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■2009/07/25 (Sat)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P003 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい
 


教室の扉が開いて、担任の先生が入ってきた。先生の後に続くように、女袴姿の女の子が一緒に入ってくる。
9dbe6542.jpg「起立、礼、着席。」
私たちはバタバタとしながら、千里の号令に合わせて先生に挨拶をした。
「おはようございます」
先生は教壇の前に行き、よく通るけど太すぎないスイートな声で、私たちに挨拶を返した。
糸色 望先生。私たちのクラスの担任だ。
ちょっと痩せぎみの体型だけど背が高い。いつも書生風の着物に袴姿だった。顔は端整でやわらかな印象があって、眼鏡がよく似合っていた。まだ教職に就いたばかりの年若い先生だった。
糸色先生の雰囲気は、古風な佇まいと知的な利発さを同時に備え、それでいながらどこか危なげな弱さがあるような気がした。その知的な部分と危なげな感じが、なんともいえず魅力的で、私は頬杖をつきながら、うっとりと先生の顔を見詰めた。
「え~、皆さん。今日も中央線が止まりましたね」
先生はちょっと嬉しそうに報告した。私はうっとりした気分がどんよりと曇るような気がした。
糸色先生はかっこいいし知的な人だけど、何に対してもネガティブな反応を見せる人だった。言うことも考えることもいつも消極的で、周りの人も本人も暗い気持ちにさせないと気が済まないような人だった。
4fa6cecc.jpgちなみに、さっき先生と一緒に入ってきた袴姿の女の子だけど、さりげなく教壇の前の席に座って、かぶりつきで先生の顔を見詰めていた。
あの女の子は常月まとい。信じられないと思うけど、ストーカーの子だ。今は糸色先生をストーカーをしていて、いつどんなときも空気のようにつきまとっている。袴姿も、糸色先生に合わせた格好だった。
糸色先生は、ちょっと手元の書類を探るようにした。
「今日は特に連絡事項はありません。しかし、この頃、この高校周辺で失踪者がでているそうです。誘拐の恐れもあるらしいので、遅くなったら、早く家に戻るようにしてください、とのことです。……私も失踪したいなぁ」
先生は報告を終えて、ぼんやりと欝な顔を浮かべて呟いた。
また私たちは、先生に釣られてネガティブな気持ちになりそうだった。でも、千里が席を立った。
「先生、それはいいですから、早く授業を始めてください。」
千里は委員長らしく、厳しく業務の進行をさせようとした。
「ああそうですね。1限は私の授業でしたね」
と糸色先生は、黒板の上に貼り付けられた時間割表を振り返った。それから、しばらく時間をかけて考えるふうにし、
「……自習にします」
と疲れきったような声で言った。
教室中がざわざわとした。糸色先生の授業が自習になるのは珍しくなかった。というか、まともに授業やってくれる時のほうが少ないくらいだった。
そういうときの過ごし方はみんな心得ていた。静かに音を出さず、漫画を読み始める人や、音量を絞って携帯電話でゲームを始める人。千里だけは、ちゃんと教科書を出して本当に自習していた。
