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■2015/12/08 (Tue)
第7章 王国炎上

前回を読む
 バン・シーは城を出ると、城下町へと降り、ある屋敷に入っていった。大きな建物で、作りは堅牢、兵士の厳重なる警備で守られていた。中に入ると、避難してきた人達で一杯にひしめいていた。
 王城は砦ではなく、多くの一般人を要する1つの街である。こうした戦いの折りには、人々の住居は接収され、住民達はこのような場所に集まることになっていた。
 人々が憂鬱にうなだれ、戦の嵐が過ぎるのを、ただ待っていた。
 バン・シーはその中へ入っていき、人々の様子を一瞥しながら、少し距離を置きつつ、やはり同じようにうなだれた。悪魔との戦いを含めた、強引な征旅の疲れもあったが、それ以上に途方に暮れていた。
 ――望むものは揃いつつある。しかし……。
 今頃は大門の前で、魔界の眷属との戦いが始まっている頃だ。激しい戦いになっているだろう。その戦いはこれから底なしに激しくなっていくだろう。
 そんな時、ふと歌声が聞こえた。
 こんな暗いところで暗い時に場違いに思えたが、歌声はあまりにも美しく、清らかで暖かいものが込められていた。憂鬱に沈んでいた人々の顔から翳りが消えて、明るい表情が広がり始めた。バン・シー自身も、歌声を聞いていると、腹の底から重苦しいものから解放されるのを感じた。それ以上に魔術師の勘というべき何かに導かれ、歌声の主を探して歩いた。
 そこにいたのは、ソフィーであった。
 ソフィーの周囲には、人だかりの山が築かれ、人々はうっとりとソフィーの歌声に耳を傾けていた。歌声は優しさに満ちて、詩は心地よい情緒を歌い、聞いているだけで心を晴れやかにするようだった。
 それだけではなかった。バン・シーは驚いて自身の身体を見た。先の戦いで負った無数の傷が、塞がれて傷跡すら残さず消えていくのだ。バン・シーは歌声の魔力に感嘆の息を漏らした。
 やがて歌が終わった。人々からやんやの大拍手が沸き上がる。ソフィーはぺこりと頭を下げると、そこから立ち去ろうとした。バン・シーはソフィーを追いかけて、その手を掴んだ。

ソフィー
「バン・シー様」
バン・シー
「素晴らしい歌声であった。あのような歌声を持つ者に巡り会えたのは数百年ぶりだ」
ソフィー
「ありがとうございます。人々の心の慰めになれば、幸いです」
バン・シー
「そうだな」

 バン・シーに笑顔が浮かんでいた。

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■2015/12/07 (Mon)
第5章 Art Crime

