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■2009/08/20 (Thu)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P029 第4章 見合う前に跳べ


「誰じゃ! そこにおるだろう!」
竹林を前にして、少女が一人で立っていた。誰なのか確認をする前に、鋭い声が私に向けられた。それで、少女が倫であるとわかった。
「私です。あの、望先生の生徒です」
私はいきなり怒鳴られて、気後れするように名乗り出た。
「それ以上近付くな。見合いの儀は同性同士でも成立する」
倫は私に背を向けたまま警告した。
「嘘。……本当に?」
私は思わず聞き返してしまった。この国で同性同士の結婚が認められているなんて、初耳だった。
倫が何かを振り上げた。刀だ。月明かりが刃に光を与えた。光が斜めに落ちた。竹がざわざわ全身を揺らしながら、ゆっくりと地面に滑り落ちた。それが謎の音の正体だった。
「この地域のみに認められている特別な制度だ。お前も、お兄様に惚れておるのか」
倫が刀を鞘に納めて、中断された話を続けた。
「え、それは、その……」
私は倫が手にしている刀にすっかり恐縮してしまった。それに、いきなり「好きか」なんて正面から聞かれても、簡単に答えられるわけがない。
「気にするな。お兄様の女癖の悪さは昔からじゃ。女を見ると、自分のものにしないと気が済まんのじゃ。だから、女の気をひくためならなんでもする。憐れみっぽい振りをしているのも、みんな女の気をひくためじゃ。バカな女ほど、簡単に釣られよるわ」
「先生はそんな人じゃありません!」
私は衝動的に怒鳴って返していた。倫の言葉に軽蔑するものを感じて、許せなくなった。
倫は、ちょっとびっくりしたふうにこちらに横顔を向けた。それからフッと鼻で笑った。精一杯の思いを簡単に押し返されてしまって、私は恥ずかしくて目線を落とした。
「気にするな。悪いのは自分の生徒に手を出したお兄様のほうじゃ」
倫の言葉が少しやわらかくなったように思えた。同性としての同情、みたいなものだろうか。でも私と倫の間に、すれ違いがあるのを感じた。
「あの、眠れないんですか。もう、夜の12時過ぎてますけど。倫さんも“見合いの儀”に参加しているんですか」
それでも、私はいくらか話しやすくなったように思えて、声をかけてみた。
「まあな。糸色家にはおかしな風習が多いのだが、“見合いの儀”もその一つだ。それに、父上はそういう変わった趣向を楽しむ性格でな。それで、私たちも毎年巻き込まれておるというわけじゃ」
倫は毅然とした調子で答えを返してくれた。良家のお嬢様として、一片も隙がないという感じだった。
「あの……。もしかして、夕方のこと、怒ってます? その、絶……って言っちゃたの」
「言うな!」
「ごめんなさい!」
やっぱり怒っていた。私は反射的に頭を下げた。
「恨めしいのはこの名前じゃ。この名前のせいで、何度誤解を受けたことか! 私は早く糸色の名前を捨てたいのに、これだという男はなかなか現れん。今時の男はどれも腑抜けばかりじゃ」
「そうですよね」
倫は厳しい声で不満を訴えた。私は愛想笑いを浮かべて、同意して頷くしかできなかった。
「そうではない。……この頃、夜になると妙な気配を感じるのじゃ。何度か起き出して確かめようとしたのだが、それらしい影は見付からん。気配を探ろうとすると、相手はふっと姿を消す。幽霊か何かを相手にしているようじゃ」
倫は気分を落ち着かせて、改めて説明をした。
私は顔を上げて、倫の後ろ姿の目を向けた。暗い月の明かりに、白い着物がぼんやりと浮かんでいた。多分、寝間着だろう。小さな背中に、波打った長い黒髪が被さっていた。
倫の後ろ姿は、意外なくらい細く小さかった。尊大な態度のせいか大きく思えていたけど、実際には私たちとあまり変わらない。倫の後ろ姿は、闇の中では弱々しく思えるくらい小さく、あまりにも頼りなげだった。
「そんな、気にしすぎですよ。広い家ですから、ラップ音か何かですよ」
私は倫を宥めるように、軽い調子で答えを返した。
「なめるな。武道の心得くらいある。気配を殺しても、不埒者の接近くらい察知できる。そんなものじゃない。確かに何かを感じるんじゃ。それとは違う、もっと異質で暗い気配じゃ……。だが使いの者から、何か失せ物があったなんて報告も聞かん。私は蜃気楼でも追いかけている気分じゃ」
倫は言葉に不安と困惑を浮かべていた。白い影が、危うく闇に飲まれそうに思えた。
「そんなにたくさんの召使がいて、被害もないんだったら、気にしなくていいですよ。そうだ、それはきっと座敷童子か何かですよ。気になるかもしれないけど、悪いものじゃないですよ」
私は可符香の言い草を真似して、明るい声をかけた。
「ならいいがな。しかし、私にはそのようなものには思えん。気をつけろ。この糸色家、何か潜んでおるぞ」
倫が警告するふうに言って、私を振り返った。
その瞬間、お互いにあっとなった。目が合ってしまった。私はさっと目を逸らした。倫も目を逸らした。
「い、今のはなしだからな」
倫が声を動揺で上擦らせていた。
「う、うん」
私は胸を抑えて、頷いて返した。掌に、胸が早鐘を打っているのを感じた。私は、うっかり女の子と目を合わせてしまったことに動揺していたが、それ以上に、倫とならいいかも、なんて思った自分に動揺を感じていた。

