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■2015/11/23 (Mon)
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

第4章 美術市場の闇

前回を読む

17
 12時を少し過ぎた頃、階段で物音がした。
 ツグミはあっとなって、本を閉じて杖を手にした。しかし、コルリが少しもたついてしまった。Photoshopを中断してパソコンの電源落とす。
 ツグミはしばしコルリを待った。その間に、ドアの向うで静かにロングコートが通り過ぎた。ヒナだ、と思うより先に、幽霊だ、と思った。
 やっとパソコンの電源が消えた。コルリと一緒に廊下に出る。ちょうど、ヒナが自分の部屋に入るところで、ぱたんとドアが閉じた。
 ツグミとコルリは部屋の前まで進み、まずノックした。
「ヒナお姉ちゃん、入っていい? 開けるよ?」
 耳を澄ませて、返事を待つ。返事の代わりに、聞こえてきたのは呻き声だった。
 ツグミとコルリが顔を見合わせる。今のは「いいよ」なのか「駄目」なのか。
「それじゃ、ヒナお姉ちゃん、入るからね」
 断ってから、ツグミはそっとドアを開けた。
 ドアを開けて右手に置かれているベッドで、ヒナがうつ伏せに倒れていた。コートを着たままの格好で、身動ぎもしなかった。
 明かりはヘッドボードのスタンドだけで、部屋はひどく暗かった。トレンチコートのパステルカラーも何となく色を失って沈んでいる。
 ベッドは両親が使っていたタブルベッドで、ヒナが1人で使っていると、少し広すぎるくらいに思えた。
「ヒナ姉、もう寝る? 明日にしようか?」
 コルリがツグミの脇から部屋を覗きこんだ。
「ううん。今にする。ご飯、持って来て」
 うつ伏せのままのヒナの言葉が、シーツに吸い込まれて消えそうだった。
 ツグミとコルリは無言で役割分担をした。コルリは1階に降り、ツグミが部屋の中に入る。
 ヒナの部屋は、もともと両親の部屋だ。ここにも壁一面の書棚があり、夫婦共用だった衣装棚が置かれている。今は全てヒナが1人で使っていた。
 ひどく散らかっている部屋だった。そこら中にヒナが脱ぎ捨てたものや、仕事から持ち帰った書類、図版、ゴミを包んだ袋、メイク道具が散乱している。
 一番奥の窓の前に、机が置かれているけど、そこまで行くにはちょっとした探検になりそうだった。その机も、物だらけで、使えそうにない。
 ヒナは仕事が忙しく、片付けをしている暇なんてないから、ツグミとコルリが掃除と整理する仕事を請け負っていた。しかし汚れるスピードは圧倒的に速く、一晩目を離した隙に部屋は荒廃してしまう。ヒナには部屋を汚くする特別な才能があるらしかった。
 ツグミは杖をつきながら、足元に散乱しているものを掻き分けて、ベッドの側に進む。
 ヒナはごろん、と寝返り打った。見るからに苦しそうで、深く息をしていた。
「ヒナお姉ちゃん、大丈夫?」
 ツグミはベッドの脇に腰を下ろしつつ、心配になって声を掛けた。ツグミの目には、ヒナが何かの病気をしているように思えた。
 ヒナは苦しそうに声を漏らすだけで、返事をしなかった。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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■2015/11/22 (Sun)
第6章 キール・ブリシュトの悪魔

前回を読む
 翌日も旅が続いた。朝早くに宿を出て、東へと向かった。地図上の道は間もなく途切れてしまい、荒れた土地が現れた。
 一行はごつごつとした岩場に入っていき、馬を下りて慎重に進んでいった。行く手の見通しが極端に悪く、荒野は激しく上下にうねり、不浄の森もあちこちに佇んでいた。
 日が暮れかけると急速に夜が迫り、辺りは漆黒の闇が包んだ。空は星すら浮かべない。頼りになる明かりを失い、その日の旅はそこで終わってしまった。

バン・シー
「今日はここまででいいだろう」
セシル
「そうだな。野宿の準備だ」

 屈強の戦士達は、さすが旅慣れた様子で、疲れも見せずにただちに野宿の準備を始めた。

バン・シー
「いや、待て。済ませねばならん用事がある。――そろそろ出てきたらどうだ。暗闇での野宿はつらかろう」

 バン・シーが暗闇に向かって声を掛ける。戦士達が柄を握って振り返った。
 岩陰から姿を現したのは、緑のローブ姿の乙女だった。

オーク
「ソフィー! どうして従いて来たんだ!」

 オークはソフィーの側に駆け寄った。
 ソフィーは顔で頑なで、瞳は決意で満たされていた。

ソフィー
「危険は承知です。お願いです、私を、……あなたの側にいたいの」
オーク
「…………」

 オークはどう答えていいかわからず、黙ってしまった。
 するとバン・シーがソフィーの前にやってきた。

バン・シー
「魔術師か?」
ソフィー
「はい」
バン・シー
「ならば試させてもらう」

 バン・シーの掌が燃え上がった。

セシル
「バン・シー! よせ!」

 バン・シーが炎を放つ。暗闇が真っ赤に煌めいた。
 だが炎は、ソフィーの目の前で火の粉を巻ながら吹き飛んだ。火の粉の陰に紛れて、ソフィーがバン・シーに接近した。手にナイフが煌めいていた。
 ソフィーの接近の瞬間、光が強く瞬く。

