■ 最新記事
(08/15)
(08/14)
(08/13)
(08/12)
(08/11)
(08/10)
(08/09)
(08/08)
(08/07)
(08/06)
■ カテゴリー
お探し記事は【記事一覧 索引】が便利です。
■2016/02/17 (Wed)
創作小説■
第9章 暗転
前回を読む
11
間もなく夜の時間が訪れようとしている。西の空に淡いオレンジを残していた。夜空には星が小さく浮かんでいる。オーク達はソフィーやアレスを含む8人の小隊を結成して、馬に乗った。ゼインとルテニーが見送りにやってくる。
オーク
「では行ってきます。しばしの留守の間、砦を委ねます」
ルテニー
「ああ。俺の忠告忘れるなよ」
オーク
「ええ。そちらも。嫌な予感がします」
ルテニー
「余計なこと言うな。行け!」
ルテニーはオークが乗る馬の尻を蹴った。オークの馬が勝手に走り始める。それを合図に、オーク達の一団が駆け出した。
出発すると、ソフィーが杖の先に光を宿した。ささやかながらに辺りを照らす。その明かりを頼りに、馬を駈足くらいの速度で進ませた。
日が沈むと辺りは急速に暗くなる。夜の冷たさが、足下から広がっていくように感じられた。
復旧の進んだ道路が途切れて、荒れた道が現れた。管理されていないでこぼこの道に、草が深く生い茂っている。崩れかけた建物が、夜の闇にシルエットになって浮かび上がる。蔦や茨を絡めた木々が無秩序に生えていた。人の手を離れた陰気さが、風景全体に漂い始める。
オーク達一行は馬を下りて、側の木の枝に括り付けた。それからは周囲に警戒を払いながら、高い草むらに混じるように静かに進んだ。ソフィーが先頭に立ち、時々立ち止まっては杖の先を緩く振る。バゲインの気配を探っている様子だった。
オーク
「伏せて!」
オークは短く警告する。
兵士達が草むらに身を潜める。
行く手の闇に、霧が漂っていた。暗闇が白く霞んでいる。その只中を、何者か草むらを分けながら歩いている。人間のような姿をしていたが、昆虫のような鎧に全身が包まれていた。首がなく、肩の上に大きな頭を載せているようだった。それが3体ほど、草むらの中を歩いていた。
ソフィーが杖の明かりを消す。
ソフィー
「魔法のミストです。あの向こうに強い力を感じます」
ソフィーは草むらに潜みながら、霧の向こうを示した。
オーク
「行きましょう。アレス」
アレス
「任せろ」
オークとアレスは、兵士を引き連れて左右に分かれた。
鎧の怪物は、オーク達に気付かず、草むらの中を歩いている。ソフィーは行く末を見守った。
オークが草むらから飛び出した。同じタイミングでアレスも飛び出す。オークの剣は、迷いなく鎧の怪物を捉えた。鎧の怪物は、人ならざる奇怪な声を上げて倒れた。鎧の中は虚ろだったらしく、バラバラになって崩れる。アレスも標的を仕留めていた。
残りはもう1体。オークとアレスが接近する。鎧の怪物が剣を抜いた。オークとアレスが同時に攻撃する。鎧の怪物が最初の一撃を受け止めた。オークとアレスは素早く剣を繰り出す。鎧の怪物を切り裂き、ついにその頭が吹っ飛んだ。
戦闘の緊張が去り、ソフィーはふぅと息を吐いて草むらから頭を出す。
オーク
「ソフィー!」
オークが警告する。
ソフィーは振り向きざまに杖を突きだした。杖の先が白く光る。背後に鎧の怪物がいた。鎧の怪物は突然の光にのけぞる。ソフィーは杖で怪物を殴った。怯んだそこに、炎の塊をぶつける。鎧の怪物が倒れた。側にいた兵士が、剣でとどめを刺した。
次回を読む
目次
PR
■2016/02/16 (Tue)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
5
宮川は14年前まで『蛇頭(※)』と呼ばれる中国マフィアの1人だった。『蛇頭』は密入国の斡旋を中心に、誘拐や売春などを手がける、中国マフィアの中でも巨大な勢力である。日本の警察は過去に何度か宮川を逮捕したが、いつも証拠不十分として有罪が下ることなく、釈放していた。
「宮川が日本を拠点に活動を始めたのが、今から14年前です。潜伏先は点々としていて、警察も居場所を掴めないのが現状でした」
木野の優しげな雰囲気はどこかへ消えて、重い調子で説明を続けた。
「それで、宮川は今、何をしているんですか」
ツグミは緊張して胸が苦しかったけど、自分でも思いがけず身を乗り出していた。
「宮川の最近の仕事は、中国で製造された絵画の輸入です。中国には町ぐるみで贋作絵画を制作する工房がいくつもあって、宮川はその絵画を日本に持ち込んで、売りさばいているんです」
「違法では、ないのですか?」