次回 P030 第4章 見合う前に跳べ6 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/08/18 (Tue)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P028 第4章 見合う前に跳べ


廊下を覗くと、足元で常夜灯が点々と光を投げかけているのが見えた。建物は古いが、意外と設備は新しいのかもしれない。
千里やまといはどっちに行ったのだろう。糸色先生はどこへ逃げたのだろう。私は廊下に出て、とりあえず正面の道を進んだ。
私は千里やまといほど、懸命にはなれない。千里やまといと同じ勢いで糸色先生が好き、とは言えない。でも糸色先生は若くてかっこいいし、落ち着きもあるから、憧れてはいる。こうして歩いていると、ひょっとしたら、棚から牡丹餅が落ちてくるかもしれない。私はその程度のつもりで、糸色先生を捜しはじめた。
間もなく廊下の先に中庭が現れた。中庭に置かれている石灯篭の中で、蝋燭の炎がゆらりと揺れている。中庭を挟んだ向こう側にも屋敷が続いているのが見えた。
私は渡り廊下を抜けて向こう側へ行くと、さらに廊下を進んでいった。どの廊下も点々と常夜灯の光が当てられている。土壁に埋め込まれている美術品が、常夜灯の光で立体的な影を浮かばせていた。私は、襖の装飾や壁に彫られたレリーフを何となく見ながら、廊下を奥へ奥へと進んでいった。
ふと私は、後ろを振り返った。そうすると、果たして自分がどの方向からやってきて、どの角を曲がってきたのかわからなくなってしまった。
私は心をざわざわとさせて、やってきた道を引き返そうとした。襖の模様や、横木に飾られた美術品が手掛かりになるはずだった。でもどの角を曲がっても、見覚えのある風景は出てこなかった。
道に迷った。私はようやく自覚して、本格的に焦った。初めて来る街とかならともかく、まさか誰かの家で迷子になってしまうなんて思いもしなかった。
どうしよう。そうだ、誰かに聞こう。糸色家には、たくさんの召使がいたはずだ。
そう思って辺りを見回した。でも、屋敷はしんと静まり返っていた。自分の胸の鼓動が、はっきり聞こえるくらいだった。
誰もいない。私の焦りは、困惑に変わりつつあった。なんだか周囲の闇が、急に恐いもののように思えてしまった。私はその場にしゃがみこんで、自分を抱くようにした。体が怯えを感じて、小さく震えていた。
すると、どこかで物音がするのを感じた。ざわざわとさざめく風の音に、それとは違うなにかの気配が混じった。
一瞬は不気味に思った。でも私は、誰かに会えるかも、と思って立ち上がった。
音が来た方向をたどって、廊下を進んでいく。廊下はやがて、庭のほうにせり出していった。広い庭園ではなく、茂みが多く、暗い影を落とす小さな庭だった。音は、庭の向うから聞こえてきた。
私はいよいよ本格的に不気味なものを感じた。幽霊や妖怪なんて信じる年頃でもなかったけど、古い様式を持った糸色家は、そういったものが現れそうな雰囲気が辺り一杯に漂っていた。
それでも私は、靴脱石に置かれた草履を履いた。不気味に思う気持ちの中に好奇心もあったし、それに人恋しかった。
庭は真っ暗ではなく、二つの石灯篭が光を放っていた。それを頼りに進んでいくと、奥に細い道があるのに気付いた。細い道は暗かった。細い道に沿って、点々と提灯が配されて、ぼんやりと揺れていた。足元の敷石が鈍く光を宿していた。
霊界トンネル。そんなものがもしあったとしたら、こんな眺めでこんな雰囲気だろう。私はむしろ肝試しの気分になって、真っ暗な細道に入っていった。
あの音は間もなくはっきりとした形を持って聞こえた。何かが鋭く風を切る。それに続くように、強い風が吹くように葉がざわざわと揺れた。あの音の正体はなんだろう、と私は細道を進んだ。
やがて細道を抜けた。細道を抜けると、左手に庭園と繋がっているのが見えた。正面は鬱蒼とした竹林になっていた。そこに、一人の少女が立っていた。

