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■2015/10/19 (Mon)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
前回を読む
7
やがて夕食の時間になって、みんなが集まった。そこでオークは、派遣された3人のドルイド僧を兵士達に紹介した。すると思いもよらず若く美しい僧侶に、皆の視線と関心が集まった。一時は若きドルイドに兵達が殺到して大騒ぎになってしまった。そんな男達を黙らせるのは料理以外になく、皿が運ばれてくると、一同はそれぞれの席についてもくもくと食事を始めた。ソフィーはそれとなくオークの隣の席に着いて、食事を始める。
ソフィー
「みんな賑やかな人達ですね」
オーク
「信頼できる人達です。みんなよく働いてくれますから」
ソフィー
「事業は順調ですか?」
オーク
「滞りなく進んでいます。王から与えられた任務ですから」
ソフィー
「出世なさったのね。ネフィリムの心配はありませんか」
オーク
「一度襲撃に遭いました」
ソフィーがやって来るまでの間に、1度、ネフィリムが出現した。しかしその数は少なく、そこにいる全員が戦いに慣れた軍人だったため、戦いは速やかに終わった。負傷兵もほんの僅かだった。
ソフィー
「近いうちにお祓いをして結界を貼ります。森から不浄を払えば、ネフィリムも現れなくなるでしょう」
オーク
「できるだけ早く仕事を進めます」
ソフィー
「あまり無理をなさならないでくださいね」
オーク
「平気です。みんなよく働きますから。あなたが来れば、みんなもっと頑張るようになるでしょう」
ソフィー
「それはどういう意味ですの? ――オーク様はこの先、ここをどうなさるおつもりですか」
オーク
「王は砦を望んでいます。しかしそれにはまず人が住めるようにしなければなりません。戦が終われば、ここには人が集まり、街になります」
ソフィー
「素敵な考えをお持ちなのね」
ソフィーは少女のように目を輝かせながら微笑んだ。
次回を読む
目次
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■2015/10/18 (Sun)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
振り返ると、ミレーを照らしていたスポットライトから、エレベーターまでさほど遠くなかった。わずかに十数歩。その程度の距離のやり取りだったのだ。
ツグミとコルリは、その僅か十数歩の距離を歩いた。
出口に近付いたその時、ツグミは何かに気付いた。左手の闇の奥。有象無象の一部に光が当たり、ぼんやりと形を浮かび上がらせていた。
光に浮かび上がっているのは、1枚の絵だった。闇の中に、キャンバスに描かれている何人かが浮かび上っていた。暗くて色はわからなかった。
ツグミはその絵があまりにも信じがたく、思わず立ち止まってしまった。
ヨハネス・フェルメールの『合奏』だった。
まさか、本物?
ツグミは男から離れて、絵に近付こうとした。夢中で、今の立場を忘れてしまっていた。
男が、ツグミの肩を乱暴に掴んだ。
「勝手なことをするな!」
ぐいっと男がツグミを引き寄せる。
あまりにも突然で、強い力だった。ツグミは体を支えられず、その場に倒れてしまった。
「何すんのや!」
コルリが大声を張り上げて、ツグミに飛びついた。
ツグミはコルリに支えられながら、ゆっくり立ち上がった。少し右の足首を捻ったが、歩けないほどではなかった。
ツグミはちらと、闇の奥のフェルメールを振り返った。遠かったし、あの暗さでは真贋の判断は下せなかった。ただ、とにかくあれは、フェルメールの『合奏』で間違いなかった。あれが、もし本物ならば……。
エレベーターは安っぽい「チン」の音とともに開いた。大男に挟まれて、ツグミとコルリは手を握り合って、エレベーターの中に入った。
駐車場まで降りてきて、車に乗ると、再びアイマスクを差し出された。アイマスクを付けると、車がスタートした。
車が動き出すと、ツグミはすーっと体から力が抜けて行く気がした。あまりにも強い緊張から解放されて、睡魔に囚われた。
睡魔に逆らうが、緊張を維持できなかった。もどかしく頬に掌を当てたり、首をよじらしたりした。
すると、コルリがツグミの体に手を回し、支えてくれた。コルリの体があまりにも温かくて、ツグミは睡魔に逆らうのをやめてしまった。
どれくらい経ったのか、コルリがツグミの体を揺すった。アイマスクも外してくれた。アイマスクを外すと、すぐ側にコルリの顔があった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第3章 贋作工房
前回を読む
21
来た時と同じ格好で、大男がツグミとコルリを挟み、出口を目指した。振り返ると、ミレーを照らしていたスポットライトから、エレベーターまでさほど遠くなかった。わずかに十数歩。その程度の距離のやり取りだったのだ。
ツグミとコルリは、その僅か十数歩の距離を歩いた。
出口に近付いたその時、ツグミは何かに気付いた。左手の闇の奥。有象無象の一部に光が当たり、ぼんやりと形を浮かび上がらせていた。
光に浮かび上がっているのは、1枚の絵だった。闇の中に、キャンバスに描かれている何人かが浮かび上っていた。暗くて色はわからなかった。
ツグミはその絵があまりにも信じがたく、思わず立ち止まってしまった。
ヨハネス・フェルメールの『合奏』だった。
まさか、本物?
