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■2016/01/18 (Mon)
第8章 秘密都市セント・マーチン

前回を読む
 忌まわしき場所を出ると、セシルの百人の忠臣たちが中で起きたことを知ろうと詰め寄ってきた。セシルはそんな一同に目で無事を知らせると、大門の向かい側に真っ直ぐ天井まで伸びている階段を見た。

セシル
「この階段はキール・ブリシュトに繋がっているのか?」
バン・シー
「そうだ。おそらく悪魔が待ち受けているだろう」
セシル
「そうか――」

 いよいよ戦いの時が迫ってきた。セシルは、階段の向こうにある脅威を感じ取って、緊張を覚えた。振り返ると、百人の忠臣たちがセシルの言葉を待っていた。

セシル
「戦士達よ聞け! この先に我らの戦場が待ち受けている。かつてない戦いになるだろう。多くが死ぬだろう。だがケルトの戦士達よ。恐れを抱くな。勇気を奮い起こせ。お前達こそ真の戦士達だ。お前達の一人一人が英雄として人々の心に刻まれるのだ。戦士達よ、剣を抜け! いざ行かん! 我らが戦場へ!」

 セシルが剣を抜き、高く掲げた。百人の英雄が鬨の声を上げた。闇の庵に怯えを浮かべていた戦士達に、闘士が宿った。勇気を取り戻した瞬間だった。
 戦士達は一気に階段を駆け上った。直線の階段を登り切ると、次は螺旋階段が現れ、さらにその上にもう1つの円周の広い螺旋階段が現れた。それを登り詰めると、ようやく地上に出た。
 そこは聖堂だった。天井が高く、巨大な円錐状の建築で、四方に通路がのびていた。そこに、悪魔がネフィリムたちとともに待ち受けていた。
 戦士達に戸惑いはなかった。悪魔を見付けると、ただちに飛びかかった。悪魔は獣のような四肢に鬣を揺らしながら、口や鼻から炎を溢れさせ、その皮膚の周囲を猛烈な熱で空気を揺らしていた。
 戦士達は悪魔を取り囲み、弓矢で威嚇しながら剣で攻撃を加えた。セシルもダーンウィンを手に肉薄し、悪魔の後ろ足に攻撃を加える。
 ネフィリムの一群も容赦なく刃を振るった。戦士達はネフィリムたちと戦い、退けた。
 ネフィリムの軍団は戦いの最中にも四方の通路から次々と現れた。その戦いのために、隊列は分断され、勢力は削がれてしまった。悪魔とネフィリムの勢力は、力という面においても数という面においても、恐るべき規模で、最強の戦士達は次々と力尽き、倒れた。
 聖堂にもう一体悪魔が現れた。吹き抜けの窓から、禍々しい咆吼を上げながら、戦場に飛び込んできた。その悪魔は巨大な翼を持ち、自由に空を舞った。かつてない悪魔は戦士達を翻弄した。悪魔は不意を突いて滑空すると、鋭い爪で戦士達を掴み上げ、空中で振り落とした。
 戦士達が次々と命を燃やし尽くした。ネフィリムの大軍の刃に。悪魔の火炎に。空飛ぶガーゴイルに。百戦錬磨で知られる戦士達は、いとも簡単に命を落としていった。
 しかし勇気を忘れなかったケルトの勇者達は、果敢に戦った。死力を尽くし、群がりやってくるネフィリムの刃を退け、火炎の悪魔に打撃を加え、ガーゴイルに弓矢の応酬を浴びせかけた。
 ガーゴイルは弓矢の攻撃に空を舞う力を失い、地上に落ちてくる。そこに、戦士達が一斉に飛び乗った。一瞬でも動きを封じられた悪魔は、体を大きく揺さぶって戦士達を振り落とそうとした。
 そこに、ダーンウィンが炸裂した。火を放つ刃は、ガーゴイルに強烈な打撃を与えた。ガーゴイルは叫びながら身悶えした。戦士達を振り落とし、飛んで逃げようとした。しかしセシルは逃さなかった。次の一撃で、ガーゴイルの首を一刀のもとに両断した。

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■2016/01/17 (Sun)
第5章 Art Crime