声を出して騒ぎ立てると、隣のクラスの先生が乗り込んでくるかもしれない。皆それがわかっているから、静かに声を潜めながら空白の時間を過ごそうというわけだった。それはクラス全体で共有する、ちょっとした共犯関係みたいなものだった。
私も勉強するつもりなんてもちろんないから、読みかけの漫画を引っ張り出した。すぐに漫画の世界に没頭して、現実世界の時間の流れを忘れた。
ふと、なんとなく顔を上げて、糸色先生の姿を探した。糸色先生は窓の側にスツールを置いて、カバーのない岩波文庫に没頭していた。多分、先生が学生時代から愛好しているプロレタリア文学だろうと思う。
糸色先生の側に、同じくスツールを置いて、まといがしおらしく座っていた。まといはすぐ側で糸色先生をじっと眺めていたけど、まるで存在が空気であるかのように自然で、先生もまといの存在を意識していないように読書に集中していた。
私は糸色先生の姿をうっとり眺めていたけど、まといの存在を意識して少し複雑な気分になった。まといは、端整な小顔に短い髪をきちんと切りそろえていた。袴姿のよく似合う美少女だった。あんなふうに同じ衣装で寄り添っていると、気のあった恋人同士か夫婦みたいだった。
私は軽く、嫉妬を感じていた。
すると、まといが私の視線に気付いて、振り返った。そうして、首を傾げてやわらかな微笑を浮かべた。「あなたも素敵って思うでしょ」と同意を求めているように感じた。
私は、見透かされたような気分になって、居心地悪く漫画に目を落とした。それに恥ずかしい気持ちに捉われてしまった。
糸色先生を狙っている女の子は、たくさんいた。まといがそうだし、千里も先生が好きだった。カエレも実は先生が好きらしい。他にも、先生を狙っている女の子はこのクラスの中にたくさんいた。
私も、先生をかっこいいなとか憧れるなとか思っているけど、それ以上に踏み込もうという気分になれなかった。ライバルはみんな凄い美人だったし、私には先生を振り向かせるような魅力も個性もないから。だから、後ろで見ているだけでいいって思っていた。
これが、私が通う2のへ組の教室。
本当言うと、私は6月末まで不登校だったから、クラスの皆を何でも知っているわけではない。
私は普通で平凡な女の子だから、ちょっとでも特別になりたかった。不登校になればみんなが心配して注目してくれると期待した。
でも、始業式から2ヶ月。誰ひとり私を訪ねる人もいなければ、電話を掛ける人もいない。私は毎日が退屈で退屈で、退屈すぎるからやっとあきらめて登校したのだ。
というか、乗り込むつもりで学校に飛び込んだのだ。それで、勢いよく教室の扉を開けて、
「どうして誰も心配してこない!」
あの時の、教室のシラっとした空気は忘れられそうにない。
しかもその時、糸色先生がまさかの不登校で、スクールカウンセラーの新井知恵先生が代理で教壇に立っていた。
ああやだやだ。思い出しただけでも恥ずかしい。あれは私の一番の暗黒史だ。
結局私は、何をやっても平凡から抜け出られないのだ。周りのみんなは、信じられないくらい個性的すぎで、私は平凡で個性のない自分を受け入れるしかなかった。
それでも、なんだかんだで2のへ組のみんなは私を受け入れてくれた。2のへ組の一人であることは、居心地の悪いものでもなかった。
そうして目立った事件もなく、7月に入っていた。夏に向けて、空気は蒸し蒸しと暑さを増していく。汗が絶え間なく体に浮かぶような暑さを感じながら、私はもうすぐ夏休みだな、とぼんやり考えていた。学校に登校を始めて、たったの1ヶ月で夏休み。今さらになって、私はなんだか損したような気分を感じていた。

