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■2015/11/13 (Fri)
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

第4章 美術市場の闇

前回を読む

12
 電車が兵庫駅に到着すると、『雨合羽の少女』はツグミに引き渡され、1人きりでプラットホームに下りた。
「ごめんな、ツグミ。何かお土産買ってくるから」
 コルリはそのまま電車に残り、すまなさそうな笑顔で手を振った。
 ツグミは寂しい気持ちで、プラットホームを後にした。
 兵庫駅北口から外に出ると、1度立ち止まり、街の様子を見回した。風が爪を立てるように冷たくなっていて、アスファルトに点々と水滴を散らしていた。
 雨が降り始めたのだろうか。ツグミは紙袋を胸に抱えて、駅前の屋根からちょっと身を乗り出し、空を見上げた。顔に、ぽたぽたと水滴が落ちてきた。
 どうしよう。ツグミは頭の中であれこれシミュレーションを始めた。手前の横断歩道を頑張って走りぬけ、向い側のアーケードに飛び込んで……。いや、今は大切な絵画を抱えている。タクシー……いやいや、そんなお金はない。待っていればすぐに止むかも……。
 ぐずぐずしている間に、気のせいなのか風の勢いが強くなっていくように思えた。
「あらぁ、ツグミちゃんじゃない?」
 おっとりと間延びする声が、ツグミに掛けられた。
 振り返ると、長い髪にウェーブを掛けた女性が、ツグミを覗き込むようにしていた。
「かな恵さん」
 ツグミは顔を明るくして、女性の名前を呼んだ。
 掛橋かな恵。
 神戸近代美術館に勤める絵画修復師で、ヒナとは同じ職場の友人だった。ツグミとかな恵との関係は、ヒナを通して紹介され、以来ときどき会って、美術について語り合う友人だった。
 ツグミはかな恵と一緒に、駅前の喫茶店に入った。テーブルの数も少ない狭い喫茶店で、黒に近い色のフローリングと柱に、白壁が際立って映えていた。白壁にはぽつぽつと絵画が飾られ、当たり障りのないボサノバがゆったりと喫茶店を満たしていた。客の数も少なく、落ち着いた雰囲気だった。
 何となく趣味のいい喫茶店で、語り合うにはぴったりの場所だった。ただ、飾っている絵画がシルクスクリーンなのは残念だったけど。
 ツグミは円テーブルにかな恵と向き合って座った。持っていた荷物は、空いている席に置いた。
「かな恵さん、スケッチに行ってたんですか?」
 かな恵の持ち物は、小さな革のバッグに、スケッチブックだけだった。
 かな恵の格好は、茶色の地味なダッフルコートに、くるぶしまで隠れる白のスカートだった。ヒナのように表舞台に立つ仕事じゃないせいか、かな恵はあまり見た目に気を遣うタイプじゃなかった。顔のメイクはいつも薄くあっさりしていたし、ゆるやかに波打った髪は、パーマを当てているのではなく、単なる癖っ毛だった。
 顔が丸く下膨れの感じで、目がぱっちりと大きく、瞳はいつもキラキラと輝いている印象だった。オシャレとかメイクとかに無縁の地味な女性だったけど、どこか可愛いと思える女性だった。
「うん。実は絵のコンクールがあるんやぁ。私も応募しようと思って、いろいろ回って描いてきたんやぁ。修復だけじゃなくて、やっぱり絵描きもやりたいから。ツグミちゃん見てくれるぅ?」
 かな恵はツグミにスケッチブックを差し出した。
 ツグミはスケッチブック受け取り、開く。かな恵が今日スケッチしたページを指示した。
 明石海峡大橋の絵だった。線の数は少なく、やわらかく紙をなでるようなタッチだったけど、橋の形が的確に捉えられていた。さらりと描かれた濃淡が、浮かび上がってくるような実在感を表現していた。
 スケッチブックに大きく橋が描かれたり、パーツごとに分けて細かいディティールが記録するように描かれたり、何ページもスケッチが続いていた。絵画を作るためのコンテもいくつか描かれていた。まだ模索の最中らしく、いくつも構図が描かれていた。
 手数の少なさが、絵描きの確かなデッサン力を示していた。枚数が多く、手の速度も想像できた。無機物を描いているのに関わらず、どの絵もぬくもりを持った柔らかさがあった。ツグミはスケッチを見ているうちに、自然と心地よい気持ちになって微笑を浮かべていた。
「すごくいいです。私、かな恵さんの絵、好きです。コンクール頑張って下さい」
 ツグミは楽しげな気分のままスケッチブックを閉じて、かな恵に返した。
「ありがとう。ツグミちゃんに誉められるのが、一番嬉しいわぁ。ツグミちゃん、批評家よりもいい目持っとおからなぁ」
 かな恵も微笑を浮かべて、スケッチブックを受け取った。おっとりとした優しい微笑みだった。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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■2015/11/12 (Thu)
第6章 キール・ブリシュトの悪魔