ツグミは男から離れて、絵に近付こうとした。夢中で、今の立場を忘れてしまっていた。
男が、ツグミの肩を乱暴に掴んだ。
「勝手なことをするな!」
ぐいっと男がツグミを引き寄せる。
あまりにも突然で、強い力だった。ツグミは体を支えられず、その場に倒れてしまった。
「何すんのや!」
コルリが大声を張り上げて、ツグミに飛びついた。
ツグミはコルリに支えられながら、ゆっくり立ち上がった。少し右の足首を捻ったが、歩けないほどではなかった。
ツグミはちらと、闇の奥のフェルメールを振り返った。遠かったし、あの暗さでは真贋の判断は下せなかった。ただ、とにかくあれは、フェルメールの『合奏』で間違いなかった。あれが、もし本物ならば……。
エレベーターは安っぽい「チン」の音とともに開いた。大男に挟まれて、ツグミとコルリは手を握り合って、エレベーターの中に入った。
駐車場まで降りてきて、車に乗ると、再びアイマスクを差し出された。アイマスクを付けると、車がスタートした。
車が動き出すと、ツグミはすーっと体から力が抜けて行く気がした。あまりにも強い緊張から解放されて、睡魔に囚われた。
睡魔に逆らうが、緊張を維持できなかった。もどかしく頬に掌を当てたり、首をよじらしたりした。
すると、コルリがツグミの体に手を回し、支えてくれた。コルリの体があまりにも温かくて、ツグミは睡魔に逆らうのをやめてしまった。
どれくらい経ったのか、コルリがツグミの体を揺すった。アイマスクも外してくれた。アイマスクを外すと、すぐ側にコルリの顔があった。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2015/10/17 (Sat)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
前回を読む
6
森の中は鬱蒼としていて、昼にもかかわらず暗かった。あちこちで藪が繁茂し、ぬかるんだ毒沼が口を開いていた。入る者を拒むようなそこを、オークとソフィーが進んでいった。ソフィーは要所要所で足を止めて、風の流れに耳を澄ませた。地霊の囁きに身を委ねる。
オーク
「どうですか」
ソフィー
「幽霊でも出そうですね。何の声も聞きません。よき隣人はこの辺りには住んでいないようです。この荒れ状態だと、いつ悪いものが棲み着くかわかりません」
ソフィーの顔が暗く影を落としている。
しばらく荒れ地ばかりが続いたかと思うと、その向こうでさわやかに風が抜けるのを感じた。森は急に明るくなり、緑は鮮やかで、木漏れ日が美しく煌めき始めた。
ソフィー
「いい風……。この辺りは残しましょう。森に自浄作用があれば、自然と再生します。森の管理人がいない場所は人が手を加えたほうがいいでしょう」
ソフィーの顔が一転、晴れやかに輝いた。
さらに奥へと進んでいく。するとその周辺だけ木々が後退して光が射し込み、草むらがそよ風に揺れていた。
ソフィーは目を輝かせて光の中へ入っていき、うっとりとした表情で深呼吸した。
ソフィー
「こういう場所を、ドルイドは神聖な場所と呼んでいます。クリアリング。森の中の正円。清き精霊が集まってくる場所です。風が気持ちいい……。大地の霊が生き生きとしているわ。きっとはるか古代から、この森を守ってきたのね」
ソフィーは目を閉じて、光と風に身を委ねる。
オークはその姿に癒やしを感じた。ソフィーの美しさは、清らかな光の中でこそ際立っているように思えた。
ソフィー
「オーク様。新しい名前はどうですか。不都合はありませんか」
オーク
「いいえ。あなたは幸運を与えてくれました。オークの名前には不思議な霊力があるようです。この名前のお陰で王子に救われ、王からも仕事が与えられました。みんなあなたのお陰です」
