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■2009/08/18 (Tue)
シリーズアニメ■
前巻までのあらすじ(第8集より)
アンドロイドは機械の花嫁の夢を見るか
原作158話 昭和83年10月29日
ある秋の放課後。糸色望は町の見回りついでに散策を楽しんでいた。原作158話 昭和83年10月29日
「ああ、先生。おひとついかがですか?」
露店に立っていたのは、気楽なパーカー姿の根津美子だった。2のへ組生徒の一人である。
しかし、
「氷1万円って、そんな値段では売れないのでは?」
「買わないんですか?」
根津はドライな言葉遣いで、望に購入を勧める。
「結構です」
本当に必要を感じない。そう思って、望は根津の前を通り過ぎていった。
角を曲がり、しばらく道を進んでいく。すると再び路上販売の露店が道の端に現れた。
望に声をかけたのは、丸内翔子だ。やはり2のへ組生徒の一人。丸内はやわらかな表情だが、妙に感情の冷たい声で望に商品を勧めた。
カウンターの上に載せらていたのは、マグロ風赤味ブロック。「5000円90%OFF→500円」と書かれていた。
「おお、これはお買い得ですね。買います、買います!」
望は商品に満足して頷いた。
「まいどー」
丸内は商品を包んで感謝を告げる。
これはよい買い物をした。望は満足で道を進んでいた。
だがそのとき、強烈な光が射し込んできた。秋とは思えないような、どこかで光を集めて注ぎ込んでくるような熱線だった。
「ああ、急に強烈な日光が。ああ、みるみる傷んでいく! どこに避けても、日光が追いかけてきます。近くのコンビニで、氷を買わないと……」
掌のマグロのブロックが、溶けるように鮮度を失っていく。望はおろおろとして道を右往左往した。
「ここらへん、10分以上歩かないとコンビニないですよ?」
丸内が現れ、望にさらりと教える。
「うわぁ、大変だ。マグロが腐ってしまう! どうしよう!」
望は大慌てで、もと来た道を引き返し始めた。
その途上に立っている根津の露店。望は、カウンターの上に置かれている氷にはっと目を向ける。
氷1万5千円。
「買った!」
「まいどー」
望は旅行ケースの中に砕いた氷を入れてもらい、そのなかにマグロを納めた。
宿直室に戻ると、ぷんすかと怒る霧が待ち受けていた。
望は「おかしいなぁ」と考える。賢い買い物をしたはずが、いつのまにか大きな出費になってしまっていた。
これは、“最初に損してあとで儲ける”という典型的なビジネスモデルだ。
例えば、最近のプリンター。本体は安いがインクは非常に高く、インクで利益を出している。
他にも、リゾートマンションがタダ同然のお買い得も、管理費月10万円でローン払っていると一緒だったり、
三ヶ月無料のノートン先生が、あるときから「俺いなくなったらヤバイよ」を連発。結局、製品版を買ったり、
望は、後で回収されるビジネスに引っ掛かって、絶望する。
そんな宿直室でのやり取りを見ていた、根津と丸内。
「なるほど。そういえば、ウチの先生、女生徒に人気よね」
根津は何か思いついたようににやりと微笑む。
絵コンテ:龍輪直征 演出:高橋正典 作画監督:田中穣 青葉たろ
色指定:佐藤加奈子
将軍失格
原作第83話 昭和82年2月14日掲載
原作第83話 昭和82年2月14日掲載
「さむっ……くもない」
太陽の陽射しはさんさんと注ぎ、コートを着ているとむしろ暑いと感じるくらいだった。
「今年は本当に暖冬よね」
千里が同意したように頷いた。
そんなとき、奈美が空き地に誰か倒れているのに気付く。
「ああ、人が倒れている!」
奈美はびっくりして悲鳴のような声をあげる。その場の一同が、はっとして振り返った。
「ああ、このお方は……冬将軍!」
望が驚愕に引き攣った声をあげた。
望は、さっそく冬将軍を学校に連れて行き、介抱し、丁重にもてなしをする。
だが、憂鬱な顔の冬将軍の口からこぼれたのは、意外な言葉だった。
「……実は、冬将軍辞めようかと思って……」
自分にふさわしい“将軍”職はないだろうか? 望たちは冬将軍を連れて、ハローワークへ向かう。だが、そう都合よく将軍職に空きがあるはずがない。唯一空いていたのは、“野次将軍”だった。
絵コンテ:龍輪直征 演出:高橋正典 作画監督:潮月一也 中村直人
原田峰文 高野晃久 色指定:佐藤加奈子
ああサプライズだよ、と私はうつろに呟くのであった
原作第153話 昭和83年9月17日
教室へ向かおうと、望は廊下を歩いていた。するとその途上で、奈美や芽留や大草やあびるたちが無言で望をちらちらと目線を送る。原作第153話 昭和83年9月17日
なんだろう?