次回 P028 第4章 見合う前に跳べ5 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/08/17 (Mon)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P027 第4章 見合う前に跳べ


時計が12時を回った。どこかで打ち鳴らされた銅鑼の振動が、客間全体を満たした。
「それでは、見合いの義、開始でございます」
時田が力強く、ゲーム開始の宣言をした。
すぐに、千里が糸色先生の側に飛びついた。
「先生。ここは大人しく私と目を合わせて、きちんと籍を入れてください。」
千里が糸色先生に詰め寄る。だけど糸色先生は頭上を見上げて千里の目線をかわした。
「嫌です。私はいろんなものに背を向けて生きてきましたかね。見ないことに関してはプロですよ」
糸色先生は余裕の調子で返した。
千里が糸色先生の隙を探すように、その周囲をぐるぐるとまわる。でも糸色先生は、千里の動きを正確に察して、すばやく反対方向に目を向ける。
私たちは座布団に座ったままの姿勢で、糸色先生と千里のやり取りを見ていた。入っていく隙がない、というか、あの二人は何をしているんだろう、というような傍観者の立場だった。
「それじゃ、あの日のことはどう説明するつもりですか。今さら言い逃れは許しませんよ!」
千里が糸色先生の体を掴み、思い切り背伸びをして顔を近づける。
「誤解です。何もありませんでした!」
「嘘は許しません。いいから私の目を見て!」
千里は糸色先生にのしかかるようにして、目をくわっと見開いて迫る。
糸色先生がバランスを崩した。糸色先生が目線を下に向ける。その先に、まといが現れた。糸色先生はさっと掌で目の前を遮った。
「おっと、なにやら危険な気配がします。目を逸らした先に、何かいる気配!」
糸色先生はすぐに体勢を崩して、脇に目を逸らした。
「先生、私と目を合わせてください!」
まといが糸色先生にすがりついて、飛び上がった。糸色先生がまといの目線をかわす。千里がその先に回り込もうとする。糸色先生は素早い動きで、千里の目線を避けた。
それは、まるでボクシングのフットワークだった。糸色先生の動きは素早く、千里とまといを鮮やかな反射能力でかわしていった。千里とまといは、二人で共同して糸色先生の目を捉えようとする。だけど糸色先生の動きに一分の隙はなく、目線どころか顔すら合わせなかった。
糸色先生が千里とまといの一瞬の隙を突いて駆け出した。客間の外に出て、廊下を駆けていく。
「糸色先生!」
「待って!」
千里とまといは、虚を突かれたような顔をしたが、すぐに糸色先生の後を追って駆け出した。
廊下を駆け抜ける足音が、バタバタと去っていく。
私たちは、その足音が消えるまで茫然と廊下を見ていた。千里とまといの気配が感じられなくなって、ようやく緊張が解けたみたいになった。
「何か、ついていけないって感じよね」
あびるがクールな声にもあきれたものを浮かべていた。
「しょーもないイベントに参加させられたって感じね。私はこんなところで結婚させられるなんてごめんだわ。ねえ、何か暇つぶしできるものはない? ゲームとか、目を合わせないものがいいわ」
カエレが溜息と共に立ち上がって、時田を振り向いた。
「それでは、遊戯室があります」
時田は頭を下げたままの姿勢で、カエレを廊下へと促した。
「私も行くわ」
あびるも立ち上がって、時田とカエレに続いた。
《俺はケータイやってるぜ。ここ 充電し放題だしな》
着物の帯の中で携帯電話が振動した。引っ張り出してみると芽留からのメールだった。
振り向くと、芽留は客間の隅で、こちらに背を向けていた。携帯電話をコンセントに繋げて、すでにネットの世界に没入しているらしい。通信料金は大丈夫なのだろうか。
芽留の着物は赤で、黒の帯を締めていた。着物全体に折鶴がプリントされていた。
客間を見回すと、いつの間にマリアがいない。座布団に座っているのは、私と可符香だけになっていた。
「奈美ちゃんはどうする?」
可符香がいつもの朗らかさで訊ねた。可符香はピンクの着物で、大きな椿の模様が描かれていた。
「私は、えーっと、ちょっと、屋敷の中を探検しようかなぁ」
私はごまかすように言って立ち上がった。なんとなく可符香の目を避けていた。確かに見合いの義は、節目がちになりそうな催しだ。
「ふ~ん、そう。頑張ってね」
私の背中に、可符香が励ましの声を送ってきた。でも私は、見透かされたような気持ちになって、グサリを感じてしまった。

