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■2009/07/30 (Thu)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P009 第2章 毛皮を着たビースト
 


bcb66b4a.jpg誰かが保健室に入ってきた。
「具合はどう? 少し頭をぶつけたと聞いたけど」
カーテンを開けて覗き込んできたのは新井智恵先生だった。その後ろに、糸色先生と千里がいた。
私は体を起こして、足をベッドの外に出した。
「いえ、別に。寝起きで体がちょっと怠いだけです」
私は先生を不安にさせないように、と軽く微笑んで答えた。糸色先生がほっと胸を撫でていた。
「そう。それならいいわ。一応、体温だけ測っておくわ。ショックで気絶しただけだから、何も問題はないと思うけど、念のためにね」
智恵先生にも安心したような笑顔が漏れた。智恵先生は机の上に置かれた抽斗を開けて体温計を引っ張り出すと、私に手渡した。それから、スツールをもう一つ持ってきて、可符香の隣に座った。
私はセーラー服の裾をつかんで、体温計を体の中に潜り込ませようとした。でも、糸色先生を気にするようにちらと見た。糸色先生はあっと顔を赤くして、背を向けた。私はセーラー服をまくって、体温計を脇の下に入れた。
「それで、智恵先生。あの、あれはいったい、何だったんですか?」
私は躊躇いがちに、あのホルマリン漬けについて訊ねた。
智恵先生は、呆れたというふうに溜め息をついた。
「もう高校生でしょ。説明が必要なの?」
「いや、そうじゃなくて……」
私は苦笑いを浮かべて首を振った。
「智恵先生。あまりそういう発言は。未成年の前ですので」
糸色先生がちらと顔を智恵先生のほうに向けて注意した。
「あらそうね。糸色先生、もうこっち見ても大丈夫ですよ」
智恵先生が首をひねって糸色先生を見上げた。糸色先生がこちらを向いた。
「あれが何なのかくらい、ちゃんとわかります。そうじゃなくて、どうしてあんな部屋が用務員室にあって、あんなものがホルマリン漬けにされていたのか、それを聞きたいんです。」
千里が腕組をして、調子を強く言った。
「千里ちゃん、あれを見たの?」
「うん、まあ……」
私は千里を振り返った。すると千里は顔を暗くしてうつむいた。
「奈美ちゃんが倒れた後、真っ先に委員長が駆けつけてくれたんだよ」
可符香が明るい声で補足した。つまり、警察がやってくる前に、千里はあのホルマリン漬けを見てしまったわけだ。
私は千里に同情を込めた目で振り返った。千里は腕組を解いて、指先で忌まわしい記憶を消そうとするように額を撫でていた。いつもきっちり振り分けられている富士額が、今だけ少し乱れて見えた。
「それはつまり、こういうことでしょう。切り落としたから、ホルマリン漬けにして保管した。蘭京さんの密かなコレクションだったんじゃないかしら。あの部屋は、誰にも見付からずコレクションを蒐集するために作った秘密の部屋」
智恵先生は膝の上に両掌を組み合わせて、さも当り前というように説明した。
「そんな趣味、あるんですか?」
私はどんな表情を作っていいかわからず、声と表情を引き攣らせた。
私の脇の下で、ピピと音がした。体温計が音を鳴らしたのだ。私はセーラー服の下に手を突っ込んで、体温計を取り出し、智恵先生に手渡した。
「36度5分。平熱ね。問題なさそうだわ」
千恵先生は軽く笑顔を浮かべて頷き、席を立った。体温計をケースに入れて、引き出しに戻す。
「それで、その、智恵先生?」
私は智恵先生を目で追いかけて、話の続きを聞こうとした。
智恵先生が私たちを振り返って、胸の下で腕を組み合わせた。
「ネクロサディズムと呼ばれる性倒錯の一種ね。1980年から1990年にかけて、ロシアのロストフ州の森で、判明しているだけで50人の子供の死体が発見されたわ。死体はいずれも陵辱の跡が残り、性器が持ち去られていた。男の子ならペニスを。女の子なら子宮がくり貫かれていたそうよ。後に犯人であるアンドレイ・チカチーロが逮捕された後、彼の自宅からは夥しい数の性器コレクションが発見された」
智恵先生の言葉は重く、沈黙した保健室にしばらく残るような気がした。

アンドレイ・チカチーロに関する説明は、正確なものではありません。小説の演出のために、脚色が加えられています。ウェキペディアの記述などを参考にしてください。

次回 P010 第2章 毛皮のビースト7 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/07/29 (Wed)
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P008 第2章 毛皮を着たビースト


