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■2016/04/07 (Thu)
創作小説■
第10章 クロースの軍団
前回を読む
21
村を前に、クロースの軍勢は二手に分かれた。村に留まって戦う一団と、もう一団は村を大きく迂回して、城のほうへ逃げた兵士を追いかけた。クロース軍は逃げた兵士達を追いかける。逃げる兵士は、クロース軍にとって都合のいい案内人であった。
しかし王城までの道のりは、彼らにとって思いのほか長く、それに地の利はガラティア軍の側にあった。
アステリクス
「分かれろ! 分かれろ!」
アステリクスは分かれ道まで来たところで指示を出した。兵士達は特に指示はなくとも、命令を理解して、二手に分かれた。一方の道は王城に通じているが、もう一方はまるで別の場所に出る道だ。
アステリクスはあえて間違えた道を選んで進んだ。クロースの騎士団達が、追いかけてきた。引っ掛かってくれた!
ただ、クロース騎士団の勢いは凄まじかった。逃げる兵士達を次々と薙ぎ倒し、迫ってきた。
その時、思いがけず側の茂みが2つに割れた。騎馬の一団が飛び出してきて、クロース軍を横殴りに襲った。
その騎馬たちを見て、アステリクスが顔を明るくした。オーク達であった。
アステリクス
「オーク殿! 生きておられたか」
オーク
「何とか。逃げる最中で仲間を集めて追いかけてきた。まだ撤退には早いぞ! 持ちこたえさせよ!」
オークが指令を出した。大盾を持った兵士達が道を寸断するように並んだ。
オーク
「ここが踏ん張りどころだ! 戦えケルトの戦士達!」
クロースの騎士団が迫ってきた。大盾を持った歩兵が前に出る。槍が歩兵を攻撃する。だが歩兵達は踏ん張った。騎士団が大盾の前に留まった。
オーク達が飛び出した。反撃の時だ。オーク達の騎士団が敵を攻撃した。騎士たちが剣を交えた。もはや策などなにもなかった。両軍がぶつかり合い、死力を尽くして斬り合い、殴り合った。修羅が街道を多い、混沌とした戦いはその後何時間も続いた。
やがて夜空が白み始めた。東の森に、朝日が煌めくのが見えた。
オーク
「よし、ここまでだ! 退却せよ! 退却せよ!」
オークの合図に、戦士達は戦闘をやめて走った。クロース軍が追いかけてきた。
オーク達は全力で走った。敵も全力で追いかけてくる。足の遅い兵士は敵に追いつかれ、刃の餌食になった。騎馬が追いすがり、矢も飛んできた。敵の勢いに、兵士達が次々と飲み込まれていく。オークはどんな攻撃も相手にせず、走った。
辺りは俄に明るくなっていく。くっきりとした影が浮かび始める。しかし空は厚く曇り、ぼんやりとした灰色を浮かべた。
ついに森を脱した。だがそこは、城とまるで違う場所だった。そこでオーク達は西へ進路を取った。
オーク達を追いかけて、いよいよ城だと思った兵士達は、まるで見当違いの場所に出てしまうのに当惑を浮かべた。だが怒りを浮かべてオーク達を追いかけた。
王城まであとわずか5リーグ(27キロ)だ。全力で走れば、2時間も掛からない。オークはその距離を、ひたすら走った。最後の頼みの綱は、セシル王が召集した軍団だけであった。
森を越えると、果たしてそれはいた。王の召集した軍団が、平原にいた。巨大な城壁を背景に、大軍勢が勢揃いしていた。
間に合ったのだ。オークたちは、仲間の許へと走った。軍団の中心で待ち受けるセシルと合流した。
セシル
「オークよ、よくぞ耐えてくれたな」
オーク
「あなたこそよく戦ってくれました。あなたはいつも期待に応えてくれます」
セシル
「そなたのお陰だ。何もかもな。さあ、戦おう。敵はやってくるぞ」
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■2016/04/06 (Wed)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
30
ツグミは寒いわけではなかったけど、何気なくトレンチコートのボタンを締めた。辺りはどんよりと暗く影を落とし始めていた。駐車場の街灯に、明かりが入り始めた。
もう遅いのかと思ったけど、まだ4時半だった。空が曇っているから、暗く感じるのだろう。
そんな時、駐車場に車が入ってきた。黒のトヨタ・クラウンに、黒のワゴン車が続く。