木野が何気ない調子で話すのが不思議に思えた。「贋作絵画の制作」という言葉にどうしても引っ掛かってしまったからだ。
「もちろん違法です。しかし残念ながら、日本の税関は、贋作絵画に輸出入に関してはノーチェックですから。偽札や薬物は厳しくチェックしますが、個人のコレクションに関しては本物だとか贋物だとか調べません。ですから、“密輸”する必要すらないんです。それに日本人は、基本的に美術に関する知識が疎いですから、有名画家のサインが入っていたら、絵も見ずに買ってしまいます。自分が買った絵画が贋作かどうかを調べる人は少数ですし、贋作とわかっても通報するケースはさらに稀です。通報したところでほとんどの場合、自己責任の問題になりますし」
ツグミは、おぼろげながらに話の内幕が見えてくるように思えてきた。日本人は、根本的に芸術を愛でる精神がない。日本人が芸術品を手にする動機は、まず『お金』であり、次に『儲け』だ。日本人にとって絵画は、「芸術」ではなく「資産」なのだ。
だから画商も余計な手管を使わなくていい。ただ絵画を見せて、「本物ですよ」と囁けば、それだけで数千円で製造した絵画が数百万で売れてしまう。
日本人には絵画それ自体のクオリティを審査する能力は低い。はっきり言えば、絵の出来不出来について関心がない。有名かどうか。高額かどうかが重要なのだ。「より高く売れそう」というこれが絵画を所有するかどうかの絶対的な動機になっていた。
贋作絵画を買った数日後に、画商が姿をくらます……。そんな話は日本全国あちこちで聞く。それは立派な詐欺なのだけど、「儲ける」という下心を突かれた後ろめたさから、詐欺事件として通報されるケースは稀だ。
そういう理由で、警察の対応も遅れがちになっていた。
※ 蛇頭 中国福建省を拠点とする実在の中国マフィアだが、もちろんこの物語はフィクション。密入国斡旋を専門として、そのビジネス範囲は中国に留まらず世界中に広まりつつある。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
■2016/02/15 (Mon)
創作小説■
第9章 暗転
前回を読む
10
オークは地図を広げた。砦の周囲の海岸線を描いた地図だ。ソフィー
「私が感じたのは西の方角。おそらく、この辺りです」
ソフィーが地図の西側を示した。
オーク
「まだ工事を始めていない部分ですね。廃墟のいずれかにバゲインが棲み着いたのでしょう」
アレス
「廃墟に棲み着く化け物か……。どうする?」
オーク
「次の夜、行って戦いましょう。ソフィー、近くまで行けば、わかりますね」
ソフィー
「はい」
兵士
「待ってください。家に憑く化け物なら、昼の明るいうちに行き、建物を取り壊してしまえばよいのでは?」
ソフィー
「それでもバゲインは残ります。新しい家が建つと、そこにバゲインが移ってしまいます。姿を現す夜のうちに退治せねばなりません」
オーク
「私が行きましょう。アレス、協力してくれますか」
アレス
「もちろん。我々の得意分野だ。存分に働いてみせましょう」
◇
オーク達の会議を、物陰からひっそりと見守る一団がいた。パッツォとその手先である兵士達だ。
パッツォ
「……もう少し時間があれば、バゲインの力も強力になって、奴を容易に殺せたはずなのに……」
裏切り兵士
「仕方ありません。怪物はこちらの思い通りには動いてくれません」
パッツォ
「オークが不在になったら、作戦開始だ。仲間達に指令を送れ」
裏切り兵士
「はっ」
裏切り兵士はパッツォに頭を下げて、そこを退出する。
次回を読む
目次
■2016/02/14 (Sun)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
4
覆面車が妻鳥画像の前に到着した。ツグミがドアを開けて車から降りる。それから玄関を施錠せずに出てしまったと気付いてあっとなった。ガラス戸がわずかに開いたままになっていて、緑の暖簾が暗闇の中で密かに揺れていた。
ツグミは高田と一緒に妻鳥画廊に入り、明かりを点ける。間もなくして、警光灯を点けたセダンが次々とやってきた。白黒パトカーがやってきて周辺の道路の閉鎖をはじめ、鑑識のワゴン車もやってきた。
ツグミは木野と一緒に画廊のテーブルに着いた。高田は後から来た刑事や鑑識に、何かしらの指示を出しているようだった。
鑑識の人達がぞろぞろと妻鳥画廊に入ってきて、あちこちにアルミ粉を振りまき、あちこち表示板だらけにしてフラッシュを焚いた。
画廊の外から赤い光がちらちらと飛び込んでくる。異変に気付いたらしい近所の人達が集まって、ざわざわと噂話を始めているみたいだった。
