忍者ブログ

89c79c73.png
■ コンテンツ ■

ad17d9bc.png 2f3a1677.png c1a81a80.png 9452a147.png 5350f79a.png 01b9b1e8.png 29aa8305.png d5525adf.png 0e6a6cf4.png b76ca7e7.png fea5d7ae.png
■ Twitter ■

■ ブログランキング

にほんブログ村 アニメブログ アニメ感想へ
■ ショップ

DMM.com DVD通販、レンタルなどの総合サイト
■2025/01/26 (Sun)
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

にほんブログ村 アニメブログへ
■ [90]  [91]  [92]  [93]  [94]  [95]  ■


■2009/07/26 (Sun)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P004 第2章 毛皮を着たビースト



昼休みに入って、私は可符香や千里とお弁当を食べた。お弁当を残さず食べ終えたところで、可符香が私を振り返った。
「奈美ちゃん、日直でしょ。花壇に行こう」
可符香はそう言って席を立った。今日は可符香と日直だった。
「うん、そうだね」
私はお弁当を包んで鞄に戻すと、席を立った。
実は、私は1週間連続で日直だった。これも、二ヶ月連続で無断欠席したバツみたいなものだった。不条理だと思ったけどこれを受け入れたのは、早くクラスに馴染みたかったからだった。
私は可符香と一緒に、靴に履き替えて校舎の外に出た。正面玄関の裏側に回り、校舎からちょっと外れた場所にある中庭へと入っていった。
中庭は壁のような高い生垣に囲まれていて、入口も松を刈り込んだゲートになっていた。
それをくぐると、ちょっとした広場が現れ、中央に噴水が置かれていた。噴水は水のみ場のように小さく、ちょろちょろと水を噴き上げていた。
花壇、とはいってもそこはちょっとした庭園みたいな場所だった。全体の構造はイギリス式庭園だけど、木や花はどれも日本の植物で構成されていた。
そこへ入っていくと、暑い熱射は少しやわらいで、清涼感のある香りが辺り一杯に漂うようだった。汗で肌に張り付いたセーラー服に、涼しい風が入り込んでくるのを感じた。
私たちは、丸木で作られた小さな用具入れから、スコップとじょうろをそれぞれ手に持ち、奥へ入っていった。
花壇はそんな庭園の奥、迷路のような壁に囲まれた場所にあった。
私たちは、その広場へと入っていく。広場は正方形の形になっていて、そこそこの広さがあった。各クラスの花壇が段々になって並び、どの花壇も色鮮やかな花で一杯だった。
しかし、私たちの花壇は荒らされていた。ちょっと花が踏まれているとか抜き取られているとか、そういうものではない。私たちの花壇だけ、驚くほど深く掘り返されていた。黒く染まった土が辺りに一面に広がり、その土の中に、抜き取られた花の色が点々と浮かんでいた。
「ひどい! 誰がやったのよ!」
私はストレートに憤慨して声をあげた。
「違うよ、奈美ちゃん。これはお墓を掘ろうとしたんだよ。きっと、どこのお寺にも受け入れてもらえなった旅人を埋めようと、親切な人が密かにここにやって来て穴を掘ったんだよ」
でも可符香は、信じられないくらいポジティブな意見を朗らかに言った。
「いや、違うから。ありえないから。それじゃ、どうしてここに穴を掘る必要があったの?」
私は怒りを忘れて、可符香の妄想エンジンを宥めようとした。
「それはお花畑と一緒にしたかったから。旅人は過酷な荒野ばかりを旅し続けてきたから、最後だけはこんな美しい場所に埋められたい、と願ったんだよ」
可符香のポジティブイメージは停止不能なようだった。
私は色んなものを諦めて、がっくり肩を落とした。
改めて、私は穴の側に近付いて、膝に手を置いて覗き込んでみた。考えたくないけど、人が入れる深さだな、と思った。私くらいの体格なら、問題なく入っていける深さだった。
穴は深くなるほどに色を暗く沈めていた。私は、闇に吸い込まれそうな眩暈を感じて、穴から離れた。
「どうしよう。放ったらかしは、まずいよね」
私は可符香を振り返って意見を求めた。
「蘭京さんに報告しよう。埋めるんだったら、道具も借りなくちゃいけないし」
可符香が現実的な提案をしてくれた。
うん、そうだね、と私も同意した。

次回 P005 第2章 毛皮を着たビースト2 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




拍手[0回]

