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■2016/08/05 (Fri)
創作小説■
第14章 最後の戦い
前回を読む
25
城より南へ9リーグ。そこは、かつてダラスが陣営を作っていたところだった。だが悪魔の反逆によって壊滅し、慌てふためいて逃げ出した兵士達が残していったものが散乱していた。そんな場所を、ティーノが拠点にしていた。ダラス陣営が放置していったものを、ティーノが兵士達に命じて集めさせていた。
ティーノ
「金になりそうなものは全部持って来い! 何をやっている、ガラクタを集めるんじゃない。金になりそうなものだ。お前達、わしを貧乏人にさせたいのか!」
ティーノが休まずに兵士達を怒鳴っている。
その様を、アレスが呆れた様子で見ていた。
アレス
「まさか、司祭ともあろう者が、火事場泥棒のような真似をするとは……」
ティーノ
「なんだ貴様。わしに逆らうのか!」
アレス
「…………」
ティーノ
「下僕なら愛想よくせんか。私は主だぞ。お前などよりよほど高い位にあるのだぞ」
アレス
「…………」
そこに、兵士が駆けつけてくる。
兵士
「申し上げます。大パンテオンの制圧に向かったリーフ様と2万人の部隊が邪教集団の前に全滅。リーフ司祭も戦闘中に死亡しました」
兵士
「申し上げます。都市建設計画を進行させていたジオーレ様が盗賊に暗殺されました。7体の悪魔は制御を失い、街を破壊した後、逃亡しました」
ティーノ
「何だと……。みんな死んでしまったのか。まさか、そんな……あり得ない」
アレス
「本国の指令を待つべきでしょうな。ここには拠点作りに充分な資産が残っています。ここで陣を張り、待機しましょう」
ティーノ
「うるさい! 勝手にそんなものを決めるな! 私は私の命が欲しい! こんな危険な場所、1秒でもいられるか! 財宝が手に入ったら、この国から脱出するぞ!」
ティーノは喚き散らすが、ふと名案でも浮かんだように我を取り戻す。
ティーノ
「いや、待てよ。司祭達が死んだ。残っているのは私だけ。ということは今、一番偉いのは私ではないか! はははっ! 大出世だ! ついに私の時代がやってきたのだ!」
アレス
「…………」
ティーノ
「全てわしの意のままになるぞ。そうだ、ここに教会を作ろう。わしの教会だ。壮麗なものにしてやるぞ」
アレス
「では、ここに留まるのですね」
ティーノ
「もちろんだ。本国に連絡して、新しい軍隊を送ってもらおう。私が最高司令官だ。すでに崩壊した国。馬鹿な田舎者は簡単に騙せる。ここに私の名前を冠した王国を作るぞ! ――おい、荷物をほどけ! この場所に留まるぞ」
気まぐれな命令に、兵士達はうんざりしながら荷車に積み上げた荷物を、下ろし始めた。
いよいよ雨が降り止もうとしていた。朝日が登り始めている。汚染された森が、淡く浮かび上がろうとしていた。
アレスは、何かの気配を感じた。剣の柄を握る。流浪騎士団達も、アレス同様、何かを察して柄を握った。
森の影に混じって、何かが姿を現していた。生暖かい風がゆるりと流れすぎていく。そこにいたのは、ローブを身にまとった1人の乙女だった。
アレス
「ソフィー殿か……」
ティーノ
「なんだあいつは?」
突然、烈風が巻き起こった。土煙が噴き上がる。兵士達の視界が塞がれた。
兵士達は混乱して、悲鳴を上げた。火球があちこちに飛び回る。
風がアレスの側に迫った。アレスは咄嗟に剣を振り払った。見えざる何かが、アレスの剣を跳ね返す。
その直後、静寂が戻った。ティーノの目の前に、ソフィーが立っていた。ティーノの首にナイフを当てている。
アレスが立ち上がった。ソフィーは杖をアレスに向けた。
アレス
「ソフィー殿、手を下ろしてください。あなたにはこんな荒事、似合いませぬ」
