第4話 愛と三角地帯(トライアングル)ふたたび

俺は窓を開けて、大きく背伸びをした。窓の外にはのどかな農園の風景が広がり、畑に挟まれるように細い道路が左右に伸びている。その向うに高い山が連なっている。まだ夜が明けたばかりで、緑の風景は淡いブルーを混じらせている。
ああ、平和だな。そんなのびやかさを実感できるような、ミレー的風

景だった。
と風景を見ていると、山と山の谷間を、何かがひらひら飛んでいるのが見えた。それは大軍を作って固まり、色とりどりの華を咲かせている。
あれは、何だ――。

そう目を凝らすより早く、はっきりとした形を示し始めた。
パンティだ。空飛ぶパンティの大群だ。
パンティは物凄い勢いで、窓から俺の部屋に飛び込んできた。
「なんじゃこりゃぁ~!」
俺は体にまとわりつくパンティを払いのけ、叫んだ。

俺はとりあえずパンティの山から這い出た。パンティは部屋の中央で大きな山を作り、さらに何枚かひらひらと空を飛んでいる。
「な、なんで大量のパンティが……」
さっきから単純な悲鳴と疑問しか口にしていない気がするが、とにかく言わなければ済まなかった。

「わかりません。渡り鳥のようなものでしょうか」
イカロスが頼りなげな解説をした。
ふと、俺の手許にひらひら飛んできた白パンティがあった。
「あ、このパンツは。そうか、あの時のパンツが戻ってきたのか!」
それはあの時、
見月そはらが穿いていた犬プリントパンティだった。そういや、あの頃はまだ衣替えの前だっけな。
「はい。きっとこう、地球をぐるっと一周して……」
「ぐるっと、って!」
「もしかしたら、マスターに会いたくて帰ってきたのかも」
世界を一周するパンティの群。世界のみんなはその異様な映像を見ただろうか。みたとしたら、どんな感想を持っただろうか。もっとも、見たとしても俺たちと同じ感想を持ったに違いない。
彼女たちはわざわざ、俺に会うために戻ってきたのだ。数は随分減ったように思える。きっと過酷な旅だったのだろう。

そう思うと、当時は忌まわしく思えた彼女たちは、急に愛らしく思えてきた。俺のために。俺のために……。
「お前たち!」
俺は感動の涙を浮かべてパンティの山を抱擁した。俺のために、こんなプレゼントを用意してくれるなんて。ありがとう、パンティたち。

その時、ぴんと気配を感じた。
やばい。今すぐ逃げないと。
「智ちゃん……。いやぁー!」
そはらの殺人チョップだ。かわせなかった。殺人チョップを後頭部に受けて、激しく地面に叩きつけられた。

さらにそはらは俺を追ってチョップを連打した。俺は逃げた。自由を愛するものの定めとして逃げた。そはらの凶悪なチョップは、空を舞うパンティを次々と引き裂いていく。
「どうして私のパンツが、智ちゃんの部屋に大量にあるの! 智ちゃんのエッチー!」

やがて乱世の時が過ぎ去った。戦場に残ったのは累々たるパンティだったものの布切れだけ。そうなると、かつての愛らしさと神秘はどこにもない。ただのコットン生地の布に過ぎなかった。
「なんて、ひどいことを……。見ろそはら! このパンツの亡き骸たちを! こいつらの輝かしい未来を奪ったのだぞ!」


俺は畳の上に広がった布切れに涙を落とし、そはらを責め立てた。
「いえ、マスター。単にカードをの効力が切れただけで……」
「とにかく、ちゃんと全部すてといてね。この前見たいのはもうこりごりだからね」
「おう! まかせとけ!」

俺は生き残りのパンティを見つけ、頭に被って立ち上がった。
そはらのチョップが落ちた。非情な女だ、と思った。
「もう、智ちゃんったら、いまいち信用できないんだから。ん、そうだ。ねえ、イカロスさん……」
そはらはイカロスとこそこそと何か囁き始める。

その翌日。休日だったから、俺はいつもより長めの惰眠を貪っていた。
「智ちゃん、昨日のパンツ、ちゃんと捨てた? ねえ、智ちゃんったら。聞いてるの?」
そはらの声が窓の向こうから聞こえてきた。
「ハイ。ステマシタ」
俺は布団に潜りながら、台本を棒読みにした。

「なら、いいんだけど……」
そはらが納得したように言葉を返した。
フッフッフッ……。んなわけねえって。こちとら思春期真っ盛り、青春真っ盛りだぜ。こーんな素敵アイテム、捨てられるわけがない。
俺は布団の下から、ちょっと際どい感じの紫パンティを引っ張り出し