前回を読む
 城の地下牢。
 小さな窓から、ささやかな月明かりが落ちていた。暗がりは陰気な囁き声に満たされている。囚人達が小さな檻の中で、死の宣告を待っていた。松明を持った見張りが、厳重に囚人達を見張っている。
 そんな檻の1つに、赤毛のクワンが閉じ込められていた。かつてステラが治める秘密の里を襲った山賊の1人だ。赤毛のクワンはそこである秘密を得て脱出しようとしたが、セシル王子に捕らえられ、それきり囚人の日々を過ごしていた。不衛生な檻の中で粗末な食事ばかり与えられ、何度も拷問まがいの尋問を受け、クワンもそろそろ間近に来ようとしている死を覚悟していた。
 夜は静寂と不安が同時に与えられる。クワンは、浅い眠りの中に、かすかな安らぎを求めていた。
 そんな時、遠くで悲鳴が漏れた。赤毛のクワンは、はっと目を覚ます。ひっそりと押し殺した声だが、赤毛のクワンを目覚めさせるには充分だった。
 カツカツカツ……。
 潜めているが、閉じられた静寂の中では靴音はくっきりと浮かび上がった。
 誰かが来た。赤毛のクワンは察した。事情は知らないが、この地下牢に忍び込んだ者がいるのだ。
 赤毛のクワンは身体を起こし、いつでも飛び出せる態勢に入って、何者かを待ち受けた。靴音は、迷いなくこちらに向かってくる。
 やがて、月明かりが靴音の主を浮かび上がらせた。ウァシオとその使いの者だった。
 使いの者は靴音と気配を完全に消していて、月明かりに姿をさらすまで存在に気付かなかった。使いの男が赤毛のクワンを閉じ込めている檻の前に進み、鍵を開ける。
 檻の扉が開く。赤毛のクワンははじめは警戒して、解放された檻の扉と、ウァシオを見ていたが、やがておそるおそると檻の中に出た。
 突然、ウァシオが赤毛のクワンを掴んだ。首を掴み、壁に押しつける。赤毛のクワンはやや小柄な体型であるが、それなりに体重はある。だがウァシオの豪腕は、赤毛のクワンを片手で軽々と持ち上げていた。

ウァシオ
「誰にも云わなかっただろうな」
赤毛のクワン
「誰にも。ウァシオ様のことは決して」
ウァシオ
「それもだが、秘密の里で見付けた宝のこともだ」
赤毛のクワン
「もちろん。何も言っていません」

 ウァシオが赤毛のクワンを解放した。赤毛のクワンが地面に崩れ落ちて、しばらく痛みに呻いていた。

ウァシオ
「早く行け。誰にも見付かるな。秘密はあの人に直接知らせるんだ。いいな!」
赤毛のクワン
「はい。我らの民のために」

 赤毛のクワンが地下牢を脱出した。
 ウァシオは赤毛のクワンの脱出を見届けた。それから、自身も地下牢を出た。赤毛のクワンの姿はない。見張りの兵士は自身が始末したからもういなかった。一緒に地下牢に入った使いの者は、いつの間にか姿を消している。
 ウァシオは城の廊下を歩いた。夜の城は静寂に満たされている。月明かりがひっそりと廊下を浮かび上がらせる。見張りの兵士が歩く音が、静寂に密かに混じるだけだった。
 ウァシオは城の中を早歩きで進み、ある部屋に入った。貴族の1人であるラスリンの部屋だ。
 ウァシオの入室に、ラスリンが狼狽した様子を見せた。ウァシオは構わずラスリンに迫る。

ウァシオ
「なぜ王の決起に応じた」
ラスリン
「……うっ……うっ」

 しかしラスリンは怯えて声が出せない感じだった。

ウァシオ
「お前達が手を出さねば、あの数でも城を潰せたはずだ!」
ラスリン
「仕方なかった。王に逆らうと命がない。恐い……」
ウァシオ
「何が命だ! この戦いで死ぬべき男だぞ。貴様のお陰で何もかも台無しだ! そんなに死の恐怖に耐えられないのなら、俺が恐怖を与えてやる」