次回 P004 第2章 毛皮を着たビースト1 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/07/24 (Fri)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にしたパロディ小説です。パロディに関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P002 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい


今日はいつもより早起きだった。
もしかしたら一番乗りかも、と思って教室の扉を開けると、やはりというかもう誰かがいた。
一級測量士の腕章を左の袖につけた女の子が、教壇の脇に測量機を置いて机の歪みをミリ単位で調整していた。
3d589daa.jpg木津千里だ。ちょっとでも歪みを許さない、几帳面な女の子だ。だから2のへ組の机は、常に碁盤目のようにきちっと整列していた。
「おはよう、千里ちゃん。もういい?」
千里が測量機の片付けに入ったので、そろそろいい頃かな、と私は声をかけた。
「おはよう、奈美さん。ええ、いいわよ。」
千里が私を振り返って笑顔で答えた。
長い髪を、額の中心で両側に振り分けた見事な富士額。何もかもきっちりしていないとすまない、千里らしい髪型だ。ちょっと小柄かもしれないけど、肌が白くてきれいな女の子だった。
私は自分の机まで行き、鞄を机の上に置いた。いつも机がきっちりしているから実に心地いい気分だった。
「ちょっと、あなた。」
でも千里が、恐い声になって私を睨み付けた。
「はい、なんでしょう」
私は始まった、と思って体を固くして身構えた。
「なんでそんなに鞄軽いのよ。ちょっと、机のなか見せない。――やっぱり! 教科書を置いていって。あなた、二ヶ月遅れているんだから、ちゃんと教科書持って帰って勉強しないといけないでしょ。そもそも教科書を置いて帰るのは許しません! そういうところ、きっちりしてよ!」
千里は信じられないくらい凄い剣幕で私に迫ってきた。
きちんとしすぎて周囲にそれを要求する。美人だし、頼りになるところはあるけど、ちょっと口うるさいし、それに怒ると恐い女の子だった。
「うん、わかったから。ちゃんとするから、落ち着こうよ」
私は千里を宥めようとした。
d8bb1611.jpg「おはよう」
次に教室に入ってきたのは、低くクールな女の子の声だった。
「あ、おはよう。」
私と千里は同時に振り向いて、同時に挨拶を返した。
小節あびるだ。痩せていて、背の高い女の子だった。肩までの髪を三つ編みにしている。きれいな女の子だけど、体中が包帯だらけだった。右手はギプスに固められて吊っているし、左の目にはいつも眼帯。
詳しい事情はわからないけど、どうやら父親から暴力を受けているらしい。そんな噂が絶えず、だから包帯だらけなのだという。
「何か?」
あびるは自分の席に着くと、じっと見ている私たちにクールな目を向けてきた。
「ううん、別に。」
私と千里は、また同時に言って首を振った。あびるが現れると、気を遣うからかどうしても重い気持ちになってしまう。
53367414.jpgとそこに、空気を入れ替えるように教室の扉が開いた。入ってきたのは、高校生と思えないくらい小さな女の子だった。
「これ、落ちてた。まだ食べられる」
小さな女の子が、私にビニール袋を見せた。
「これコンビニのお弁当じゃない。駄目じゃない、勝手に持ってきちゃ」
ビニール袋の中は、形の崩れたお弁当で一杯だった。どうやら、コンビニで廃棄になった弁当を持ってきてしまったらしい。
この女の子は関内・マリア・太郎。やはり詳しい事情はわからないんだけど、男子生徒っていうことで登録されている。
マリアはどこかの国から日本に密航してきた人だった。肌は浅黒くて、手入れしていない髪はいつもバサバサだった。セーラー服にはスカーフがなく継が当ててあって、それに裸足だった。
マリアは同じく密航してきた人たちと貧しい暮らしをしているらしく、落ちているものでも拾って生活しないと、食べてもいけないそうだった。
「でも、まだ食べられるよ。賞味期限2時間過ぎただけだよ」
マリアは天真爛漫な笑顔で私に言った。貧しいけど、マリア自身に悲壮感はまったくなかった。
「確かにそうだけど……」
私はどう答えていいかわからなくて、言葉を詰まらせてしまった。
「日本、いい国ネ。賞味期限1秒でも過ぎたら、全部捨ててくれる。客が手をつけなかった食事も全部捨ててくれる。おかげで、マリア食べ物に困らない。ひとつ、いるか?」
マリアは愛らしい微笑で私に弁当のひとつを差し出した。