PR
にほんブログ村 アニメブログへ
■ [90]  [91]  [92]  [93]  [94]  [95]  ■


■2009/07/25 (Sat)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P003 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい
 


教室の扉が開いて、担任の先生が入ってきた。先生の後に続くように、女袴姿の女の子が一緒に入ってくる。
9dbe6542.jpg「起立、礼、着席。」
私たちはバタバタとしながら、千里の号令に合わせて先生に挨拶をした。
「おはようございます」
先生は教壇の前に行き、よく通るけど太すぎないスイートな声で、私たちに挨拶を返した。
糸色 望先生。私たちのクラスの担任だ。
ちょっと痩せぎみの体型だけど背が高い。いつも書生風の着物に袴姿だった。顔は端整でやわらかな印象があって、眼鏡がよく似合っていた。まだ教職に就いたばかりの年若い先生だった。
糸色先生の雰囲気は、古風な佇まいと知的な利発さを同時に備え、それでいながらどこか危なげな弱さがあるような気がした。その知的な部分と危なげな感じが、なんともいえず魅力的で、私は頬杖をつきながら、うっとりと先生の顔を見詰めた。
「え~、皆さん。今日も中央線が止まりましたね」
先生はちょっと嬉しそうに報告した。私はうっとりした気分がどんよりと曇るような気がした。
糸色先生はかっこいいし知的な人だけど、何に対してもネガティブな反応を見せる人だった。言うことも考えることもいつも消極的で、周りの人も本人も暗い気持ちにさせないと気が済まないような人だった。
4fa6cecc.jpgちなみに、さっき先生と一緒に入ってきた袴姿の女の子だけど、さりげなく教壇の前の席に座って、かぶりつきで先生の顔を見詰めていた。
あの女の子は常月まとい。信じられないと思うけど、ストーカーの子だ。今は糸色先生をストーカーをしていて、いつどんなときも空気のようにつきまとっている。袴姿も、糸色先生に合わせた格好だった。
糸色先生は、ちょっと手元の書類を探るようにした。
「今日は特に連絡事項はありません。しかし、この頃、この高校周辺で失踪者がでているそうです。誘拐の恐れもあるらしいので、遅くなったら、早く家に戻るようにしてください、とのことです。……私も失踪したいなぁ」
先生は報告を終えて、ぼんやりと欝な顔を浮かべて呟いた。
また私たちは、先生に釣られてネガティブな気持ちになりそうだった。でも、千里が席を立った。
「先生、それはいいですから、早く授業を始めてください。」
千里は委員長らしく、厳しく業務の進行をさせようとした。
「ああそうですね。1限は私の授業でしたね」
と糸色先生は、黒板の上に貼り付けられた時間割表を振り返った。それから、しばらく時間をかけて考えるふうにし、
「……自習にします」
と疲れきったような声で言った。
教室中がざわざわとした。糸色先生の授業が自習になるのは珍しくなかった。というか、まともに授業やってくれる時のほうが少ないくらいだった。
そういうときの過ごし方はみんな心得ていた。静かに音を出さず、漫画を読み始める人や、音量を絞って携帯電話でゲームを始める人。千里だけは、ちゃんと教科書を出して本当に自習していた。