望は何かひそひそするような様子を気にしつつ、教室への扉を開いた。
突然、クラッカーが華開いた。頭上に用意されていたクス玉が開き、花びらが周囲に飛び散る。「お誕生日おめでとう」と書かれた垂れ幕がクス玉から落ちてきた。
「え? えー!」
「びっくりしましたか? サプライズパーティーですよ」
可符香が笑顔で望に微笑みかけた。
「そらサプライズですよ。だって今日、私の誕生日じゃないんですよ?」
望は驚きを引き摺った声で返した。
可符香が朗らかな表情で頷いた。糸色望は11月4日生まれだ。しかし今は、夏の真っ盛り。誕生日は数ヶ月先だった。
「なんで、今日やるんですか?」
望は困惑しながら尋ねる。
「先生が仰ったんじゃないですか」
可符香は望の記憶を促すように、説明をした。
数日前。
奈美があびるにサプライズパーティーの協力を求めようと、声をかけていた。それを聞いていた望は、
「サプライズ? 誕生日に誕生パーティーをやることの、どこがサプライズですか!」
「……て」
回想から戻り、可符香が同意を求めて頷きかけた。
しかし、望は「はて?」と顎をなでて考えていた。
2期連続で首相が途中で政治を投げ出すサプライズ!
直前になって、漫画家の元に今さら締め切り一日早いの知らされるサプライズ!
10年間、汚染米が混入していたブランド米のサプライス!
そんなダメサプライズばかりですよ。もう日本人は、少々のことでは驚かないのです!」
望はいつもの勢いで啖呵を切った。
すると可符香は、残念そうな顔をして、うつむいてしまった。
可符香が携帯電話を引っ張り出し、どこかと連絡を取り始めた。
「だから、言ったじゃない。これから、本当のサプライズパーティーが始まるよ。」
携帯電話の向うから千里の声が聞こえてきた。何か不吉な予感を残しながら、通話が終了する。
「いや、別にいいですから、サプライズは!」
望は嫌な予感を感じて、止めようとする。
「なんなんですか、これは!」
望は動揺の声をあげた。
「さあ、サプライズパーティーを始めましょう。共産主義バザーとか、利き生肉とか、いろいろな趣向で、先生を驚かせちゃいますよ。みんなもびっくりしたかな?」
千里は期待に目を輝かせて、クラスメイトを振り返った。
だがクラスメイトの顔に驚きは無く、無表情に千里を迎えていた。
「まあ千里ちゃんだから、何をやっても大抵のことはびっくりしないと思う。むしろ、何事もなくフツーに誕生会やった方が、逆にびっくり」
あびるがいつもよりさらに感情のない言葉で返事を返した。
「それはびっくりだ」
藤吉が同意して大きく頷いた。
「何よそれ!」
千里は思わぬ不評に憤慨して声をあげた。
つづく
絵コンテ:板村智幸 演出:龍輪直征 作画監督・原画:岩崎安利 色指定:石井理英子『懺・さよなら絶望先生』第6回の記事へ
『懺・さよなら絶望先生』第8回の記事へ
さよなら絶望先生 シリーズ記事一覧へ
作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか 真田アサミ
小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子 新谷良子 松来未祐
矢島晶子 後藤沙緒里 根谷美智子 堀江由衣 斎藤千和
上田耀司 水島大宙 杉田智和 寺島拓篤 高垣彩陽
立木文彦 阿澄佳奈 中村悠一 麦人 MAEDAXR
この番組はフィクションです。実在するザンタクロス、ひちょり、福田首相とは一切関係ありません。
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さのすけを探せ!