「いいよ。私は自分のお弁当持ってきてるから」
私は苦笑いで遠慮した。食べ物は残さず食べないとね。
ふと私のスカートの中に入れた携帯電話が振動した。誰かからメールが入ったらしい。
私は携帯電話を引っ張り出し、メールを確認した。
b82bd3b1.jpg《ゴミ漁りか 親父失業でもしたのか》
強烈な毒舌メール。私はどんよりしながら、芽留だな、と思ってその姿を探した。
音無芽留はいつの間にやってきたのか、自分の席にちょこんと座っていた。
「芽留ちゃん、違うから。あれは、マリアちゃんのお弁当だから」
私はちょっと叱るつもりで芽留の席に近付いた。
でも芽留は、目線を逸らして、素早く携帯に文字を打った。すぐに私の携帯が振動した。
《実況マダー?》
芽留は、直接会話しない。普段の芽留は大人しくて極端な口下手だけど、メールの中ではひどい毒舌になる。いわゆる、メール弁慶だ。
それでも、本人はちっちゃくて礼儀正しいから、直接何か言って怒ってやろうという気持ちにはなれない。
731f7429.jpg「ちょっとのいてくれる。訴えるわよ」
いきなり、私の側に圧倒するような背の高い金髪の女の子が現れた。
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
私は慌てて頭を下げて、道を開けた。
金髪の女の子は、私に挨拶もせず通り過ぎていった。
「あ~あ、ウザイ。あびる、昨日の宿題見せてよ」
「うん、いいよ」
金髪の女の子は、木村カエレだ。一応断っておくけど、不良の子じゃない。どこかの国の帰国子女で、ちょっと傍若無人なところもあるけど、あちらの国では普通らしい。
もともとは、クラスの成績アップのために投入された帰国子女だったけど、今ではすっかり足を引っ張っていた。どこの国の帰国子女なのか、いまだに誰も知らない。
そのとき、涼しげな風が流れ込んできた。7月の蒸し暑い空気がさっと流れたような心地よい気分になった。とそんなとき、すぐ側で何かがぱたぱたとはためくような気がした。
281060c5.jpgなんだろう、と振り向くと、いつの間にかすぐ側に、15センチもない場所に男の子がひとり立っていた。
「キャア! いつからそこにいたのよ!」
私はびっくりして、慌てて三歩下がった。
最初からいましたよ。ずっと側にね
男の子はニヤニヤ笑って、眼鏡の向うからいやらしい目で私を見ていた。
臼井影郎。眼鏡で高校生にして絶望的な薄毛。さっきはためいていたのは、臼井の寂しい頭髪だった。臼井は存在感が極端に薄く、こうしていつの間にか側にいることがよくあった。
「あっち行ってよ! 気持ち悪い!」
私はあからさまな嫌悪を示して、臼井を本気で蹴るつもりで足を振り上げた。
はいはい
臼井はニヤニヤした顔を崩さず、私の側から離れた。
ああ、もうやだ。私の周囲に臼井が吐いた空気があると思っただけでも気持ち悪くなって、そこから離れた。
9814aef2.jpgそんなどんよりとした空気も、すぐに新しい空気に入れ替わる感覚があった。
「おはよう、奈美ちゃん、千里ちゃん」
「おはよう、可符香ちゃん。」
私たちの側に現れたのは、風浦可符香だった。前髪を大きな髪留めで留めている女の子で、瞳の色が薄く、わずかに赤味がかっていた。
可符香は不思議な女の子だった。可符香が現れると、不思議と周りの空気がほんわか暖かいものに包まれるような気がする。どことなく、おとぎの物語に登場する妖精さんのような雰囲気があった。
ただ、
「昨日のお月様、血のように赤かったね。きっともうすぐ誰かに不幸が訪れるよ」
と可符香は、何もかもを包み込むような微笑と共に、信じられないダークネスな発言をした。私は思わずどんより重い気持ちになった。
可符香は接しているだけで明るく優しい気持ちになれる女の子だったけど、ちょっと電波なところがあった。
ところで、“風浦可符香”の名前は本当の名前じゃないらしい。本人曰く、ペンネームだそうだ。可符香の本当の名前は誰も知らない。どういう理由か、可符香は本当の名前を隠そうとしていた。
予鈴が鳴った。もうすぐ授業だ。
私は自分の机に座って、机の教科書を確認した。よしよし、ちゃんとあるぞ。
おっと、忘れるところだった。
7f7067f9.jpg私は日塔奈美。どんな女の子なのかというと……普通の女の子です。
見た目も、可愛いというほど可愛くないし、絶望するほどぶさいくでもない。何か得意のものがあるわけでもないし、変わった趣味を持っているわけでもない。学校の成績も、良くもなければ悪くもない。テストの点数はいつも平均点ピッタリだった。
何もかもが普通。どこにでもいる平凡で平均的な女の子。それが私だった。