ソフィー
「私は誰も殺すつもりはありません。しかし、私に従ってもらいます」
アレス
「ならば脅迫は必要ありません。あなたが命じるのなら、従います」
ティーノ
「何を勝手な……」
ティーノがナイフを跳ね飛ばした。ソフィーがあっと振り返った。
ティーノが杖を振りかざす。強烈な光が瞬いた。ソフィーが目を眩ませる。
そこに、神官達が迫った。魔法の刃がいくつも浮かび、ソフィーを襲う。咄嗟にアレスがソフィーの前に出て、盾で魔法の刃を防いだ。
ティーノ
「そこまでだ。全員動くな!」
ティーノの怒鳴り声。見ると、ティーノが槍を持ち、檻のステラの首に、刃を押し当てていた。檻の周囲を、クロースの残党達が固めている。
ソフィーとアレスが身構える。しかし、手が出せず踏みとどまった。
ティーノ
「アレス! その魔法使いを殺せ」
アレス
「…………」
ティーノ
「どうした! 魔女を殺せ! 邪悪な魔女を処分しろ!」
アレスは戸惑いを憶えながら、ソフィーに剣を向ける。ソフィーはアレスに杖の先を向けた。流浪騎士団達がソフィーを取り囲む。
しかし、アレスは剣を落とし、ソフィーの前で膝を着いた。
アレス
「できぬ。この聖女を殺すなど……私にはその罪は重すぎる……。殺すなら、この私を殺せ!」
ティーノ
「何をやっておるか!」
この隙に、ソフィーが振り返った。杖の先から刃が放たれる。刃はクロース兵を刻み、ステラのいる場所を取り巻いた。ステラは檻の中で蹲った。檻が刃に切り裂かれた。
ソフィー
「逃げて! あなたは自由です! 逃げて!」
ステラが応じた。檻から飛び出す。クロース兵が飛びついた。
ソフィーが火球を飛ばした。司祭が魔法の盾で塞ぐ。流浪騎士団達も、飛びついた。だがクロース兵達に押し留められる。
ステラは側に落ちていた剣を掴んだ。クロース兵がステラを取り囲んだ。槍がステラに突きつけられる。ステラは剣で、クロース兵達を牽制する。だがそれはあまり効果はなかった。
状況は再び膠着状態に陥った。ステラは自由を奪われ、流浪騎士団達は戦意を失った。
ティーノは流浪騎士団の様子を見て、再び緊張を解いた。
が――。
ステラ
「ソフィー! そなたに全てを託す! アレスよ、これ以降はソフィーに従え! お前達は自由だ!」
ステラは持っていた剣で、自身の腹を突き刺した。
そこにいた全員に衝撃が走った。ステラの腹に、剣の刃が深く突き刺さっていた。その体から力が失われ、がくりと膝を着く。腹から血が噴き出し、黒い土を赤く染めた。
その様を、流浪騎士団が茫然と見ていた。しかし間もなくふつふつと怒りが沸き起こり、それは凄まじい憤怒の炎となって一同を包んだ。
アレス
「この怒り、何に例えよう。この悲しみ、どう示そう……。お前達! ここにいる全員を殺せ! 情けはもはや不要だ!」
流浪騎士団達の激情を感じて、クロース兵達に怯えが浮かんだ。
流浪騎士団達がクロース兵達を攻撃した。その凄まじいまでの怒りの炎、圧倒的な剣術の前に、クロース兵達はただ逃げ惑うだけだった。
戦いは僅かな時間で決着した。クロース兵は全て斬り殺され、ティーノは殺さず、捕らえられた。
アレスはステラの前に向かった。ステラにまだ生命が残っていたが、体にわずかな息が残っているだけだった。
アレスはステラの体を仰向けにさせ、整えさせた。ソフィーがステラの側に膝を着き、目蓋の上に掌を当てて、祝詞を唱えた。ステラの体内から、魂の残り火が静かに消えていった。ステラはその顔に安堵を浮かべて死んだ。
アレスはステラの腹から剣を抜いた。流浪騎士団達はしばしステラの亡骸の前に膝を着いて、その死を悼んだ。
それからアレスはティーノの前に進んだ。アレスの顔に、真っ黒な怒りが浮かんでいた。
ティーノ
「やめろ……殺さないでくれ。私はローマでは重要な人物なんだぞ。そうだ、お前に相応しい地位を与えよう。富を与えよう。だから……」