た。布団の下に入れられていたから、ホッカホカだった。
今日からこいつを、一枚一枚くるんでコレクションの鑑賞。それ以外にも使い道はたくさん考えているからね~。
パンティが突然、金色の光を放った。炎が噴いた。爆風が窓枠ごと吹っ飛ばす。俺の部屋は、一瞬のうちに壁も床も天井も、何もかも煤

だらけに吹き飛ばされてしまった。
「あ~あ、智ちゃん、やっぱり捨ててなかったんだね」
お隣さんの窓から、そはらの声が聞こえた。身を起こすと、そはらが窓に肘をついて、楽しげに笑っていた。
「イカロスさんのカードにちょうどいいのがあってさ。協力してもらった

の。爆発するから。パンツ」
「はあ!」
「だ~か~ら、智ちゃんが見たパンツは、ぜーんぶ爆発するの!」
そはらは信じられない残酷な事実を、サディスティックな微笑と共に明かした。

「じゃあ、さっきのも?」
「うん。智ちゃんのエッチが治るかなぁって思って。有効期限は今日一日。智ちゃんが家の中にいる間だけだけど、どうせそのぶんじゃ、たくさんあったパンツ、一枚も捨ててないんでしょ。私、今日はイカロスさんとお出かけしてくるから。智ちゃんは頑張って家から脱出して

ね。じゃ」
いつの間にやらイカロスは私服姿でそはらの部屋にいた。つまり、人質を取られてしまっているわけだ。そはらが窓を閉めて去ろうとする。
これはいかん!
「ま、待てそはら!」

「反省した?」
窓を閉めようとする手が止まった。
「いや、お前の部屋の壁に、何かでっかい虫が止まっているぞ」
「えーうそうそ! どこどこ?」
そはらがうろたえて部屋のなかを探し始める。

フフ。策にはまったな。
そはらがはっとして振り返った。もう遅い。窓の下に隠れていたグリーンの縞々パンティがはっきりと俺の視界に入っていた。
そはらの尻が爆裂で吹っ飛んだ。馬鹿な奴め。窓越しで見えないと思って、着替え途中で窓を開けるお前の癖なんて、お見通しだ。

そはらが家から去ったようだ。さて、戦いはこれからだ。果たして昨日の俺は、パンティをどこにしまったのだろう。
部屋のなかを見回す。天井の一部が吹っ飛んでいる。壁の中の鉄骨がむき出しになっていた。とりあえず、その中にはパンティは見当たらない。気をつけないと。

俺が見たパンツは、全部爆弾になってしまうのだ。そはらめ……。見たい嗅ぎたい被りたいの思春期になんていう仕打ちだ。ああ、うっかり包まなくて良かった。俺のが吹っ飛ぶところだったよ。
とにかく、一刻も早く、ここから脱出せねば。
俺は地面を這って、ドアを開けて廊下に出ようとした。

すると廊下は、クリスマスの飾りの如く、一杯にパンティで彩られていた。ああ、昨日、飾っちゃったんだよね。
廊下に炎が走った。ボンバーマンの連鎖爆発のごとき爆風が迫ってきた。俺は部屋の壁に隠れてやり過ごした。ドアが吹っ飛んで衝撃の波が飛

びぬけていった。
これはいかん。死ぬぞ、俺。本気で脱出方法を考えれば。要は俺がパンティを見なければ、爆発は起こらないんだ。
俺は部屋にあったタオルで目隠しをした。その格好で廊下に出た。壁伝いに慎重に足を進めていく。壁は焼けてごわごわとおうとつを作り、廊下の板が沸騰してめくれ上がっていた。まさに空襲の後のごと


き風景だった。
楽勝だった。見えないつっても、自分の家だ。目隠ししたままでも家を脱出できる自信があった。
このまま階段を降りていけば――あ

れ? 顔に、ぺたりとやわらかいものが触れた。
爆発。爆風が俺をふっ飛ばし、赤い炎が目の前を走った。
触っても駄目なんて! だったら窓から脱出だ!
窓を開けて身を乗り出す。すると、庭一杯にパンティの群がはためいていた。竿がいくつも立てられ、運動会の国旗のようにパンティが飾

り付けられていた。
そっか。俺、庭にも飾り付けちゃってたんだっけ。
庭が吹っ飛んだ。色鮮やかに飾り立てられたはずの庭は、一瞬にして真っ黒焦げに変わってしまった。
仕方ない。一時休戦だ。トイレに入って瞑想タイムを作ろう。
とトイレに飛び込んだ。便座の上に、巻き巻きウンチの形に寄せ集められたパンティがあった。
ああ、もう、俺ってば!

