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■2009/08/24 (Mon)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P034 第4章 見合う前に跳べ

10

隠し部屋は、すぐ下に折れて、梯子で繋がっていた。可符香が梯子を降りていった。私はちょっと恐かったけど、掛け軸をめくって梯子を降りていった。
下まで降りると、天井の低い入口が目の前にあって、そこをくぐった先が部屋になっていた。
部屋は広く、そのかわりみたいに天井が低かった。私でもジャンプすれば手がつきそうだった。四方がコンクリートに囲まれて、正面の壁に大きなディスプレイが掛けられていた。その手前の椅子に、時田がゆったりと足を組んで座り、コーヒーを啜っていた。
「うわぁ、デスノートみたい」
私は巨大ディスプレイを見上げながら、時田の側に進んで行った。
「やや、いつの間に!」
時田はコーヒーを飲み込んで、私たちを振り返った。
「時田さん、もしかして、ずっとここにいたんですか?」
「まあ、そうですな」
時田は動揺するように、カイザー髭についたコーヒーを拭った。
ディスプレイは近付いてみると、映画観のスクリーンみたいに左右が視界に入らなくなる。200インチはありそうだ。
画面には巨大な糸色家の俯瞰地図が描かれていた。黒のバックに、建物と庭園の形が緑の線で描かれている。こうして見ると、糸色家はあまりにも広大で、RPGのマップを見ているような感覚だった。その黒と緑で構成された地図の中に、赤く光る点がちらちらと移動していた。
「これって、どういう仕組みなんですか?」
私は地図の全体を見上げながら質問した。
「実はこの屋敷には、土の下にセンサーが埋め込まれているんですよ。その上を通過すると、地図上に反応して赤く示される仕組みになっているんです」
時田は、落ち着きを取り戻すみたいに椅子に座りなおし、ディスプレイを振り返った。
「でも、それじゃ何でも感知しちゃうんじゃないですか? 屋敷には物がたくさんあるでしょうし、庭園に動物もいるみたいですし……」
私は視線を時田の肩辺りに移した。
「センサーが感知するのは、熱を持って移動しているものだけですよ。それにある程度の体重がなければなりません。その条件を満たせば、あとはコンピューターが追尾してくれます。キツネやタヌキ程度なら反応しませんし、屋敷に忍び込んだ盗賊が隠れていても、見つけ出すことができます」
時田は誇らしげな調子で説明してくれた。
私はなるほど、と感心の溜め息をついてディスプレイを見上げた。確かにこのシステムがあれば、現在のような警備が手薄な状況でも、安全を確保できそうだ。
緑の線で引かれた屋敷の中を、いくつもの赤い点が移動している。屋敷の外縁で移動しているのは、多分警備の人たちだろう。庭園のほうで激しく動いている点は、多分、千里とまといだ。客間で停止している二つの点は、眠っている芽留とマリアだ。庭園をゆったりと探るように動いているのはあびるだろう。客間に近い部屋で停止している点は、カエレだ。屋敷の中を、慎重に進んだり停止している点があった。多分、あれが隠れている糸色先生だろう。
私はそんなふうに、点の一つ一つに人物を当てはめていった。しかし、ふと奇妙な違和感に気付いた。
「あれ? なんだろう。……9人。1人、多い?」
私は呟いて、点の一つ一つを改めて数えようとした。でも、勘違いだったのだろうか。点の数はやはり8人だった。
「それはそうだよ。だって、屋敷にいるのは、私たちだけじゃないんだよ」
可符香は朗らかに微笑んで私の間違いを指摘した。
「ああ、そっか。ごめん、やっぱ勘違いだ」
私はごまかすように笑った。
「うむ。そうですぞ。屋敷には今、見合いの儀を終了させるために、多くの刺客を潜り込ませておるのです。
 不良(ガンを飛ばす)
 サッカー選手(アイコンタクト)
 子供(ジーッと見る)
 杉様(流し目)
 田代氏(覗き)
この日のために、“見合い系サイト”で収集した見るプロたちでございます。望ぼっちゃまには、今年こそは結婚していただきます!」
時田の堂々たる宣言が、秘密の空間内に轟いた。
「あの、それって、ただの嫌がらせですよね」
私は笑顔を引き攣らせて、時田の背中を振り向いた。というか、田代って見る場所が違うんじゃないの?
「わかります?」
時田がこちらに横顔を見せて、にやっと微笑んだ。