……かーごーめーかごーめー
かーごのなーかのとーりーはー……

どこかで、女の子の歌う声が聞こえた。声は細く伸びきって、今にも途切れそうだった。

いーつーいーつーでーやーうー……

空は真っ赤に燃え上がっていた。東の空が焦げ付くような真っ黒な色に沈んでいた。
そんな空の下に、女の子が一人、ちょこんと座っていた。
女の子は一人きりでうずくまり、顔を掌で覆って、唄を歌っていた。
私は何となく不思議な心地で、女の子を見ていた。目の前の風景も足元も、なんとなくふわふわと浮かび上がるような気がした。そこに立っているという感じではなかった。
女の子は一人で唄を続けていた。孤独な声が、静寂が包み始める夕暮れに、ぽつんと漂っているようだった。
私は、女の子の側へ走った。
「……ちゃん、何しているの?」
私は女の子の名前を呼んだ。

ゆっくりと意識が覚醒するのを感じた。でも、まだ意識は現実と夢の境を曖昧に漂っていた。
「……よーあーけーのばーんにー……」
女の子の歌の続きが聞こえてきた。掌に、暖かなぬくもりを感じる。きっと握っていてくれたんだ。
「……ちゃん、何しているの?」
私は女の子の名前を呼んだ。
間もなく曖昧だった感覚が、はっきりした形を持ち始めた。白く霞んだ世界が、輪郭線を持ち始める。
側にいたのは可符香だった。可符香が私を見詰めながら、ゆったりとした調子で唄を口ずさんでいた。
「起きた?」
可符香が優しく微笑んだ。
私はまだ夢の中の気分が抜けず、ぼんやりとしていた。可符香の顔に、暗い灰色の影が落ちていた。
周囲を消毒液の臭いが包んでいた。私はベッドの上だった。そこは保健室で、私はベッドで眠っていた。左の窓を振り向くと、空が灰色に曇って、雨が静かなせせらぎのような音を立てていた。
ベッドを囲むカーテンが揺れて、誰かが顔を出した。千里だった。
「やっと、起きた。風浦さん、私、智恵先生呼んでくるわね。」
千里は目を覚ましている私に微笑みかけると、可符香に言付けをして急いで保健室を出て行った。
私は浅くため息をついた。寝起きの体はひどく気だるくて重かった。
「可符香ちゃん、私、どうしたの?」
私はとりあえず状況を知ろうと訊ねた。
「奈美ちゃん、ごめんね。奈美ちゃん、あのホルマリン漬けを見て、びっくりして気絶しちゃったんだよ。恐い思いさせてごめんね」
可符香は申し訳なさそうに微笑んだ。私は怒っていなかったし、もし怒っていたとしても、可符香のそんな顔を見るとすべて許せてしまう気がした。
「ううん、いいの。それで、あの部屋は? 蘭京さんは?」
私は枕の上で首を振って、次の質問をした。
「すぐに先生がやってきて、警察に通報されたわ。いま用務員室は、警察の人で一杯だよ。学校はすぐに休校になって集団下校。学校に残っているのは、私たちと先生だけ。蘭京さんはどこに行ったかわからない。みんな探しているけど、見つからないの」
可符香は丁寧に、あの後のできごとを一つ一つ説明してくれた。
私は、もう一度窓を振り返ってみた。ベッドの左側は窓になっていた。灰色に色を失っている風景に、時々赤い光が混じるのに気付いた。パトカーの警光灯だ。本当に、警察が来ているらしかった。
体がはっきり覚醒してくると、夢で見た光景が頭の中に浮かんだ。あれは、幼稚園の頃の風景だ。あのとき私は、あの女の子と……。
とそこまで考えたところで、私は思考が止まってしまった。あの女の子は、なんていう名前だっただろう。私は覚醒する瞬間、なんて言ったんだろう。
ふと私は、可符香を振り返った。その顔をじっと見詰める。可符香はまだ私の掌を握ったままで、私の視線を受けてかわいらしく首をかしげた。
「ねえ、可符香ちゃん。可符香ちゃんって、小さい頃、あちこち引越ししていたんだよねえ? それじゃ、○○○幼稚園って、通ったことない? ここの地元の幼稚園なんだけど。私、子供の頃、可符香ちゃんと会っている気がするの」
私は可符香の顔が、夢の中の女の子とぴったり重なるような気がした。だからもしかしたら、と訊ねてみた。
可符香は、考えるように宙を見上げたり、うつむいて唸ったりした。しばらく時間がかかるようだった。
「一度通った幼稚園とか小学校とかは、ちゃんとみんな憶えているつもりだけど……。ごめんなさい。○○○幼稚園に通った憶えはないわ」
可符香はごめんなさいと、と首を振った。
「ううん、いいよ。私の記憶違いだったみたいだから」
可符香にそんな顔をされて、私も申し訳なくなって首を振った。
多分、記憶違いだろう。幼稚園の頃の記憶だし。小さい頃のことだから、思い込みで記憶の書き換えなんかしてしまったのかもしれない。
でも、時々可符香に感じる、この懐かしい感じはなんだろう。本当に私は、あの頃に可符香に会わなかったのだろうか。