ソフィー
「そんな、よしてください。私はあなたが本来持っていた名前を呼び起こしただけです。それよりも、突然名前が変わったことに戸惑いはありませんでしたか」
オーク
「不思議ですが、オークの名前は私にぴったり合うような気がしています。まるで生まれた時からの本当の名前のような、それくらいの感覚です」
ソフィー
「良かった。本当は不安でしたの。名前を与える儀式は初めてだったから」
オーク
「あなたが不安に思う必要はまったくありません。何もかもうまくいっています」
ソフィー
「ええ、そうですね」
ソフィーは満足げに頷いた。
オーク
「まだ種明かしをしてくれませんね。あの子供の名前をどうして知ったのか……」
ソフィー
「……ごめんなさい」
オーク
「いいえ。言いにくい話なら聞きません」
ソフィー
「本当にごめんなさい。お話しするという約束でしたのに。老師様から固く口止めされているのです。私には他の人にはない運命を背負っています。ゆえに母から疎まれ、寺院に預けられ、その後何年も身を隠して暮らしていました。幼い頃は、私はいつも1人きりで、自分の運命を呪っていました」
オーク
「ソフィー、もういいです。それ以上言わないでください」
ソフィー
「今でも心の傷は癒えません。気持ちを鎮めようとしてもその当時を思い出してしまいます。駄目ですね、私ってば……」
オーク
「いいえ。あなたは気高い。人に安らぎを与えます。それに――美しい人だ」
ソフィー
「…………」
ソフィーは、オークの言葉に頬を赤くする。
オーク
「今でも不幸だとお考えですか」
ソフィー
「いいえ。今はとても心安らかです」
オーク
「よくぞ来てくれました」
ソフィー
「ええ、久し振りです。オーク様」
オーク
「久し振りです、ソフィー」
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■2015/10/16 (Fri)
創作小説■
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
前回を読む
背中に、コルリと宮川の視線を感じた。1人は暖かく、優しい。もう1人はどこまでも冷たく、重苦しい。
服の下に汗が浮かび上がった。額に浮かんだ汗が頬を通り抜け、顎から落ちて行く。絵を見ているうちに、ツグミは頭の中がくらくらするのを感じた。
ふとツグミは、1度目を閉じた。深く呼吸を吐き捨てる。
目を開き、2枚の絵を見た。
突然に、結論が出た。わかったと思った。
ツグミは振り返って、よろよろとコルリの側に近づき、その耳元に口を寄せた。
「……いいんやな」
コルリが念を押した。コルリも顔に大量の汗を浮かべていたけど、目が信頼していた。
ツグミは頷いた。コルリが入れ替わるように絵の前に進んだ。
ツグミは絵に背を向けて、宮川と向き合った。
後ろで、コルリがざっざっとナイフで麻布を切り裂く音が聞こえた。
ツグミはちらと振り返った。
2枚の絵、両方ともナイフで切り裂かれていた。
『両方とも贋物』
これが答えだった。
宮川はにやりと口元を歪めて、1度頷いた。
コルリがナイフを、絵の残骸の中に放り捨てて、宮川の前に進み出た。
「さあ、これで終わりなんやろ。ミレーの本物はどこや」
コルリの顔に恐怖はなかった。勝利の達成が浮かび、挑発的に宮川を睨み付けていた。
宮川は愉快そうだった。悔しさなど一片も浮かんでいなかった。
「見事だ。さすがは、妻鳥太一の娘だ。8年間待った甲斐があった」
今、何か口を滑らせた。ツグミは思わずドキッとして、1歩前に進み出た。
「お父さんのこと、知っとるん?」
思わず杖で自分を支えるのを忘れてしまった。コルリが慌ててツグミを支える。