前回を読む

26
 ツグミは出したものを全部リュックにしまいこんで、また盾みたいに抱きかかえた。初めて、外の風景を意識した。
 フラワーロードをずっと進んだところを、延々ぐるぐる回っていただけだった。車は高速道路の高架下を潜り抜けて、右折した。兵庫区へ向い始めたのだ。
 宮川も隣に座っている大男も、ツグミから興味を失ったように、窓の外を見詰めたりしている。
 ツグミはもう涙は引っ込んでいた。どうにか落ち着いた気分で、窓の外を眺めた。
 車は静かな倉庫街へと入って行った。人も車の数は少なくなり、通りの両側に背の高い倉庫が立ち塞がる。倉庫街の壁は薄く汚れて、通りを覆うように影を落としていた。
 そんな道も角に行き当たり、正面に開発途上の埋立地に挟まれた運河が現れた。大通りに入ると、再び立体交差を右手にする車道が現れる。
 しばらく風景を見て気持ちを落ち着かせていたけど、そうしていると、不思議と感情がムカムカと噴き上がってくるのを感じた。苛立ちと、殴られた悔しさが今さらみたいに湧き上がってきて、それを自分で抑えられなくなった。
「なんで、川村さんを捜してんのや」
 ツグミは宮川を睨み付けて、声に怒りを込めた。
「何の話かな」
 宮川は突然噛み付かれたみたいな顔をして、ツグミを振り返った。
「2週間前、川村さんの契約書が盗まれる事件があった。盗んだのはあんたらやろ。川村さんを捜しとお証拠や」
 調子を変えず、ツグミは感情の溢れるままに怒鳴り続けた。しかし内面では、もう後に引けない、と後悔の念を感じ始めていた。
「ほう。じゃあ、いったい何のために?」
 宮川は、むしろ身を乗り出し、ツグミの顔を楽しげに覗きこんできた。
 まるで応えた様子はなかった。必死で振り上げた拳を、さらっと、受け流された気分で、ツグミは狼狽した。一気に我に返って、すぐに次の言葉が出なかった。
「その……絵や。絵を探しとんのやろ。川村さんは倉敷の大原さんの家から、何枚かの絵を持ち出した。それを探してるんや」
 ツグミは戸惑いを必死で飲み込みつつ、可能性のありそうな何かを探りながら、ささやかな反撃に出た。
 宮川が笑った。喉の奥を震わせるような声を漏らして、肩を揺らした。
 ひどい屈辱だった。必死の反撃は、ツグミ自身に返ってきて、その胸を残酷に抉り取っただけだった。

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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。

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■2016/01/16 (Sat)
第8章 秘密都市セント・マーチン