■2009/08/11 (Tue)
シリーズアニメ■
全巻までのあらすじ(第7集より)
マディソン群のはしか
原作128話 昭和83年2月20日掲載
原作128話 昭和83年2月20日掲載
「麻疹流行か。免疫、つけておかないと
霧は思いついたように、台所でうろうろしている交を振り向いた。
交は「俺のこと?」みたいに霧を振り向く。
「三丁目のみよちゃん(5)が麻疹にかかっているそうよ。今夜そのうちにお泊りして、伝染されてらっしゃい」
「何で、わざわざ伝染されに行かないといけないんだよ!」
でも交は意味がわからず、反抗的な声をあげる。
宿直室に、ぞろぞろと女の子たちがやって来る。
「大人になってからだとつらいから、昔はよく「子供のうちに麻疹か
日塔奈美が普通な意見で対話に入ってきた。
「今はきっちり予防注射しなきゃ駄目よ。」
千里が厳しそうに追従した。
音無芽留もやってくるけど、特に何も意見しない。
最後に戻ってきたのは、教科書を風呂敷に包んだ糸色望だ。
「医学的にはその通りみたいですが……」
「先生?」
奈美が振り向いた。宿直室に集った女の子たちも糸色望を注目する。
「交だけではなく、あなたがたもむしろかかっといた方が良かった「麻疹」があるんじゃないですか? 「麻疹」たって、病気のほか、色々あるでしょう。精神的に!」
糸色先生はいつものように捲くし立てる調子で一同に言い放った。
「どういうことですか?」
千里が意味を理解しかねて首をひねった。
「例えば今までゲームなんかしたことなかった人が、大人になって始めると、急に楽しさを知ってのめりこみ、仕事が手につかなくなってしまったり。そう! 大人になってからかかる麻疹は質が悪いのです!」
病気の麻疹に関わらず、あらゆる麻疹は子供のうちに経験しておくべきなのである。
例えば「萌アニメ」。大人になってから急にはまりだすと、経済力にまかせて良いも悪いもわからずグッズを買いまくり、生活を破綻させかねない。(骨董趣味なんかもそうだけど)
スポーツ一筋で女性に免疫のない者がプロに入ってから急にモテ出すと、女遊びに溺れて練習もせず、選手生命を絶つ切っ掛けになってしまう。
少年時代は「アイドルなんてくだらねー」と斜に構えているも、大人になってハロプロの楽しさを知ってしまい、グッズを買い漁るわハッピ着てツアーに帯同するわの大騒ぎ。
読書経験のない人が、ケータイ小説なんかで「チョー感動」とかいうのも、やはり麻疹経験がないためである。
絵コンテ:龍輪直征 演出:近藤一英 作画監督:原田峰文 色指定:大谷和也 制作協力:スタジオイゼナ
夜の多角形
原作157話 昭和83年10月15日掲載
冷たくなりかけた風に、落ち葉がひらひらと舞い落ちる。風景はそろそろ秋の紅葉に移りかけている。原作157話 昭和83年10月15日掲載
その日の放課後、糸色望は風浦可符香と一緒に、小石川の街を歩いていた。特に言葉も交わさず、辺りの風景に気持ちを委ねる風情で、肩を並べて歩いていた。
「あら、このお家、大浦さん家ですよ」
望も足を止めて振り返った。家を囲む塀に、大きく“日本働民党”のポスター。望は、落ち着いた気持ちがざわっと騒ぐのを感じた。
「大浦さんが応援している政党ですか?」
「そ、そうですかね?」
でも望は、断定しかねて意見を曖昧にした。
いや、よく見るとポスターは他にもあった。自悶党、免主党、共嘆党、斜面党、教明党、女系党、UFO真党、脱サラ党、新漫画党、超労働党、大田党、下山党、日本転覆党 こきん党、プロレス党、キャツ党、文明党……。
ポスターの列はどこまでも続き、塀を完全に覆い尽くしていた。
誰かが大浦家のインターホンを押した。
伸びやかな声で、大浦可奈子が顔を出した。
「これ、貼らせてもらってもいいですか?」
男が持ってきたのは、新しい政治ポスターだった。
「はーい。いいですよぉー。どーぞー」
大浦はのどかに伸び切った声で、了解した。
「これ貼らせてもらってもいいかしら?」
大浦が家に引っ込む前に、別の政治活動家の女がやってきて、声をかけた。
「どーぞー」
大浦はだらしないくらい伸びやかな声で、許可を与えた。
「ああ、ただの心の広い、大らかなご家庭のようですね」
望はそんな様子を見て、納得して頷いた。
「角を増やしてみてはいかがでしょうか?」
角が少ないから、角が立つ。自分ともう一点だと、するどい槍になり刺さってしまうが、角が増えると滑らかになり、角が立たなくなる。例えば一党だけのポスターだと、ざわっとしますが、色々貼ってあると、偏りがなく、ただの心の広い人なんだな、と思えてくる。
コンプレクスも「ハゲ」一つだったら攻撃されるが、五つも四つもあると、あんまり言われなくなるし、
罵倒も、五つも六つもあれば一つ一つの言葉の痛みは減る。事実、ある国では人を罵倒する言葉が日本語の何倍もあって、挨拶のように罵倒するから、いちいち気にしていられないという。