俺は廊下に吹っ飛ばされた。俺は床に手をつき、ぜいぜいと息をした。
こうなったら、玄関まで正面突破だ!
俺は思い切って走った。壁に飾られたパンティが次々に火を放った。爆風が俺を追いかけた。俺は全力で廊下を走った。

ついに爆風が俺を捕らえた。でも爆風に勢いはなかった。黒い煙は軽く俺をすくい取っただけだった。俺はすぐに体勢を整え、前を向いた。玄関まであと少し。ゴールは見えていた。
俺はラストスパートを切った。パンティが爆破の炎を吹き上げる。炎が俺の両側から迫ってきた。でも切り抜けられる。そう確信を抱いてい

た。
ついに出口――。そう思ったとき、玄関が開いた。俺は玄関に現れた誰かにぶつかって、押し倒してしまった。
強烈な勢いでぶつかってしまった。幸い、俺は相手の体をクッションにして無事でいられた。でも、この暖かくて何ともいえない感触は。


はっとした。俺はピンクのパンティに顔をうずめていた。
「と、智ちゃん……?」
そはらが身を起こした。
駄目だ、そはら。駄目だ……。
そはらの股間を包むそれが、金色の光を放った。


俺は気を失っていた。目を覚ますと、イカロスの膝の上だった。側に、
守形英四郎先輩と
五月田根美香子会長が並んで立っていた。
ここは……。俺は辺りを見回した。外だっ

た。家は半壊状態で煙をもくもくと噴き上げていた。
そうか。俺、外に出られたんだ。やったー!
あ、でもそはらは? 最後の瞬間、確かにそはらの顔を見たはずなのに。
「家の中です。さっきの爆発で、家の中に吹き飛ばされたみたいで

す」
イカロスが家の中を指さした。
なんだって! 俺のせいだ……。俺がパンツをみたいせいで、そはらは……。
「行きなさい、桜井君。見月さんを助けて上げられるのは、あなただ

け。男の子には戦うべきときがある。あなたが作り上げた、あのお楽しみハウスに、自分自身に蹴りをつけなさい」
五月田根会長が俺の前に進んで、戦いへと促した。男がやってきた。俺の前でアタッシュケースを開いた。中には防弾チョッキと、アサルト・カービン、それからノクトスコープが収められていた。もちろん、

玩具じゃない本物だ。
「わかりました。桜井智樹! 行ってきます!」
俺は腑抜けた色欲の下に眠っていた闘士を燃え上がらせた。いま戦えるのは俺ひとりだけ。そはらを救えるのは俺一人だけ。俺は人生のすべてを賭ける覚悟を決めた。

俺は戦場と化した我が家に突っ込んだ。玄関は瓦礫が落ちて、黒煙で視界がゼロだった。ノクトビジョンの緑が、煙の中に動く影を識別して、輪郭線を描いた。
「そはら!」
俺は叫んだ。助けに来たぞ。

「いやぁ! 来ないで!」
なのにそはらは、俺に気づくと逆に家の奥へと逃げてしまった。
ええい、じれったい! 俺はゴーグルを捨てた。
「そはら、何で逃げるんだ!」
「智ちゃんのせいで、パンツが吹き飛んじゃったの。わたし今、下に何

も……」
炎が燃え上がる向うで、そはらの声は細くなっていった。
俺はよく聞こうと前進した。しかし、頭上にパンティが仕掛けられているの気づいた。
チッ、ブーヒートラップだ。
パンツが爆発した。俺はとっさに身を伏せて、爆発をやり過ごした。
「そはら、なんだって? よく聞こえなかった!」
俺はそはらを探って、もう一度呼びかけた。
「もう、やだあー!」
そはらは泣いて2階に繋がる階段を駆け上っていた。
そはら、よっぽど怖い目にあったんだな。今、助けに行ってやるぞ!

