#4 都市伝説


真っ黒の影が落ちていた。携帯電話の光に、
佐天涙子、
初春飾利、
白井黒子の三人の顔が浮かんでいた。
「……これは、先輩の友達の彼氏が実際に遭遇したって話です。ある蒸し

暑い夏の夜。その彼氏さんが人気のない公園を通りがかったときのこと、女の人に駅までの道を聞かれたんです」
佐天はここで一区切りして、全員を見回した。
御坂美琴は、緊張して息を飲み込んだ。
「その彼氏さんが快く道順を説明していると、どこか虚ろなその女の人が、ふわーと手を上げて……、突然がばぁーっと! ……ブラウスを脱いだのです」
その場にいた全員の頭に「?」が浮かんでいた。

「って、ぜんぜんまったく怖くないじゃん!」
御坂は暗幕を取り払って立ち上がった。
「せっかく雰囲気を作ってもそんな話ではねぇ」
黒子が呆れたように笑った。
「えー。実際に遭遇したら怖くないですか? いきなり脱ぎだす都市伝説。『脱ぐ女』」
佐天は暗幕を畳みつつ、反論した。
「怖くない。というより、それってただの変質者じゃないの?」
御坂は立ったまま腰に手を当てた。

初春がノートパソコンを引っ張り出し、ホームページを開いた。
「じゃあ、こんな話はどうですか?」
ノートパソコンをテーブルの上に置き、見えるようにする。全員がモニターを覗き込んだ。
「風力発電のプロペラが逆回転するとき、町に異変が起きる!」
「夕方4時44分に学区をまたいではいけない。幻の虚数学区に迷い込む!」
「使うだけで能力が上がる道具、レベルアッパー!」
「
高校野球大会でチート能力を発揮する超次元高校登場!」
初春と佐天が掲載されている項目を次々に読み上げた。
しかし黒子は呆れたように溜め息をついた。
「そんな下らないサイトを見るのはおよしなさいな」
「だいたい、都市伝説なんて非科学的な話。ここは天下の
学園都市よ」
御坂はそう言いながらも、初春がスクロールする項目をじっと見ていた。
「もう、ロマンがないなぁ」
佐天が不満そうに口をとがらせる。
「それに、本当に起きたできごとが形を変えて噂になっている場合もあるんです」
初春がもう少し現実的な意見を口にした。

「『どんな能力も効かない能力を持つ男』とか学園都市ならではって感じじゃないですか」
佐天が項目のひとつを見つけて読み上げる。
御坂ははっとしてその項目に目を向けた。
――どんな能力も効かない能力……。

「そんな無茶苦茶な能力、あるわけないないですわ。ねえ、お姉さま」
黒子はすっかり興醒めしてしまったらしく、御坂に同意を求めようとした。
しかし、御坂は返事を返さずじっと画面を見ていた。
ふと、全員が注目しているの気付き、御坂ははっとした。
「え? そうね、本当にいるなら、一度戦ってみたいわね。本当にいればね」
御坂はごまかすように笑って返した。

とはいえ、あれはいったい……。
御坂は数日前のできごとを思い出していた。
御坂はいかにもな不良連中に取り囲まれていた。
「君、可愛いねぇ」
「うおっ、しかも常盤台じゃん」
「今から俺たちと遊びにいかない?」
「帰りは送ってやるから。ま、いつ帰れるかわかんないけど」
不良連中は下品にげらげら笑った。
御坂は溜め息をついた。こういうのは馴れている。馬鹿な連中ね、と同情もしたくなる。でも腹立たしいのは、こういう今の状況を見て見ぬ振りをする通行人たち。わかっているだろうに。
別に彼らが白状ってわけじゃない。実際ここに割って入ってきても、何かできるわけじゃないし、怪我をするだけだ。誰だって自分が可愛い。彼らは賢明な判断をしているんだ。見ず知らずの人間のために何かしようって奴がいたら、そいつはただのバカか……。
「あ

あ、いたいた」
と考えているところに少年がひとり割って入ってきた。
「いやあ、連れがお世話になりました。駄目だろ、勝手にはぐれたりしたら」
少年は不良連中に愛想笑いを振り撒いて、御坂の手を握った。
そうして行こうとするが、御坂は少年の手を引き戻した。
「誰、あんた?」
御坂はむしろ不良連中より警戒して少年に問いかけた。
「え?」
気まずい間。
少年が御坂を振り返った。
「お前、うまく合わせろよ。知り合いのふりして自然にこの場から連れ出す作戦が台無しだろ!」
「なんでそんな面倒くさいことしなきゃなんないのよ!」
御坂は理解できず言葉を返した。
「なんだてめえ。なめたマネしやがって」