前回を読む

 ツグミは岡田の話を聞きながら、何か引っかかるものを感じた。うつむいて、自分の記憶の中を探る。
 つい最近、どこかで『合奏』を見なかっただろうか。
 闇の奥。有象無象に紛れるように――。そうだ、あれは……。
「なあ、嬢ちゃん。悪いけど、もう1回、絵をしっかり見てくれへんか」
 唐突に、岡田が立ち上がって声を掛けた。
「な、何ですか」
 いきなり近寄られて、ツグミは仰け反りながら左手で体をガードした。右手の杖もしっかり握り、油断なく反撃の準備をする。
「あの時の盗難品が回り回ってウチにやって来た、ってことないか? こんだけのコピー、そう簡単に作れるもんちゃうで。もう1回、これが本物か贋物か、よお見てくれ」
 岡田は仏に拝むように手を摺り合わせた。
 拝んだくらいで鑑定結果が覆るはずもない。プロが大きすぎるお宝に目がくらんで、鑑定を見誤ることを「クサむ」と言われている。今の岡田が、まさにその状態だ。
 でも、ツグミももうちょっと深入りしたい気持ちになっていた。
「溶剤と、それから、硫黄粉、持ってきてくれますか」
 少し考えて、必要な道具を注文した。
「よし来た!」
 岡田が手を叩いて嬉しそうな声を上げた。
 さっそく岡田は、積み上げた画板を乱暴に掴んで掻き分けて、発掘を始めた。まもなくガラクタの向うに、大きな棚が1つ現れた。
 観音開きの棚で、開けてみると、様々な絵具や薬ビンが一杯に収められていた。
 岡田は以前、まともな画商で、パトロンもやっていた。その時に蒐集した画材が、今でもこうして残されているのだ。
 もっとも、何年も手入れしていないから、ひどいカビの臭いを放っていた。
 昔の画商はパトロンを兼ねるものだった。日展や院展といった権威に頼らず、自力で画家を発見し、育てていく。画商はすでにあるものの値段を審査するだけでなく、目利きの力で埋れた絵画や新人を発掘するのも、1つの仕事であった。いや、仕事以上に使命だった。
 しかし、今は誰もそんな仕事しなくなった。育てるのは手間が掛かるし、儲けも少ない。有名画家を育てるなんていうのは、基本的に夢でしかないのだ。目利きの力を持った人も、少なくなってしまった。
 それに、才能のある人はみんな、企業デザイナーや漫画家になってしまう。作家としての精神とか、自身が信ずる創作に打ち込む、なんて考え方は古いものになり、「就職すること」のほうが重要視されるようになった。
 どこかの企業に属して、要求されるものだけを作ったり、すでに用意されている表現様式から逸脱しないように作品を描いたりする。社会というものの強制力が強くなりすぎたせいなのか、迎合的な行儀のよさばかりが芸術に求められるようになってしまった。“表現の革命者”としての芸術家は、今や絶滅種だ。
 岡田は棚の中のものを引っ掻き回し、まず溶剤とコットン、ヘラを持ってきて、作業机の上に置いた。作業机は角材とベニヤ板を組み合わせた簡単なもので、天板は真直ぐではなく、ゆるやかに波打っていた。
 ツグミはコットンを手にして、顔を引き攣らせた。カビが生えていた。人として許せないような気がしてしまった。
 今はわがままを言っている場合ではない。ツグミはコットンに溶剤を染み込ませる。絵の側に進み、身を屈めて、慎重にコットンで絵を撫でるようにした。
 じわりと溶剤が絵に染み込み、そこだけ絵の質感が変わった。ニスが落ちたのだ。
 溶剤が乾いたところで、ツグミはヘラで、水飛沫の白を、触れるか触れないかくらいの感覚で擦った。ヘラの先に、白の顔料がわずかに付いた。
 やっと岡田が硫黄粉の小瓶を見つけてきて、作業机の上に置いた。それから、岡田はその他の道具を探して店の外に飛び出した。
 岡田はすぐに戻ってきた。新聞紙とアイロン、延長コードを持ってきていた。
 作業を始める前に、岡田はさっき買って来たらしいマスクをツグミに手渡した。ありがたいことに、鼻の辺りに空間ができるタイプだった。
 岡田もマスクを付けると、作業が始まった。
 新聞紙の上に硫黄の粉が振り撒かれ、ツグミはその上で、ヘラを指先で軽く弾く。白の断片が、雪のようにひらひらと硫黄の上に落ちた。
 次に新聞を2つ折りにして、延長コードを繋いでアイロンの電源を入れた。
「いいか、嬢ちゃん。17世紀の絵画は白の顔料に鉛が含まれとった。もし、これが本物なら、硫黄に反応して、鉛白が黒くなるはずや。もし、白のままやったら……(※)」
 アイロンが温まる間に、岡田が解説した。
 新聞の上から、アイロンを当てた。すぐにむわっと臭いが広がった。硫黄は熱を当てると匂いを発するのだ。
 ツグミは作業机から3歩引いて、マスクの上から掌で覆った。それでも、強烈に迫ってくる臭いから逃れられなかった。
 しばらくして、岡田はアイロンを脇に置き、新聞紙を開いた。
 岡田が覗き込んだ。ツグミも鼻を押えながら側に近付き、覗き込んだ。
 黄土色の粉の中に、砂金のように白の断片が輝いていた。変色はなかった。

※ 鉛に硫黄を混ぜても、おそらく黒色変化しない。間違いなく化学変化を起こす薬品は硫化水素だが、あまりにも危険な薬品のため、ここでは硫黄と混ぜることにした。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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■2015/12/06 (Sun)
第7章 王国炎上

前回を読む
 地下宝物庫に、バン・シーの姿があった。管理人の老人ともに廊下を進み、あの鉄の大扉を開けて、その中へと入っていく。
 大広間には3人の英雄の石像が置かれている。台座にはそれぞれの聖剣。ダーンウィンだけはまだセシルが持ち出したままになっていた。
 バン・シーはまっすぐエクスカリバーの前まで進み、その柄を握った。