 ウァシオはラスリンの口に布を突っ込むと、机の上に掌を広げさせる。ラスリンは恐怖で抗った。頬に涙が落ちる。ウァシオは力任せにラスリンを押さえつけると、掌にナイフを突き立てた。
 ラスリンが悲鳴を漏らすが、その声が口に押し込まれた布に吸い込まれる。

ウァシオ
「金が欲しいならいくらでもくれてやる。だがこれからは恐怖もくれてやる。今後2度と王族の命令に従うな。政治を引っかき回せ。いいな!」
ラスリン
「…………」

 ウァシオがナイフをぐりぐりと抉る。ナイフの刃はそのまま、掌を中指と薬指のところで真っ二つに避けてしまった。

ラスリン
「……私だって、宰相になるべくして生まれた人間だぞ……」
ウァシオ
「無能のくせに生意気云うな! いいか、俺には絶対に逆らうな。この国にしがみついているのは業病の亡者だけだ。国に必要なのは力のある王だ。俺のような王だ。いいな」
ラスリン
「…………」

 ウァシオがラスリンの部屋を去って行った。

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■2015/11/11 (Wed)
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第4章 美術市場の闇

前回を読む

11
 話が終わり、空気がすっと入れ替わる気がした。どこかで見ていたかのように、頼子が入ってきて、コーヒーのお代わりを淹れた。
 アロマの香りを嗅いで、ツグミはほっと気持が落ち着くような気がした。
 ふと窓の外を見ると、急に暗くなって、風が窓を叩き始めていた。雲行きが悪そうだ。雨が降るかもしれない。
「あ、そうだ。叔父さん、この人、知らないですか?『川村修治』さんっていう人で、昔、叔父さんと会ったことがあるみたいなんです」
 ツグミはポケットから定期ケースに入れた写真を引っ張り出した。この頃、肌身離さず持ち歩いていた肖像写真だった。
 そう切り出しながら、ツグミは見せる瞬間、ちょっと恥ずかしかった。
 光太は写真を受け取り、神妙な顔をして覗き込んだ。
「これ、昔の人?」
 冗談で言った感じではなかった。
「ああ、そうじゃなくて、Photoshopで加工したの。余計なの、色々写ってたから」
 コルリが慌てて解説を加えた。
 光太はやっと納得したように頷き、しかし、首を捻った。
「知らんなぁ。川村さんの知り合いは何人かおるけど、修治っていう男は知らんわ」
 光太は考えるようにしながら、写真をツグミに返した。
 ツグミとコルリは顔を見合わせた。ますます川村にまとわりつく謎が深まる気がした。
 昼に入る前に、ツグミとコルリは暇を告げた。『雨合羽の少女』は箱に納められ、さらに紙袋に入れられてコルリが持った。
「もう帰るん? 泊まっていってもいいんやで」
 光太は残念そうに2人を引き止めようとした。アニメの仕事で子供を作る機会を逃した経緯もあり、光太はツグミたちに特別な愛着を抱いているらしかった。
「帰って仕事もありますし、それに、今夜ヒナお姉ちゃん帰って来ますから。いろいろ用事があるんです」
 ツグミは適当な言い訳を並べる。本当は、暗い話を聞いた後だったから、重い空気から逃げたかっただけだった。
 ツグミとコルリは「ありがとうございました」とお礼を言って、光太の家を後にした。
 その後は、会話もなく駅までの道を歩いた。ツグミの頭の中に、暗い思いがぐるぐると駆け巡っていた。父との思い出が、汚されてしまったような、そんな気持だった。
 コルリも珍しく、暗い顔をしてうつむいて歩いていた。きっと、コルリも色々考えているのだろう。ツグミはコルリの気持ちを察して、何も声を掛けなかった。
 西明石の駅に辿り着き、プラットホームで電車を待っていると、コルリのポケットが軽やかな音楽を奏でた。携帯電話だ。
「ちょっとごめんな」
 コルリはツグミに断って、携帯電話を手にした。
 コルリが背を向けて、知らない誰かと会話を始める。ツグミは、話を聞いちゃいけないと思って、コルリと距離を置いたけど、そうしているとひどく疎外された気分になってしまった。携帯電話の会話が楽しそうに聞こえると、余計突き放されたような寂しさを感じた。
 しばらくして、コルリは会話を終えて携帯電話を切った。
「ごめん、ツグミ。私、用事ができて大阪に行くことになったわ。1人で帰れるやろ」
 コルリは携帯電話をポケットにしまいつつ、ツグミに告げた。
「そんな、ルリお姉ちゃん……」
 ツグミはいよいよ本当に寂しくなって、泣き出すような声で非難した。
「ごめん、ごめん。大事な用事なんや。兵庫駅までは一緒やから。な」
 コルリはツグミを宥めるようにしつつ、微笑んだ。

