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バクマン。 1

2009.02.13 - 読書:漫画

f831a54f.jpg真城最高は、今時の中学3年生だ。
無気力で、目標もなく、毎日をだらだらと過ごしている。
好きな女の子はいる。斜め前の席に座っている、小豆美保。でも、一度も言葉を交わした経験もない。
“つまらない未来。生きていることは面倒くさい。ただ流されてよい子に生きてきた。それが、僕の人生観”
そんなある日、真城は学校にノートを置き忘れてしまう。あのノートには、授業中こっそり書いた小豆美保の後ろ姿が書かれている。あれを見られたら、恥ずかしい。
真城が学校に行くと、待ち構えていたのは優等生の高木秋人だった。
「安心しろよ。ノートは返してやるよ。ただし、一つ条件がある。
 俺と組んで、漫画家になってくれ!」


381e6870.jpgこれを切っ掛けに、真城最高は漫画家を目指すことになる。
物語は、意外な動機で始まり、意外な展開を見せる。
コンビものの類型と見るべきだが、主人公が“漫画家”という設定は斬新だ。これまでに小説家が小説を題材にすることはあったし、映画監督が映画を題材にする前例はあったが、“漫画家”は少ない。
それに、漫画家を目指す少年達の眼差しが素晴らしい。漫画に限らず文系の職業は、自身を描写するさい、謙遜なのか自虐なのか、より滑稽に、より醜く描こうとした。いわゆる、“オタク”と呼ばれるものだ。
しかし、『バクマン。』には、そうした陰湿さはどこにもない。自身を道化にして、安っぽいお笑いなど求めていない。
若さがあり、情熱的で、漫画の制作に真剣に打ち込む。そうした姿がなんともいえず清々しく、青春の美しさがこめられ、何より、漫画への愛情に満ちている。


237df88c.jpg漫画家が、漫画家を描く物語である。当然だが、漫画家周辺の描写は細かい。
例えば、漫画家・川口たろうの仕事場だ。漫画原稿の上に、さりげなく小さな紙が置かれている。これはペンの調子を試し、原稿を汚さないように手を置くための紙だ。滑らかで長い線を引くとき、この紙の手を置き、紙を滑らすのだ。
それに、川口たろうの指先は、常にインクで汚れている。ここまでの細かな描写は、おそらく実写ドラマなどが制作されたさい、見落とされる部分だろう。漫画家が、どんなふうに手を汚しながら描いているのか、それは漫画家自身にしか分からないはずだからだ。
漫画家周辺の描写を、通俗的な記号化に頼らず、細かく観察され、描写されている。天才絵師・小畑健の実力によるものだが、自身の仕事風景をごまかさず、徹底的に描ききった成果である。


7202b5ee.jpg『バクマン。』の魅力は、エンターティメントの部分だけに留まらない。漫画新人賞にそのまま活用できそうな、様々な知識が網羅されている。
技法的な部分、例えば使用するペンや、資料の集め方。絵の練習の仕方。ネームとはいったい何か。ホワイトやスクリーントーンの解説までしてくれる。
さらに重要なのが新人賞指南だ。例えば108ページの真城最高の台詞。「一番最初に/何したかっていうと/過去の赤塚賞受賞作を/集めるだけ集めて/どんな作品が評価されるか/研究したんだって/で その頃は/ギャグマンガでも/社会風刺が入ったものが/評価されるって判断して/それに徹したらしい」これは現実的に、小説新人賞、漫画新人賞などで奨励されている方法である。
さらに次のページでは、近年の漫画の方向性、傾向を分析したものまで解説されている。漫画の知識が非常に豊かなだけでなく、分析能力の高さもわかる部分だ。
その次に解説されるのは、168ページからの『担当』についてである。漫画家指南やハウツー本では通常、技法だけに終始し、漫画編集や担当までは書かれていないものだ。しかし『バクマン。』では、漫画編集者の内部事情的な部分まで、赤裸々に語られる。おそらく、漫画家自身の実体験と思われるものまで、これ見よがしに描写されている。クリーンなイメージの少年誌で「これは大丈夫か」という領域まで語られた事実は、快挙である。168ページからの数ページで、漫画家という職業が、通常の労働とは別種であることが、よくわかる。
この漫画はエンターティメントであると同時に、優れたプロ指南書でもあるのだ。


d7e50c53.jpgそれから、エピソードの終わりに、漫画の設計図でもある『ネーム』が掲載される。
漫画家の『ネーム』が掲載されるケースは稀だが、驚くべきものではない。しかしこれが、あの『小畑健・大場つぐみ』コンビのものであるというと、話は変わってくる。『デスノート』のコンビがどのように作品を制作し、完成を目指しているのか。
ネームは、漫画の設計図と呼ぶべきものである。アニメでいうところの“レイアウト”。油絵でいうところの“習作”だ。
『バクマン。』には、さも当たり前のように、コミックスの中にネームが掲載されているのだ。それこそ、作家が自身の手の内を明かしているようなものである。また“謎の作家”であった、大場つぐみの正体も、このネームによって、明らかになった。ネームの掲載は、“漫画家と漫画原作”というテーマをより補強させている。


093d5352.jpg『バクマン。』は漫画としても、ハウツー本としても、最良の作品だ。だが、やはりエンターティメントとして一級品だ。
物語の展開はゆるやかだが、描写の一つ一つが素晴らしい。どの対話も決して単調にはならず、読者を飽きさず引きこんでいく。
それに、漫画への愛と情熱が、覆い隠すものなく燃え上がっている。漫画を題材にした作品なのに、熱血が迸り、それでいて青春のさわやかさに満ちている。
かつて、漫画を題材にした作品で、これほどまでに興奮をもたらした作品などあっただろうか。ページをめくる間がもどかしい。恋愛の行方がどうなってしまうのか。漫画作品はどのような完成を迎えるのか。早く続きが知りたいと思う作品だ。

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作品データ
原作:大場つぐみ
漫画:小畑健
出版:集英社

 
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