妻鳥画廊の中も外も人で溢れ返る。ツグミは何となく自分が場違いなような気がして、椅子に座りながら、身を小さくした。画廊がこんなふうに騒々しくなるのは初めてだし、それに警察の人達が何となく恐くて、他人の家に迷い込んだような居心地の悪さだった。
「気にしないだください。警察ですから、物がなくなっているとかそういうの心配はありませんよ」
テーブルの向かい合った席に座った木野が、ツグミに微笑みかけた。
「は、はい……」
ツグミは木野の雰囲気にちょっと安心しかけたが……。
台所でパリーンッと割れる音。ツグミはビックリして首をすくめる。
「……ごめんなさい」
木野は微笑みを引きつらせて頭を下げた。
ツグミは不安を通り越して、憂鬱な気持ちになった。
「私にもカメラを見せてくれますか」
「はい、どうぞ」
ツグミはテーブルの上に置いていたEOSを木野に差し出した。
木野はEOSを受け取ると、保存されている画像を閲覧する。
「ツグミさん、この男の人とは、知り合いですか?」
木野がツグミにEOSのディプレイを向けて、尋ねた。宮川大河が映っている画像だ。
「いえ、知り合いというんじゃないです。最近、付きまとわれているというか……」
ツグミは、ディスプレイの宮川をちらっと見ると、体ごと背けてうつむいた。自然と、言葉に嫌悪がこもった。
「何者かはご存知ですか」
木野がちょっと身を乗り出すようにする。
「いいえ。名前は宮川大河。クワンショウラボの人ということしか……」
ツグミは怪訝に思いながら、顔を上げた。
「わかりました。じゃあ、高田さんが戻ってくるまでに、一通りの説明をしておきますね。ちょっと長くなりますけど」
木野はEOSの電源をオフにした。木野は看護婦が「お薬入れておきますね」と言う時のような事務的な感じと穏やかさを混ぜた調子で言ったが、どことなく改まった感じがあったように思えた。
ツグミはにわかに緊張して、木野をほうを向き直った。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです
■2016/02/13 (Sat)
創作小説■
第9章 暗転
前回を読む
9
間もなく夜が明けようとしている。砦がほのかな光に浮かび上がろうとしている。朝と夜の端境の時間に入り、影はより深く、沈黙は冷たさを引き連れて漂う。人の影のない新しい道路に、何かが現れる。頭には目や鼻がなく、大きく引き裂けた口から、舌をちろちろと出していた。背骨は曲がり、脚は獣のように太く、長い尻尾を持っていた。明らかに人ではなく、魔の眷属だった。
そんな怪物が3体、辺りを警戒するように見回しながら、道路を進んでいく。
バルコニーを歩いていた兵士が、道路を歩く得体の知れない化け物に気付く。
見張り兵士
「ば……」
叫ぼうとした。が、誰かが見張り兵士を掴んだ。何者かは見張り兵士を掴み、その首をナイフで裂いた。見張り兵士が呻き声を漏らす。さらにナイフで心臓を一突き。見張り兵士は死んだ。
殺したのは同じ兵士だった。裏切り兵士は自分が殺した兵士を引き摺って、建物の奥へと引っ込んだ。それと入れ替わるように、パッツォがバルコニーに出てきて、化け物の様子を見守った。
化け物は建物の中へと入っていく。建物の中を探るように見回しながら、奥へと入っていく。
と、そこに女が横切った。女は化け物に気付くと、持っているものを落とす。
女
「キャー!」
金切り声が砦中に響く。
兵士達が飛び起きた。武器を手に殺到する。化け物達も戦闘態勢に入った。興奮して奇怪な声で叫ぶと、目に付いた人に襲いかかった。
化け物は大きな脚で高く跳躍した。兵士に被さると、爪で引き裂き、牙で喉許を噛み切った。
化け物は次々と兵士達を殺す。兵士達は武器を手に化け物に斬りかかる。化け物は素早く、しかも強靱な生命力の持ち主だった。刃で切っても、矢で射ても、なかなか致命傷にならない。
アレス達流浪騎士団たちもやってきた。オークも剣を手に飛び出してくる。ソフィーもやって来て、兵士達に祝福を与える。
化け物は砦の施設を破壊し、兵士を殺害していく。兵士達は果敢に戦い、ついに化け物を撃退した。
オーク
「……これで終わりですか」
化け物の黒い血を浴びて、まだ戦闘の興奮が収まらないように息をしている。
アレス
「どうやら終わりのようだ。しかしこいつはいったい何だ?」
ソフィーが道路に出て、杖を緩く振っていた。杖の先に、黒い粒がくるくると渦を巻いている。やがて黒い粒が消えた。
ソフィーがオークの許へとやってくる。
ソフィー
「バゲインです」
砦に、朝日が昇る……。
次回を読む
目次