「何か文句あんのか」
不良連中が少年を取り囲んだ。
「ああ、えっと……。はあ、しゃあねえなぁ。ああ、そうだよ。恥ずかしくねえのか、お前ら。こんな大勢で女の子1人を囲んでなっさけねえ。だいたいお前らが声をかけた相手をよく見てみろよ。まだガキじゃね

えか! さっきのやり取りを見ただろう。年上に敬意を払わないがさつな態度。見た目はお嬢様でも、まだ反抗期も抜けてねえじゃん。そんなガキだぞ。俺はな、お前らみたいな群れなきゃガキも相手にできないような奴らがムカつくんだよ!」
「……あたしが一番ムカつくのは……お前だ!」

電撃が辺りを真っ白に包んだ。全てが焼き払われた。不良連中は黒焦げになってばったばった倒れる。
御坂は終ったと思って、嫌な気分を払って行こうとした。
が、目の前に一人だけ残っていた。あの少年。掌を前に突き出して、立っていた。体には電撃によるダメージはまったくなかった。

御坂は一人で歩いていた。なんであいつにはあたしの電撃が効かなかったのだろう。
御坂は佐天が話した、『どんな能力も効かない能力を持つ男』を思い出した。しかし御坂はすぐに首を振った。そんなわけない。偶然だ。何か仕掛けがあるに違いない。あたしが本気を出せばあんな奴……。
「えっと、目印とか何か、憶えてないんですか?」
「目印か。目の前に横断歩道があったな……」
ふと聞き覚えのある少年の声が聞こえた。振り向くと、確かにあの少年がいた。少年は女となにやら話をしている様子だった。
「横断歩道じゃ、あまり目印とは……」
少年が困ったように首の後ろをなでていた。

「あんた!」
御坂は少年に近付き、勢い強く声をかけた。
「ん? おお、ビリビリ中学生」
少年が御坂に手を振って返す。
「ビリビリじゃない! 御坂美琴! 今日という今日は決着つけてや

るんだから」
御坂は勇ましく捲くし立てた。が、少年は親しげに御坂に笑いかけた。
「てことは、お前いま暇なんだな?」
「時間ならたっぷりあるわよ」
「じゃあ、この人の駐車場探すの、手伝ってくんない」
「は?」
少年が相手の女を指さした。女が御坂を振り返る。
「いや、車を停めた駐車場がどこだかわからなくなってしまってね」
女は沈んだ声で事情を説明する。
「え? ちょっと、何で?」
御坂は状況が飲み込めず、少年に尋ねた。
「俺、ちょっと行かなきゃならないところがあってさ。お前、暇なんだからいいだろう?」
「いいだろうじゃねえっつうの! また適当にあしらおう、たってそうは行かないわよ。毎回毎回のらりくらい適当なことばっか言って……」

御坂は地面を踏んで少年に食って掛かろうとした。が、
「いや、それにしても、暑いな」
いきなり女がシャツを脱ぎだした。下には当然、何も着ていない。ブラジャーが胸元を覆っているだけだった。
「な、何をしているんですか?」

御坂は話を中断して、茫然と女を見ていた。
「炎天下の中、ずいぶん歩いたからね。汗びっしょりだ」
女はシャツを手にかけて、手で体を扇いだ。
「何よこの人!」
御坂は慌てて女の前に立ち、少年の目線を遮った。

「俺もさっき、知り合ったばっかだぜ! とにかくシャツを着てください!」
少年は御坂を押しのけ、シャツを奪って女に突きつけた。
そこに、少女の悲鳴が上がった。
「女の人が襲われている!」

「ええ! あの男の人が脱がしたの?」
「ええ、そうじゃない?」
振り向くと、少女たちが足をとめ、自分たちに軽蔑の目を向けていた。
「違う。誤解だ!」

少年は御坂にシャツを押し付けると、走って逃げてしまった。
「ちょっと」
御坂は少年を追いかけようとするが、
「君、シャツを持って行かれるのは困るんだが」
女が御坂を呼び止めた。
御坂ははっと足を止めた。振り向くと、さっきの女の子たちだけではない。通り行く皆が、女と御坂を注目していた。
「と、とにかく服着てください。見られています。見られていますから。ほら、早く!」
御坂は女に服を突きつけつつ、やけっぱちの声をあげた。

御坂は女と一緒に、街の広場で一休みすることにした。
「付き合ってもらったお礼だ」
女が御坂の前にジュースを差し出した。
「いただきます……。って、なんでホット? しかもスープカレーって」
御坂はぎょっとしてジュースに目を向けた。