次回 P028 第4章 見合う前に跳べ4 を読む

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■2009/08/16 (Sun)
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P026 第4章 見合う前に跳べ


スクリーンに光が失いかけて、客間に照明が戻った。
“見合いの儀”の説明は終った。でも私たちは、さらなる説明を求めるように、スクリーンの右横に立っている時田に注目した。
「何なのよこれ。見合ったら結婚成立なんて、そんな見合い、聞いたことないわよ!」
私の右隣に座っていた千里が憤慨した声をあげた。千里は濃い青の着物で、唐草模様が全体に広がり、点々と白い花が配された柄だった。赤と青の団子状になった鼈甲の髪飾りをつけていた。
「そういう決まりになっているんですから、仕方ありません。大正天皇が神前式を取り入れる以前から続く、糸色家の習わしですから。これは変えるわけには行きません」
糸色先生がぼそっと呟く。糸色先生は私たちの一番左端で、私たちに背中を向けてうなだれていた。
「先生、そんなのでいいんですか。」
千里が糸色先生に厳しい声で問い詰めた。私はまあまあ、と千里を宥めようとした。
「決まりごとですから、これは。私が伏し目がちな人間になった理由がお分かりでしょう」
糸色先生がちょっとこちらに横顔を向けた。糸色先生の言葉には諦めが込められていた。
「あの、“見合いの儀”は理解しました。でも、何で私たち、着物なんですか?」
私は時田を振り返って訊ねた。着物に着替えさせられた理由は、いまだに説明されていない。
「あなたたちも“見合いの儀”に参加していただきます。だから儀式にふさわしい正装にさせてもらったのです」
「はーーー!」
時田の説明に、私と千里が驚きの声を合わせる。
「あなた方だけではありません。旧糸色家の領地内。つまり町中の人間が“見合いの儀”の参加者。目が合ったもの同士、即成立。例外はございません」
時田は重大発表のように強い言葉で宣言した。
もはや私たちは驚きの声すら上げなかった。カエレが何か訴えたそうに立ち上がっていた。クールなあびるも、無表情で目を動揺させていた。朗らかな微笑を浮かばせているのは、可符香と、どうも事態を理解できているのか怪しいマリアだけだった。
「それ本当ですか。本当に糸色先生と結婚できるんですか!」
まといが希望に満ちた声で訊ねた。まといは黄色の着物で、直線とタイルを組み合わせた幾何学模様の柄だった。袴姿ではなかったけど、さすがにまといは和装が似合っていた。
「もちろん。尤もその間、望ぼっちゃまは誰とも目を合わせようとはしませんけどね」
時田は重く頷いて答えた。
私は糸色先生を振り向いた。私の視線を感じたらしく、糸色先生は反射的にぷいんと別の方向を向いた。なるほど、これは手強そうだ。
ふふふ。いい話を聞きましたぞ。このシステムを利用すれば、変な宗教に入信しなくても結婚できる!
なんとなくどこからか生暖かい空気がぬるぬると流れ込んでくる気がした。
「誰か何か喋った?」
私は何となく声を聞いたような気がして、誰となく周りに声をかけた。
「ううん。気のせいじゃない?」
あびるがクールな返事を返した。あびるの着物は、白地に松と羽ばたきかけた鳥の柄だった。
「百歩譲って、着物きせられたのは許そう。でも、なぜ私だけこの丈なのよ!」
カエレが私たちの前にずんずんと進み出た。カエレの着物は黒に近い紺色で、大きな花が一杯に散りばめられ、袖口にレースがちらりと覗かせていた。
そのカエレの着物だけ、スカートが極端に短く、きわどく股間が隠れているだけだった。こうして座った姿勢で見上げると、スカートの裾から白いものがちらりと見えた。私はちょっと恥ずかしくなって目を逸らした。
「それはもう、調査済みでございますから」
時田は堂々と胸を張った。
「訴えてやる!」
カエレの怒りの声が客間一杯に満ちた。