宮川は取り繕うともしない。暗闇に浮かぶ悪魔の目に、さらなる輝きを湛えていた。
「君達はいずれ全てを知る事になるだろう。その時、もう1度、君の能力を借りよう。さあ、子供は寝る時間だ。帰りたまえ」
宮川の台詞に合わせて、闇から大男がツグミとコルリの前に現れた。すぐに、トヨタ・クラウンの運転手だと気付いた。
2人の巨人に取り囲まれて、ツグミは恐怖を思い出してコルリの体にすがりついた。ここでは何もかも宮川のルールに従わねばならない。反抗などできるはずがなかった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
第3章 贋作工房
前回を読む
20
長い長い沈黙があった。ツグミはただじっと絵を見詰めた。疲れていたけど、持っている知識すべてを動員して、真贋の判定を下そうとした。だけどそれがことごとく無駄に終わって、次第に頭から思考が遠ざかってしまった。背中に、コルリと宮川の視線を感じた。1人は暖かく、優しい。もう1人はどこまでも冷たく、重苦しい。
服の下に汗が浮かび上がった。額に浮かんだ汗が頬を通り抜け、顎から落ちて行く。絵を見ているうちに、ツグミは頭の中がくらくらするのを感じた。
ふとツグミは、1度目を閉じた。深く呼吸を吐き捨てる。
目を開き、2枚の絵を見た。
突然に、結論が出た。わかったと思った。
ツグミは振り返って、よろよろとコルリの側に近づき、その耳元に口を寄せた。
「……いいんやな」
コルリが念を押した。コルリも顔に大量の汗を浮かべていたけど、目が信頼していた。
ツグミは頷いた。コルリが入れ替わるように絵の前に進んだ。
ツグミは絵に背を向けて、宮川と向き合った。
後ろで、コルリがざっざっとナイフで麻布を切り裂く音が聞こえた。
ツグミはちらと振り返った。
2枚の絵、両方ともナイフで切り裂かれていた。
『両方とも贋物』
これが答えだった。
宮川はにやりと口元を歪めて、1度頷いた。
コルリがナイフを、絵の残骸の中に放り捨てて、宮川の前に進み出た。
「さあ、これで終わりなんやろ。ミレーの本物はどこや」
コルリの顔に恐怖はなかった。勝利の達成が浮かび、挑発的に宮川を睨み付けていた。
宮川は愉快そうだった。悔しさなど一片も浮かんでいなかった。
「見事だ。さすがは、妻鳥太一の娘だ。8年間待った甲斐があった」
今、何か口を滑らせた。ツグミは思わずドキッとして、1歩前に進み出た。
「お父さんのこと、知っとるん?」
思わず杖で自分を支えるのを忘れてしまった。コルリが慌ててツグミを支える。
宮川は取り繕うともしない。暗闇に浮かぶ悪魔の目に、さらなる輝きを湛えていた。
「君達はいずれ全てを知る事になるだろう。その時、もう1度、君の能力を借りよう。さあ、子供は寝る時間だ。帰りたまえ」
宮川の台詞に合わせて、闇から大男がツグミとコルリの前に現れた。すぐに、トヨタ・クラウンの運転手だと気付いた。
2人の巨人に取り囲まれて、ツグミは恐怖を思い出してコルリの体にすがりついた。ここでは何もかも宮川のルールに従わねばならない。反抗などできるはずがなかった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2015/10/15 (Thu)
創作小説■
第5章 蛮族の軍団
前回を読む
5
長城の再建計画より先に、兵士たちが住まう住居の見直しから始まった。兵士が増えたというのもあるが、現状ではそのままで工事を進めるのは困難に思えたからだ。まず泥を掻き出して土を均し、その上に住居を建設した。住居の建設が終わるまで、兵士たちはテントで暮らした。
周囲の森も必要以上に繁茂していて、伐採が必要だったが、それには僧侶のお祓いが必要なので、その訪問を待った。