「暑い時には暖かいもののほうがいいんだよ。それに、カレーのスパイスには疲労回復の効果がある」
女は淡々と説明しつつ、御坂の向かい側に座った。
「まあ、理屈はわかる気がしますが、気分的には、冷たいもののほうがいいな、なんて……」
御坂はホットのジュース缶を掌で転がしつつ、それとなく指摘した。
「気分、か。若い娘さんはそういう選択をするもだったな」
女は低いテンションで、ようやく気付いたような顔をした。
女の名は
木山晴生。大脳生理学の研究者で
AIM拡散力場について研究をしている、と当人は説明した。AIM拡散力場とは、能力者が無自覚に周囲に発散している微弱な力を指す。人間の五感では感じられず、機械でなければ測定できない微弱な力だ。
御坂はどうやら木山は能力者に詳しいらしい、と察し、『どんな能力も効かない能力を持つ男』について聞き出そうとする。木山は避雷針のようなものを発生されば可能だ、と説明するが、御坂は納得いかなかった。あの少年の力は、どう考えてもそういう小細工っぽいものとは違う。

とそこに、子供2人、ぱたぱたと走ってきた。子供のうちの一人、男の子が木山の前で倒れた。持っていたアイスクリームが木山のスカートに落ちた。
「ご、ごめんなさい」
男の子が立ち上がり、申し訳なさそうに頭を下げた。

「ああ、気にすることはない。すぐに洗えば大丈夫だ」
木山は立ち上がり、ためらいもなくスカートのファスナーを下ろした。
「だから脱ぐなって!」
「え?」
夕暮れ近くになって、ようやく木山が車を停めた駐車場を見つけた。

「色々とありがとう。それじゃ」
木山は短く別れを告げて、車で去っていった。
「お気をつけて~」
御坂は手を振って木山を見送った。車が交差点を去っていくのを見届けて、溜め息を落とした。何で私がこんなに疲れなきゃなんないのよ。

と駐車場を出て行こうとすると、そこで偶然にもあの少年と出くわした。
「あ。さっきはよくもあたしを置いて逃げたわね! 人に厄介ごとを押し付けておいて、自分はお買い物?」
御坂は指をさして少年に感情を叩きつけた。

「貧乏学生にとって特売品を手に入れられるかどうかは死活問題なんだ! 常盤台のお嬢様にはわかるまい!」
少年は言い返しつつ持っていた卵を突きつけた。卵は、無惨にも砕けて、粘りのある卵白を垂らしていた。
「こっちだって大変だったんだから。汚れたスカートは脱ぎだすわ、しょうがないから洗ってあげるわ、挙句の果てにはツン……」
一気に捲くし立てようとするが、言葉に詰まってしまう。
「ツン?」
少年がきょとんとして話の続きを促そうとする。
「とと、とにかく勝負しなさい、勝負!」
御坂は慌てて話をひとつ飛ばしにした。
「勝負勝負って、今までお前、全戦全敗じゃんか」
「うるさい! あたしだって一発も喰らってないんだから、負けてないわよ!」
呆れたようにする少年に、御坂は勢いでやり返した。
「じゃあ、どうしたら終るんだよ」

いい加減、少年は面倒くさそうに応じ始めた。
「え? そりゃ、もちろん……私が勝ったらよ」
御坂は勝利条件を提示した。
少年がこれ以上ないくらい愕然とした溜め息をついた。
「そこ! さっきより大きい溜息つかない!」

「わかったよ。それで気が済むってんなら、相手になってやる」
少年が立ち上がり、御坂を向き合った。
「やっと、その気になったわね」
御坂は一瞬、気合負けしそうになったが、強気をまとって睨み返した。
御坂は少年と2人で河原へ向かった。もう月が出る頃だ。人影が絶えて、辺りには風の音と川のせせらぎしか聞こえない。
「ここなら周りに迷惑かかんねえだろ。いつでもいいぜ! 掛かってきな!」

少年は御坂の前に立ち、果敢に挑発した。
「言われなくても、こっちはずっとこの時を待っていたんだから!」
御坂はにっと笑うと、全身から電流を溢れ出した。電流は土の中に吸い込まれかけたが、急に方向を変えて少年を襲った。
電撃が少年にぶつかった。激しい衝撃の波が、少年の姿を隠す。

やった?
衝撃の波が去った。やはり少年は掌を前に突き出したまま、平気そうに立っていた。どこにも電流によるダメージはない。
「やっぱ電撃は効かないか。なら……」
電流が土の中に沈んでいった。電流を遡るように、土の中から黒い

粒が浮かび上がり、御坂の掌に集る。やがて黒い粒の集りは、棒状に固まった。
「何? ちょ、お前得物つかうのはずるいんじゃない?」
少年が黒い棒を見て、慌てた声を上げる。
「能力で作ったものだもの。砂鉄が振動してチェーンソーみたいになっ