声を出して騒ぎ立てると、隣のクラスの先生が乗り込んでくるかもしれない。皆それがわかっているから、静かに声を潜めながら空白の時間を過ごそうというわけだった。それはクラス全体で共有する、ちょっとした共犯関係みたいなものだった。
私も勉強するつもりなんてもちろんないから、読みかけの漫画を引っ張り出した。すぐに漫画の世界に没頭して、現実世界の時間の流れを忘れた。
ふと、なんとなく顔を上げて、糸色先生の姿を探した。糸色先生は窓の側にスツールを置いて、カバーのない岩波文庫に没頭していた。多分、先生が学生時代から愛好しているプロレタリア文学だろうと思う。
糸色先生の側に、同じくスツールを置いて、まといがしおらしく座っていた。まといはすぐ側で糸色先生をじっと眺めていたけど、まるで存在が空気であるかのように自然で、先生もまといの存在を意識していないように読書に集中していた。
私は糸色先生の姿をうっとり眺めていたけど、まといの存在を意識して少し複雑な気分になった。まといは、端整な小顔に短い髪をきちんと切りそろえていた。袴姿のよく似合う美少女だった。あんなふうに同じ衣装で寄り添っていると、気のあった恋人同士か夫婦みたいだった。
私は軽く、嫉妬を感じていた。
すると、まといが私の視線に気付いて、振り返った。そうして、首を傾げてやわらかな微笑を浮かべた。「あなたも素敵って思うでしょ」と同意を求めているように感じた。
私は、見透かされたような気分になって、居心地悪く漫画に目を落とした。それに恥ずかしい気持ちに捉われてしまった。
糸色先生を狙っている女の子は、たくさんいた。まといがそうだし、千里も先生が好きだった。カエレも実は先生が好きらしい。他にも、先生を狙っている女の子はこのクラスの中にたくさんいた。
私も、先生をかっこいいなとか憧れるなとか思っているけど、それ以上に踏み込もうという気分になれなかった。ライバルはみんな凄い美人だったし、私には先生を振り向かせるような魅力も個性もないから。だから、後ろで見ているだけでいいって思っていた。
これが、私が通う2のへ組の教室。
本当言うと、私は6月末まで不登校だったから、クラスの皆を何でも知っているわけではない。
私は普通で平凡な女の子だから、ちょっとでも特別になりたかった。不登校になればみんなが心配して注目してくれると期待した。
でも、始業式から2ヶ月。誰ひとり私を訪ねる人もいなければ、電話を掛ける人もいない。私は毎日が退屈で退屈で、退屈すぎるからやっとあきらめて登校したのだ。
というか、乗り込むつもりで学校に飛び込んだのだ。それで、勢いよく教室の扉を開けて、
「どうして誰も心配してこない!」
あの時の、教室のシラっとした空気は忘れられそうにない。
しかもその時、糸色先生がまさかの不登校で、スクールカウンセラーの新井知恵先生が代理で教壇に立っていた。
ああやだやだ。思い出しただけでも恥ずかしい。あれは私の一番の暗黒史だ。
結局私は、何をやっても平凡から抜け出られないのだ。周りのみんなは、信じられないくらい個性的すぎで、私は平凡で個性のない自分を受け入れるしかなかった。
それでも、なんだかんだで2のへ組のみんなは私を受け入れてくれた。2のへ組の一人であることは、居心地の悪いものでもなかった。
そうして目立った事件もなく、7月に入っていた。夏に向けて、空気は蒸し蒸しと暑さを増していく。汗が絶え間なく体に浮かぶような暑さを感じながら、私はもうすぐ夏休みだな、とぼんやり考えていた。学校に登校を始めて、たったの1ヶ月で夏休み。今さらになって、私はなんだか損したような気分を感じていた。