アレス
「ああ、殺さぬよ」
アレスが剣を振り落とした。ティーノの両足を切断する。ティーノがあまりの痛みに叫んだ。
アレス
「貴様は殺す価値もない。だが、死ぬまで相応の苦しみを味わえ。死神が迎えに来るまで、貴様が踏みつけた全てのものに許しを乞え」
アレスはティーノの手首に、剣を突き立てて、地面に釘付けにした。
アレスはソフィーの前までやってきた。ソフィーはアレスに謝罪しようと頭を下げようとした。だがアレスはそれを留めて、ソフィーの前に片膝を着いた。流浪騎士団達も、アレスに倣って片膝を着き、頭を垂れた。
アレス
「ステラ姫の遺言でございます。あなたの命令に従います。何でも命じてください」
ソフィー
「ステラ様の魂を弔いましょう。これからキール・ブリシュトへ向かいます。ある人を救うために。全てを精算します。すべての過ちを浄化させます。悲劇の始まりを終わりにします。私に従いて来てください。そして、供に戦ってください!」
アレス
「行きましょう。すべてと戦います。ケルトの男達のように。ドルイドの乙女よ、私の馬にお乗りください。行きましょう。流浪騎士団、最後の戦いです」
ソフィーはアレスと供に馬に乗った。
アレス
「行くぞ!」
流浪騎士団
「おおー!」
勇ましい号令に流浪騎士団達が声を合わせる。騎士達は士気を昂ぶらせ、キール・ブリシュトを目指して駆けていった。
次回を読む
目次
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■2016/08/04 (Thu)
創作小説■
第7章 Art Loss Register
前回を読む
30
それから木野は、居住まいを正して、改まった感じになった。どうやら大事な報告があるらしい。「ツグミさんに、お知らせすることがあります。たった今、宮川が逮捕されました」
「宮川って、……あの宮川ですか!」
ツグミは思わず声を上げてしまった。そこが病室だというのも、一瞬忘れてしまうくらいのニュースだった。
木野は誇らしげな顔で、頷いた。
「宮川はあの後、警察の包囲を抜け出して、1人で逃亡しようとしました。しかしボートに乗ったところで、撃たれました。右肩に1発、被弾。出血多量で操縦不能になって、瀬戸内海を漂っていたところを、警察に発見されました」
ツグミは、すぐに「あの銃声だ」と思い当たった。きっと撃ったのは川村だ。川村は宮川を逃さないために、銃で撃ったのだ。
ツグミは、ふと目線に気付いて、右隣のベッドを振り返った。ヒナが目を覚まして、ツグミを見ていた。
ツグミはヒナにさっきの報告をしようと思った。が、不要だと判断した。ヒナは目に涙を浮かべて、頷いた。ヒナにとって、色んな重荷から解放された瞬間だった。
「それで川村さんは? 川村さんも見付かったんですよね」
ツグミは当然だと思って、質問を重ねた。
すると、木野は沈んだ顔をした。
「いいえ……。川村さんに関する報告は、まだ何も。……あの、ツグミさん。川村さんという人は、本当にいたんですか? どこにも痕跡が出てこないんですけど……」
木野は全部喋ってから、失言だと気付いて、肩を小さくした。
ツグミは急速に気分が冷めるのを感じた。と同時に「もしや」という不安に駆られた。
あの時の銃声は、2発だった。そのうちの1発は、宮川の肩に命中した。もし宮川が、銃をもう1丁持っていて、川村に反撃したとしたら……。
ツグミの想像は、どんどん嫌な方向に膨れあがっていく。2発目の銃弾が海に落ちた、とはなかなか考えられなかった。
ツグミは自分の想像を打ち消せず、ベッドの左側に目を向けた。ベッドの左側は、窓になっていた。
「あの、ツグミさん。安心してください。これから調査が入ります。川村さんは警察が責任を持って捜し出します」