バン・シー
「――うっ」

 バン・シーに動揺が浮かんでいた。
 ソフィーはバン・シーの胸にナイフの刃を押し当てた格好のまま、静止していた。バン・シーが貼り込んだ魔法の防壁に無理に突っ込んだせいで、右腕に血が滲んでいた。ナイフの刃も、切っ先が魔法の盾に当たっている。それ以上に刃が進みそうにない。

ソフィー
「自惚れではないけど、私は役に立ちます」

 それから、バン・シーにだけ聞こえる声で言った。

ソフィー
「……お願い。同じ女ならわかるでしょ」
バン・シー
「……そのようだな」

 ソフィーとバン・シーの間から緊張が解かれた。お互いの掌から魔術の光が消える。

バン・シー
「どうやら強力な助っ人のようだ。15人目の仲間だ」
オーク
「しかし彼女は……」
セシル
「私は賛成だ。ドルイドの癒やしは旅に必要だ」
ゼイン
「わしも賛成じゃな。美人と旅を共にする機会はそうそうないからな」
ルテニー
「俺もだ! 歓迎するぜ!」
バン・シー
「私では不満という話か」
ルテニー
「……い、いや」
ソフィー
「皆さん、ありがとうございます。私はソフィーというものです。未熟なドルイドですが、よろしくお願いします。――ところで、魔法使い様、あなたの名前は?」
バン・シー
「バン・シーと呼ばれている」
ソフィー
「え……でも」
バン・シー
「構わん。そう呼べ」

 それだけ言うと、バン・シーは一同の許に戻った。15人目の仲間を加えて、ようやく野営の準備が始まる。

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■2015/11/21 (Sat)
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

第4章 美術市場の闇

前回を読む

16
 ツグミは入浴を終えて、かつて太一の書斎だった部屋に入った。
 書斎は階段と、ツグミとコルリが2人で兼用している寝室に挟まれた細く長い部屋だった。部屋の両側の壁が作り付けの本棚になっていて、かつては画集や美術研究書で一杯だった。今は徐々に漫画や学校の教科書に置き換えられつつある。
 書斎の奥に、机が2つ、背中合わせに並んでいた。細長い部屋に無理に机を突っ込んだ格好になっているので、椅子の位置を互い違いにずらして置かないと、入らないくらいだった。手前がツグミで、奥がコルリだ。
 書斎の中は深く影が落ちていて、コルリの机のライトだけが真っ白に浮かび上がっていた。コルリはパソコンモニターに向かい、今日撮影してきたらしい写真の整理をしているみたいだった。
 ツグミは、寒いけど、ちょっとドアを開けたままの状態にしておいた。本棚に向かい、何か退屈しのぎになる本はないかな、と探した。
 美術の図版や研究書は、すでにぜんぶ読んでしまっていた。2度3度繰り返し読んだ本もある。ここで未読の本といえば、教科書だけだった。教科書だけは、退屈してても読みたいとは思わない。
 ツグミは、とりあえず目についた本を引っ張り出した。『フリードリヒ・崇高のアリア』だ。
「ルリお姉ちゃん、なに……」
 ツグミはコルリの机の側にやってきて、モニターを覗き込もうとした。が、
「ああ、駄目! 見ないで! ごめんだけど。後でゆっくり見せるから」
 コルリは大慌てでモニターを体で隠した。
「あっ、ごめん」
 ツグミは気まずくなって謝った。
 ツグミは自分の席に座り、本を開いた。コルリが作業を再開したらしく、マウスをかちかちさせはじめた。
 本を開いて文字を目で追うけど、ツグミの気持は上の空だった。コルリは何の作業をしているのだろう。振り返れば見える場所で秘密の作業をされると、気になって仕方がない。
 それに、かな恵に聞いた話がまだ頭の中に留まっていた。かな恵に絵を売った、という話まではしたけど、神戸西洋美術館に関するあの噂はまだ話してなかった。
 ルリお姉ちゃんに、ちゃんと話をしないと……。
 でも「見ないで!」と拒絶されたせいで、何となくそういう空気ではなくなってしまった。
 ツグミはぺらぺらとページをめくり、挿絵だけを見た。挿絵はカスパル・ダーヴィト・フリードリヒ(※)の絵を白黒にして、小さく本の中に収めていた。
 ふとツグミは、『雲海を見下ろすさすらい人』の絵の前で、ページをめくる手を止めた。
 険しい岩山の頂に、その時代でも古風な衣装を身にまとった男が、一人きりでたたずんでいる。雲海が、ぎざぎざに切り取られた峻厳なる峰々を、白く溶かし込んでいた。男はただ一人でそこに立ちつくし、周囲で渦を巻く冷たい風を体に浴びていた。
 ツグミは何故だがこの絵に惹き付けられて、じっと眺めてしまっていた。この絵を見ていると、胸が切なく、苦しくなる一方で、うっとりと心が浮き立つような、不思議な充足感に満たされる気がした。