次回 P003 第1章 当組は問題の多い教室ですから…2 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/07/23 (Thu)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にしたパロディ小説です。パロディに関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P001 序・子供たちは屋敷に消えた

新古典主義の様式を取り入れたその屋敷は、訪ねる者を容赦なく圧倒するような厳しさに満ちていた。正面に並んだ柱は、整然と並んで様式的な美しさをどこまでも増幅させている。アールヌーボーの様式を取り入れた彫刻は、屋敷の外壁に掘り込まれた彫刻と見事に調和していた。屋敷の佇まい、規模、そのどちらにおいても、主の莫大な財産と、堂々たる美意識を体現していた。
だが、今やその屋敷の何もかもは朽ち果てようとする寸前だった。細かなレリーフには亀裂が走り、蜘蛛の巣が張り付いている。繊細に作られた美術品は崩れ落ち、雨や風に晒された結果、泥を被ったように汚れている。さらにそのうえに、不届きな侵入者がスプレーで書きなぐったサインで、美しい感性が汚されていた。
屋敷には、かつての威厳や壮麗さなどひとかけらも残っていなかった。荒れ放題に伸びきった庭の植物が、屋敷の装飾に暗い影を落としている。様式的な美は、かつての造形を歪な形に変え、グロテスクな不気味さを炙り出していた。
男は、玄関扉に向かった。ロダンの『地獄の門』を取り入れた、巨大なブロンズの扉だった。それも雨で腐食して、職人が掘り込んだ造形の数々も、意味のないただのおうとつになりかけていた。そうなると、巨大なブロンズの門は、もはやただの重いだけの鉄扉でしかなかった。
扉の鍵は、壊されていた。長い年月の間に、侵入者が幾度となくここに立ち入ったのだろう。調度品の窃盗、あるいは若者の肝試し。そういった連中が頻繁にここを出入りし、美の屋敷にあらゆる陵辱を加えていったのだ。
その鉄扉を、ゆっくりと押し開けた。扉全体がぎぎぎと重く軋む音を立てて、正面玄関の白と黒の市松模様に光を投げかけた。
男が立ち入っていくと、靴音が甲高く周囲に響き、埃が舞い上がる。主の意思がどうであろうと、そこは廃墟であるのだ。気配のない空間に響く足音と厚く積もった埃の層が、建物自身が廃墟であると主張しているようだった。
男は構わず、杖を突き玄関広場に入っていった。和式玄関のような上り口はなく、玄関からそのまま果てしなく続く廊下へと続いていた。
その正面玄関から入ってすぐの廊下に、堂々たる石膏像がたたずんでいた。ミケランジェロの『ジュリアーノ・デ・メディチ』だ。
もちろん本物ではないレプリカだ。だが、職人が直接蓑を振るったその造形の美しさは、それでも圧巻だった。極端に発達した胸の筋肉。血管が浮かぶ様まで克明に追った描写力。筋骨逞しい青年の座り姿だが、その全体から臭い立つような官能が溢れ出ていた。身体に直接打ち付けているように見える皮鎧の鉄鋲。青年はこれでもかと裸の美しさを主張し、裸を誇張するかのように装飾品で飾り立てられていた。
青年像は、古くなっていたし埃を被っていたが、かつての輝きを失っていなかった。男は青年像を前にして、活力が漲るのを戻ってくるのと同時に、眠っていた情念が身の内に甦るのを感じた。
その時、無人の屋敷に何者かの気配が現れた。
「何者だ!」
男ははっと振り向き、警告の声を鋭く発した。
廊下の影が、静かに蠢く感触があった。その者は光の中には決して姿を現さないが、しかしだからこそ際立つ気配で存在を主張していた。
「お前か。なぜここに来た。もし誰かに我らの関係を知られたらどうする」
男は厳しく怒鳴った。
だが相手は、冷静な視線で男の姿を観察した。それでいて、何か懐かしむような情熱が目線に混じっていた。
「お前は余計なことをする癖がある。それが、この計画を台無しにしてしまうかもしれんのだ。わかっているんだろうな」
男は苛立つように、かつかつと靴音を鳴らし、じっと相手を睨み付けた。
闇の中の人物は、静かに言葉を返した。そのまま闇に吸い込まれそうな、静けさに満ちた声だった。
男は、諦めるようにため息をついた。
「まあよいだろう。あの男はどうしている。……そうか、やはりこの春、教職に就いたか。何もかも、順調に進んでいる。そういうことだな」
男は思考を巡らしながら、『ジュリアーノ・デ・メディチ』を見上げた。そうして、自身の計画の進行に頷き、相手を振り向いた。
「いいだろう。改めてお前に命令を下す。糸色望を抹殺せよ」
男は宣言するように、相手に命じた。
闇の中で恭しい挨拶をする気配があった。その直後、気配はすっと消滅した。まるで、闇に飲み込まれたように。