木野は言葉に力を込めた。ツグミには、無理をしているように聞こえた。
ツグミは、「川村さんは見付からない」と思った。死んでいるとか、生きているとか、そういう次元の話ではない。とにかく、川村にはもう会えないんだ、とツグミは納得していた。
窓の外は高いビルが視界を遮っていた。見通しはよくない。夜が明ける前で、空だけが僅かに白み始めている。暗い風景だった。
後で聞いた話。警察は事件現場の廃墟をくまなく調べたが、川村の存在を示す証拠は出てこなかったそうだ。それらしい靴跡も指紋も。その場に同居していたヒナは目隠しされていたために、川村を目撃していない。
唯一、川村が言葉を発した新山寺でのやりとりだが、あの時、警察の発信器にトラブルが発生していて、対話は一切録音できていなかったそうだ。
川村がアトリエに使用していたという小屋にも調査が入ったけど、そこはもう、何年も前から誰も使用していない廃墟だった。
警察は、ついに川村の存在を捉えることはできなかった。
次回を読む
目次
※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2016/08/03 (Wed)
創作小説■
第14章 最後の戦い
前回を読む
24
王城の背後。崖の下の渦の中を、小舟がひっそりと進んでいた。小舟の上で、ソフィーがあっと声を上げて振り返った。仄暗く浮かぶ王城の影が、そこにあった。
管理人
「どうかしましたか?」
ソフィー
「イーヴォール様が……逝かれました」
ソフィーは目を伏せて、祈りの言葉を呟いた。
管理人
「そうですか。あの人が……」
管理人は一度舟を漕ぐ手を止めて、長寿を渡り歩いた者のために、冥福を祈った。
小舟は海を進んでいき、やがて人気のない河岸までやってくると、砂浜に舟を押し上げた。
ソフィー
「ありがとうございました」
管理人
「キール・ブリシュトへ行かれるのですか」
ソフィー
「はい」
管理人
「……しかしあそこは魔の巣窟。いくらあなた様が魔術に長けているとはいえ、1人で立ち入っていけるような場所ではございません。エクスカリバーを使用者に元に届け、大魔法を唱えるには、魔物を引きつけておくための軍隊が必要です。いったいどうなさるおつもりですか」
ソフィー
「1つだけ、考えがあります。うまくいくかわからないけど……。……ううん、選択肢がないから、必ず成功させねばなりません」
管理人
「そこまでしてでも、行かねばならぬ場所なのですか」
ソフィー
「あの人は1人で行きました。だから私も。愛する人を救うのに、どんな迷いや恐れがあると言うの?」
管理人
「ならば私の導きはここまで。美しきドルイドよ、どうかご無事で」
管理人は頭を下げた。
ソフィーも管理人に別れを告げて、浜辺を離れた。
気付けば夕暮れに近い時間になっていた。雨は一向に止む気配はない。さらに勢いを強めようとしていた。風も強く、翌日には大降りになりそうな気配だった。
ソフィーに不安がよぎる。あの人は今どこにいるだろう。まだキール・ブリシュトへ向かう途上のはずだ。今なら間に合う……。今なら間に合うはず……。
ソフィーは不安を払いのけるように、南へ向かって走った。
次回を読む
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■2016/08/02 (Tue)
創作小説■
第7章 Art Loss Register
前回を読む
29
ツグミの意識が、ぼんやりと戻ってきた。目の前に天井があった。辺りは暗く、色彩のないブルーが漂っていた。薬品の臭いをきつく感じた。病院のベッドだ、とツグミは理解した。過去に入院経験があるから、すぐにわかった。神戸大学病院の天井だ。