次回 P009 第2章 毛皮のビースト6 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/07/28 (Tue)
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P007 第2章 毛皮を着たビースト
 


翌日の朝、教室に入ると、千里が凄い剣幕で私に迫ってきた。
「あなた! 用務員室からスコップ持ち出して片付けなかったでしょ。きっちり片付けてきなさい!」
というわけで、私は可符香と一緒に中庭に向かった。中庭の、花壇があるスペースへ行く。確かに、花壇の前にスコップが放置されていた。先の部分に黒い土がついていて、昨日、作業したままの状態だった。
そこまでやってきて、私はようやく、昨日用務員室に行かなかったっけ、と思い出した。多分、千里はこの花壇にやってきて、スコップの返し忘れに気付いたのだと思う。気付いたんなら、返しておいてほしいけど。
花壇には異常はなかった。植えなおした花は、茎をしっかりさせて葉を広げている。いくつかぐったりしたものもあったけど、ちょっとだけだった。何とか持ち直したらしいのを見て、私はホッとした。
私はスコップを持って、用務員室に向かった。
「蘭京さん、います?」
私は用務員室の扉をノックした。
すると、扉の向うで気配がした。慌てるようなバタバタとする音だ。それから、用務員室に不自然な沈黙が漂い始めた。待っていても、返事が返ってきそうな雰囲気はない。
私は可符香と顔を見合わせた。可符香も、なんだろう、と首を傾げていた。
「入りますよ」
私は断ったうえで、ゆっくりと扉を開けた。
用務員室に、誰もいなかった。昨日見たままの状態で、何か大きな異常があるようには思えなかった。
「おかしいな。確かにさっき、誰かいる気配したよね」
私は慎重に用務員室全体を見ながら中へ入っていった。といっても、狭い用務員室に誰かが潜んでいるとは思えない。
私はとりあえず、スコップを壁際のフックに引っ掛けた。
「窓開いているよ、奈美ちゃん」
可符香が奥の座敷に身を乗り出して、窓をさした。
座敷の向うに窓があり、確かに開けたままになっていた。窓の向こうに、広い運動場が見えた。こんな時間でも、活動している運動部がぽつぽつといるのが見えた。
私は、奥の座敷をよく見ようと思って、畳の上に右の膝をついて身を乗り出してみた。すると、畳の上にくっきりとした靴跡があるのに気付いた。
もしかしたら空き巣かもしれない。私は緊張して畳の上の靴跡に目を向けた。靴跡は、右側の空間から始まり、開けたままの窓で終っていた。
しかし、右側の空間には、大きな棚が一つあるだけだった。高さは1メートル80センチほど。棚は、ドライバーやねじといった工具がきちんと整理して並べられていた。
その棚が、中間あたりからほんの少し、手前にせり出しているように見えた。
「なんだろう?」
私は呟いて、靴を脱いで座敷に上がった。
「どうしたの、奈美ちゃん」
可符香も靴を脱いで、私の後を追った。
私は棚の側に近付いた。気のせいじゃない。棚は三つに区切られていて、その中間が間違いなく手前にせり出していた。さらにもっとよく見ると、一方の縦板に、まるで取手のようなへこみがあるのに気付いた。隣の棚と繋がるように作られた小さな穴もあった。
私は、取手を掴んで、棚を手前に引き出してみた。棚にコロが仕込まれているらしく、力を掛けなくても棚は扉のように手前に動き出した。
棚の裏側に、真っ黒な空間が現れた。可符香が、左側の棚との狭間にスイッチがあるのに気付いて押した。真っ暗な空間に裸電球の明かりが宿り、ぼんやりと浮かび上がった。
「なにこれ。気持ち悪い」
私はちゃんと中を確認する前に、直感的にそう思った。
どうやら、用務員室の隣の階段の裏に、秘密の隠し部屋を作ったらしい。部屋の右側が斜めに切り取られ、左側に天井一杯までの棚が置かれていた。
