ。
そこに、風浦可符香が待ち構えていた。
「わかります時田さん。命令されるほうが主導権持っていることありますしね」
例えばメイド喫茶でご主人が命令した気になっているけど、実際は命令させられている。
自分は動かず、敵が動くように仕向ける。
――以逸待労。兵法三十六計の第四計である。(Wikipedia→以逸待労
先制攻撃を仕掛けたつもりが、わざと攻撃させられたり。
ボールを支配しているつもりが、ボールを持たされていたり。
SがMに命令しているつもりが、実はMがSに命令させていたり。
時として受身の側が主導権を持って状況を動かしている場合があるのだ。


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漫画・著作:久米田康治
出版・編集:講談社
連載・掲載:週刊少年マガジン
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