黒のトヨタ・クラウンと黒のワゴン車は“いかにも”な感じだった。ツグミも岡田も、身を乗り出してトヨタ・クラウンに注目した。
黒のトヨタ・クラウンは、岡田のワゴン車から1つ間隔を開けて駐まった。助手席側だから、ツグミから見て左手だ。黒のワゴン車は、トヨタ・クラウンの向こう側に並んで停車した。
ツグミはじっとトヨタ・クラウンを観察した。トヨタ・クラウンの運転席と助手席から、男が1人ずつ降りてきた。運転席の男は体格がよく、黒のスーツで決めていた。服の上からでもわかる全身筋肉で、見覚えのある雰囲気だった。
助手席から出てきた男は、小柄で体全体が樽のような形をしていた。白のスーツに赤い蝶ネクタイ。脚を悪くているのか、左手に杖を手にしていた。容姿は、厚い唇に、小さな目。瞳は死人のように輝きがなかった。
ぱっと見の印象……いやじっくり見ても男の印象は深海の提灯アンコウだった。まるで、醜いパーツをわざわざ集めて組み合わせたような姿だった。同情すら一片も入る余地のない醜さだった。
しかし提灯アンコウは、何ともいえない気風を周囲に放っていた。全身筋肉のヤクザが、下っ端に見えるくらいの存在感を持っていた。あの提灯アンコウが、今回の交渉の主役だ。ツグミもここ何週間の経験で、そういうのがわかるようになっていた。
ツグミはワゴン車を降りた。岡田も運転席から降りた。
外に出ると、冷たい風が吹いてきた。風はツグミの髪を軽くなびかせた。さっきよりも、外の空気が冷たくなっていた。
「アンタ、誰や。宮川は?」
ツグミはキツめの声で、先制攻撃に出た。顔にかかる髪を、ちょっと押さえた。
「宮川は来ない。もう姿を見せんだろう。私はあの男の代理人だ。二ノ宮と名乗っておこう」
提灯アンコウ改め二ノ宮の声は堅気ではなかった。修羅場を潜り抜けた、ヤクザの声だった。
容姿も体型も、哀れとしか言いようのない二ノ宮だった。が、只者ではない佇まいがあるように思えた。どこか狂気じみた迫力だった。それは宮川にも通じる、独特の雰囲気だった。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2016/04/05 (Tue)
創作小説■
第10章 クロースの軍団
前回を読む
20
間もなく夕暮れだった。ガラティアの軍勢は村まで退避した。村ではある程度戦いの準備が整えられていたが、何万という相手を応じるには不充分だった。村の防壁はあっという間に崩壊した。クロース軍が侵攻し、蹂躙された。
ソフィー達はそこで踏みとどまった。村のあちこちで戦いの音がひしめいている。ソフィーは持っている杖で、敵兵を叩いた。
ソフィー
「オーク様は? オーク様を見ませんでしたか」
砦から逃げてきた兵士に、ソフィーが尋ねる。
しかし誰もが首を横に振った。
兵士
「無事でいることだけを願いましょう。さあソフィー様、行きましょう。逃げてください」
しかしソフィーは首を横に振った。
ソフィー
「私はここに残ります。残ってあの人を待ちます」
敵は澎湃と押し寄せてくる。ソフィーはそこで留まって戦う覚悟を決めた。
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■2016/04/04 (Mon)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
29
ツグミは岡田と一緒に、駐車場に入った。駐車場はそこそこに広さがあったが、ぽつぽつと車が駐まっているだけだった。駐車場の左右が深い森になっている。向こうの方が開けていて、六甲山が見下ろせるようになっていた。ツグミは駐車場の右奥に、白いワゴン車が駐車しているのに気付いた。岡田がよく使用している、あの小汚いワゴン車だ。あれから一切手入れしていないらしく、白の塗装がくすんでいたし、タイヤやその周囲が泥をかぶって汚れていた。
ワゴン車のすぐ後ろは斜面になっていた。眼下に深い森があった。
崖のような斜面から視線を上げると、六甲山のなだらかな稜線が見えた。深い森がゆっくりと続いて、その向こうに神戸の街がちらと見えていた。
ツグミはワゴン車の助手席側までやって来て、何気なく神戸の街に目を向けた。何となく神戸の街の風景に、心が囚われる気がした。
神戸の街はガスっぽい灰色に霞んでいた。少しも美しくはなかった。まだ夕暮れには早かったが、ぽつぽつと光を瞬かせていた。街の向こうに見える海が暗く沈んで、空の灰色と混じり合っていた。