次回 P002 第1章 当組は問題の多い教室ですから…1 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/07/22 (Wed)
小説・さよなら絶望先生 ~赤い瞳の少女~ 目次

あらすじ:昭和80年。日塔奈美は2ヶ月の不登校状態から脱出して、数日が過ぎようとしていた。2ヶ月不登校だったバツで、日塔奈美は1週間連続の日直を命じられる。しぶしぶ受け入れた奈美は、花壇の手入れのために、中庭へ行く。しかし花壇は荒らされ、土が掘り返されていた。奈美は用務員の蘭京太郎に助けを求めようとするが、奈美が用務員室で見つけたのは、死体の断片を入れたホルマリン漬けだった。
当時、学校で引きこもりしていた小森霧により、事件の犯人は用務員の蘭京太郎と断定。しかし、蘭京太郎は事件発覚とともに逃亡。死体と共に姿を消してしまった。そのまま毎日が過ぎていき、奈美たちは夏休みに入ろうとしていた。

P001 序 子供たちは屋敷に消えた
P002 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい 1
P003 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい 2
P004 第2章 毛皮を着たビースト 1
P005 第2章 毛皮を着たビースト 2
P006 第2章 毛皮を着たビースト 3
P007 第2章 毛皮を着たビースト 4
P008 第2章 毛皮を着たビースト 5
P009 第2章 毛皮を着たビースト 6
P010 第2章 毛皮を着たビースト 7
P011 第2章 毛皮を着たビースト 8
P012 第2章 毛皮を着たビースト 9
P013 第2章 毛皮を着たビースト 10
P014 第2章 毛皮を着たビースト 11
P015 第3章 義姉さん僕は貴族です 1
P016 第3章 義姉さん僕は貴族です 2
P017 第3章 義姉さん僕は貴族です 3
P018 第3章 義姉さん僕は貴族です 4
P019 第3章 義姉さん僕は貴族です 5
P020 第3章 義姉さん僕は貴族です 6
P021 第3章 義姉さん僕は貴族です 7
P022 第3章 義姉さん僕は貴族です 8
P023 第3章 義姉さん僕は貴族です 9
P024 第3章 義姉さん僕は貴族です 10
P025 第4章 見合う前に跳べ 1
P026 第4章 見合う前に跳べ 2
P027 第4章 見合う前に跳べ 3
P028 第4章 見合う前に跳べ 4
P029 第4章 見合う前に跳べ 5
P030 第4章 見合う前に跳べ 6
P031 第4章 見合う前に跳べ 7
P032 第4章 見合う前に跳べ 8
P033 第4章 見合う前に跳べ 9
P034 第4章 見合う前に跳べ 10
P035 第4章 見合う前に跳べ 11
P036 第4章 見合う前に跳べ 12
P037 第4章 見合う前に跳べ 13
P038 第4章 見合う前に跳べ 14
P039 第4章 見合う前に跳べ 15
P040 第4章 見合う前に跳べ 16
P041 第4章 見合う前に跳べ 17
P042 第4章 見合う前に跳べ 18
P043 第5章 ドラコニアの屋敷 1
P044 第5章 ドラコニアの屋敷 2
P045 第5章 ドラコニアの屋敷 3
P046 第5章 ドラコニアの屋敷 4
P047 第5章 ドラコニアの屋敷 5
P048 第5章 ドラコニアの屋敷 6
P049 第5章 ドラコニアの屋敷 7
P050 第5章 ドラコニアの屋敷 8
P051 第5章 ドラコニアの屋敷 9
P052 第5章 ドラコニアの屋敷 10
P053 第5章 ドラコニアの屋敷 11
P054 第5章 ドラコニアの屋敷 12
P055 第5章 ドラコニアの屋敷 13
P056 第5章 ドラコニアの屋敷 14
P057 第5章 ドラコニアの屋敷 15
P058 第5章 ドラコニアの屋敷 16
P059 第5章 ドラコニアの屋敷 17
P060 第6章 異端の少女 1
P061 第6章 異端の少女 2
P062 第6章 異端の少女 3
P063 第6章 異端の少女 4
P064 第6章 異端の少女 5
P065 第6章 異端の少女 6
P066 第6章 異端の少女 7
P067 第6章 異端の少女 8
P068 第6章 異端の少女 9
P069 第6章 異端の少女 10
P070 第6章 異端の少女 11
※ここから先は、解決編となっています。
P071 第7章 幻想の解体 1
P072 第7章 幻想の解体 2
P073 第7章 幻想の解体 3
P074 第7章 幻想の解体 4
P075 第7章 幻想の解体 5
P076 第7章 幻想の解体 6
P077 第7章 幻想の解体 7
P078 第7章 幻想の解体 8
P079 終章 華やかな少女写真誌