前回を読む
 オークを先頭に洞窟に入っていった。
 洞窟の内部は、かつてと様変わりしていて、軍隊が通行するのに充分な広さに整備されていた。ネフィリムの軍団がそこを行き来したであろう痕跡を見出すことができた。あの広間の落書き――十字の印もくっきりとした線に手直しされていた。どうやら魔界の住人達は、あのシンボルを自分たちのものとして再生したようである。
 軍団は慎重に奥へ奥へと潜っていった。あの時行き止まりになっていた断崖には、地下に向かっていく階段が作られていた。その先は、オークも知らない未知の場所だ。慎重すぎるくらいのゆっくりさで、軍団は降りていった。
 その先の通路はひどく狭く、暗い場所がしばらく続いた。通路は狭くなり、50人という軍団ではやや困難と思える場所を進んでいった。
 しばらくして、突如として開けた場所に出た。そこは驚くべき場所だった。広い空間に、石の住居が並び、交通が整備され、街としてのあらゆる設備が整えられていた。家々や柱には、かつての壮麗さを物語る彫刻が施され、決して明るくないものの、光苔で松明の明かりも不要なくらい淡い緑色に浮かんでいた。そここそ、バン・シーが語る幻の都セント・マーチンであった。
 しかしそこは、今やネフィリムの地下の根城であった。戦士達は地下都市でネフィリムたちと戦いになった。激しい攻防戦が繰り広げられ、ネフィリムを一掃して制圧した。その後は、地下都市を拠点にして、案内人のいない地下世界の調査を進め、地図を作りながらゆっくり奥へ奥へと進んだ。
 地下世界はネフィリムの数が多く、何度も戦いを経験したが、しかしバン・シーの考えたとおり、地下のネフィリムは地上ほど多くなかった。地上に出払っているためだと考えられる。
 洞窟探索が始まって20日が過ぎ、ついにセシル、バン・シー率いる東の軍団と合流した。セシル達も何度か悪魔との戦いを経験したらしく、満身創痍で多くの兵を失っていた。しかし兵士達の合流は、沈みがちだった意欲を再び鼓舞した。
 合流以後はバン・シーの案内の下、さらに奥へと進んだ。5日後にはウァシオが率いる西の軍団とも合流した。すでに兵士の数は随分減っていたが、百人からなる戦士達の連合は、彼ら自身にとって心強いものだった。
 そうして間もなく、一行はキール・ブリシュトの地下部分に到達した。
 キール・ブリシュトに入ると、おどろおどろしい空気が包み、兵士達の緊張が高まった。生き物の気配どころか、不自然なまでに物音のない異様な静寂の中、何かとてつもない気配がするのを誰もが感じていた。
 地下キール・ブリシュトは、セント・マーチンの建築を一部利用しているものの、明らかにそれとは違った直線を多用した洋式に、中央に巨大な正方形の室が置かれ、周囲に祈祷のための部屋がいくつも配されていた。それから真っ直ぐな階段が、中央部に向かって伸びている。
 一行は慎重に古代の遺跡に足を踏み入れていった。廊下も図抜けて広く、百人の兵士くらいゆうゆうと入って歩けるほどの広さがあった。床や壁に、禍々しい宗教的なサインがいくつも刻まれていた。
 進めば進むほどに空気は重くくぐもり、恐ろしげな気配が強まっていった。静寂なのに、唸り声のようなものが聞こえるような気がした。足下もぐらぐら揺れているような錯覚に陥った。風もないのに松明の火が弱くなり、闇が勢力を強めているように、辺りを照らさなくなった。得体の知れない恐怖に、豪傑で知られる兵士達が次々と気分を悪くして、倒れる者すら出てしまった。
 廊下の先に、扉が現れた。高さは10メートルはあるだろうか。王城の大門すら匹敵する巨大な門に、誰もが圧倒され、唖然とした。いったい何のために、これだけの門が必要なのか、誰も憶測すら口にしなかったが、なぜか誰もが1つの可能性に行き着いていた。
 大門の前で、バン・シーは足を止めた。

セシル
「――ここは?」
バン・シー
「悪魔の王がいる」

 一同にどよめきが走った。誰もがまさかと思ったが、いざ口にされると恐怖に囚われた。

兵士
「まさか、今からそいつと戦うというのでは……」
バン・シー
「安心しろ。我々がこれから戦う相手は、こいつに較べれば雑魚だ。セシルにオーク、従いて来い」
セシル
「うむ」

 バン・シーが大門脇の通用口を潜って、向こうの部屋に入った。セシルとオークは一瞬躊躇ったが、しかし魔術師とはいえ、女が1人で平然と入っていけるところに行かないわけにはいかず、2人は通用口を潜って中へ入った。2人を護衛しなければならない兵士は、任務を忘れてセシルとオークを見送った。
 内部に入ると、これまで以上に深く闇が漂っていた。しかしそこに何かがある。異様な気配が漂うのを、ひしひしと感じた。
 バン・シーが魔法の明かりを点ける。巨大な空間が、ささやかに照らされた。

セシル
「うわああああああ!」

 思わずセシルが叫んでいた。オークは言葉を失って、声すら出なかった。
 そこにいたのは、まさしく悪魔の王だった。誰の解説を受けるまでもなく、間違いないと確信できた。その圧倒的な形相は、とてもいま知られている言葉では表現できない。畸形に畸形を重ねたおぞましく恐ろしい存在だった。どうやら共食いの最中に石にされたらしく、掌に悪魔が一体掴まれた格好だった。その悪魔ももちろん数メートル級の大きさだが、悪魔の王はそれを一掴みにできる大きさだった。出入り口にあれだけの大門が用意されているが、おそらくはこれが出入りする時にはあの大門を破壊する必要があるだろう。何もかもが桁外れの存在だった。

セシル
「……これは、何と禍々しい。こんな姿、見たこともない」
バン・シー
「しかし形を与えたのは人間だ。呪うなら、その時代のクロースの想像力を呪うのだな」

 バン・シーの声も震えていた。彼女ですら恐ろしいのだ。

オーク
「こんなものを人間が空想するとは……」
バン・シー
「何でも作り出すのさ。人間の頭はな」
セシル
「こいつの封印を解く方法は?」
バン・シー
「もっとも厳重な封印だが、解くのは簡単だ。強い闇を作り出すには強い光を与えればいい。すなわち、『太陽』だ。太陽の光がここまで落ち、こいつに触れればたちどころに封印は解ける」
オーク
「それなら絶対にありえません。こんな深い闇の奥に光など……」