岡田がワゴン車の鍵を開けて、運転席に乗り込んだ。岡田が助手席のロックを解除した。
ツグミはロックが解除されたのにしばらく気付かなくて、岡田が窓をトントンと叩くのにようやく気付いた。ツグミは返事するつもりで、ちょっと車の中に目を向けるが、どうしても気持ちは神戸の街から離れられなかった。
突然に、強い風が吹いた。周囲の木々が、ざわざわと騒ぎ始めた。
ツグミのコートが翻り、セミロングの髪が逆立った。山の風は強い上に冷たかった。ツグミは吹き飛ばされそうな気がして、体をくの字に曲げてしまった。
風の強さから逃れようと、ツグミは急いでワゴン車の助手席に乗り込んだ。
ワゴン車の中に入ると、風の音が遠のいた。ヒーターが入っていたけど、ろくに洗車していなかったから、カビの臭いが車両内全体を満たしていた。ツグミはあまりの臭いに飛び出したくなってしまったけど、窓の外は風が収まらないらしく、木々が枝を大きく揺らしているのが見えた。心の天秤は、すぐに暖かい車の中を選択した。
ツグミはワゴン車の後方を確認した。岡田のワゴン車は、美術品を積み込む都合で後部座席がない。今は座席の後ろに大きなコンテナが一つあるだけだった。コンテナが左右に揺れないように、しっかりとロープで固定されてあった。
コンテナは正方形に近い箱形だ。あまりにも大きく、コンテナ1つで後ろの空間を完全に独占していた。
このコンテナの中に、絵が立てた状態で入れられている。完全な密閉状態だから、中は確認できない。
「大丈夫や。その中に、ちゃんとレンブラントが入っとぉで」
岡田がコンテナを振り返って説明した。
ツグミは納得して頷いた。姿勢を元に戻し、助手席のシートに体を預けた。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2016/04/03 (Sun)
創作小説■
第10章 クロースの軍団
前回を読む
19
長城はついに打ち破られた。頑丈な石積みの壁が崩壊し、土煙が大きく噴き上がっている。その中を、敵が次々となだれ込んできた。それを、ソフィー達が遠くから見ていた。
アステリクス
「退避! 退避!」
戦意を失った兵士が、一目散に砦を捨てて逃げ出していく。アステリクスが仲間達に呼びかけながら、走っていた。
アステリクス
「退避! 村まで逃げろ! 退避!」
ソフィー
「待って。オーク様がまだ……」
アステリクス
「やむを得ません。今は退避してください」
ソフィー
「…………」
ソフィーはアステリクスに反抗して、瓦礫のほうへ向かおうとした。しかし目の前に敵が迫った。クロースの兵士達が狂乱の声を上げて、ソフィーたちに斬りかかった。
アステリクス
「さあ、早く!」
ソフィーはアステリクスに手を引かれて、その場を後にした。
◇
騒乱が通り過ぎていく音がした。オークはゆっくり目を覚ます。
自身の体が半分瓦礫に埋まっていた。長城が崩壊し、兵士達が通り過ぎていくのが見えた。オークはただちに状況を理解して、瓦礫の中から這い出た。
すると、敵がオークの存在に気付いた。
クロース兵
「いたぞ! 殺せ! 殺せ!」
クロース兵がオークに向かってきた。何人かで組を作り、瓦礫を登ってきた。
オークの手に武器はなかった。オークは瓦礫を駆け上った。登り詰めたそこに、大鍋が1つ置かれていた。その中で、まだ油がぐつぐつと煮えたぎっていた。
オークは大鍋の前まで進むと、全力で大鍋を押し、瓦礫に向かって倒した。
灼熱の油が迫るのに、クロース兵は大慌てで引き返そうとした。油は勢いよく斜面を流れ、兵士達を飲み込んだ。その下を通行しようとしていた騎士団も、突然横殴りに迫る油に慌てふためいて、足並みを乱した。
オークはさらに火矢を放った。油が火を噴き上げる。長城の崩れた部分を、炎が分断するように遮った。そこを駆け抜けようとしていた兵士達は、突然の炎に遮られて踏みとどまった。
クロース兵
「あいつだ! あいつを捉えよ! 殺せ!」
敵が一斉にオークに向かってきた。瓦礫の四方から、敵が登ってくる。
オークは辺りを見回した。仲間はいない。オークただ1人だった。しかしオークは恐れず、むしろ瓦礫を駆け下りて、敵の只中に突っ込んでいった。
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