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■2009/07/21 (Tue)
さよなら絶望先生 《総合》 目次

【第3期 懺・さよなら絶望先生】
第1回 落園への道 春の郵便配達は二度ベルを鳴らす 晒しが丘パート1
第2回 持つ女 おそろしや国タイム譚 晒しが丘パート2
第3回 ×の悲劇 私は日本に帰りませんそういう決心できませんでした ドクトル・カホゴ
第4回 余は如何にして真人間となりし乎 祝系図 ドクトル・カホゴ パート2
第5回 過多たたき アーとウルーとビィの冒険 ライ麦畑で見逃して
第6回 マディソン群のはしか 夜の多角形 ライ麦畑で見逃してパート2
第7回 アンドロイドは機械の花嫁の夢を見るか 将軍失格 ああサプライズだよ……
第8回 ああサプライズだよと、と…… 告白縮緬組 最後の、そして始まりのエノデン
第9回 尼になった急場 三十年後の正解 ジェレミーとドラゴンの卵
第10回 クラックな卵 君よ知るや隣の国 ジェレミーとドラゴンの卵パート2
第11回 眼鏡子の家 閉門ノススメ 学者アゲアシドリの見た着物
第12回 三次のあと 葬られ損ねた秘密 開門ノススメパート2
第13回 誤字院原の敵討 われらライナス 楽天大賞

【オリジナルアニメーションDVD】
獄・さよなら絶望先生・下

【かってに改蔵】
かってに改蔵 上巻
かってに改蔵 中巻
かってに改蔵 下巻

【原作コミックス】
さよなら絶望先生 第1集
さよなら絶望先生 第16集
さよなら絶望先生 第18集
さよなら絶望先生 第19集
さよなら絶望先生 第20集
さよなら絶望先生 第21集
さよなら絶望先生 第22集
さよなら絶望先生 第23集
さよなら絶望先生 第24集
さよなら絶望先生 第25集
さよなら絶望先生 第26集
さよなら絶望先生 第27集
さよなら絶望先生 第28集
さよなら絶望先生 第29集
さよなら絶望先生 第30集

【久米田康治原作作品】
じょしらく 第1巻 作画:ヤス
じょしらく 第2巻 作画:ヤス
じょしらく 第5巻 作画:ヤス
アニメ版
じょしらく 第1話&作品解説

【2次創作小説】
小説・さよなら絶望先生 ~赤い瞳の少女~ 目次ページへ
あらすじ:小石川町に、あの男が帰ってきた。人はその男を、「男爵」と呼ぶ。男爵が小石川町に戻ってきた理由はただ一つ――「糸色望抹殺」
小石川町を中心に、猟奇的な事件が発生。人々は恐怖と疑いに捉われていく。事件を解決するヒントを持っているのは、2のへ組の少女たちであった。
日塔奈美を主人公に描く本格絶望的・推理小説。

【試し読み】
P001 序 子供たちは屋敷に消えた
P002 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい 1
P003 第1章 当組は問題の多い教室ですからどうかそこはご承知下さい 2

【公式サイト】
アニメイトTV WEBラジオさよなら絶望放送(毎週水曜更新)
懺・さよなら絶望先生 公式ホームページ
獄・さよなら絶望先生 公式ホームページ
俗・さよなら絶望先生 公式ホームページ
さよなら絶望先生 公式ホームページ

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