私はそんな部屋の光景よりも、扉を開けた瞬間に迫ってきた悪臭に面食らった。隠し扉の風景以上に、悪臭はもっと強烈だった。
「面白そう。入ってみようよ、奈美ちゃん。もしかしたら妖精さんが匿われていたかもしれないわ」
可符香は目を輝かせて、靴を手にやってきた。
「ちょっと可符香ちゃん……」
私はさすがに止めようとした。でも可符香は、靴を隠し部屋の中に置いて、中へ入っていった。隠し部屋は土間と同じ高さになっていた。
しょうがない。私も靴を持って隠し扉に向かった。靴を履いて、ポケットから出したハンカチを口元に当てる。
中に入ってみると、そこそこの広さがある。鋭角的な台形の部屋は、天井ほど詰まっているけど、自分達の立っている場所はなんとか両手を伸ばせるくらいの幅はあった。
左一杯の棚には、本や文庫本、手製のファイルなどがあった。本の背を見ると、写真集や小説、医学書などのようだった。標本らしい木のケースも並べて置かれていた。それから医療器具のような道具に、何かをホルマリン漬けにした瓶。
棚は高さ1メートルほどのところで、机のように手前にせり出していて、筆記用具などの道具が置かれ、何か作業をしたらしい痕跡もあった。
なんだか、底のほうからぞくぞくする不気味さがある気がした。天井に吊るされている二つの裸電球の明かりはぼんやり暗くて、埃が舞い上がるのを浮かび上がらせ、部屋のあちこちに陰鬱な影を落としていた。靴で床を踏んだ感触は何となく湿っていたし、それに7月とは思えないくらいひんやり冷たかった。
「なんなんだろう、この部屋」
私はハンカチで口元を覆いながら、疑問をつぶやいた。
「そうね。……そうだ、きっと蘭京さんはお医者さんになりたかったんだよ。でも両親に反対されて仕方なく学校の用務員に。それでも夢を諦められなかった蘭京さんは、こうやって秘密の部屋を作り、誰にも見られていないところで勉強をしていたんだよ。蘭京さんは頑張り屋さんなんだよ」
可符香は信じられないくらいポジティブだった。私は絶対に違う、と思ったけど、呆れて口に出して言えなかった。
「ねえ、可符香ちゃん。そろそろ出ようよ。なんか恐い。早く出て先生に報告しようよ」
私は自分の膝が震えるのを感じた。ゆるりとこみ上げてくる恐怖を、自分で律することができなかった。
でも可符香は恐怖なんて少しも感じていないように、楽しげに棚に並んでいるものを眺めていた。部屋全体を覆っている悪臭も、ぜんぜん平気そうだった。
「あ、奈美ちゃん、見て見て。これ、かわいい!」
と可符香はホルマリン漬けの瓶を手に取り、声を弾ませた。
「え、可愛いって、可符香ちゃん、これはちょっと……」
私は可符香に瓶を押し付けられてしまって、右手に瓶を持った。
私は瓶の中の物を、なんだろう、と覗き込んだ。瓶には、白く漂白された肉の塊が浮かんでいた。異様に太いイモムシのような形で、筋が張っていて、先のほうが顔を出すように皮がめくれていた。反対側には、切り取られたような切断面があった。
気味が悪かったけど、私はこういう形をどこかで見たなと思って、じっとその物体を見詰めた。
不意に、わかってしまった。ずっと幼い頃、お父さんとお風呂に入ったときを思い出していた。
私は、腹の底から悲鳴を上げてしまった。映画やドラマで、あんなふうに悲鳴を上げる人なんていない、とずっと思っていたけど、私は信じられないような声で叫んでいた。
それから、頭からふっと力が抜けて、体が崩れてしまった。ショックで気を失うってこんな感じなのか、と意識が消える瞬間、思った。

次回 P008 第2章 毛皮のビースト5 を読む

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■2009/07/27 (Mon)
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P006 第2章 毛皮を着たビースト
 