次回 P035 第4章 見合う前に跳べ11 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/08/23 (Sun)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P033 第4章 見合う前に跳べ


食事が終って、すぐに千里が立ち上がった。
「私、そろそろ行くわ。時間が惜しいもの。」
「そうね。私も行かせてもらうわ」
千里に続くように、まといが指先をなめながら立ち上がった。
「ちょっと従いてこないでよ!」
「私の前を歩かないで」
千里とまといは、喧嘩をしながら客間を出て行く。
「それじゃ、私もそろそろこれで。使用人を引き払っておりますから、色々と仕事があるんですよ」
時田は執事の丁寧さで私たちに断り、立ち上がった。
次に立ち上がったのはあびるだった。
「私はお庭に行くわ。日も出てきたし、ここって珍しい動物がたくさんいるみたいだから」
あびるは少し声を弾ませていた。今さらだけど、あびるって動物好きなのかも、と私は気付いた。
あびるは靴脱ぎ石の上で草履を履くと、そのまま庭園のほうへ向かっていった。
「私はもう一眠りしたら、また遊戯室に行くわ。あ~あ、あと17時間か……」
カエレが退屈そうに欠伸をして立ち上がった。カエレは胸元を大きく開けてはだけさせていた。帰国子女には、和服姿は締め付けは厳しいらしい。カエレみたいなスタイルのいい女の子が着崩していると、和服もセクシーに思えた。
マリアは満腹のせいか、うつらうつらとさせていた。
「マリアちゃん、寝たほうがいいよ。隣の部屋に、お布団の用意もあるみたいだから」
私は眠たげなマリアの手を掴んで、廊下を挟んだ向かい側の部屋に入った。やはり20畳近くある広い部屋に、布団が畳んで積まれていた。
私は布団を敷くと、マリアを寝かせて、体にタオルケットをかぶせた。マリアは体を横にすると、すぐに寝息を立て始めた。
眠っているマリアは、子供のようにあどけなかった。やはり同じ年頃の女の子には思えない。マリアの実年齢は……いやいや、知るべきじゃないのかもしれない。糸色先生が「知らぬが華」と言うのを思い出していた。
私は客間に戻った。客間に残っていたのは、可符香と、まだ眠っている芽留だけだった。
「奈美ちゃんはどうするの? また行くの?」
可符香は一人で朝食の後始末をしていた。空になった大皿と汁碗を重ねて、カートに載せている。
「ううん。もういい。道に迷って大変だったんだから。私も、ゲームでもしとこうかな」
私は苦笑いを浮かべて、可符香の仕事を手伝った。眠っている芽留のために、おにぎりをいくつか残してそばに置いておいた。
「ふ~ん、そう」
可符香は後片付けが済むと、手拭いで手を拭いた。そのまま、廊下のほうへ進む。
「どこに行くの?」
「内緒」
可符香は私にちらと横顔を見せて、口元に指を当てた。
私はなんだろう、と好奇心を感じて可符香に従いて行った。可符香は客間を出て、廊下を進んで行った。可符香は、知った場所を歩くように、迷わずその先を進んでいく。
やがて中庭に出ると、可符香はさっと廊下の角に身を潜めた。私も可符香に倣って隠れた。
それから、そろっと中庭を覗いてみる。すると、時田が中庭を歩いているのが見えた。
時田が中庭を去ると、私たちも廊下に出た。渡り廊下をくぐって向こう側の部屋を突っ切っていった。
また時田の姿が現れた。時田は廊下に上がっていて、時々周囲を警戒するように見回している。
どうやら、可符香は時田を追跡しているようだった。時田は部屋を突っ切り、廊下を進み、時々中庭を横切り、追跡者を警戒するような複雑な道を選んで進んでいた。
「どこに行くんだろう?」
私は可符香に囁くように問いかけた。
「見てればわかるよ」
可符香は声を潜めて、それでも子供のように声を弾ませていた。
時田が廊下の陰に消えた。私たちは時田が曲がった廊下へ入っていった。しかし、時田の姿はもうなかった。
可符香は、迷いなく障子を開けて側の部屋に入っていった。部屋は10畳くらいの、この屋敷にしては比較的小さな部屋だった。床の間、押入れと標準的な和室で、向こう側が障子になっていた。障子は締め切られていて、畳に幾何学的な形の影を落としていた。
でもその部屋のなかに、時田の姿はなかった。
「見失っちゃったね」
私は部屋のなかをきょろきょろとしながら、可符香に声をかけた。
「こっちだよ、奈美ちゃん」
可符香は真直ぐ床の間に向かい、そこに飾られている幅の広い掛け軸をめくり上げた。するとその裏に、隠し部屋の入口があった。