だからきっと、男女関係も角を増やせば、ややこしい三角関係や四角関係に陥らずに済むに違いない……。
結局どれだけ角を増やしても、滑らかにならずすべてが角になる、という結論だが。
絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:守岡英行 田中穣 色指定:石井理英子
ライ麦畑で見逃して パート2
原作第105話 昭和82年8月8日掲載
原作第105話 昭和82年8月8日掲載
千里が振り向いた。
「いろいろスルーしてあげる、優しい生活だよ」
可符香が微笑みと共に、今回のお題を説明した。
千里は、何か考えるように宙を見上げた。
「スルーライフ? なんか同じようなネタ、昔やらなかったっけ?」
望と可符香が言葉を合わせた。
「先生もスルーライフがわかってきたじゃないですか」
可符香は嬉しそうに望に微笑みかけた。
「ああ、今のですか。悪くないですね。私も少し、スルーライフを実践してみましょうか」
望も納得いったように、可符香に合わせて微笑んだ。
そんな時、望達のそばをバスが通り過ぎた。バスが、がたんと傾ぐ。何だと振り向くと、バスが通り過ぎた後に、少年が一人倒れていた。少年の体に、はっきりとタイヤの痕が残されていた。
「ひき逃げ!」
望が悲鳴をあげる。
「やだなぁ、ひき逃げなんて、身近にあるわけないじゃないですか。これは、運転中のできごとをスルーする、ドライブスルーですよ!」
「うまいことを言ったつもりか!」
可符香は何が起きても、朗らかな微笑と確信を崩さなかった。
藤吉が、顔を青くして走ってきた。
「先生! 千里が産地表示の徹底を始めました!」
「なんですか、これは?」
「生産者表示ですよ。いまや野菜や生産者の顔が見えるのが常識。すべてのものを、生産者の顔が見えるように。」
千里が現れ、自信たっぷりに説明した。
「ああやめて! なんかがっかりする!」
藤吉が引きとめようとするが、火のついた千里は収まらない。
そんなとき、可符香はすべてを包み込むような明るい笑顔とともに現れた。
「違うよ千里ちゃん。人はみな、神の子。八百万の神の国、日本だから人それぞれ作った神様が違うの。千里ちゃんの創造主はこの神様だよ」
と可符香が持ち出してきたのは、神の姿が描かれた神シールであった。
絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:岩崎安利 色指定:佐藤加奈子
『懺・さよなら絶望先生』第5回の記事へ
『懺・さよなら絶望先生』第7回の記事へ
懺・さよなら絶望先生 シリーズ記事一覧へ
作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか
真田アサミ 小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子
新谷良子 松来未祐 上田耀司 水島大宙
矢島晶子 高垣彩陽 後藤沙緒里 杉田智和 寺島拓篤
斎藤千和 阿澄佳奈 中村悠一 麦人 MAEDAXR
この番組はフィクションです。実在する藤林杏、神尾観鈴、古河渚、伊吹風子、一之瀬ことみ 坂上智代 月宮あゆ 美坂栞 水瀬名雪 大ショッカー党、今後発売する神シールとは一切関係ありません。
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さのすけを探せ!
■2009/08/04 (Tue)
シリーズアニメ■
前巻までのあらすじ(第6集より)
過多たたき
原作174話 昭和84年3月17日掲載
体育館では上級生たちを送る卒業式が始まっていた。その体育館の脇で、糸色望が震えながら桜の陰に隠れている。原作174話 昭和84年3月17日掲載
穏やかな春の陽射しに、散り落ちる桜の花びらが景色を桃色に染めている。
しかし糸色望の表情は、青く引き攣っていた。
千里が望を見つけ、呆れたように声をかける。
望は思わず「びくっ」と体をのけぞらせる。
「びくびくなんてしていません! 別にお礼参りを怯えているわけではないんですからね」
望は千里を振り向き、訊ねられてもいない言い訳を始める。
「……怯えているんだ。」
千里は呆れ果てて、哀れなものを見るような目をし始めた。
「怯えてないって言ってるでしょ!」
「おい、絶望!」
突然、樹上から声。
「ひえ!」
「そんなものを持ち歩いて、お前は女子中学生か!」
千里は耳を塞いで、大声で罵った。
「先生、三年生受け持っていないから、関係ないでしょう? それより、なんですか、これ?」
あびるは冷淡に場を諌めて、注目を集めた。
「“涙の卒業式”って。確かに卒業式って泣けるものだけど。わざわざこう書かれるともう、泣けない」