俺は階段を駆け上った。そはらが俺の部屋に入っていくのが見えた。
ヤバイ。俺の部屋には……。
「そはら! 絶対に押入れだけは開けるんじゃないぞ! そこには俺の素敵コレクションが!」
俺は部屋のなかに飛び込んだ。

しかし遅かった。そはらは襖を開けて、茫然と立っていた。そはらの足元に、雪崩のように崩れ落ちたエロ本の山があった。
「何よ、これ……」
そはらが顔を赤く染めていた。でも俺はそれどころじゃなかった。
「そはら、逃げろ! ここにはお宝を守るための罠が仕掛けられてい

る!」
俺はそはらに飛びついた。
押入れの奥が光を放った。その壁に、カードが一枚貼り付けられていた。それが光っていた。次に、巨大なロボットが姿を現した。
「な、何……」

そはらが恐ろしげなその姿を見て、戦慄していた。
「俺が昨日、全力で作ったお宝コレクションのガーディアンこと、超絶合体ロボ、パンツロボだ!」
そう、ロボットはパンツで作られていた。だから俺はロボットを見ることができない。なんていうことだ。俺はなんて危険なものを作りだしてし

まったのだ。政府に、政府に騙されたのだ!
ロボットが襲い掛かった。そはらを掴み、人質にする。ロボットはさらに腕を振り回して、壁を破壊し始めた。
なのに俺は、ロボットから目を逸らして身を低くしているだけだった。
俺はこんなふうに背を向けて、逃げているだけでいいのか……?

いや、駄目だ。そはらのために、何より自分で作ったものの後始末をつけるために!
俺は立ち上がった。思い切ってロボットに体当たりを食らわした。
そはらがロボットの手から転げ落ちた。
ロボットが俺に攻撃した。手からパンティが次々と

繰り出される。俺はあえてパンティを避けなかった。パンティを手に取り、パンティを頭に被った。
当然パンティは爆破した。だから何だというのだ。痛みや傷つくことを恐れてどうするというのだ。
男には戦わねばならぬときがある。


五月田根会長がそう言った。戦うからには、覚悟を決めなければいけない。すべてを受け入れて、立ち向かっていく勇気を胸に秘めるんだって。そのためには、立ち止まらず自分の道を進まなくちゃい

けないんだ!
俺は走った。ついに俺は、パンツロボット自身と合体した。
「ブレイブパンツイン!」
暖かく柔らかいパンティの心地が俺を包んでいた。
……ああ。

何という幸福と恍惚。俺はそれを心の底で勝ち得ていた。その次の瞬間、何もかもが吹っ飛んだ。
俺の家は崩壊してしまった。残っていたのはボロボロになった瓦礫だけだった。俺はそんななから、見事そはらを救い出した。服をすべて失った裸の姿で、そはらを抱きかかえていた。

家の周りにひらひらと紙ふぶきが飛び散っていた。俺はその一つに目を向けた。水着のお姉ちゃんだった。そう、コレクションを犠牲にしてでの、壮絶な戦いだった。だがその戦いも、今まさに終わった。
これでいいんだ。これで。何もかもが焼け焦げて、綺麗に浄化された。

守形先輩が俺を称えて親指を突き立てた。集ってきた町の人達が喝采した。
その喝采に気づいて、そはらが目を覚ました。
「智ちゃん、ありがとう。助けてくれたんだね」
そはらが感激に目をうるませていた。

「いや、俺が悪かったんだ。ごめんな、そ……」
と言いかけて俺は、そはらの服が散り散りになっているのに気づいた。スカートも千切れて、太股の付け根がちらりと見えていた。
おわかりだろうか。全てのエロ本が自主的に隠しているそれが、俺の目の前にあったのだ。黒い茂み。神秘のもじゃもじゃデルタトライア

ングル――。
俺はついつい、へその下のを大きくして、そはらのお尻をつんつんとノックしてしまった。
「智ちゃんのエッチー!」
そはらの殺人チョップが繰り出された。
前回 第3話『エンジェロイド初体験(0シレイ)』を読む
次回 第5話『任侠(セレブ)と初夜(アツイヨル)』を読む
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作品データ
監督:斎藤久 原作:水無月すう
シリーズ構成:柿原愛子 キャラクターデザイン・総作画監督:渡邊義弘
デザインワークス:鷲尾直広 メインアニメーター:鷲北恭太
美術監督:小倉宏昌 色彩設計:日比智恵子
コンポジットディレクター:平林奈々恵 音響監督:高橋剛 音楽:岩崎元是
アニメーション制作:AIC ASTA
出演:保志総一朗 早見沙織 美名
〇〇〇鈴木達央 高垣彩陽 野水伊織
★★★★(素晴らしい) ★★★☆(すごい) ★★☆☆(とても良い) ★☆☆☆(良い)
そらのおとしもの・第4話
「愛と三角地帯ふたたび」 爽やかな朝。窓を開けた智樹の部屋へ舞い込んできたのは、大量のパンツ。「わざわざ、俺に会うために…?」 そ...