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■2009/09/08 (Tue)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P049 第5章 ドラコニアの屋敷


千里が先頭に立って、噛み合わず傾いた鉄扉の隙間から体を押し込んでいった。それに続くように、まとい、藤吉、あびる、私、可符香という順番で門を潜り抜けていった。
鉄扉の向うは庭園になっていた。しかしあからさまに手入れされておらず、暗い影を落としていた。芝生だった場所は背の高い雑草だらけになっていたし、樫の木の枝先には蔓植物が絡みついている。そんな場所を、煉瓦で舗装された道がうねうねと奥に向かって続いていた。
藪になりかけた草むらの中から、唐突にガーゴイルが姿を現す。カラスの嘴を持った怪物が闇に潜む様は、なんだかわからない邪悪な生々しさを宿しているように思えた。私は恐くなって可符香の腕にすがりつきながら煉瓦敷きの道を進んだ。
やがて道の向こうに、屋敷が現れた。屋敷は夜の闇を纏い、どっしりと私たちの行く手を遮るようだった。正面には新古典主義様式の柱が整然と並んでいる。アールヌーボー様式の装飾が要所要所に添えられていた。
私たちは、圧倒されて屋敷の前に立ちとどまってしまった。
かつて壮麗であっただろう屋敷は、すっかり荒れ果てている。意匠を凝らした装飾の数々は、今やグロテスクな物体となって、不気味な影を落としていた。
尋ねる者を圧倒させるような佇まい。人の手から放たれた、陰気で沈黙した空気。お化け屋敷と呼ぶには、あまりにも本格的過ぎる雰囲気が一杯に満ちていた。
「ふん。汚い庭に、俗物趣味の屋敷。主の品性はよく現われているわね。行くわよ。」
千里は鼻を鳴らしてばっさり品評すると、のしのしと玄関のブロンズ扉に近付いた。
後にまといが続いた。千里とまといとの二人で、謎のレリーフが施された鉄扉を両側に開けた。ずずずと重い音がして、屋敷の内部に月の光が飛び込んだ。
屋敷の入口に、靴脱ぎ場はなく、いきなり廊下と繋がっていた。白と黒の市松模様に、私たち6人の影が長く伸びていく。
千里を先頭に、私たちは慎重に屋敷の中へと入っていった。屋敷の中に明かりはなかった。月の光で、屋敷の中に漂う暗黒がゆっくりと浮かび上がってくるようだった。
少し進んだところに、巨大な白い像が現れた。私はその像の存在に気付いて、思わず息を吸い込んでしまった。そこに現れたのは、高さ3メートル近い『ジュリアーノ・デ・メディチ』だった。教科書にも載っているから、私でも即座にわかった。
石の玉座に悠然と座る男の姿は圧倒的だった。克明に描写した身体の動き、筋肉の躍動。もし立ち上がったら、何メートルに達するかわからない。私はただただ石の巨人に圧倒されて見上げていた。
「ようこそ。久し振りの客人がこんな少女たちだとは、嬉しいよ。さあ、歓迎しよう」
男爵の低く呟くような、それでいて沈黙した屋敷の隅々まで届くような声がした。
私はブロンズ像の右横に目を向けた。そこに、男爵が杖に両掌を添えて立っていた。ブロンズ像の巨大さと較べると、男爵はちんまりと立っているように見えた。だけど男爵には、もっと生々しい気配があった。黒ずくめの衣装のせいか、暗闇から這い出た、この世の者ではない不気味な何かを背負っているように思えた。
「現れたわね。こっちは一生分の恥を掻いたんだから。絶対に許さないわよ!」
千里は一歩前に進み出て、威勢よく指をさした。
「ほう、ではどうるすつもりなのかね。聞かせてくれたまえ」
しかし男爵は、穏やかな調子でさらりと受け流してしまった。
「えっと、そう、訴訟よ! 集団訴訟してやるわ!」
千里は少し答えに詰まりながらも、それでも勢いよく言葉を続けた。
「何の罪でだね? 私と君たちは今日出会ったばかりだ。私は君たちに、どんな苦痛を与えたかね?」
まるでとぼけるように、男爵は言葉を返した。
千里は次の言葉が浮かばず、「……うう」とくやしそうに目線を落とした。
「あなたなんでしょ。先生を罠に落としたのは。あなたを告発してやるわ」
代わりに、まといが千里の横に並んで怒鳴った。
しかし、男爵はちょっと下を向いて鼻で笑った。
「証拠はどこにあるのかね。動機も不明だ。そもそも私は、この町に戻ってきたばかりでね。私があの男を罠に陥れた? なぜ? どうやって?」
男爵はまるで子供を諭すような高い声で、疑問符を並べた。
私たちは、ついに言葉を失ってしまった。千里もまといも、もどかしそうな顔をして、ただ男爵を睨みつけるだけだった。
男爵はポケットの中から、金の懐中時計を引っ張り出して蓋を開けた。
「9時になったな。来たまえ。夕食もまだなのだろう。食事でもしながら、ゆっくり話し合おうじゃないか」
男爵は右に開いた空間を示して私たちに微笑みかけると、その部屋の闇に消えていった。
「どうする、千里ちゃん」
私は戸惑うように千里に声をかけた。正直、恐かった。肝試しだったら、とっくに逃げ帰っているところだった。
「行くわよ! 相手が誘っているんだから、乗ってやろうじゃないの。そのうえで、相手から謝罪を引き出すのよ!」
千里が顔を上げて、上擦った声で意思表明した。
「油断しないでね」
まといが忠告した。
「わかってるわ。」
千里がまといを振り返った。二人の間に、強い結束で共有された仲間意識が感じられた。