あびるは看板を見ながら、独白のように呟いた。
「よくぞ気付きました! 過剰な煽り文句に! もう日本人はこの手のコピーに騙されないんです! それを枕言葉につけることにより、むしろ懐疑的になる。
『爆笑』とつくともう爆笑できなくなったり、
『感想のフィナーレ』とか銘打たれると、もう感動できなくなったり、
普通の市民に『プロ』とつけると、ご近所付き合いしてもらえなくなったり、
国家に『地上の楽園』とかつけると、もう絶対楽園じゃない感じ。
言ってしまえば、過多書きです! わかりやすく言うと、アレです!」
糸色望は堂々と演説をぶって、その方向を指差した。
得意げに語る日塔奈美。春の暖かな空気が、冷たく固まっていくのを誰もが感じていた。
しかし、風浦可符香は望の前に現れて、笑顔で訂正する。
「いやだなぁ、これくらい背負えないようでは、勝負の世界では通用しません」
と可符香が案内したのは、アキバ系で超人気の肩書きの多い専門店。中で待っていたのは、社会派として知られるニューカマーコメディアンの糸色倫。そこでは、夢大将を背負った人たちがトランプゲームを興じていた。ルールはババ抜きと一緒。ただし、最後になったものはトランプに書かれているシニカルギャグの金字塔的な肩書きを背負うことになってしまう。ハイパーメディアクリエイターなどのうっかりな肩書きを背負わないよう、ビッグマグナム先生、糸色望は勝負の世界に身を投じる……。
(以前、ビッグバンという名前のアニメスタジオがあったことはスルーしてあげてください)
絵コンテ:龍輪直征 演出:所俊克 作画監督:小林二三
色指定:佐藤加奈子 制作協力:MAP
アーとウルーとビィの冒険
原作166話 昭和84年1月14日掲載
冬の寒い空。音も立てずに雪が辺りに散っている。原作166話 昭和84年1月14日掲載
木津千里は孤独な気持ちで白く霞む空を見上げていた。
憂鬱を感じていた。今年の初めから、想いは決して晴れない。ブルーだった。
可符香が心配そうに千里に訊ねた。
原因、それは……、
「“うるうだ”。今年1月1日に、うるう秒が1秒あってから、ずーっとイライラしているの! なぜそんな秒が生じてしまうのか、なぜ、きっちりできないのかと!」
そう。その年の1月1日午前9時――1秒のうるう秒が調整された。
「1秒くらいいいじゃない。言わなきゃ誰も気付かないのに」
奈美が千里を振り向いて、軽く声をかけた。
誰も、気付かない。
「どーしたんですか、先生」
あびるが糸色望に訊ねる。
「うるう秒なんて、まだいいです。このクラスに、うるう人が増えているかもしれません!」
望は恐怖に引き攣った声で、クラス全員を宣言した。
だが、生徒たちはぽかんと沈黙してしまった。
「うるう人?」
奈美が誰も答えを返さない望に、気を遣うように鸚鵡返しにした。
「うるう年やうるう秒があるのだから、うるう人がいてもおかしくありません! 奴はいつの間にか増えている。日や時間が少し増えたり減ったところで、もし時計やカレンダーが無かったら、いったいどれだけの人が気付くというのでしょう」
糸色望は警告するかのように、説教節を始めた。
「いやあー、でも皆、前から知っているんだし」
奈美は呆れながら論を正そうとした。
緊張の走る教室。
確かに現実世界、人が多いときがある。
飛行機のダブルブッキング。
アフタヌーンの合コンに呼んでもいないのにやって来るマガジン編集者。
それから、アフレコに勝手にやって来る素人とか。
それだけではない。うるう人は集団で発生することがある。しかも、彼らうるう人は日本の経済活動において、すでに欠かせない存在となりつつあるのだ。例えば、
ガラガラの野球場なのに、「本日の入場者数、5万5000人です」の発表。
誰も買っていないのに、オリコンチャート1位を獲得するCD。
2000人しか参加していないデモなのに、主宰者発表11万人。きっとうるう人が10万8000人が参加していたに違いない。
そう、うるう人こそが、日本の経済を支えているのだ。
『うるう』に関する正しい説明→ウィキペディアの『うるう』へ
絵コンテ:龍輪直征 演出:所俊克 作画監督:中村直人 潮月一也 色指定:石井里英子
ライ麦畑で見逃して
原作第105話 昭和82年8月8日掲載
原作第105話 昭和82年8月8日掲載
「先生、捕まえた」
あびるが包帯を糸色望を手首に絡ませる。その声は、始まったばかりの恋にときめいていた。
「ははは。掴まってしまいましたか。ならばここは、キャッチ&リリースでどうでしょう」
望は引き攣った笑いを浮かべ、あびるに提案をした。
あびるはきょとんとして首をかしげた。