次回 P004 第2章 毛皮を着たビースト1 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




拍手[0回]

にほんブログ村 アニメブログへ
■ [90]  [91]  [92]  [93]  [94]  [95]  ■


■2009/07/24 (Fri)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にしたパロディ小説です。パロディに関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P002 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい


今日はいつもより早起きだった。
もしかしたら一番乗りかも、と思って教室の扉を開けると、やはりというかもう誰かがいた。
一級測量士の腕章を左の袖につけた女の子が、教壇の脇に測量機を置いて机の歪みをミリ単位で調整していた。
3d589daa.jpg木津千里だ。ちょっとでも歪みを許さない、几帳面な女の子だ。だから2のへ組の机は、常に碁盤目のようにきちっと整列していた。
「おはよう、千里ちゃん。もういい?」
千里が測量機の片付けに入ったので、そろそろいい頃かな、と私は声をかけた。
「おはよう、奈美さん。ええ、いいわよ。」
千里が私を振り返って笑顔で答えた。
長い髪を、額の中心で両側に振り分けた見事な富士額。何もかもきっちりしていないとすまない、千里らしい髪型だ。ちょっと小柄かもしれないけど、肌が白くてきれいな女の子だった。
私は自分の机まで行き、鞄を机の上に置いた。いつも机がきっちりしているから実に心地いい気分だった。
「ちょっと、あなた。」
でも千里が、恐い声になって私を睨み付けた。
「はい、なんでしょう」
私は始まった、と思って体を固くして身構えた。
「なんでそんなに鞄軽いのよ。ちょっと、机のなか見せない。――やっぱり! 教科書を置いていって。あなた、二ヶ月遅れているんだから、ちゃんと教科書持って帰って勉強しないといけないでしょ。そもそも教科書を置いて帰るのは許しません! そういうところ、きっちりしてよ!」
千里は信じられないくらい凄い剣幕で私に迫ってきた。
きちんとしすぎて周囲にそれを要求する。美人だし、頼りになるところはあるけど、ちょっと口うるさいし、それに怒ると恐い女の子だった。
「うん、わかったから。ちゃんとするから、落ち着こうよ」
私は千里を宥めようとした。
d8bb1611.jpg「おはよう」
次に教室に入ってきたのは、低くクールな女の子の声だった。
「あ、おはよう。」
私と千里は同時に振り向いて、同時に挨拶を返した。
小節あびるだ。痩せていて、背の高い女の子だった。肩までの髪を三つ編みにしている。きれいな女の子だけど、体中が包帯だらけだった。右手はギプスに固められて吊っているし、左の目にはいつも眼帯。
詳しい事情はわからないけど、どうやら父親から暴力を受けているらしい。そんな噂が絶えず、だから包帯だらけなのだという。
「何か?」
あびるは自分の席に着くと、じっと見ている私たちにクールな目を向けてきた。
「ううん、別に。」
私と千里は、また同時に言って首を振った。あびるが現れると、気を遣うからかどうしても重い気持ちになってしまう。
53367414.jpgとそこに、空気を入れ替えるように教室の扉が開いた。入ってきたのは、高校生と思えないくらい小さな女の子だった。
「これ、落ちてた。まだ食べられる」
小さな女の子が、私にビニール袋を見せた。
「これコンビニのお弁当じゃない。駄目じゃない、勝手に持ってきちゃ」
ビニール袋の中は、形の崩れたお弁当で一杯だった。どうやら、コンビニで廃棄になった弁当を持ってきてしまったらしい。
この女の子は関内・マリア・太郎。やはり詳しい事情はわからないんだけど、男子生徒っていうことで登録されている。
マリアはどこかの国から日本に密航してきた人だった。肌は浅黒くて、手入れしていない髪はいつもバサバサだった。セーラー服にはスカーフがなく継が当ててあって、それに裸足だった。
マリアは同じく密航してきた人たちと貧しい暮らしをしているらしく、落ちているものでも拾って生活しないと、食べてもいけないそうだった。
「でも、まだ食べられるよ。賞味期限2時間過ぎただけだよ」
マリアは天真爛漫な笑顔で私に言った。貧しいけど、マリア自身に悲壮感はまったくなかった。
「確かにそうだけど……」
私はどう答えていいかわからなくて、言葉を詰まらせてしまった。
「日本、いい国ネ。賞味期限1秒でも過ぎたら、全部捨ててくれる。客が手をつけなかった食事も全部捨ててくれる。おかげで、マリア食べ物に困らない。ひとつ、いるか?」