次回 P034 第4章 見合う前に跳べ10 を読む

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■2009/08/23 (Sun)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P032 第4章 見合う前に跳べ


時田が2台のカートを押してきた。私たちは、カートにおにぎりを載せた大皿とポッドと、そのほか汁碗やいろいろのものを乗せた。そうしてカートを押して、もとの客間に戻った。
客間に残っていたのは芽留だけだった。芽留は携帯電話を握りしめたまま、畳の上で眠っていた。無理に起こす必要はないだろう、とその体にタオルケットを掛けておいた。小さな芽留の寝顔は、子供みたいで可愛かった。
私とマリアで、客間に大皿を運び、インスタントのお吸い物の準備をした。時田は客間を離れ、放送で朝食の準備を呼びかけた。しばらくして、可符香、あびる、カエレという順番に戻ってきた。最後に千里とまといが一緒に戻ってきた。
私たちはおにぎりを乗せた大皿を、背を向けて囲み、食事を始めた。目を合わせないようにするため、とはいえ不思議な食事風景だった。
「千里ちゃん、先生、もう見付かった?」
私はおにぎりを頬張りながら、右隣に座った千里に話しかけた。
「いいえ。北の茶室まで追い込んだのだけど、秘密の抜け道から逃げられたわ。それから2時間程、姿を見てないの。」
「一晩中やってたんだ」
千里は少し悔しそうだった。どうやら、着物姿で一睡もせず走り続けたのだろう。改めて、千里とまといの情熱には勝てないと思った。というか、千里とまといの執念はちょっと恐かった。
「もう、先生ったらどこへ行ったのかしら」
千里のさらに右隣で、まといが呟いた。少し、心配そうな色があった。
「譲らないわよ。」
千里がまといを挑発するように言った。
「ええ、わかってるわ」
まといが挑発を受けて返す。
「時田さん、そういえば、倫さんは? 倫さんは屋敷に残っているんでしょう?」
私はふと思いついて、左隣の時田に尋ねた。時田も一緒に朝食のおにぎりを頬張っていた。
「倫様は見合いの儀の期間中、部屋に鍵を込めて篭城しております。食事と水を持ち込んでいるので、何も心配いらないでしょう」
時田はおにぎりを素手で掴みながら、淡々と答えた。
「時田さん、糸色先生が逃げ込みそうな場所に、何か覚えはありませんか?」
千里がちょっと後ろに体をそらして、時田の背中に訊ねた。
「もう日が昇りましたからな。望ぼっちゃまのことですから、下手に動かず、日が沈むのを待ってどこかに潜んでいるでしょう。探すのは困難でしょうな。軒下などを丹念に探してみてはいかがでしょう」
時田は考えを探るようにして答えを返した。
私はなんとなく、ふ~ん、と思って時田を振り返った。
「へえ、時田さん、手、綺麗ですね。何かやっているんですか?」
私はおにぎりを掴む時田の手に気づいて、感心した声をあげた。時田の手は、まだ若いみたいに艶があった。時田くらいの年齢だと、意外な若々しさがあるように思えた。
「毎日の鍛錬の結果ですな。望ぼっちゃまやそのご兄弟を常に気配らねばならぬ立場にあります。多少は体を鍛える必要もあるんですよ」
時田は誇らしげに胸をそらして説明した。
「へえ~」
私は素直に尊敬の目で時田を見た。痩せてひょろっとしている時田が、意外に逞しいものに思えた。

