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■2016/04/17 (Sun)
創作小説■
第11章 蛮族の王
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3
間もなく夜が迫ろうとしていた。王城を蹂躙するネフィリム達は、ますます勢いついていく。そんな時間になり、ようやくジオーレ率いるクロース軍が城下町へ入った。
ただちに魔の軍勢がクロース軍に気付いて襲いかかろうとした。だが、僧侶達の杖が輝き、その前で足を止めた。ネフィリム達は光を前に、クロース軍には近付けなかった。
ジオーレ
「ホーリー!」
ジオーレが魔法の杖を掲げた。鋭い光が街全体を包む。まるで太陽が突然出現したようだった。あまりの光に、昼と夜が一気に反転したようだった。
光は街のあらゆる場所を巡り、明るく照らした。ネフィリムたちはあまりの強烈な光を前に、力を残している者は逃げ去り、手負いの者は耐えきれず体を弾けさせた。
ネフィリムが街から一掃されるまで、あまり時間は掛からなかった。街から修羅が去り、静けさが戻りはじめても、杖はまだ光を鈍く宿していた。
ジオーレ
「これが神の奇跡だ! 人々よ、我が神を信じよ! 我が神を信じる者のみに救いが与えられるぞ!」
人々が光に導かれるようにジオーレの前に集まり、畏敬の念に打たれて膝をついた。
◇
夜の草原を、一騎の騎馬が走っていた。騎士の腕の中に、オークがいた。まだ息はあったが、その命が今にも途切れてしまいそうだった。
突然、背後に光が立ち上った。騎士は驚いて馬を留めて、後ろを振り返った。強烈な光がそこに現れ、城壁を真っ黒な影に反転させた。ネフィリムが大慌てで城から逃げ出すのが見えた。騎士のいる足下の草原すら、昼のような光が射していた。
しかし騎士が感じていたのは、畏怖ではなく脅威だった。
兵士
「……ケルトの城は落ちた」
間もなく光は失われた。騎士は馬の腹を蹴り、道を急いだ。
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■2016/04/16 (Sat)
創作小説■
第6章 フェイク
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35
間もなく、トヨタ・クラウンは、トンネルを抜け出した。トンネルを抜けると、夜になっていた。防音壁の周囲が暗く沈んで、照明が当たっている部分だけがオレンジで浮かんでいた。ツグミは、もう二ノ宮に話しかけなかった。訊くべき情報はもう訊いた。ツグミは二ノ宮を無視するつもりで、体を窓の外に向けた。
トヨタ・クラウンは、阪神高速から中国自動車道に移った。
とはいえ風景に変化はない。山間の道を進むようになって、防音壁がなくなっただけだった。トヨタ・クラウンを取り囲む車も、ぽつぽつと少なくなっていく。
トヨタ・クラウンが高速道路から外れた。初めて減速して、料金所に入った。
ツグミは「どこなのだろう」と標識を探した。料金所の入口に、「福知山市」とあった。
ツグミは神戸市以外の地域に疎かった。福知山市がどの辺りなのか、皆目わからなかった。もっとも、鑑定の依頼がなければこもりがちな性格だから、神戸市内の地理も少し怪しいところはあったが。
トヨタ・クラウンは一般道路に入った。ツグミは街の特徴を捉えようと、窓の外を見詰めた。
静かな通りだった。建っている家はぽつぽつとあるだけで、どれも廃屋だった。通りは街灯の明かりだけで、ひどく暗かった。道路から一歩外れると、真っ暗闇で、何も見通せなかった。
福知山市は田舎のようだった。ただそれだけで、何ら特徴を見出せなかった。
そんな通りで、トヨタ・クラウンが右折した。空き地みたいな場所だった。