マリアは愛らしい微笑で私に弁当のひとつを差し出した。
「いいよ。私は自分のお弁当持ってきてるから」
私は苦笑いで遠慮した。食べ物は残さず食べないとね。
ふと私のスカートの中に入れた携帯電話が振動した。誰かからメールが入ったらしい。
私は携帯電話を引っ張り出し、メールを確認した。
b82bd3b1.jpg《ゴミ漁りか 親父失業でもしたのか》
強烈な毒舌メール。私はどんよりしながら、芽留だな、と思ってその姿を探した。
音無芽留はいつの間にやってきたのか、自分の席にちょこんと座っていた。
「芽留ちゃん、違うから。あれは、マリアちゃんのお弁当だから」
私はちょっと叱るつもりで芽留の席に近付いた。
でも芽留は、目線を逸らして、素早く携帯に文字を打った。すぐに私の携帯が振動した。
《実況マダー?》
芽留は、直接会話しない。普段の芽留は大人しくて極端な口下手だけど、メールの中ではひどい毒舌になる。いわゆる、メール弁慶だ。
それでも、本人はちっちゃくて礼儀正しいから、直接何か言って怒ってやろうという気持ちにはなれない。
731f7429.jpg「ちょっとのいてくれる。訴えるわよ」
いきなり、私の側に圧倒するような背の高い金髪の女の子が現れた。
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
私は慌てて頭を下げて、道を開けた。
金髪の女の子は、私に挨拶もせず通り過ぎていった。
「あ~あ、ウザイ。あびる、昨日の宿題見せてよ」
「うん、いいよ」
金髪の女の子は、木村カエレだ。一応断っておくけど、不良の子じゃない。どこかの国の帰国子女で、ちょっと傍若無人なところもあるけど、あちらの国では普通らしい。
もともとは、クラスの成績アップのために投入された帰国子女だったけど、今ではすっかり足を引っ張っていた。どこの国の帰国子女なのか、いまだに誰も知らない。
そのとき、涼しげな風が流れ込んできた。7月の蒸し暑い空気がさっと流れたような心地よい気分になった。とそんなとき、すぐ側で何かがぱたぱたとはためくような気がした。
281060c5.jpgなんだろう、と振り向くと、いつの間にかすぐ側に、15センチもない場所に男の子がひとり立っていた。
「キャア! いつからそこにいたのよ!」
私はびっくりして、慌てて三歩下がった。
最初からいましたよ。ずっと側にね
男の子はニヤニヤ笑って、眼鏡の向うからいやらしい目で私を見ていた。
臼井影郎。眼鏡で高校生にして絶望的な薄毛。さっきはためいていたのは、臼井の寂しい頭髪だった。臼井は存在感が極端に薄く、こうしていつの間にか側にいることがよくあった。
「あっち行ってよ! 気持ち悪い!」
私はあからさまな嫌悪を示して、臼井を本気で蹴るつもりで足を振り上げた。
はいはい
臼井はニヤニヤした顔を崩さず、私の側から離れた。
ああ、もうやだ。私の周囲に臼井が吐いた空気があると思っただけでも気持ち悪くなって、そこから離れた。
9814aef2.jpgそんなどんよりとした空気も、すぐに新しい空気に入れ替わる感覚があった。
「おはよう、奈美ちゃん、千里ちゃん」
「おはよう、可符香ちゃん。」
私たちの側に現れたのは、風浦可符香だった。前髪を大きな髪留めで留めている女の子で、瞳の色が薄く、わずかに赤味がかっていた。
可符香は不思議な女の子だった。可符香が現れると、不思議と周りの空気がほんわか暖かいものに包まれるような気がする。どことなく、おとぎの物語に登場する妖精さんのような雰囲気があった。
ただ、
「昨日のお月様、血のように赤かったね。きっともうすぐ誰かに不幸が訪れるよ」
と可符香は、何もかもを包み込むような微笑と共に、信じられないダークネスな発言をした。私は思わずどんより重い気持ちになった。
可符香は接しているだけで明るく優しい気持ちになれる女の子だったけど、ちょっと電波なところがあった。
ところで、“風浦可符香”の名前は本当の名前じゃないらしい。本人曰く、ペンネームだそうだ。可符香の本当の名前は誰も知らない。どういう理由か、可符香は本当の名前を隠そうとしていた。
予鈴が鳴った。もうすぐ授業だ。
私は自分の机に座って、机の教科書を確認した。よしよし、ちゃんとあるぞ。
おっと、忘れるところだった。
7f7067f9.jpg私は日塔奈美。どんな女の子なのかというと……普通の女の子です。
見た目も、可愛いというほど可愛くないし、絶望するほどぶさいくでもない。何か得意のものがあるわけでもないし、変わった趣味を持っているわけでもない。学校の成績も、良くもなければ悪くもない。テストの点数はいつも平均点ピッタリだった。
何もかもが普通。どこにでもいる平凡で平均的な女の子。それが私だった。