兵士たちは過酷な労働条件だったが、休みなしで働き詰め、1週間後には土地の再整備は終わり、住居の建設が始まろうとしていた。
いまだ敵の動向に関する知らせはなく、再建は日々順調だった。そんな時に、ようやく僧侶がやってきた。
しかしあまりにも思いがけない人物の訪問に、オークの驚きは大きかった。
ソフィー
「お久しぶりです、オーク様」
現れたのはソフィーだった。ソフィーは自分よりはるかに年上のドルイドを配下に従え、久し振りの再会に目をキラキラと輝かせていた。
ソフィーとの再会はオーク自身喜ぶべきだったが、それ以上に戸惑いがあった。
オーク
「久し振りです。しかしいったいどういうわけですか? まさかあなたが来るとは聞いていませんでしたが……」
ソフィー
「それは変ですね。ドルイドを派遣するという知らせは届いていたはずですが」
オーク
「それは間違いなく聞いていましたが……」
ソフィー
「あら、ひょっとしてご不満でしたか? 私にはこの任務は務まらないと?」
オーク
「いいえ。あなたの神通力がいかに強力かは知っております。しかし……」
ソフィー
「若すぎる、と」
オークに限らず、誰もがドルイドと聞けば年老いた老人を思い浮かべる。それはただの先入観の話ではなく、あらゆる伝奇や祝詞を口伝のみによって継承するために、その全てを習得し、一人前になる頃には大抵髪は白くなり、腰が曲がる頃であるからだ。
しかしソフィーは明らかに若過ぎだった。まだまだあどけなさの残る少女だ。しかもソフィーは、自分の祖父というくらいのドルイドを配下として従えているのである。何かの冗談としか思えなかった。
オーク
「いや、それは……」
ドルイド僧
「ご安心くだされ。この者は我らの教えが始まって以来の才人。過去の偉大な老師たちの中ですら例を見ない稀なる者でございます。老師たちの語った言葉は一度聞けばたちどころにすべて覚えてしまい、多くの弟子達が苦労して理解する呪文や学問や歴史の全ても何の苦労もなく覚え、なおかついつでも自由に引き出す能力も持っています。それにソフィー様は幼少の頃より物の名前を呼び誤ったことがなく……」
ソフィー
「じい。それくらいで。恥ずかしいですわ」
ドルイド僧
「これは失礼しました。とにかくも、ソフィー様は確かにまだ若い年頃ですが、もうすでにあのパンテオンにおいて学ぶべきものがないのです。だから我々としては、狭い寺院に押し込めておくより、外へ出してより広く見聞を求め、ドルイドに新しい道を切り拓いてほしい……。そういう思いで、このたびソフィー様を派遣することに決めたのです」
オーク
「そうでしたか。知らぬとはいえ、見た目で判断してしまいました。申し訳ありません」
ソフィー
「いいえ」
ドルイド僧
「しかしソフィー様。これからは責任ある行動を心がけてください。我々の保護から離れたとはいえ、自由の身ではありませんぞ。あなたは行く先々で寺院を代表すべき人間としての責任がかかっておるのです」
ソフィー
「わかっております。同じ言葉を27回も繰り返さなくてもきちんと心得ています。私は才女なのですよ」
ドルイド僧
「やれやれ」
オーク
「それよりも皆様、長旅で疲れたでしょう。今日はゆっくり休んでください。食事の準備をさせます」
ソフィー
「ありがとうございます。でもその前に、少し森を見せてください。案内してくださる? オーク様」
とソフィーはオークの掌を握った。老僧たちが呆れるのを尻目に、ソフィーはオークを引き連れて森の中へと入っていく。
ドルイド僧
「戻ったら説教が必要じゃな」
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