花壇の修繕作業は、昼休みだけでは終らなかった。私たちはもう一度、三人で集った。一応用務員室を覗いたけど、蘭京は戻っていないみたいだった。仕方ないので、私たちで修繕作業の続きを始めた。
掘り返された土を集めて穴を埋め、よく均したうえであちこちに散らばった花を元の場所に植えなおした。でも、花はほとんどが踏まれたり萎れたりして、植えても真直ぐ茎が立つものは少なかった。
それが終って、私たちは水飲み場で手や靴についた土を落とした。私の足元はすっかり汚れてしまっていて、靴の中にも土が入り込んできていた。私は靴を脱いで土を取り除きながら、なんとなくグランドを振り返った。
学校は皆帰った後で、静かに沈黙している。かわりに運動部の声がグランドから聞こえてきたけど、そろそろ静まりかけてようとしていた。夏の日射しもやわらいで、空が淡いオレンジを混じらせる頃になっていた。
「今日はありがとうね、野沢君」
可符香が靴を履いて、靴先をとんとんとしながら野沢に声をかけた。
「いいよ。ねえ、日塔。一緒に帰らない?」
水を手ですくって飲んでいた野沢が、頭をあげて返事を返した。それから、蛇口を閉めながら私を振り向く。
「え、なんでそういう流れになるの?」
私は靴を履きながら、びっくりした声をあげて野沢と可符香を交互に見た。可符香はいつもの暖かな微笑を浮かべている。私は胸のなかで、動悸が早くなるのを感じていた。
「何か用事とかあるの?」
野沢が気を遣うように私の表情を探ろうとした。
「ううん、別にそういうわけじゃ……」
「いいじゃない。奈美ちゃん、私、先に帰ってるね。じゃあね」
可符香は私が言うのを遮って、鞄を手にすると校門に向かって駆け出してしまった。
「あ、待って。一緒に……」
と手を伸ばしたけどもう遅かった。可符香はもうずっと向うで、一度振り返って私たちに手を振った。私は茫然とした気持ちで手を振って返していた。
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
野沢が自分の鞄を手にして、私を振り向いた。
「うん」
私も自分の鞄を手にした。でも恥ずかしくて、野沢の顔を見られなかった。
私と野沢は、並んで歩き始めた。校門をくぐり、学校の前の通りを歩きぬけて、静かな住宅街に入っていく。そこまで来ると、運動部の掛け声もほとんど聞こえない。時々、金属バッドでボールを打つときの、甲高い音が聞こえるだけだった。
そこまで歩いて、私たちは何一つ言葉を交わさなかった。私はうつむいて歩きながら、時々気になるように野沢を見た。野沢は真直ぐ正面を見て歩き、顔に夕日のオレンジを宿していた。私は何か話さなくちゃ、と思ったけど、丁度いい話題は浮かばなかった。
「日塔は最近、どうだった? 二年生になってから」
野沢はちょっと詰まるようにしながら、私に声をかけた。
「うん。まあ、元気にやってるよ」
私は顔を上げて、野沢の横顔を見た。野沢君もきっと緊張しているんだな、と思った。そう思うと、少し気持ちが落ち着く気がした。
「二年に入って、しばらく学校に来てなかったって聞いたけど、どうしてたの。何かあったの?」
野沢は、私を振り向いて、気を遣うように訊ねた。
「ええ? どうして知ってるの?」
私はごまかすように質問で返した。あれは恥ずかしい思い出。追求されたくない。
「人伝にそういう話を聞いたから。俺、電話しようと思ったんだぜ」
「本当に?」
野沢の言葉が少し強くなった気がした。私は思わず足を止めて、野沢の顔を真直ぐに見た。
「電話番号、わからなかったから……」
でも野沢は恥ずかしそうに目を逸らした。
「ああ、そうか……」
私は納得して頷いた。最近は学校側からクラスの電話番号も明かさなくなった。友達同士でも、よほど仲がよくならない限り、電話番号の交換もしない。
私と野沢は再び歩き出した。私は、さっきより野沢を身近に感じた。私の不登校を気にしている人がいると知って、やっぱり嬉しかった。
「お父さん、失業したって聞いたけど、平気?」
歩きながら、野沢は次の話題に移った。
「え? 違うよ。何で?」
私はびっくりして声のトーンを上げた。
「なんか今日、メールで回ってきたから。みんな知ってるよ」
野沢は、怪訝な顔で私を振り返った。
芽留のやつ……。
私は密かに拳を固めた。
やがて目の前に分かれ道が現れた。左に進めば駅だ。私は徒歩での通学だから、正面の道を真直ぐ。
「あ、私こっちだけど……」
私は足を止めて、正面の道を指差した。
「ああ、そうなの。それじゃ」
「うん、じゃあね」
野沢はちょっと足を止めると、私に手を振って、左の道を進み始めた。
私も野沢に手を振って返し、真直ぐの道を歩き始めた。
でも私は、三歩もしないうちに足を止めてしまった。野沢の後ろ姿を振り返る。鞄を後ろ手に持っている背中は、思ったより広くて逞しく見えた。私は野沢の後ろ姿を眺めながら、なんとなく、行ってしまう、という気持ちが自分の中にあるのに気付いて動揺してしまった。
「野沢君!」
私はとっさに声をあげてしまった。
野沢が振り返った。私はその視線を正面から受けて、思わず視線を落として、声を詰まらせてしまった。
「あの、電話番号を、えっと……」
「教えてよ。今度、電話するから」
詰まってしまった私の言葉の続きを察して、野沢が先に進めてくれた。
「うん」
私はなんとなく目の前が晴れた気分になって、笑顔で野沢を振り返った。