「そう、なぜなら今日は放生会ですし。仏教の年中行事のひとつで、捕えた魚介や動物を放ってあげるという善行をする日です。と同時に、他人の失敗や間違いを見逃してあげる日でもあるのです。つまり、リリースすると同時に、先週の影武者での一件を見逃していただけるとありがたい日なのです! リリースしていただき、ありがとうございます!」
糸色望は一方的に言い放って、突然駆け出した。包帯が千切れる。あびるはただ驚くばかり、望を追えなかった。
「放生会ですね」
逃げ出した糸色望の前に、艶やかな着物姿の可符香が現れた。
「何ですかあなたは。唐突に現れて」
望は手に絡みついた包帯をほどきながら、可符香にいくらの警戒心を持ちながら声をかけた。
「見逃してあげる優しさ。放生会は本日に限らず、もはや日本人のライフスタイルになっているのです。それがスルーライフです」
可符香はいつもの暖かさのこもった微笑で、スルーライフを提言した。
「スルーライフ? スローライフっていうのは聞いたことがありますが?」
望は顎を撫でて少し考えるふうにした。
道で倒れている人をスルーしたり、
隣の子供の悲鳴をスルーしたり、
教室での過剰なじゃれ合いをスルーしたり、
そんな見逃してあげる日本人の優しさ。先生もすでに、スルーライフを実践していらしたんですね」
可符香は歩きながら、望を尊敬の目で振り返った。
「していませんから!」
望は全力で否定する。
二人はやがてお寺を外れ、静かな住宅街へと入っていく。祭の喧騒や太鼓の振動が、背景に遠ざかっていく。
可符香はある家庭を紹介する。呂羽須は夫婦で望と可符香を迎えた。望は、すぐに呂羽須の主人の頭髪に、違和感のようなものに気付いてしまう。
「何か?」
「あ、いえ……」
望は言い出しにくく、ごまかす。
「スルーライフですよ、先生」
可符香がそっと望に忠告した。
「どうぞ、昼食でも食べていって下さい」
と呂羽須夫婦に差し出されたのは、立派な漆塗りの箱に入れられたうな丼。暖かそうな湯気がほかほかと立ち昇っている。
「大変申し上げにくいのですが、このうなぎの産地はどこですか?」
糸色望は箸を手に、躊躇した。
「そのウナギはスルーフードなので」
呂羽須は静かに言い放った。
「ウナギはスローフードですが、産地不明なウナギはスルーフードです」
可符香が注釈を加えた。
「ああ、スローフードとスルーフードの間に、ものすごい格差社会を感じます」
望はどんより顔を曇らせた。
「ここは私たちがよく利用するスーパーマーケットです。スルーフードの品揃えが豊富です。何の肉を使っているかはスルーな加工品とか、再利用したスルーした乳製品とか、明らかに安すぎるブランド米とか」
呂羽須夫婦が行きつけのスーパーマーケットを紹介する。
そんなスーパーマーケットに、なぜかいる千里。
「ちょっと、どうなっているの、この野菜! きちんと産地表示しなさいよ! ……あれ、先生?」
千里は商品に怒鳴りつけて、それから望がいるのに気付いて振り返った。
「木津さん、どうしたんですか?」
望は千里の暴走を止めようと声をかける。
「いろいろ見逃してあげる優しい生活だよ」
可符香が今回のお題を説明した。
「スルーライフ? ん? なんか、同じネタ、昔、やらなかったっけ?」
千里は何か思い出すように宙を見上げた。
「その辺はスルーで」
望と可符香がぴったり気持ちを合わせて声を揃えた。
つづく
絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:岩崎安利 色指定:佐藤加奈子『懺・さよなら絶望先生』第4回の記事へ
『懺・さよなら絶望先生』第6回の記事へ
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作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか
真田アサミ 小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子
新谷良子 松来未祐 上田耀司 水島大宙
矢島晶子 杉田智和 後藤沙緒里 寺島拓篤
斎藤千和 阿澄佳奈 中村悠一 麦人 MAEDAXR
特別出演:畑健二郎
この番組はフィクションです。
実在する地上の楽園、おもしろまんがさよなら絶望先生、ブルーマン、アフレコに遊びに来て声をあてて収録後に女性声優さんたちと記念写真を撮っていった漫画家の畑健二郎先生とそのアシスタントさんとサンデー編集者の方とは、一切関係ありません。
実在する地上の楽園、おもしろまんがさよなら絶望先生、ブルーマン、アフレコに遊びに来て声をあてて収録後に女性声優さんたちと記念写真を撮っていった漫画家の畑健二郎先生とそのアシスタントさんとサンデー編集者の方とは、一切関係ありません。
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さのすけを探せ!