次回 P050 第5章 ドラコニアの屋敷8 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/09/08 (Tue)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P048 第5章 ドラコニアの屋敷


日が暮れる頃になると、宴もたけなわと野次馬たちは自分達の家に帰って行った。糸色先生の借家を占拠した警察たちも、少しずつ数を減らしていった。周囲の道路封鎖も解除されたけど、糸色先生の家は封鎖されたままで、私服警官の見張りが立った。
私たちは、一人ずつ婦人警官の事情聴取を受けた。糸色先生との関係や、普段の学校生活とか、あれこれ質問された。私は始終不機嫌なまま、婦人警官と目を合わせず機械的に答えを返してやった。
それが終って解放された時には、すでに8時を回る頃だった。警察の人からすぐに帰るように言われたけど、もちろん私たちは指示に従わず、公園で集合した。
「最低だわ。こんな屈辱、人生ではじめてよ。私と先生との関係を、あんな汚れた目で見るなんて!」
千里が腕組をして苛立った声をあげた。
「千里はいいわよ。私なんてお宝没収だよ。せっかく稼ぎで買ったのに……」
藤吉がしょんぼりした顔でしょんぼりした声を上げた。
「黙んなさい! あんなものは没収されて正解よ! この仕返しはきっちりすべきよね。異議のある者は回れ右をしなさい!」
千里が厳しい声で私たちに宣言した。
私たちは誰も異議を唱えず、振り返る者もなく、千里に頷いて返事した。藤吉だけがショックで首をうなだれさせていた。
「異議なしよ」
真っ先に答えを返したのはまといだった。まといと千里は目を合わせて頷きあった。はじめて千里とまといが意見を一致させた瞬間だった。
「先生のためじゃないけど、私も許せないと思うので異議なし」
あびるがクールな声で手を上げた。
「私も行くわ。千里一人だけ行かせると無茶するに決まってるから」
藤吉はしょんぼりしたままの声で同意した。
「私も異議なし。でも、どうするの?」
私は手を上げて千里に意見を求めた。
「決まってるでしょ。あの男爵とかいう男の家に押しかけるのよ!」
千里が拳を握りしめて啖呵を切った。
というわけで、私たちは行動を開始した。
男爵の家はすぐにわかった。というか、私に憶えがあった。小石川町の外れを進んだところに、辺りに家一軒もない地域があった。その周辺一帯は森になっていて、森に近い家や工場は誰も近寄らずゴーストタウンになっている。そこに、私の子供時代からお化け屋敷と囁かれた洋館があった。しかもそこに、最近人が入居したという噂もあった。それこそ、まさしく男爵であった。
私たちはその男爵の屋敷に向かった。男爵の屋敷に近付くと、辺りから一切の喧騒が消えた。夏の夜とは思えない肌寒さが包み込む。道が真直ぐに伸びているが、街灯の明かりはほとんどなく、真っ暗闇を手探りで進んでいるみたいだった。道の左右に置かれている森は、茨や蔓植物ばかりで鬱蒼としていた。目を向けても、蔓植物が壁のように立ち塞がっているように見えた。
そんな通りをひたすら真直ぐに進んだところに、男爵の屋敷があった。煉瓦を積み上げて造られた立派な門柱に、鉄の格子扉が訪ねる人を拒んでいる。門灯がひっそりとした光を入口周辺に投げかけていた。
だがそんな鉄扉も、すっかり錆ついてしまっている。左の鉄扉が傾いて、右の鉄扉と噛み合わなくなっていた。
私はまず門柱の表札に目を向けた。黒く照り返す御影石の表札には、『江口』とあった。
……エロ男爵。いや、言うまい。
「どうする、入るの? インターホン押す?」
私はここまでやって来て、すっかり怖気ついていた。辺りの空気は鳥肌が立つくらいに冷たかったし、暗闇に浮かぶ屋敷の姿は、かつてお化け屋敷と呼ばれた佇まいを堂々と身にまとっている。
「当り前でしょ。ここで引き下がってどうするのよ。」
千里は厳しい顔で私を振り返る。しかし、一歩も進まない。千里だけではなく、そこに集まった誰も、最初の一歩を踏み出せず、互いの顔を見て譲り合っているだけだった。
「よく来た。歓迎するよ。遠慮なく入りたまえ。それとも、ここで逃げ出すかね?」
インターホンからいきなり男爵の声が聞こえた。
「いい度胸じゃない。相手が招いたんなら、入るのが礼儀だわ。不法侵入じゃなくなるから都合がいいし。行きましょう。あえて飛び込んで、逆にエロ男爵を突き飛ばしてやろうじゃない。」
千里は私たちを振り向いて、決意表明みたいに宣言した。