 俄に安堵した。ここに太陽の光を与えようなどと思えば、上の建物すべてを破壊し、固い岩盤を砕き、なおかつあの巨大な鉄扉を開けねばならない。ここに太陽の光を持ち込むのは、どんな技術でも不可能だった。

セシル
「バン・シー。いつか言っていたな。悪魔を倒すには『聖剣』と『封印』、そして『真理』が必要であると。聖剣が我が手にある『ダーンウィン』であろう。そして『エクスカリバー』だ。『封印』は城の地下に置かれているという、あの奇妙な『石版』に書かれている術のことであろう。わからんのは『真理』だ。いったい『真理』とは何を指すのだ?」
バン・シー
「真理とは武器や書物ではない。人間だ。その者はすべての名前をあらかじめ知り、全てのものに名前を与える。その者の前では決して名前を偽れない。悪魔の王を倒すには、必ず真理が必要になる」
オーク
「そうか。悪魔の王。本当の名前が隠されているから、決して攻撃できぬのか」
セシル
「バン・シーよ。お前にその能力が?」
バン・シー
「いいや。私にはその能力がない。その者は常に1人で生まれてくる。東洋ではこれを輪廻転生と呼んでいる。私がその力を持った者に最後に会ったのは400年前だ。しかしその時には聖剣と封印が用意できず、真理を持つ者は老いて死んでしまった」
セシル
「……400年前か。そなたが言うのなら、驚きはせんよ」
バン・シー
「もう行こう。仮にも敵の陣地だ」

 しかしオークが何か思い当たるふうに、バン・シーを呼び止めた。

オーク
「バン・シー殿。その真理を持った女性ならば、言葉を知らぬ子供の名前を言い当てることもできるのですか」
バン・シー
「…………」
オーク
「…………」

 バン・シーがオークを振り返った。厳しい顔で、じっとオークを見詰める。

バン・シー
「ソフィーか」
オーク
「それは告げられません」
バン・シー
「そうか」

 バン・シーは部屋を後にした。オークとセシルも後に続いた。

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■2016/01/15 (Fri)
第5章 Art Crime

前回を読む

25
 宮川は何事もなかったように、平静に戻って、ソファにふんぞり返った。
「よそう。お互い教養ある人間だ。理性的に話し合おうじゃないか。燃やしたものには、何が書いてあった?」
 宮川は本当に元の調子に戻っていた。この男にとって、キレたり殴ったりは、あまりにも日常的なのだ。
「1号の絵が1枚。それだけでした」
 涙をぐしぐしと拭う。声がさっきよりも弱く、震えてしまっていた。
 左の顔面が、じわじわと痛みを訴え始めた。まだ頬にくっきりと拳の感触が残っていて、顎の形が変形したのかと思った。
 しかし、嗚咽だけは無理をしてでも喉の奥に引っ込めた。今ここで泣き崩れたら、一生立ち直れないくらいプライドがずたずたになる、と思った。
「どんな絵だ。ノートは持っているだろう。描いてみろ」
 宮川はちょっと身を乗り出し、じれったそうに命令口調になった。
 ツグミはちょっと躊躇して、宮川と大男を見た。嫌だ、と思った。でも、声に出して言えなかった。ツグミが拒否できる立場ではないのだ。
 ツグミはリュックを開けた。中には教科書とノートが少しと、筆記用具が入れてあった。ほとんどは学校に置きっぱなしだ。
 物理のノートを引っ張り出し、リュックを下敷きにして、いちばん後ろのページを開いた。物理はほとんどノートを取らないから、一番後ろは、新品みたいに真っ白だった。
 ツグミはいまだに止まらない涙を拭って、ボールペンを握った。描く前に、思い出そうと目を閉じた。そうしながら、「川村さん、ごめんなさい」と謝った。川村はこのために、回りくどい方法で貸金庫に絵を隠したのだ。それを、何もかも台無しにしてしまった。
 ツグミは目を開けた。罫線が引かれただけのノートに、ボールペンを走らせた。物凄い速度で、紙の上に形が現れた。
 すぐに絵は完成した。ツグミはページを破り、宮川に差し出した。
「……何だ、これは?」
 宮川は、それまでの調子を変えて、呆れたような顔をした。
「絵です。あと、これに雨が降ってしました」
 ツグミは自分の絵に補足した。
 しかし、何一つ伝わった様子はなかった。無理もない。あまりにも下手だった。
 ノートには船らしきものと、どこかの港らしき風景が描かれている。それが、ぐちゃぐちゃに混乱した線の中で、偶然たまたま、船らしき形になった、という代物だった。
 ちょっと注意して見ないと、何が描いてあるのか見当もつかない、一言で酷い絵だった。毎日ずっと絵と向き合って生活している人間の手によるものとは思えないくらい、予想を上回る稚拙さだった。
 宮川は諦めが付いた、という感じに溜め息を吐いた。
 少しでも絵に理解のある人間が見れば、冗談で描いたものではないくらいすぐわかる。技術のある人間が下手な振りをして描いても、どこかに感性の高さや技術の断片が残ってしまうものなのだ。
 そういう観点からいうと、ツグミに絵の才能は、一片もなかった。それこそ、宮川の気分を完全に削ぐに足りるくらいの、技術の低さだった。
 それに、絵が何を示しているのか、全く意味不明だった。
「もういい。家まで送ってやれ」
 宮川は首を捻って、運転席の男に指示をした。運転手は野太い声で「はい」と答えた。