■2009/07/28 (Tue)
シリーズアニメ■
前巻までのあらすじ(第5集より)
余は如何にして真人間となりし乎
原作第141話 昭和83年6月4日掲載
原作第141話 昭和83年6月4日掲載
ざーっと絶え間なく続く雨。梅雨の真っ只中の6月。奈美の靴は、あっという間にべっちょり汚れてしまった。
「あ~あ。TPOわきまえないからそういうことになるんでしょ。梅雨に白いスニーカーを履いて外出だなんて。」
「だって……」
奈美は言い返そうとするが、それ以上の言葉は出てこない。
とそこに車のクラクション。振り向くと、まさかのオープンカー。運転手も車内もしっとり雨に濡れている。
ゴルフ接待疑惑の取材をゴルフパック抱えて答えたり、
ロスタイムにレッドカードもらったり、
今やっているランボーの戦地とか、
世の中、TPOをわきまえない事件や出来事はたくさんある。だからといって、TPOをわきまえたつもりの行動も、巡り巡ってTPOわきまえていない扱いをされてしまう。
電動自転車を買いに自転車専門店に行くが、そこはスポーツ専門店。ダイエーとか行ったほうがいいじゃない、と店員に指摘される。
一流ホテルで漫画家の集るパーティーに正装していったら、周りのみんなカジュアルな格好で失笑を買う。(逆のケースもあるようです)
TPOをわきまえたつもりでもTPOをわきまえない結果を招いてしまう事例の数々。
だが、ポジティブ・リーダーの風浦可符香はこう断言する。
「TPOわきまえないからドラマチックになるんですよ」
絵コンテ:板村智幸 演出:わもとやすお 演出助手:蔦田惣一 作画監督:山懸亜紀
色指:定森綾 制作協力:虫プロダクション
祝系図
原作第145話 昭和83年7月9日掲載
今回の話数の納品はハッピーマンデーの影響により、全スタッフが大打撃を受けました(2007年9月17日)別に恨んではいません原作第145話 昭和83年7月9日掲載
「海の日。日本の祝日。祝いの日。海のない県の人にも祝えと?」
望は静かに、それでいて啓発するように呟いた。
「はい?」
望を注目する生徒たち。代表するように、千里が言葉を返した。
「海の無い県の人にも祝えというのですか?」
望は勢いをつけて主張する。
「海洋国日本として、海の日を、国民で祝いましょう、ってことじゃないですか?」
千里は淡白にやり返そうとする。
「なんかこう、デリカシーに欠けるというか。埼玉栃木群馬山梨長野岐阜奈良……。実に7つの県が無海の地なのです。この無海の地・7県者に海の日を祝えというのはあまりにも酷!」
「最近、先生勝手に言葉作るよね」
あびるがドライに言葉を返した。
「祝日なのに祝えない。そんな祝日ばかりですよ。そう、今の世の中、祝いたくても祝えないことばかりです。原油高や物価高でレジャーなんて自粛ムード。今や祝日は“粛”日になってしまうのです!」
世の中には素直に祝いたくても祝えない出来事は多い。
例えば、葬儀屋さん。「実は今年、創業30周年なんですけど、お客様の手前、祝うに祝えないのです。ちなみに、3000回記念も祝えなかったのです」
また、妊娠が発覚するも、父親が誰かわからない。
それに今は世界的不況の真っ只中。祝日となっても、レジャーなどは自粛しなくてはならない。糸色望たちは、あえて楽しくない自粛した祝日の過ごし方を実践し始める。
絵コンテ:板村智幸 演出:わもとやすお 演出助手:蔦田惣一 作画監督:山懸亜紀
色指定:森綾 制作協力:虫プロダクション
ドクトル・カホゴ パート2
原作104話 昭和82年8月1日掲載
承前。望は倫に促されて、保護者会に参加する経緯となった。だがそこは、保護者は保護者でも、過保護な者が集う『過保護社会』であった。原作104話 昭和82年8月1日掲載
日焼けに対して過保護なネットアイドル。
単行本やDVDを「読書用」と「人に貸す用」と「保存用」の最低3冊を買う者。
また、過剰に著作権保護を叫ぶ者たちから、糸色望は著作権侵害を
過保護も行きすぎると、ひいきの引き倒しになりかねない。そう悟った糸色望は、影武者契約を破棄。自身の肉体で生きる決意を改める。
そんな糸色望の掌を、一人の少女が掴む。
「本当に、私でいいの?」
振り向くと、小節あびるだった。あびるはいつもにはない華やいだ笑顔で、目をうるうるとさせて望を見詰めていた。
「影武者の奴! 何故ですか。何故こんなことになっているのですか!」
狼狽する望。あびるは望の手を引いて、縁日の賑わいの中へと進んでいく。
絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:工藤裕加 色指定:石井理英子
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作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか
真田アサミ 小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子
新谷良子 松来未祐 上田耀司 水島大宙
矢島晶子 杉田智和 後藤沙緒里 寺島拓篤
斎藤千和 阿澄佳奈 中村悠一 麦人 MAEDAXR
■
おまけ
■2009/07/21 (Tue)