※ カスパル・ダーヴィト・フリードリヒ 1774~1840年。ドイツのロマン主義を代表する画家。廃墟や大自然と向きあう背中を多く描き、自然との対比、峻厳な宗教的崇高さをメインテーマに据えた。

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■2015/11/20 (Fri)
第6章 キール・ブリシュトの悪魔

前回を読む
 王国の大門を出て、しばらく南へ向かって馬を走らせた。街道が長く続き、ネフィリムとの遭遇もなく、旅は順調に進んだ。しかし悪魔の目覚めに歩を会わせるように、雲が厚く覆って光を射さず、風景は灰色に濁って不穏な気配を常に湛えさせていた。
 やがてその日の旅程を終える頃、旅の一行はある村に辿り着いた。大きな村で、畑が階段状になって延々と連なっている。村の中心部分には、賑やかな繁華街も作られていて、村と呼ぶにはかなり活気に満ちたところだった。
 その日は、そこで宿泊することになった。

オーク
「豊かな村ですね。ここは?」
セシル
「この村は、国が戦になった時に食糧を供給することを目的に作られた村だ。我々軍人の貴重な胃袋だ。だから見よ、山賊やネフィリムが侵入しないよう、兵士が派遣されておる」

 村はあちこちに見張り塔と兵隊詰め所が設置されていた。兵士達が王子達一行に頭を下げる。だが、村人達の姿は、なぜかほとんど見なかった。

村長
「これは王子様! 知らせは届いております。さあ、こちらへ。旅の方々もさあどうぞ」

 しばらくして村長が飛び出してきて、王子達を歓迎して、村で一番の宿へと案内した。上等な食事とよく整えられた部屋が与えられ、王子達旅の一行は、その日1日の旅の疲れを癒やした。
 セシルは食後もすぐには休まず、テーブルに地図を広げて、バン・シーと旅程の打ち合わせをしていた。
 それが終わってもまだ休まず、セシルはオークの許にやってきた。

セシル
「オーク。ちょっと付き合え」
オーク
「はい」

 セシルとオークは王族の紋章の入った衣を脱ぐと、どこにでもいる旅人の装束を身にまとい、宿の外に出た。セシルが向かったのは、村の中でも賑わいのある界隈だった。夜も遅い時間だが、人々が繰り出して、仕事後の時間を楽しんでいた。繁華街は、今の時間が本番、というように、煌々とした光を通りに投げかけていた。
 オークは不思議な心地になりながら、眠りの時間が訪れそうにない村の様子を見ていた。

セシル
「きょろきょろするな。田舎者だと思われるぞ」

 セシルがやんわりと注意する。
 セシルとオークは、酒場へと入っていった。酒場の隅の席に着くと、2人は対話もせずにビールを少しずつ啜った。
 酒場の様子はすでにできあがった様子の酔っ払いが何人もいて、調子よく喚いたり歌ったりを始めていた。

酔っ払い
「聞いたか。あの馬鹿王子がまた旅行を始めたらしいぞ」
酔っ払い
「あの野郎、好き勝手やりやがって。俺達がどんだけ苦労していると思っているんだ。俺達の金だぞ!」
酔っ払い
「王族なんてみんな外道だ! 俺達の収めた税金で、金銀財宝に美食の暮らし! 王族なんぞ滅んでしまえ!」
酔っ払い
「無能のくせに戦争好きの王子め。あんな奴がいるから、戦争がいつまでも終わらないんだ!」
酔っ払い
「王族なんて糞喰らえ! 国なんて糞喰らえ!」
オーク
「…………」

 オークは我慢できず、席を立ちそうになる。

セシル
「じっとしてろ。私達は今、ただの流れ者だぞ」
オーク
「…………」
酔っ払い
「お、何だお前。よそ者か? どっから来た」
セシル
「古里はねえ。根無し草だからな。馬鹿王子の話か? 俺にも言わせろ!」
酔っ払い
「おう! どんどん言え! あの馬鹿王子をやっつけてしまえ!」