次回 P049 第5章 ドラコニアの屋敷7 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/09/06 (Sun)
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P047 第5章 ドラコニアの屋敷


私は茫然と連れて行かれる糸色先生を見ていた。一瞬、何の考えが浮かばなかった。でも、糸色先生が垣根の向うに消えかけた途端、私は衝動的に飛び出していた。
女刑事が私の腕を掴んで、引きとめようとした。でも、千里やまといも同時に駆け出した。女刑事はみんなを止めようと手を伸ばすが、バランスを失って倒れてしまった。
私は外の道路に飛び出した。広くもない道路に、警察の車が一杯に停車していた。警光灯のランプが回転して、暗くなりかける通りに赤い光を投げかけている。通りの左右が黄色のロープで封鎖されていて、見張りの私服警官が立っていた。そのロープの向うに、野次馬が集って私たちを見ていた。
「糸色先生!」
私は糸色先生の姿を探して声をかけた。糸色先生は白黒パトカーの後部座席に入るところだった。
だけどその時、急に周囲の空気が変わった。通りを包んでいたざわめきが、低いささやきに変わった。警察の人たちが、みんな同じ方向を向いて、胸をそらして敬礼した。
私は、警察の人たちが敬礼を送る方向を振り向いた。男が制服警官に促されて、ロープを越えて入ってくる瞬間だった。
しかし、男はどう見ても警察関係者には見えなかった。
背が高く、細く痩せた体型。少し長めの髪は、後ろに流している。少し前頭部が薄くなりかけていた。それから、なにかの式典の後のように、男は黒の燕尾服姿だった。
「お前は……男爵!」
糸色先生が驚愕に凍りついた声をあげた。
「なにやら騒がしいと思ったら、君かね。まさか、こんなところで再会するとはね」
男爵と呼ばれた男は、悠然と杖をついて歩いていた。低く呟くようだったけど、よく通る声だった。
「男爵、どうしてここに。お前は刑務所に送り届けたはず」
糸色先生は男爵を振り向いて、一歩前に進み出た。
「仮釈放になったのだよ。私は温和で素行優良な紳士だからね。むしろ、不当逮捕もいいところだったからな。しかし、君の女グセの悪さは相変わらずのようだね。教職に就いたとは聞いていたが、何人いるのかね? 警部補殿。後でそちらの少女たちから、詳しく事情聴取することをお勧めするよ」
男爵は皺の多い顔をにやりとさせて、私たちを杖で指した。
「勝手なこと言わないで! 糸色先生は誠実な人です!」
私は一歩踏み出して男爵に怒鳴りつけた。一緒に飛び出してきた女の子たちがみんな頷いた。
「信頼されているようだね。羨ましいことだ。優秀な人間には、後継者を育てる義務があるからね」
男爵が私を振り返った。萎れかけた老人の目、ではなかった。男爵の目は異様に強く、魔術的な何かで私を強引に鷲掴みにするようだった。私はそんな目線に、かつて感じた経験のない冷たい戦慄を感じて、ふらふらと後ろに下がって目を逸らした。
「男爵……。これはあなたの罠ですか」
糸色先生が毅然とした声で男爵に訊ねた。
「さて、何のことやら。一応言っておくが、私は正直な人間だ。この件に関しても、私は一切関知していない。ついでに宣言しておこう。君がどんなに知恵を絞ろうとも、君は私に危害を加えられない。君は私に手を触れられないというルールの中で、出口の見付からない迷路を延々彷徨い続けるだろう」
男爵は糸色先生を真直ぐに向いて、静かだが決定的と思える断言をした。
糸色先生はそれに対抗するように、男爵を指でさした。
「ならば私も宣言しましょう。男爵、私はあなたを止めてみます。あのときのように。どんな罠も潜り抜けて」
糸色先生は今までにない強い調子で男爵に言葉を叩き付けた。だけど、男爵は鼻で笑って、糸色先生の言葉を受け流した。
「そういうことは裁判が終ってから言え! もっと言えば刑期を終えて充分反省してから言え! 手錠掛けられたくなかったら、さっさとパトカーに乗れ!」
警部補が糸色先生を怒鳴りつけて、その背中を掴んで無理矢理パトカーの後部座席に押し込んだ。警部補が後部座席の扉を閉じると、すぐにパトカーが出発した。