「――エクスカリバーだ」

 バン・シーが振り向くと、老いた王がそこに立っていた。

バン・シー
「ついに見付けたか」

「生涯のほとんどをそれに費やした。我が民の宝だ」

 さすがのバン・シーにも声に感動と期待が込められていた。
 しかしその鞘を払った瞬間、感動は一転して失望へと叩き落とされ、隠しようもない溜め息が漏れた。


「《カムランの戦い》から千年、ドーズマリー・プール湖の底で眠っていたのだ。伝説はもはや、過去の遺物だ」

《カムランの戦い》――。クロース教の語る「正史」には決して記されないアーサー王とモルドレッドとの最期の戦い。アーサーは敗れ、エクスカリバーはドーズマリー・プール湖に葬られた。以後千年にわたり、所在の知れなかった剣。例え神の鍛えし剣といえど、千年は長すぎる風雪であった。

バン・シー
「もっと早く見付けるべきだった。いや、もっと早く探すべきだった」

 バン・シーはエクスカリバーを台座に戻した。


「この戦いが終わったら、国中の鍛冶師を集めさせよう」
バン・シー
「いや、おそらく人間にはこれを直せまい。神が創りし剣を修復できるのは神だけだ」

「神などどこにおる。信仰を失ったこの時代に。神はすでにこの世を去った」
バン・シー
「確かに。だが私に1人だけ心当たりがある。この戦いが終わったら、剣を私に預けさせてくれないか」

「何者だ?」
バン・シー
「グリシャの神……だった男だ。グリシャの信仰もすでに崩壊しているが、山中でまだ生存している神に会ったことがある。その者ならば、もしかすると……」

「いいだろう。エクスカリバーはそなたに預けよう。そんなもの、民に見られたくとも知られたくもない。アーサーはクロースに殺された王だ」
バン・シー
「自棄になるな。希望は探せば見付かる」

「希望を望むほど若くないんでな。――それで、かの者は見付けたのであろうな」
バン・シー
「チベットの後は東の草原へ行き、ラマ廟を訪ねた。しかし一足違いだった。かの者は17年前に死んだ、と。ここでかの者の足跡は完全に途絶えた。もしも次の者が生まれていて健康に育っているとしたら、17歳の女だ」

「なぜ女とわかる」
バン・シー
「簡単な法則だ。男の次は女が生まれ、女の次は男が生まれる。だから、次の者は女だ」

「女か……。だがどの国へ行っても女の立場は弱い。自身の能力に気付いていても、軽んじられている可能性が高い。自身の力が、何のために与えられたのかわかっていない場合もある」
バン・シー
「かの者の使命はひとつとは限らん。私にとっては用事は1つきりだが、かの者の運命は無数にあるのだろう。――世界中の物語の中を歩いてきた。あともう少しだ……」

「そうだな」

 王が溜め息を漏らした。
 それから、バン・シーは思い出したように言った。

バン・シー
「ところで、オークに名を与えた者が誰であるか、知っているか?」

「いや。旅のドルイドであるとしか。やはりそなたも気になったか。しかし単なる偶然だ。都合のいい奇跡を信じるほど、わしも若くない。かの者のかつての名前はミルディであったそうだ」
バン・シー
「……そうか」

 バン・シーは何かを考えるふうにしたが、しかし頭を振り、そこを後にした。


※ ドーズマリー・プール湖 アーサー王伝説が残るコーンウォールの湖。

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■2015/12/05 (Sat)
第5章 Art Crime