次回 P003 第1章 当組は問題の多い教室ですから…2 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




拍手[0回]

にほんブログ村 アニメブログへ
■ [90]  [91]  [92]  [93]  [94]  [95]  ■


■2009/07/23 (Thu)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にしたパロディ小説です。パロディに関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P001 序・子供たちは屋敷に消えた

新古典主義の様式を取り入れたその屋敷は、訪ねる者を容赦なく圧倒するような厳しさに満ちていた。正面に並んだ柱は、整然と並んで様式的な美しさをどこまでも増幅させている。アールヌーボーの様式を取り入れた彫刻は、屋敷の外壁に掘り込まれた彫刻と見事に調和していた。屋敷の佇まい、規模、そのどちらにおいても、主の莫大な財産と、堂々たる美意識を体現していた。
だが、今やその屋敷の何もかもは朽ち果てようとする寸前だった。細かなレリーフには亀裂が走り、蜘蛛の巣が張り付いている。繊細に作られた美術品は崩れ落ち、雨や風に晒された結果、泥を被ったように汚れている。さらにそのうえに、不届きな侵入者がスプレーで書きなぐったサインで、美しい感性が汚されていた。
屋敷には、かつての威厳や壮麗さなどひとかけらも残っていなかった。荒れ放題に伸びきった庭の植物が、屋敷の装飾に暗い影を落としている。様式的な美は、かつての造形を歪な形に変え、グロテスクな不気味さを炙り出していた。
男は、玄関扉に向かった。ロダンの『地獄の門』を取り入れた、巨大なブロンズの扉だった。それも雨で腐食して、職人が掘り込んだ造形の数々も、意味のないただのおうとつになりかけていた。そうなると、巨大なブロンズの門は、もはやただの重いだけの鉄扉でしかなかった。
扉の鍵は、壊されていた。長い年月の間に、侵入者が幾度となくここに立ち入ったのだろう。調度品の窃盗、あるいは若者の肝試し。そういった連中が頻繁にここを出入りし、美の屋敷にあらゆる陵辱を加えていったのだ。
その鉄扉を、ゆっくりと押し開けた。扉全体がぎぎぎと重く軋む音を立てて、正面玄関の白と黒の市松模様に光を投げかけた。
男が立ち入っていくと、靴音が甲高く周囲に響き、埃が舞い上がる。主の意思がどうであろうと、そこは廃墟であるのだ。気配のない空間に響く足音と厚く積もった埃の層が、建物自身が廃墟であると主張しているようだった。
男は構わず、杖を突き玄関広場に入っていった。和式玄関のような上り口はなく、玄関からそのまま果てしなく続く廊下へと続いていた。
その正面玄関から入ってすぐの廊下に、堂々たる石膏像がたたずんでいた。ミケランジェロの『ジュリアーノ・デ・メディチ』だ。
もちろん本物ではないレプリカだ。だが、職人が直接蓑を振るったその造形の美しさは、それでも圧巻だった。極端に発達した胸の筋肉。血管が浮かぶ様まで克明に追った描写力。筋骨逞しい青年の座り姿だが、その全体から臭い立つような官能が溢れ出ていた。身体に直接打ち付けているように見える皮鎧の鉄鋲。青年はこれでもかと裸の美しさを主張し、裸を誇張するかのように装飾品で飾り立てられていた。
青年像は、古くなっていたし埃を被っていたが、かつての輝きを失っていなかった。男は青年像を前にして、活力が漲るのを戻ってくるのと同時に、眠っていた情念が身の内に甦るのを感じた。
その時、無人の屋敷に何者かの気配が現れた。
「何者だ!」
男ははっと振り向き、警告の声を鋭く発した。
廊下の影が、静かに蠢く感触があった。その者は光の中には決して姿を現さないが、しかしだからこそ際立つ気配で存在を主張していた。
「お前か。なぜここに来た。もし誰かに我らの関係を知られたらどうする」
男は厳しく怒鳴った。
だが相手は、冷静な視線で男の姿を観察した。それでいて、何か懐かしむような情熱が目線に混じっていた。
「お前は余計なことをする癖がある。それが、この計画を台無しにしてしまうかもしれんのだ。わかっているんだろうな」
男は苛立つように、かつかつと靴音を鳴らし、じっと相手を睨み付けた。
闇の中の人物は、静かに言葉を返した。そのまま闇に吸い込まれそうな、静けさに満ちた声だった。
男は、諦めるようにため息をついた。
「まあよいだろう。あの男はどうしている。……そうか、やはりこの春、教職に就いたか。何もかも、順調に進んでいる。そういうことだな」
男は思考を巡らしながら、『ジュリアーノ・デ・メディチ』を見上げた。そうして、自身の計画の進行に頷き、相手を振り向いた。
「いいだろう。改めてお前に命令を下す。糸色望を抹殺せよ」
男は宣言するように、相手に命じた。
闇の中で恭しい挨拶をする気配があった。その直後、気配はすっと消滅した。まるで、闇に飲み込まれたように。

次回 P002 第1章 当組は問題の多い教室ですから…1 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




拍手[0回]

にほんブログ村 アニメブログへ
■ [90]  [91]  [92]  [93]  [94]  [95]  ■


■ ブログの解説 ■

漫画・アニメ・キャラクターを中心に取り扱うブログです。 読みたい記事は、左の目次からお探しください。

QLOOKアクセス解析


■ ブログ内検索  ■

私が描きました!

アマゾンショップ

アマゾンのサイトに飛びます
フィギュア

アニメDVD

新刊コミック

ゲーム

ライトノベル

楽天

アマゾン<シャッフル>ショップ

私が描きました!

Template by Crow's nest 忍者ブログ [PR]