ツグミは窓から全方位を見回した。空き地、以外の表現方法が見当たらなかった。雑草が高く茂っていて、投げ込まれたゴミが混じっている。街灯の明かりもなくなって、真っ黒な草むらのシルエットが、車の周囲を覆っていた。悪路らしく、車が大きく揺れた。ツグミは振り飛ばされないように、シートと窓に縋り付いた。
しばらくして、草むらの向こうに2階建ての大きな建物が現れた。明かりがないので、建物は外壁の色すらわからないくらいに真っ黒だった。暗闇の中に、平坦な立方体がさらに深い影を湛えて佇んでいた。廃墟というか、心霊スポットという風情だった。
トヨタ・クラウンは、フェンス手前の駐車スペースに駐まった。ヘッドライトが消えて、エンジンが停止する。
どうやら到着らしい。ツグミは右手のドアを開けて、車を飛び降りた。誰かに促されて出るのは、もう嫌だった。
降りてみると、トヨタ・クラウンの左手に黒のワゴン車が駐車しているのに気付いた。絵画を運んだワゴン車に違いなかった。
別の車も何台か駐められてあった。廃車みたいな車もあった。車の表面が錆びて、窓ガラスが打ち破られていた。
それとは別に、真新しい車も駐車していた。ツグミはちょっと気になって、そのうちの1台に注目した。
ダイハツ・ムーブだ。トヨタ・クラウンと並べると、小柄で曲線が多い。ごつい車ばかり見ていたから随分と可愛らしく思えた。
「何をしている。来たまえ」
二ノ宮が運転手を連れて、建物に向かっていた。
ツグミは杖を突いて、二ノ宮を追いかけた。
運転手の男が入口のドアを開けて、頭を下げて入った。2メートル近い身長では、普通のドアがやや小さいらしい。ツグミは二ノ宮に続いて、建物の中に入った。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2016/04/15 (Fri)
創作小説■
第11章 蛮族の王
前回を読む
2
セルタの砦後方の村では、いまだに攻防戦が繰り広げられていた。しかし多くの兵が傷つき、今は戦闘休止状態に入っているが、敗戦は決定的だった。村はクロース軍にすっぽりと囲まれている。間もなく一斉に攻めてくるだろう。
ソフィー
「これで最後ですね。行ってください」
ソフィーは負傷兵を馬に乗せた。
兵士
「でもあなたは……」
ソフィー
「私はいいのです。足を怪我してしまいました。逃げられません。さあ早く。行ってください。生き延びてください」
ソフィーが馬の尻を杖で叩いた。兵士は抗ったが、馬が勝手に走り始めた。
残ったのは死んだ兵士と、もう何の意欲もない兵士ばかりだった。戦える勢力がその中にあるとは誰も――ソフィーですら思っていなかった。
敵の軍勢が動き始めた。村全体を何重にも取り囲んでいる。万事休す……それ以外の言葉はなかった。
不意にソフィーは目に涙を浮かべた。
オーク様はどこへ行ってしまったの?
ついにソフィーはオークの姿を見なかった。オークが城へ向かったなど、ソフィーが知るはずもない。ソフィーはオークが砦か、この村の近くにいると信じていた。だがその姿をついに目撃できず……。ソフィーは愛する者の死を覚悟した。
ソフィーは座り込むと、居住まいを正し、土の上に何か描き始めた。魔力は失っていたが、魔方陣を土の上に描いた。そうして、ソフィーは瞑想状態に入り、祝詞を唱えた。
心を鎮め、死の運命を受け入れるのには、これ以外の方法は思い付かなかった。
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■2016/04/14 (Thu)
創作小説■
第6章 フェイク
前回を読む
34
トヨタ・クラウンがトンネルに入った。オレンジの光が車全体を包み込む。オレンジの光で、車の中はむしろ影を濃くした。風を切るような音が、唸るような重さを持って車内を包んだ。
「それで? フェルメールは日本に入ってきた。その後、アンタらが購入した」
ツグミ話の続きを促した。