次回P033 第4章 見合う前に跳べ9 を読む

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■2009/08/22 (Sat)
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P031 第4章 見合う前に跳べ


屋敷の中は、次第に明るくなっていく。屋敷を取り囲む自然も、賑やかにさえずり始めている。なのに、屋敷の中は奇妙なくらい沈黙していた。人の声どころか、気配すら感じない。
「それにしても、静かな屋敷ですよね。昨日はたくさん人がいたように思えたんですけど、どうしたんですか?」
私は屋敷を見回しながら時田に訊ねた。やはり、それだけ広すぎるのだろうか。
「見合いの儀の期間中は、最低限の警備を残して、使用人はほとんど帰宅しております。もしうっかり目を合わせてしまったら、大変ですからな。見合いの儀を拒否したい者は、この町から一時的に出ておりますよ」
「それでいいんだ……」
時田の説明に、私は呆れたようにため息をついた。見合いの儀が嫌なら、街を出ればいいという話だったのか。というか、やっぱりみんな見合いの儀を嫌がってたんだね。
「どちらかといえば糸色家当主、大様の余興、という部分が大きいですからな。とはいえ、そのおかげでこの町での成婚率、出生率ともに安定しております。外の世界では晩婚化、少子化などと騒がれていますが、この町ではそんな話は聞きませぬな。こういった自由恋愛が複雑化している時代だからこそ、意外に必要なシステムかもしれません」
時田は歩きながら考えをまとめるように話をした。
私は、なるほど、と思って聞いていた。迷惑に思える見合いの儀も、役に立つところはあるらしい。
「そうそう、少し寄り道して行きましょう。実は料理人も出ておりましてな。厨房に食事の作り置きがあるのですよ。せっかくですので、運んで行きましょう。私一人ですので、日塔さんにも手伝ってもらえるとありがたいのですが」
「ええ、いいですよ」
私は頷いて了解した。
時田は次の角を右に曲がり、奥詰まった場所へと入っていった。間もなく現れた左手の部屋が、厨房だった。
厨房は広々としていて、地面が土間になっていた。大きなテーブルが二つ置かれて、壁にコンロや洗い場がたくさん並んでいた。どこかの料亭みたいな眺めだった。
ただ今は料理人の姿はなく、鍋類も寸胴も綺麗に整頓されている。無人の厨房に朝の真っ白な光が差し込んで、清潔な空間だったから、廃墟のような寂しさはなかった。
テーブルの上に、大皿がいくつか置かれ、おにぎりが満載にしてあった。どうやら、あれが作り置きらしい。
でもそんな厨房に、動く気配があった。テーブルに隠れるように、陰がもぞもぞと動いている。
「誰?」
私は身を乗り出して呼びかけてみた。
影がくるりとこちらを振り向いた。マリアだった。マリアは淡いピンクの着物に、ワンピースのようなものを羽織らせていた。
「マリアちゃんじゃない。駄目じゃない、人の家のものを勝手に食べちゃ」
私は目を伏せながら、草履を履いて厨房に入っていった
「でも、もう誰か食ってたぞ」
マリアは天真爛漫な笑顔でこちらを振り向き、テーブルを指さした。私はさっと目元を掌で覆う。この子は多分、見合いの儀のルールを理解していない。
私はマリアの視線をかわしつつ、テーブルの前に進んだ。確かに、空になったボウルが一つ置かれていた。ボウルの底と縁に、ぬめりが残っている。おそらくスープのようなものが入れてあったのだろう。
「きっと、先生だよ。ほら、マリアちゃんもおにぎり運ぶの手伝って。ご飯にしよう」
私はマリアを嗜めて、大皿の前に向かった。スープが入れてあったらしいボウルは、時田が洗い場にもって行き洗水した。

次回032 第4章 見合う前に跳べ8 を読む

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■2009/08/21 (Fri)
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P030 第4章 見合う前に跳べ