シリーズアニメ■
全巻までのあらすじ(第4集より)
第3回放送より、オープニングが暫定版から正式版へと変更された。『終末』をイメージしたサイケデリックなビジュアルである。『神』『魔術』『核戦争』『宇宙』といったイメージが無秩序に並んでいる。もともと、オープニングテーマである『林檎もぎれビーム』の名前は、カルト集団が使用していた合言葉から採用された名前だ。なるほど、それらしいいかがわしさ満載の映像だ。どことなくデヴィッド・リンチの雰囲気を感じる。ラスト、宇宙に投げ飛ばされた風浦可符香が糸色望の元に舞い降りる瞬間が、シュールの極みであり、そこはかとなく神秘的。生と死を超越した二人の運命的な結びつきを表現している。
×の悲劇
原作163話 昭和83年12月10日
「それでは、ツリーを点灯させろ」
そんな作業員たちに、望は言う。
「スイッチは押さないほうがいい」
「なに言ってんだ、あんた?」
「年末の忙しい時期に、スイッチが入ったら面倒くさいじゃないですか」
それは望からの忠告であった。
このどれかを押せば、ツリーが点灯する。そう考えた可符香は、不用意にボタンを押す。
スイッチはスイッチでも、すべてのスイッチが電化製品を点灯させるわけではない。人間の体内、心理にもスイッチがある。
動物好きの人に、動物の話題を振ると、動物うんちくスイッチが入る。
携帯好きな人に、携帯の話題を振ると、携帯うんちくスイッチが入る。
ショタ好きな人に、ショタの話題を振ると、ショタコンスイッチが入る。
カップリング好きな人に、カップリングの話題を振ると……(以下略)
それらのスイッチは、いつ入ってしまうかわからない。押しても構わないが、非常に面倒くさいスイッチである。だからスイッチは、不用意に押してはならない。
絵コンテ・演出:龍輪直征 作画監督・原画:前田達之 色指定:佐藤加奈子
制作協力:スタジオパストラル
私は日本には帰りません そういう決心できませんでした
原作96話 昭和82年5月30日掲載
原作96話 昭和82年5月30日掲載
2作品を見ている暇はない。どちらか一つを選ばなければならない。望は散々考えた末に、そのどちらでもない、『チェケラップ』というタイトルを選んでしまった。
「なぜです! なぜどちらでもない、微妙なものを借りてしまったのです!」
どちらにするか散々迷った挙句、そのどちらでもないものを選んでしまう。第3の選択肢。しかも、その3番目というのは、なぜかいつも微妙な選択であったりする。
今夜のメニューはカレーにしようか、ハンバーグにしようか。そう考えて迷った末に、なぜかやきうどんになってしまった。
狭くても原宿か広い保谷の部屋か迷った挙句、中途半端な広さの西荻の部屋に決めてしまった。
第3の選択肢は、いつも微妙な結果と印象をもたらす。
決断力のない望たちは、いつの間にか不思議な街に迷い込んでしまう。『第三選択市』。そこは、最初にあげた二つのどちらも決められない人々が集う街。
だが可符香が現れ、こう言う。
「ちっとも悪いことじゃないですよ、第3の選択。どちらも選べぬ、心優しき者の着地点です」
絵コンテ・演出:龍輪直征 作画監督:田中穣 色指定:石井理英子
ドクトル・カホゴ
原作104話 昭和82年8月1日掲載
原作104話 昭和82年8月1日掲載
糸色望は、物陰から楽しげにゴムボールで遊ぶ影武者と自分のクラスの生徒たちを眺める。
執事の時田が声をかけた。
糸色望は時田を振り向き、強気の微笑を浮かべる。
「はは、まさか。これっぽっちも。でも、一人くらい気付いてもいいのではないでしょうか」
「しかし、影武者とは少々、大袈裟ではありませんか」
「実に物騒な世の中ですから」
「そうはいいましても、過保護すぎやしませんか。それでなくとも、今の世の中、過保護だらけというのに」
大切なものは保護しなければならない。だが、行き過ぎると過保護になる。
例えば、
過保護のため、ちっとも近くで見られない観光資源。
行き過ぎた抗菌グッズ。
オレオレ詐欺対策のために導入された、銀行のATM振込み制限。
政府のニート支援対策費。
どこまでも行き過ぎる現代の過保護傾向。そんな過保護に絶望する望の前に、倫が現れる。
「お兄様、あちらで保護者会が開かれるようですよ」
ただしそこは、保護者は保護者でもちょっと行き過ぎた保護者の集う、『過保護者会』であった。
つづく
絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:工藤裕加 色指定:石井理英子
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作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか
真田アサミ 小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子
新谷良子 松来未祐 上田耀司 水島大宙
矢島晶子 杉田智和 後藤沙緒里 寺島拓篤
斎藤千和 阿澄佳奈 中村悠一 麦人 MAEDAXR
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さのすけを探せ!