「その前に例の港湾会社が潰れた。アレが盗み出されたのは1990年だ。日本はまだバブル景気のつもりでいた。ところが、アレがようやく日本に入ってきたのはその4年後……。社会そのものが変わっていた。連中はアレで大儲けするつもりで、あちこちに金を撒いていた。それを回収するまでに、企業を維持する体力がなかったわけだ」
二ノ宮は絵画を『アレ』呼ばわりした。
ツグミは二ノ宮を心から嫌悪した。『アレ』と呼べるから、貴重な絵画を盗めるんだ、と。
「でも、それはアンタらにとっては、都合がよかったんやろ。倉庫から持ち出すだけで良いようになったんやから。それでもアンタらは警戒した。アンタらは来歴を隠すために『絵ころがし』をやった」
車の中とはいえ、トンネルの中の騒音はかなりのものだった。ツグミはいつもより大きな声を出して、二ノ宮を挑発した。
「そんなところだ。我々は『予約』と呼んでいたがね」
二ノ宮が窓の外に目を向けた。ツグミは二ノ宮の横顔を見た。その顔に僅かな打撃が浮かんでいるように見えた。
なぜならばその後、予想もしなかったトラブルが起きたからだ。
絵ころがしの過程で、妨害者が現れたのだ。ツグミの父である太一であり、大原眞人であり、そして川村鴒爾だ。
宮川たちは、フェルメールの『合奏』を恐らく数年後くらいの間に入手するつもりでいたのだろう。しかし8年前、事件が起きて、フェルメールの『合奏』は完全に行方知れずになってしまった。
ツグミにとって、途方もない時間の流れのように思えた。フェルメールが盗み出されてから18年(※)。フェルメールを中心に様々な事件が起きた。今現在も、事件は進行中だ。ツグミは知らないうちに、事件の渦中にいたのだ。8年前のあの日から今に至るまで。
※ 物語の舞台は2008年の設定。執筆当時。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2016/04/13 (Wed)
創作小説■
第11章 蛮族の王
前回を読む
1
夕暮れが過ぎても、城下町から虐殺は去らなかった。ネフィリム達の暴虐を前に、人々は為す術もなく、兵達は引き下がるしか術はなく、街はネフィリムの思うままに蹂躙された。しかしそんな最中でも、戦う兵士達がいた。オークとその配下の者達である。魔の者は街を支配し、蹂躙し、群がり溢れていたが、オーク達一党は最後まで諦めず果敢に戦い続けていた。
それも多勢に無勢。兵士達は次々に倒れ、じりじりと後退していった。
兵士
「……この城はもう駄目だ。逃げましょう」
オーク
「駄目だ! 戦うんだ!」
しかしそう言うオーク自身、なんら有効な策はなかった。ただ迫り来る敵に挑み、斬り伏せるだけだった。生まれついての殺戮者を前に、戦う以外の方法はなかった。
オーク達は傷ついていた。すでに兵士達の中に、五体満足の者はおらず、オーク自身、全身に刃傷を受けていた。仲間達の死を何度も目撃し、時に見捨てることもあった。こんな修羅に安全な場所はなく、医術を持つ者もおらず、誰かを救うことはできなかった。
ネフィリムの軍団はどんどん迫ってきた。オーク達がどんなに斬り伏せようとも、街を覆い尽くすネフィリムの数を思うと、その仕事は微々たるものに過ぎず、その勢力は変えられなかった。
やがてオークは無数のネフィリムに囲まれ、刃に刻まれ、遂にハンマーの一撃が頭を捉えた。
兵士
「オーク殿!」
兵士が駆け寄った。オークは気を失っていた。だが絶命していなかった。
ネフィリム達はなおも襲ってくる。兵士は無我夢中で剣を振り回し、ネフィリムを退けた。仲間達も、オークを守ろうと飛び込んできた。兵士達はネフィリム達を突き飛ばし、つかみ合い、殴り合いを演じて遠ざけた。
兵士
「まだ生きている。――運ぶんだ! この人を死なせてはならない。この人を城の外へ!」
兵士達はオークを魔の手から守り、馬に乗せて走らせた。
兵士
「行け! 行くんだ! 絶対に死なせるなよ!」
オークを乗せた馬は城下を突っ切り、群がり来る魔の手を退け、修羅を脱出した。
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