次回 P048 第5章 ドラコニアの屋敷6 を読む

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P046 第5章 ドラコニアの屋敷


しばらくして、刑事の男が私たちの側に近付いてきた。さっき、警部補と呼ばれた男だ。白髪の混じりかけた短い髪で、顔全体に面のように厳しい皺が入っていた。警部補の後ろを、若い刑事が旅行ケースを手に抱えて従いてきた。
「糸色望というのは、あんたか」
警部補は丁寧とは言えない調子で、糸色先生に話しかけた。
「はい、私です」
私たちと一緒にうずくまっていた糸色先生が、尻の泥を払って立ち上がった。
私は、なんだろうと涙で濡れた頬を拭って糸色先生を見上げた。
「あんたの持ち物を調べさせてもらった。これは、あんたのもので間違いないか」
警部補は、後ろに控えていた若い刑事に合図を出した。若い刑事は、糸色先生の前で旅行ケースを開ける。
千里が尻の泥を払って立ち上がった。それに続くようにまといも立ち上がって、ケースを覗き込んだ。
私も立ち上がって、糸色先生の旅行ケースを覗き込んだ。ケースにはロープ、ガムテープ、カセットテープと録音機、それからナイフも入っていた。
「はい、間違いありません」
糸色先生は言葉を緊張させながら、頷いた。
「では聞くが、このガムテープやロープはなんだね。何に使うつもりで持ち歩いているのかね」
警部補がロープを掴み、糸色先生の前に突き出した。
「いえ、それは……」
糸色先生はしどろもどろに答えを探そうとする。
「他にもナイフ、練丹、録音機。これだけあれば、人を殺すのに充分な準備だよな。こんなものを持ち歩いて、お前は何をしようとしていたんだ」
警部補の声が問い詰めるように厳しくなった。
私は緊張して糸色先生を見守った。糸色先生の顔に、頼りなげな困惑が浮かんでいた。
「いえ、これは自分のために用意したものです。決して、誰かに対してどうこうするつもりは……」
「嘘付け! これだけあからさまな道具が揃っているんだ! 何もしないわけがないだろう。……迂闊だったな。犯人が目撃者の振りをして通報する。目立ちたがり屋の犯罪者によくあるパターンじゃないか」
警部補が糸色先生に顔を近づけ、脅しかけるように声のトーンを落とした。
糸色先生は暗闇でもわかるくらい顔を真っ白にさせていた。口を開けるが言葉が出てこない、といった感じだった。
「待ってください。先生はそんなことをする人じゃありません」
私は我慢できず声をあげた。
「本当です。それは全部、先生が自分用で持ち歩いているんです。」
千里も私の後に続けて、警部補に身を乗り出した。
警部補が私と千里を交互に見た。無精髭を生やした厳しい顔に、わずかな戸惑いが浮かんでいた。
「貴様、自分の生徒に手をかけるつもりだったな!」
警部補が糸色先生の胸を掴んで怒りをぶつけた。
「違います、放してください」
私は警部補の腕にすがりついた。警部補と糸色先生を引き離すつもりだった。だけど私たちの間に、女の刑事が割り込んできた。
「もういいのよ。あなたは騙されてただけだから」
女刑事は同情を浮かべた声で、警部補の腕を掴む私を引き離した。千里も警部補に飛び掛ろうとしたが、女刑事がブロックした。
糸色先生は、二人の刑事に両腕を掴まれ、玄関のほうに連れて行かれようとしていた。
「私、逮捕されるんですか?」
糸色先生が抵抗しようと足をズルズルとさせた。だけど、刑事の男は問答無用に糸色先生を引き摺っていく。
「任意同行だ!」
警部補が怒鳴った。
「絶望した! 誤認逮捕に絶望した!」
糸色先生が諦めをこめた絶叫を上げた。先生、そんなこと言っている場合じゃないです!