 酔っぱらい達の調子は、どんどん盛り上がっていく……。


 しばらくして、セシルとオークは酒場を後にした。
 街の賑やかな界隈を後にして、静かな畑の側を歩く。不夜城の空気が急速に遠ざかって、身体の熱が冷めるようだった。

セシル
「不満があるようだな。黙ってないで言ったらどうだ。あの酔っ払いどものように」
オーク
「納得がいきません。王子はこの国のために命がけで戦っているのに、あの者達は……」
セシル
「そういうものだ。王がどんな苦労を背負い込んでいるか、民にはなかなか伝わらないものだ。見えない世界だから、噂話が膨らんで、事実とすり替わることも多い。だが、そんなものだ。国とは難しい。王といえど国土の全てを把握することはできないし、これが国だという証がはっきりとあるわけではない。民などは井戸の底から世界を見ているようなものだろう。民は王などなんとも思っておらんし、貴族連中ですら国がなんなのか頻繁に見失う。だがな、オークよ。あんな馬鹿共でも、命を賭して守るのが王の務めだ」

 セシルの話はそれで終わりだった。セシルとオークは酔いを醒ますと、宿に戻り、眠った。

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■2015/11/19 (Thu)
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第4章 美術市場の闇

前回を読む

15
 しばらくして喫茶店を出て、かな恵と別れた。
 空はまだ暗く雲が覆っていたけど、アスファルトは冷たく乾いていた。降りだすまで、まだ猶予があるみたいだった。ツグミは晴れているうちに、急いで家に帰った。
 画廊に帰ると、ツグミは光太にもらった絵を壁に飾りつけ、『売約済み』のシールを貼っておいた。こうすれば、買いに来た人はじっくり作品を見ずに諦めてくれるだろう。絵のモデルがツグミだと気付かれずに済むはずだ。
 売約済みを展示しておくのは、客寄せのためだ。光太の絵を目当てにやって来て、手に入らなかったお客さんは、必ずまたやってくるという期待ができる。
 間もなく雨が降り始めた。ゆるやかに街を濡らすような小糠雨だった。街が色彩をなくし、じわりと影を深めていく。
 ツグミはそんな街の様子を眺めながら、もうお客さんは来ないだろう、と決め付けて、「Closure」の暖簾を掛けてしまった。事実として、こんな雨の日に人が来た例しがない。それに、光太やかな恵から続けて暗い話を聞かされて、あまりにも憂鬱になって誰にも会いたくなくなってしまった。
 2時を過ぎた頃、コルリから電話が入った。遅くなるから、夕食は1人で摂ってほしい、という話だった。
 ツグミは午後の退屈な時間を、狭い台所で過ごした。学校の宿題をやったり、宿題が終わると漫画を読んだりして憂鬱な気分をごまかした。
 5時頃になると、コンビニへ行ってサラダだけ買い、お茶漬けを作って食べた。
 ちょっと大きいくらいの音量でテレビを流して、1人きりの寂しさを紛らそうとした。でも、何となく気持が乗らなくて、テレビから流れる大袈裟な笑い声から取り残されるような気分になってしまった。
 8時を過ぎた頃、コルリが帰ってきた。
「おお、もう絵、売れたんや」
 コルリが売約済みのシールを見て、驚いた声を上げた。
 ツグミは帰り道、かな恵と会って話をしたことを伝えた。ツグミの話が終わると、コルリは難しそうな顔をして腕組をした。
「ツグミな、絵を買う財力のない人に、無理に売ったらあかんで。買うほうにも生活はあるんやからな」
 画廊を真っ暗にしたまま、コルリはツグミを円テーブルに座らせて向き合った。
「え? でも分割払いやで。かな恵さんはちゃんとした仕事に就いとおから、大丈夫やと思うけど……」
 ツグミはコルリの言おうとしている方向がつかめず、きょとんと首を傾げた。
「1枚だけならいいんや。でも光太叔父さん、シリーズで私らを描くって話しとったやろ? かな恵さん、他の作品も欲しいって言うはずやで。何枚も買うようになったら、そのうちお金が足らんようになるやろ。かな恵さん、いい人やけど、私ら姉妹にすごい入れ込んどうみたいやから。無理させたらあかんで」
 コルリはゆるく説教するみたいだったけど、ツグミにはここにいないかな恵を心配しているように聞こえた。
 ツグミはとりあえず了解して頷いた。次の絵もかな恵が欲しいと言い出したら、「お給料は大丈夫ですか」と訊ねるようにしよう。無理なようだったら、購入を諦めてもらおう、と考えた。

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