廊下の土壁にもたれかかってウトウトとしていると、辺りが白く輝きだすのを感じた。目を開けると、庭園が青く浮かぶのが見えた。水平線がじわりと赤く輝き始めている。庭園の森林は、夜の影を残しながら静かにその姿を克明にしている。
私は身を起こして、左右を見た。誰も見ていないのを確認。私は他人の家で迷子になった挙句、廊下で野宿をするという珍しい体験をしてしまった。だけど、あえてそれを誰かに言いたいと思わない。さすがにちょっと恥ずかしい。
私は立ち上がって、欠伸と背伸びを同時にした。固まった腰をポキポキと鳴らす。
それから私は、しばし廊下の端に進み出て、日が昇りかける庭園を眺めた。こちらは貴重な経験だった。
やがて森林の向うに、真っ白に輝く光が現れた。ついに夜明けだ。私は日の出を見届けて、そろそろと行動を移りはじめた。
私はもう棚から牡丹餅とか、そういう考えはなかった。とにかく人恋しくて、誰かと合流して話でもしたかった。
そう思って廊下を曲がると、ふっと誰かが現れた。私はさっと目を背けた。相手も目を背けた。それから私は、目線を落としたまま相手を確認した。時田だった。
「どうなさいました? 望ぼっちゃまは見付かりましたかな」
時田は穏やかな執事の調子で私に声をかけた。
「いえ、どうも道に迷ったみたいで。皆はどこにいるんですか。はじめにいた客間に戻りたいんですけど」
私は恥ずかしいとか思わずに、率直に道を尋ねた。
「東の屋敷ですな。どうぞこちらへ。案内しましょう」
時田は丁寧に言って、背中を向けた。私は安心して顔を上げて、時田の背中を追って歩き始めた。
「……先生は今、どうしています? もう誰かと目を合わせちゃいましたか」
ちょっと知るのが恐いけど、それでも尋ねてみた。
「いいえ。望ぼっちゃまはしぶとく逃亡中ですよ」
私はほっと息を吐いた。例え同じクラスの友達でも、糸色先生が誰かのものになってしまったと思うと、穏やかな気持ちではいられないような気がする。
「時田さんは、先生を子供の頃から知っているんですか?」
私は少し安心したついでに、なんでもない話題を投げかけた。
「そうですね。お仕えして、もう随分になります」
時田は、遠い過去を回想するように、顔を上げた。その声が、年齢の深みを感じさせるようだった。
「先生の子供の頃って、どうでした? やっぱり今みたいに落ち着きのある子供だったんですか?」
私は楽しげな気分で、時田の背中に訊ねた。
「いいえ。高校時代まで随分やんちゃな子供でしたな。しかし、あれは17歳の時でしたな。大きな事件があって……。いや、これは話すべきことじゃありませんでしたな」
「……はあ」
時田は何かを話かけたが、中断してしまった。どんな話だったんだろう。でも、今は聞くべきタイミングじゃないような気がした。
私は時田に従いて、廊下を進んで行った。時田は迷いなく廊下を進んでいく。屋敷はまだ夜が明けたばかりで、暗い影を落としている。中庭を横切った。淡い光が射しているけど、それでもまだ常夜灯の明かりのほうが際立っていた。
庭園の鳥たちは、すでに目を覚ましてざわざわとし始めている。風も目を覚ますように草や花を揺らしている。まだ暗くても、自然の時間はもう夜ではないという感じだったし、ここにいるとそれが肌で感じられた。
だけど時田は、はっとしたふうに足を止めた。
「おや、これはしまった」
時田らしくない高い声だった。
「どうしました?」
私も足を止めて、ちょっと時田を覗きこむようにした。
「話ながらでしたので、道を間違えてしまった。いや、お恥ずかしい。さっきの道を左でしたな」
時田は気まずそうに目線を落としながら、回れ右をした。
私は時田が通れるように場所を開けた。
「広いお屋敷ですものね。そりゃ、道も間違えますよ」
私は軽くフォローした。確かに道に迷って戻れなくなるくらい広い屋敷だ。間違えるくらいするだろう。

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