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■2015/11/10 (Tue)
第6章 キール・ブリシュトの悪魔

前回を読む
 王の書斎にバン・シーが入っていった。


「これはバン・シー。そなたは間のいい時には決して来んな」

 王は椅子の上でぐったり息を喘がせていた。
 先の合戦の時、王は戦いが終わるまで、大門の前でその威厳を崩すことなく立っていた。直接戦いに加わらなかったものの、衰弱した身体はそれだけで限界であった。

バン・シー
「悪い事件は続くもの。良き知らせは続かないものだ」

「そなたが言うと、何でも凶報に聞こえるわ。――それで、今日はどんな災難を伝えに来た」
バン・シー
「悪魔が1体目覚めた」

「……なんと」

 王の衰弱した身体が、驚きに歪んだ。
 その時、セシルがオークを従えて、王の書斎に入ってきた。

セシル
「失礼する。バン・シーよ。そなたの言うとおり来てやったぞ。云え。どんな災いだ」

「息子よ、口を慎め。今は人同士の争いは中断すべき時。悪魔が目を覚ましおった」
セシル
「――悪魔? 父上、なんの話です」

「その通りの者だ。子供の頃に話して聞かせた、悪魔退治の話は覚えておるか。――あれは事実だ」
セシル
「……まさか」

 王ほどではないが、セシルの顔に戸惑いが浮かんだ。

バン・シー
「オークよ。南西の山岳地帯にキール・ブリシュトと呼ばれる遺跡があるのは知っているか」
オーク
「はい。そのような昔話は聞いたことがあります。この世ならざる恐るべき魔物が住まう場所……と」
バン・シー
「それはお伽話ではない。本当に存在して、悪魔が住んでおる」
オーク
「……それは……」

「私から説明しよう。――キール・ブリシュト。古い遺跡で、本当の名前は誰にもわからん。キール・ブリシュトというのは後の人が付けた名前だ。千年前、クロースの者達によって造られた城だ。今から千年前、クロースはローマ皇帝コンスタンティヌスによる認可を受けて、絶大な権力を得たが、それ以前からクロースは中東だけではなく、この近くにも拠点を置いていた。そのある時、クロースは総力を挙げてかの地に1つの宮殿を築いた。それこそキール・ブリシュトだ。そしてクロースはそこに住まう悪魔を、自らの手で作り上げた」
セシル
「何のために。なぜ自らの天敵を作り出す必要がある」
バン・シー
「必要だったからだ。クロースの信仰には明確な神が存在しない。ただし悪魔はいる。しかしそれも連中の頭の中だけの話だった。だから、自分たちの思想が正しいと証明するために、悪魔を作り出そうと考えた。これも奴らの布教の手段だったわけだ。――南方の邪教徒たちは日々怪しげな実験を繰り返し、多くの失敗と死者を重ねた末に、『悪魔』を生み出す試みに成功した。しかし自ら作り出した悪魔はあまりにも凶暴で、力が強すぎた。連中は悪魔を放置してそのままこの土地から逃亡。当時のドルイド達が総力を尽くして、悪魔を石に封じた。……キール・ブリシュトはあまりにも巨大で、その後ネフィリムたちが城を守るように棲み着いたために破壊できず、今に至っている」

「連中は偶像を嫌う。だから神ではなく、悪魔を作り出したのだ。厄介な話だ。自分の不始末を他人に押しつけて処理させる。しかも封印は不完全ときている。わしの時代にも一度悪魔は目を覚ました。その時の恐ろしさは、今も忘れんよ」
バン・シー
「おまけに南の邪教徒は、悪魔の出自とドルイドの信仰を勝手に結びつけた。サバトと称して夜な夜な悪魔達と交わっていると……。大陸ではそのように信じられている」
セシル
「父上は戦ったのですか、悪魔と?」