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■2016/01/14 (Thu)
第8章 秘密都市セント・マーチン

前回を読む
 3日後の朝、150人の選抜された精鋭達が、千人近い兵士に伴われて城を出た。城を出ると、すぐにネフィリムの大軍勢との戦闘になった。これを切り抜けるために、千人の兵士が動員されたのだ。
 兵士とネフィリムの戦いは苛烈を極めたが、それでも魔の軍勢の間に突破口を作り出すと、精鋭達は戦場を駆け抜けていった。
 旅が始まると、150人の戦士達は50人ごとの軍団に分かれて、それぞれの地下空洞の入口を目指した。東はバン・シーとセシルを筆頭とする50人。南は土地勘があるということからオークが先頭に立った。西の方角にはウァシオを中心とする軍団が向かった。
 オークは急ぎの遠征ながら、旅先に見える風景の1つ1つが懐かしく、かつての旅に1人思いを馳せていた。随伴した僧侶の提案で、大パンテオンにも立ち寄った。地上のネフィリムの数が異様に多くなり、誰もが神聖な聖地がどうなっていたか気がかりであった。
 しかし意外にも大パンテオンは、老師達による結界が張られ、ネフィリムの襲撃は皆無であった。周辺の村や集落にも僧侶が派遣され、被害の情報はなかった。
 オーク達は思いがけず平和な風景に出くわし、兵士達は旅の成功をそこで祈願して、1日逗留した。
 その後の旅は過酷なものになっていった。ネフィリムの勢力は国土全体に及び、人里少ない場所へ行くと、小規模のネフィリムに何度も遭遇したし、行く先々でネフィリムに襲われて壊滅した村や町に出くわした。
 生き残っている村では、人々が防衛のために同盟関係を結び、団結してネフィリムの戦いに取り組んでいた。旅の予定にはなかったが、オークはそういった村を見付けては加勢し、壊滅させられネフィリムの根城になった村を見付けては容赦のない攻撃を加えた。
 そうしている間にも、遠征の日々は過ぎていく。オーク達は着実に南へと歩を進めていった。そろそろ洞窟のある森が近い。オークは草原のはるか彼方に目を向けた。

オーク
「あの方向に古里があります」
アステリクス
「それは懐かしいでしょう」
オーク
「……不思議と何の感情も沸いてきません。ミルディであった頃があまりにも昔に思えます」

 名前が変わってから、ミルディであった頃が急速に過去の遺物に感じられるように思えた。記憶が失われたのではない。あそこでの日々や暮らし、戦い……。全て覚えている。しかしなぜか生々しいものがそこになく、どこか他人の記憶のようにすら感じられた。

アステリクス
「こんな時代だからでしょう。戦が終われば、一時帰郷するのがよろしいでしょう。疲れた体を癒やすには、古里が一番です」
オーク
「いいえ。あの里はすでに絶えました」
アステリクス
「……そうでしたか」

 オークは淡々と答える。今はオークとして、洞窟に向かうことが先決だった。

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