次回 P047 第5章 ドラコニアの屋敷5 を読む

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P045 第5章 ドラコニアの屋敷


藤吉がやっと見つけてくれた携帯電話で、警察に通報した。警察の車は、すぐに糸色先生家の前にやってきた。最初は覆面車のセダンだけだったけど、後から鑑識のワゴン車や白黒パトカーが次々とやってきた。
糸色先生の小さな借家は、警察の人たちで一杯になってしまった。私たちは邪魔にならないように庭に出て、土の上に座り込んだ。
青空がゆっくりと暗い影を落としつつある。夏の長い一日は終わり、太陽が沈みかけていた。ただ一つ開けたままになっている雨戸から、借家の明かりが庭に落ちていた。廊下や居間で、鑑識の青い制服の人たちが仕事をしている。カメラのストロボが、何度も暗くなりかける庭に飛び込んできた。
ここからは見えないけど、垣根の向こう側でざわざわと声がし始めた。騒ぎを聞きつけた野次馬が集ってきたのだろう。
私は土の上に座り込んで、膝を抱えてうなだれていた。ほかのみんなも、同じようにしていた。声をかけたり、目を合わせたりしようという人もいない。
「死体の状況は?」
刑事らしい男の声がした。私は顔を上げた。腕に、『機動捜査隊』の腕章をつけた、初老の男の横顔が見えた。ごく普通のスーツ姿で、腕章がなければ平凡なサラリーマンに見えた。
「死体は漂白剤で洗浄されています。死亡直後から低温で保存されていたらしく、体温は気温より低いです。今の段階では、死亡時刻の特定は困難です。蛆虫の付着もありません」
現場指揮らしい鑑識が事務的に報告した。
「コレクションは大事にするタイプだな。損傷は?」
刑事の男はメモを取りながら、次の質問をした。
「いずれも頭部への打撲です。皮下出血の跡がありました。最小限の手数です」
鑑識はさっきと同じ調子で説明した。
「手際がいいな。この家の中で血痕や争った跡は?」
刑事の男は厳しい目で鑑識をちらと見た。
「現在予備試験中です。肉眼及び紫外線撮影で発見されなかったので、ルミノール科学発光検査を行っています。家自体新しいので、異変があればすぐに発見できるはずですが……」
鑑識は説明しながら、作業を続ける部下たちに目を向けた。私には、専門用語だらけで何を言っているのか皆目わからなかった。
「よし、現場写真の撮影が終れば死体は行政解剖に回せ。あとは第1課の仕事だ」
刑事の男が指示を出して、そこを離れようとした。
「警部補、こんなものが発見されました」
若い刑事が、さっきの男を警部補と呼んで引き止めた。
私はうつむいて、足元の土を見つめた。起伏の浅い土が、くっきりとした白と黒に分かれていた。
私は、少し落ち着いた気持ちで、部屋のなかで見たものを思い出した。襖を開けたところに、死体が4体、こちらに足を向けて寝かせてあった。綺麗に等間隔に並べて置かれていた。
死体はどれも裸だった。全身が刻まれ、さらにそれを縫い合わせた跡があった。黒く太い糸が使用されていて、縫い目に皺が集っていた。
死体のうちの3体は少年で、残りの1体は少女だった。どの死体にも性器がなかった。新井智恵先生が言ったように、性器蒐集の趣味を持った人による犯罪らしかった。
そして、死体のうちの一体は、間違いなく野沢だった。顔面が斜めに引き裂かれ、それを糸で縫って形を整えていた。野沢の端整だった顔は、醜く崩れて歪んでいた。
野沢の死体を思い出して、私は急に胸が苦しくなった。肺に不浄が入り込んだように、息が苦しくなって、胸を押さえた。
借家のほうで、動きがあったらしい。私はもう一度顔を上げて振り返った。死体がビニールシートに入れて運び出されるところだった。借家の玄関口に、ワゴン車がハッチを開けてぴったりくっつけてあった。どのビニールシートが野沢の死体かわからなかった。
私はそれを眺めながら、感情が噴きあがってくるのを感じた。目から涙がこぼれる。泣き声を押し殺そうと、私は膝に顔をうずめた。後ろでうずくまっていた可符香が、私の背中を撫でてくれた。

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