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P005 第2章 毛皮を着たビースト


正面玄関まで戻るのは面倒くさいので、ズルして渡り廊下の出入り口から校舎に入った。客用スリッパをはいて、職員室をできるだけ早く歩いて通り過ぎる。用務員室は校舎の一番端の、階段と宿直室に挟まれた場所にあった。
用務員室の前まで行くと、私はまず扉にノックした。
「蘭京さん、入りますよ」
そう呼びかけて、扉の取手に手をかけたまま返事を待つ。
でも、答えは返ってこない。いつもならすぐに返事があるのに。私は、可符香に意見を求めようと振り返った。
蘭京太郎はこの学校に常駐している用務員だった。先生も生徒も、なにかあると蘭京太郎に頼るようにしている。だから、自然と皆から「蘭京さん」と呼ばれて親しまれていた。
しかし、もしかしたら留守かもしれない。私は扉を開けようと取手に力を込めた。
と、いきなり扉が開いた。気配も同時に現れて、私の前に少年が立った。
「おう、日塔か」
現れたのは私よりちょっと背が高いくらいの、坊主頭の少年だった。
「野沢君?」
私はびっくりして野沢を見上げた。
野沢夏樹。高校1年生のときの同級生だ。特に親しかった男子というわけでもなく、印象も薄かったので、こんなところで顔を合わせるとは思っていなかった。
「蘭京さんに用事? 今いないみたいだけど」
野沢は私を促すように一歩身を引いた。
「本当?」
私は野沢を気にしながら、おずおずと用務員室を覗き込んだ。
用務員室は狭い。手前に土間のような作業場があって、奥が4畳くらいの座敷になっていた。そのどちらも一杯にいろんな道具が置かれて雑然とした印象だった。ドライバーやスパナなどの工具に、細かなねじやボルト。空気入れや、タイヤやボールのパンクを修理する道具も置かれている。その風景を見ると、どこかの工務店みたいな場所だった。
小さな空間だから、人影がないのは一目で明らかだった。
「最近、蘭京さん、よく姿を消すんだ。授業時間中はとりあえずいると思ったけど、どうしたんだろうな」
野沢は用務員室の風景を眺めつつ説明した。
私は、ふうんと話を聞く振りをしながら、ちらちらと野沢の顔を見ていた。ちょっとスポーツでもやっていそうな、丈夫そうな体型。わずかに小麦色がかった肌の色。坊主頭で飾りっ気はないけど、顔立ちはきりっと整っている。
今まで意識しなかったけど、こうして間近にすると、私は野沢君から男の子を感じてしまっていた。
「それで、蘭京さんに何か用事だったの。俺にできることない?」
野沢が私を振り返った。
「え、えっと別に。花壇が荒らされていたから、報告とスコップを借りようと……」
急に振り向かれて、私は至近距離で野沢と目を合わせてしまった。私は慌てて後ろに下がって、もしかしたら赤くなっているかもしれない顔をうつむかせた。
「もしかして、日直? 俺もなんだけど、じゃあ、手伝おうか」
野沢は一歩前に進み出て、手に持っていたスコップを見せた。
そういえば、野沢は2のほ組だっけ。ということは、同じ花壇。野沢のクラスも、被害にあっていて、それで私たちと同じようにスコップを借りに来たのだ。
「ううん。別にいいよ。そんなに大変でもないし……」
私は声を上擦らせて、顔と手をブンブン振った。
だけど、
「じゃあ、お願いしようかな」
可符香が私の前に進み出て、野沢にお願いした。

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