前回を読む

 ツグミは改めて『ガリラヤの海の嵐』を振り返った。
 やっぱり、交換会やろうな、と想像した。岡田も知らないところで、どこそこの社長さんの手に渡るように、すでに契約が成立しているのだろう。岡田のところに絵が回ってきたのは「絵画のロンダリング」の途中なのだ。
 ただ、はじめに「絵のロンダリング」を企てた画商も、最終的に絵を購入する予定の社長さんも、この絵が贋作だとは気付いていないだろう。
 確かに絵は見事な完成度だった。壮大かつ雄大。間近で見ると、クラクラするような神々しさすらある。
 技術的に問題がない。というより、レンブラントの精神を完璧に映し出していた。
 実際に、これだけの規模の贋作を作るとなると、どれだけの実力と資金が必要になるのだろう。手がけた贋作師は、間違いなく天才だ。贋作師にしておくのは勿体ないほどに。
「この絵の真画って、まだ発見されてへんの?」
 ツグミは絵を見上げながら、岡田に尋ねた。確か、これが発見されたというニュースは、まだやっていないはずだ。
「1990年に盗まれたきりや。嬢ちゃんまだ生まれとらんかったから、あんまり知らんやろ」
 岡田が顔を上げる。まだ顔と声に落胆を残していた。
「知っとおよ。1990年、3月17日。イザベラ・スチュアード・ガードナー美術館(※)に2人組の強盗が押しかけた。その時に盗まれた美術品は全部で14点。美術品は現在に至るも発見されていない。でしょ?」
 ツグミは馬鹿にされたくない、と思って本で読んだ内容を、間違いないように諳んじてみせた。
 イザベラ・スチュアード・ガードナー美術館があるのはボストンだ。美術館の名前になっているイザベラが個人で建設し、美術品も全て自身が蒐集した。
 市や国の援助を受けていたわけではないから、規模も小さく美術品の数も少ない。ただ、イザベラには優れた目利きの才能があった。まだ発見されたばかりの画家や、真贋の曖昧だった傑作を次々と掘り出し、オークションなどで格安で掻き集めた。
 数は少なくとも、ガードナー美術館が「質」という点において、世界有数の美術館の1つとされている理由がそれであった。
 そこに強盗が押し入ったのは3月17日の深夜。日付が18日に変わる時間だ。
 強盗は警官服を着ていた。これに、当時駐在していた2人の警備員は油断したのだ。
「警備員はアルバイトの素人やった。だから、あっさり犯人に縛り上げられ、あとは悠々と盗み出されてしまった。フェルメール、レンブラント、ドガ、ホーフェルト・フリンク……。全部で14点の美術品が盗まれた」
 岡田が自分の思い出でも語るように、事件の概要を話し始める。
 俗に《ガードナー事件》と呼ばれるこの事件を取り扱った本は、一山できるくらい出版されている。
 その時に盗まれた美術品の1つが、『ガリラヤの海の嵐』だ。今や幻の作品で、美術好きの間で伝説化している。
「この事件は、今においても美術盗難史上、最高の被害総額を記録している。理由はただ1つ。フェルメールの『合奏』や」
 ツグミが岡田の後を続ける。ツグミだって、本の一山くらい読んだ。知識で負けるつもりはなかった。
 岡田が重々しく頷いた。
「そう。フェルメールの『合奏』。事件全体で被害総額150億円と言われているけど、内訳がフェルメールの『合奏』が一点で100億円。残り13点が合わせて50億円という計算や」
『合奏』は今、幻の名画として、天井知らずに値段が吊り上り続けている。語る人によって多少の増減はあるが、少なくとも150億円以上はするだろう、と言われている。

※ イザベラ・スチュアード・ガードナー美術館 ボストンに実在する美術館。1990年3月17日盗まれた14点の美術品は、現在も発見されていない。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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■2015/12/04 (Fri)
第7章 王国炎上

前回を読む
 一行はキールブリシュトを去った後、北西の方角を真っ直ぐ進み、荒れた土地を横切ってわずか2日で長城まで辿り着いた。馬が力尽きて倒れてしまったために、そこで駐在している兵士らに、馬を新しく用意してもらい、王城までの道のりを一気に進めた。
 大門を潜ると、城下町はすでに厳戒態勢下にあり、城壁近くの住居は軒並み兵士らに摂取され、戦いの準備が慌ただしく始められていた。そこで旅の一行は一度解散となり、セシルは戦士たちを連れて、伝令の兵士とともに王城へと去った。
 オークはセシルの指示に従って、大門にとどまり、戦の準備を手伝った。ソフィーもそれに伴った。バン・シーはいつの間にか姿を消していた。
 オーク達は兵士達の仕事に加わると、旅の装束を脱ぎ捨てて、戦闘用の鎧に着替えた。着替える作業を、ソフィーが手伝った。

