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■2016/08/11 (Thu)
創作小説■
第14章 最後の戦い
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28
ついに『消去』の魔法が発動された。全ての魔界の住人がこの世から消え去る瞬間だった。キール・ブリシュトが轟音を上げながら崩壊する。粉塵が高く噴き上がる。頭上に浮かんだ魔法のリングが、キール・ブリシュトを飲み込むように、ゆっくりと降りてくる。まるでキール・ブリシュト全体が1つの生き物のように断末魔の叫びを上げるようだった。魔法のリングが、キール・ブリシュトという怪物を飲み込むようだった。
次なる瞬間、不可思議な魔力が発動した。キール・ブリシュトの全てが、魔法に飲み込まれる。巨大な悪魔も、魔性の雑兵も、魔法に飲み込まれた。ネフィリム達は魔法から逃れようとするが、吸い込む力は強烈で、その体が2つに引き裂かれ、魔法は骨と肉だけになったものですら飲み込んだ。
魔法は全てを飲み込んで急速に萎んでいった。そこにあるもの全てをさらっていった。不浄が飲み込まれ、禍々しい暗黒の霧すらも、丸ごと飲み込んでしまった。最後には、小さな光の点だけになった。山脈を覆っていた闇が払われて、不意に明るい昼が辺りを包んだ。
騎士達は茫然と、全てを飲み込んだ光の点を見ていた。
光の点が、爆音を轟かせた。かつてない大音声だった。地面が大きく揺れた。壮絶な粉塵が噴火のように噴き上がった。真昼を浮かべていた空は、一瞬のうちに真っ白な灰が染め上げた。
アレス
「退避! 退避!」
その声すら、轟音が掻き消してしまった。命じられるまでもなく、騎士達は逃げ出した。
恐るべき粉塵は土石流の如く周囲に広がった。俊足の騎馬を次々と飲み込んでしまう。かつてキール・ブリシュトだったものの瓦礫が、そのなかに混じっていた。柱や石壁の残骸が周囲に撒き散らされる。
アレスはひたすら馬を走らせた。鞭を入れるまでもなく、馬が本能のままに走っていた。側で仲間が飲み込まれ、瓦礫に潰されるのを見たが、救っている場合ではなかった。
間もなく土石流が勢いを弱めた。轟音が潮を引くように過ぎ去って行く。真っ白な灰が薄くなり、空の色を浮かべ始めた。
アレスたち騎士団は、ようやく馬を止めて、辺りを見回した。仲間の無事を確かめようとした。
辺りを包んでいた灰は、速やかに散っていった。代わりに驚くような明るい光が山脈を包んでいた。キール・ブリシュトが置かれていた場所は、谷ごと取り払われて、そこに広い平地ができていた。あちこちに残骸が残っていたが、もはや禍々しい気配はどこにも感じられなかった。ネフィリムの影すら感じさせない。すべてが浄化され、魔の山だったとは思えない清らかさが辺り一帯を包んでいた。
生き残った戦士達は、茫然とその様子を見ていた。すぐには何が起きたのか、つかみ取れなかった。
だがしばらくして、誰となく「……やった」とつぶやきが漏れ、次に「勝ったぞ!」と声が上がった。
戦士達に喜びが瞬く間に広がって、歓声を上げ、抱き合った。
しかしアレスだけは、喜びに加わらず、瓦礫の山を見ていた。
ソフィーは? オークは? 死んでしまったのか?
いや違う。瓦礫の中心部に、動く影があった。その姿を見て、アレスはほっと微笑みを浮かべた。
オークは満身創痍だった。ソフィーがオークの体を支えている。騎士団の許へ行こうと、ゆっくりと歩いていた。
オークの体が崩れた。ソフィーは支えきれず、一緒になって倒れた。
ソフィー
「オーク様!」
ソフィーはオークの体を抱きしめた。
オークの全身は弱々しく、その目から生命力が失われかけていた。
しかしその瞳は晴れやかで、美しく輝く青い空を映していた。口元には、かすかな微笑みが浮かんでいた。
ソフィー
「……オーク様」
ソフィーは目に涙を溢れさせた。
オークがソフィーを穏やかな顔で見詰める。
オーク
「――ソフィー。ずっと……ずっと側にいれくれるか」
ソフィー
「はい。あなたの側にいます。あなたの側にいて仕えます。どんなときも。必ず側にいます――」
END
目次
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