ているから、触れるとちょっと血が出たりするかもね」
御坂は低く腰を落とし、砂鉄の棒を手に身構えた。
「どう考えても、それじゃ済まないと思うんですけど!」
少年が言うのも構わず、御坂は突っ込んだ。砂鉄の棒を振り落とす。少年は棒をかわし、背を向けて走った。御坂と距離を置こうとした。
「ちょこまかと!」
御坂は棒を振り払った。先が砕けて鞭のようにしなる。
少年があっとふりかえる。御坂は逃さず、砂鉄の鞭を振り落とした。
少年はとっさに掌で封じた。瞬間、砂鉄の鞭は粉になって吹っ飛んだ。

「しょ、勝負あったみたいだな」
少年は冷や汗を浮かびながら、武器をなくした御坂を振り返った。
「さあ、それはどうかしら」
御坂の体に電流が溢れ出した。風に散った砂鉄が集り、少年の頭上に巨大な塊を作った。

「お前、風に乗った砂鉄まで……。こんなこと、何度やったって、同じ結果じゃねえか!」
少年は砂鉄の塊を見上げ、言葉とは裏腹に慄いていた。
砂鉄の塊が落ちた。少年は身を低くして頭を守った。砂鉄の塊は、少年の前で砕け、砂粒となって拡散した。

狙い通りだった。御坂はその隙に少年に飛びついた。少年は拡散した砂鉄に視界を見失っていた。御坂は少年の掌を握った。
「取った! 飛んでくる電撃は打ち消せても……」
御坂は勝利を確信して微笑んだ。
しかし――御坂の手から電流は出なかった。というより、能力自体発

動しなくなっていた。
御坂は茫然として、少年の顔を見上げた。少年はぽかんと御坂を見ていた。
少年が拳を握って振り上げた。御坂は身を小さくした。急に怖くなって、怯えに震えてしまった。

少年は拳を落とさなかった。しばらく考えるようにして、その結果――、
「えっと……。ぎや~……あああ……。まいりました~」
気の抜けた声と共にふらふらと倒れて見せた。
御坂がちらと片目を開けてみた。目の前に少年が倒れているのに気


付いた。少年は倒れながら、御坂の様子をちらちらと気にしていた。
「ふ、ふ、ふざけるな!」
御坂はふつふつと沸きあがってくる怒りを抑えずに、少年に怒鳴りつけた。


少年が飛び起きた。
「だってお前、ビビッてんじゃん」
「ビビッてなんかないわよ!」
と言いながらも、御坂はまだ心の底で動揺を抱え、声が震えていた。
「嘘付け! こーんなふうになって涙目になってびくってしてたら……」
少年はからかうように御坂を真似てみせた。
御坂は悔しくなって全身がふるふると震えた。その感情と呼応するように、全身から電流が迸る。
「死ねー! 逃げんなー!」
電撃の渦が少年を襲いかかった。周囲の草むらを一瞬にして焼き払い、塵に変えた。当然、少年だけは平然としていた。
「お前、今の直撃してたら、ふつう死ぬぞ!」

「どうせ効かないんでしょうが!」
少年は御坂から逃れようと斜面を登った。御坂は少年を追いつつ、怒鳴り散らした。
「効こうが効くまいが、そんな攻撃を躊躇なく仕掛けるって、どういう神経だ!」
「私だって、今まで人に向けてこんな能力使ったことないわよ!」
「なんで俺だけ!」
「ちゃんと相手しろ! この!」
前回 #3『ねらわれた常盤台』を読む
前回 #5『とある二人の新人研修』を読む
とある科学の超電磁砲 専用目次ページへ
作品データ
監督:長井龍雪
原作:鎌池和馬+冬川基 キャラクター原案:灰村キヨタカ
キャラクターデザイン:田中雄一 プロップデザイン:阿部望
シリーズ構成:水上清資 美術監督:黒田友範 色彩設計:安藤智美
撮影監督:福世晋吾 編集:西山茂 音響監督:明田川仁
音楽:I’ve sound/井上舞子 音楽プロデューサー:西村潤
オープニングテーマ『only my railgun』
作詞:八木沼悟志/yuki-ka 作曲・編曲/八木沼悟志 歌:fripSide
エンディングテーマ『Dear My Friend -まだ見ぬ未来へ-』
作詞:春和文 作曲:渡辺拓也 編曲:大久保薫 歌:ELISA
アニメーション制作:J.C.STAFF
出演:佐藤利奈 新井里美 豊崎愛生 伊藤かな恵
〇 阿部敦 田中敦子 宮崎寛務 高橋良吉
〇 佐藤拓也 相馬幸人 小橋知子 嶋村侑
★★★★(素晴らしい) ★★★☆(すごい) ★★☆☆(とても良い) ★☆☆☆(良い)
[0回]
とある科学の超電磁砲 第4話
第4話『都市伝説』とある科学の超電磁砲 1―とある魔術の禁書目録外伝 (電撃コミックス)今回は、上条当麻さんが登場しました。