オーク
「ソフィー、ここまでです。あなたは住民とともに避難してください」
ソフィー
「私も戦います」
オーク
「いけません。避難するのです」
ソフィー
「どうしてです。私も戦えると、もう証明してみせたではありませんか。なぜ……」
オーク
「あの戦いでみな死にました。生き残れたのはただの偶然です。同じ幸運が続くとは限りません。私は、あなたを失いたくないのです」
ソフィー
「幸運なら何度でも起こしてみせます。だから……」
オーク
「ソフィー。これはお伽話ではないのです。行ってください」
ソフィー
「……あなたはもっと情の深い方だと思っていました」
オーク
「――ソフィー?」

 ソフィーの顔に、落胆が浮かんでいた。ソフィーの思いもしない失望した顔に、オークが戸惑いを浮かべていたが、今度はソフィーがオークを避けるようにその場を去って行った。
 立ち去っていくソフィーと入れ違うように、兵士達の歓声が沸き起こった。セシルを先頭に、王国の最も強力な騎士団が到着したのだ。騎士団は列を作って堂々たる風格を湛えながら、喝采の中を練り歩いた。
 セシルは兵士達の中からオークを見付けると、列に加わるように指示した。

セシル
「先ほど報告が入った。地下牢からゼーラ族の囚人が脱走した。覚えているか。お前が秘密の里で戦っていた時に捕らえた奴だ」
オーク
「城に手引きした者が?」
セシル
「驚くに当たらん。城は疑わしい連中ばかりだ」
オーク
「目星は?」
セシル
「こちらも何人か間者を放っておるが、中心人物はウァシオだろう。だがあいつもこちらの間者に気付いておる。なかなか尻尾をださん。おかげで間者同士の馬鹿し合いをやっておるよ。ウァシオめ……この城で何をするつもりだ」
オーク
「無理やり捕らえて証言を求めては?」
セシル
「そういうわけにはいかんよ。見よ」

 セシルが騎士団を振り返った。オークも振り返る。最後尾に、鎧姿のウァシオがいた。
 兵士達がウァシオの姿を見ると「ウァシオ様だ!」と喝采を上げた。

セシル
「あんな奴だが、兵士や民からの信頼は厚い。あやつはゼーラ一族との戦いを何度も勝利に導いた歴戦の勇者だからな。無理に投獄すれば我々が民から信頼を失う。あいつが戦場に姿を現すと、ゼーラ一族はどんな戦いでも即座に陣を退けるのだ」
オーク
「ゼーラ一族と示し合わせているのではないですか?」
セシル
「人々は信じやすいからな。ウァシオには特別な闘気をまとっていて、ゼーラ一族はそれに恐れをなして逃げ出すのだと、民は信じている。兵士達の中にも、神通力の持ち主だと信じている者も多い。王の立場とはいえ、迂闊に手を出せんのだよ」
オーク
「…………」

 オークはウァシオをもう一度振り向く。ウァシオはニヤリと笑って、オークを見ていた。
 号令が再び飛び交い、城壁の銃眼に兵士達が配置される。騎士団は大門の外に出て整列すると、来るべき敵を待った。
 空は昼とは思えない暗さでどんよりとくぐもり、粉のような雨が散っていた。
 監視塔の兵が声を上げた。地平の向こうから、黒山の群れが現れた。ネフィリムたちだ。ネフィリムの数は桁外れに多く、南の地平線を見渡す限り端から端まで埋め尽くし、全部でどれくらいの数になるのか想像も付かなかった。
 地平の向こうから、まるで邪悪な黒波が押し寄せるように見え、その足音に大地が揺れる。最強と謳われる騎士団ですら、恐れを抱かずにいられなかった。

セシル
「奴らはこの時のために準備をしておった。我々はそれを知りつつ、放置しておったのだ……。もし人間が下らん小競り合いなどせず、よき指導の下、本当の脅威に対して向き合えるようになれば、どうであったと思う?」
オーク
「そんな時代を目指しましょう。人間が本当の正義の下、悪と向き合える日を。今は目の前の敵と戦う時です」

 セシルは無言で頷いた。
 セシルが剣を抜いた。騎士団に合図を送る。兵士達が「おお!」と鬨の声を上げた。城壁は戦の活気に満ちた。しかし邪悪なる者達の足音は、それを容易に飲み込んでしまった。

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