「あれほど強力な怪物はいない。望むなら、二度と対峙したくない相手だった」
バン・シー
「奴らを完全に封じ込めるには倒す以外にない。さもなくば、何度でも甦るだけだ。王よ、例によって兵をお貸し願いたい」

「わしの息子を連れて行くのか」
バン・シー
「そなたたち一族の義務であろう」
セシル
「父上、何の話です。なぜこれが我らの義務なのです」

「息子よ、忘れたのか。聖剣の真の力を。あの力を引き出せるのは我らだけ。そして悪魔を倒せるのは聖剣だけだ」
セシル
「……それは、子供の頃から何度も聞かされています」
バン・シー
「決まったな。セシルにオーク。私は客室で待たせてもらう。明日までに旅の仲間を15人選び抜け。――それから、戦いの疲れは充分に癒やせ」

 バン・シーは誰の返事も聞かず、部屋を後にした。

セシル
「……勝手な奴だ」

「口を慎め。あの者はこの国を守っておるのだ。わしの生まれるずっと以前からな」
セシル
「だから信頼できぬのです。あの者がいつこの国を裏切り、私欲のために滅ぼすのか。私は気が気ではありません」

「かも知れんな。本当の目的は私にもわからん。しかしこういう時に、頼りになる者だ。これは命令だ。あの者に従え」
セシル
「……わかりました」

 セシルとオークは王に一礼すると、書斎を出て行った。

※ キール・ブリシュト 「壊れた教会」という意味。
※ この物語はファンタジーです。一部に現実世界に存在する名称が使われていますが、一切関係ありません。

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■2015/11/09 (Mon)
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第4章 美術市場の闇

前回を読む

10
「何で日本に盗難美術がそんなに入ってくるん? 日本ってそんなに治安悪くないでしょう?」
 コルリが疑問を呈した。それに、光太が答えた。
「第一に、世界の盗難のニュースなんて、日本では普通やらへん。日本人は盗まれた事実を知らないから、やりやすいんや。第二に税関の美術品のチェックの甘さ。欧米では必ず常駐の鑑定士がいて、それらしきものが見付かると、必ず封が解かれ、リストのチェックを受ける。日本には、そのシステムが存在せえへんのや」
 まだある。日本の民法が『持ち主』より『買い手』を保護していることにある。
 民法192条から194条の記述がそれに当たる。大雑把に要約すると、次のようになる。
 当該美術品が盗難品だと知らずに購入した場合は、ただちに購入者に所有権が認められる。盗難品であると発覚した場合も、紛失から2年以上が経過していると、被害者は返還を請求できない。
 これがフランスであると、同じ法律でも、被害者への保障が30年となる。イタリアでは10年だ。この差は非常に大きい。
「お父さん、本当に、そんな仕事、してたんですか?」
 ツグミは信じたくなかった。指先も、掌のカップも冷たくなっていた。
 光太は否定せず、頷いた。
 ツグミは目線を落とした。ショックだった。確かに父がいた頃、回りはみんな大変だったのに、生活には困らなかった。よく旅行にも食事にも連れて行ってもらった。
 優しかった影に、そんな後ろ暗い面があるなんて、想像できなかった。楽しかった子供時代の思い出が、一気にひっくり返される気分だった。
「でも、それって儲かるんですか? 依頼主の社長さんから、お金貰っとんですか?」
 コルリは疑問に対して、積極的だった。
「いいや。基本的に社長さんは最後に手を出すだけや。そんなところでお金使ったら、税務署あたりに目ぇ付けられる。交換会に出すだけでいいんや。それだけで結構な儲けになる」
 転売の差額が儲けになる、というわけだった。だから転売に協力した全ての画商が儲かる仕組みになっていた。
「それじゃ、お父さんがどんな絵に手を付けていたか、知らないんですか」
 ツグミは顔を上げて、次なる疑問を投げかけた。
「それは全然わからへん。俺もアニメの仕事で忙しかったから、太一の仕事は知っていたけど、具体的にどんな絵を扱ってたかまでは知らんわ」
 光太は手と首を左右に振った。
 話は終わりだった。光太はちょっと気分を改めるように、明るい顔をした。
「これで話は終わりや。ごめんな。本当の話でも、知りたい話じゃなかったやろ」
 ツグミとコルリは、揃って首を振った。
「そんなことないです。その、ありがとうございました。私ら、何も知らなかったから」
 コルリの声に、らしからぬ暗い影が浮かんでいた。コルリも相当にショックなのだ。

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