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P025 第4章 見合う前に跳べ


客間に戻ると、夕食の準備が始まった。私たち9人が向き合わせて座ると、女中たちが膳を持って入ってきた。夕食は高級料亭でしかお目にかかれそうもない懐石料理だった。
ご飯、味噌汁に、向付に刺身が盛り付けられ、山菜と大根を和えたサラダが並び、白菜の漬物が添えられていた。ご飯も味噌汁も碗の底が深く、量はちょっと多めだった。
料理の準備が済むと、女中たちは丁寧に頭を下げて、静かに客間を立ち去っていった。料理の豪華さに、私はなんとなく自分が場違いなような緊張を感じながら食事をいただいた。最初の「いただきます」の後、誰も言葉を交わさなかった。多分、みんな同じように緊張していたのだろう。
全員の食事が終る頃になると、再び女中たちが客間に入ってきた。女中たちは手早く膳を重ねて運び出していく。その女中たちと入れ替わるように、今度は着物を持った女中たちが入ってきた。
私たちはこれといった説明もされないままに、「お召し物をどうぞ」と着替えることになった。女中たちは私たちの服を脱がせると、持ってきた着物を代わりに着せる。
でも、着物そのものの感触は悪くなかった。初めて袖を通す振袖は締め付けも少なかったし、面倒な着付けはみんな女中がやってくれた。私の振袖は淡い水色で、花の模様が一面に散りばめられていた。やはり振袖は高級品らしく、気後れするところはあったけど、手鏡で覗いてみた自分の姿は意外なくらい可愛くて、すっかり気に入ってしまった。
みんなの着付けが終ると、女中たちは部屋から去っていった。私たちの服は、女中たちが畳んで持っていってしまった。
女中たちと入れ替わるように、今度は時田が客間に入ってきた。時田に続くように、糸色先生が首をうなだれさせながら入ってきた。糸色先生は、普段どおりの袴姿に戻っていた。
「それでは皆さん、準備が整ったようですね。ではご説明しますので、適当なところにお座り下さい」
時田は欄間の下に立つと、私たちに丁寧なお辞儀をした。
いつの間にか、座布団は欄間を前に、一列の半円状に並び替えられていた。私たちが適当な場所に座ると、襖が開いて、黒子衣装の人たちが入ってきた。黒子衣装の人たちは、欄間にスクリーンを吊るし、私たちの後ろに映写機を設置した。映写機は随分古いものだった。色褪せたブリキのボディに、手回し式のハンドルがついていた。そんな映写機が三脚の上に組み立てられていく。
準備が終ると客間の照明が暗く落ちて、僅かな間接照明の光だけが残った。かたかたと映写機が動き始めた。正面のスクリーンにぼんやりとした光の像が浮かび上がる。間もなく像は色を持ち始め、二組の人形のようなものを浮かばせ始めた。
「……糸色家の“見合いの儀”についてご説明します……」
映画の音声は、昔の子供の声みたいだった。音源が古いらしく、声は一定に流れず、何度も間伸びした。
映像は茶色に焼けつつあった。画像の中央に、男と女を示した人形が現れるが、像が滲んでぼんやりとしたシルエットを浮かばせるだけだった。それが、不規則にガタガタと揺れている。
「……場所は当領地内。期間は丸一日。子の刻より24時間が対象となります」
スクリーンに糸色家を俯瞰から捉えた写真が浮かんだ。次に、振り子時計の画像が溶け込むように浮かび上がる。
「その間、目の合ったその時点で、成立。その二人は即、結婚していただきます」
ふたたび男と女を象った人形が浮かび、見詰め合う場面が映し出された。最後に、結婚装束を身につけた男と女の画像に変わり、映画は終った。

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