ツグミは目はパッチリとしているのに、体がぼんやりしていた。心と体が、バラバラに目を覚ましたみたいだった。
ツグミは右隣のベッドに目を向けた。ヒナが眠っていた。顔の左半分に、包帯が巻かれていた。必要な処置は、ちゃんと施された後のようだった。
ヒナは静かに寝息を立てていた。ツグミは、ホッとした。ヒナの右顔半分は、美しいままだった。顔の左半分も、これなら治りそうだと希望が持てた。
ようやく、人の話し声に気付いた。顔を上げると病室のドアの側に、弱いオレンジの照明が点いていた。オレンジの照明の中に人がいて、ひそひそと会話していた。
背中を向けている女は、木野だ。病室にやってきている刑事から、色々と報告を受けているらしい。
しばらくして会話は終わった。刑事は軽い挨拶をして去り、木野がツグミを振り返る。木野はツグミがじっと見ているのに気付いて、あっと驚いたような顔をした。
「ごめんなさい。私の話し声で起きちゃいましたか」
木野は軽く苦笑いを浮かべた。木野はベッドの右側に置かれたスツールに座った。
木野の印象は、別れる前と何も変わっていない。警察官らしいものを感じない。ちょっとイモ臭い町の娘という感じ。ツグミは安心するような気がして、微笑を浮かべた。
「木野さん、ごめんなさい。何も言わず勝手な行動をして。でも、どうやって私の居場所がわかったんですか」
ツグミは木野に、申し訳ない気持ちになった。それから疑問が沸き起こった。どうして、あんなにタイミング良く警察が大挙して飛び出してきたのか、わからなかった。
これを聞かれると、木野は得意げな顔をして笑った。
「ツグミさん、バッグをお借りしますよ」
木野はベッド脇に置かれた棚に、目を向けた。そこに、ツグミのバッグが置かれている。
ツグミは上体を起こした。木野がツグミの背中に、枕を当ててくれた。
木野はバッグを手に取ると、サイドポケットのチャックを開けて、その中を探った。それからもったい付けるように、ゆっくりとそれを引っ張り出した。プラスチック製の、黒くて小さな長方形の形をしたものだった。ちょっと見ると、メモリースティックのように見えた。
ツグミは何となくそれが何なのか察して、「ああ……」と溜め息を漏らした。
「発信器です。音声もバッチリ拾える優秀な品ですよ。ツグミさんがどこに行って、何をしていたか、みんなこちらでチェックしていましたよ」
木野は得意になりすぎて、ニヤニヤと笑っていた。
ツグミは、すぐに思い当たった。あの日の朝だ。ツグミが高田と木野と別れようとした朝、木野は異様にツグミのバッグに興味を示した。あの時に発信器を仕込まれたのだ。
「木野さん私がいなくなるって、わかっていたんですか?」
ツグミはまだ驚きが消えなかった。
「ええ。掛橋かな恵さんが来た時から、様子がおかしいのはわかっていましたから。岡田さんと話している時、ツグミさん筆談していたでしょう? あからさまなので、すぐにわかりましたよ。それで、ツグミさんが何をするか予想したんです」
もちろん盗聴の件に関して、令状は発行されていた。
ツグミは頭を抱えたい気持ちになってしまった。結局、警察の掌で踊っていただけだった。
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※ 物語中に登場する美術家、美術作品、美術用語はすべて空想のものです。
■2016/08/01 (Mon)
創作小説■
第14章 最後の戦い
前回を読む
23
イーヴォールは膝を着いた。激しい戦いに、辺りには死体が積み上げられている。イーヴォール自身も、全身を刃で切り刻まれ、血に染まっていた。
それでも敵の勢力はまだ血気盛んだった。すでに虫の息であるイーヴォールに最後の剣が迫る。
イーヴォールは地面に手を付けた。床に魔法の衝撃が広がる。壁や天井が弾け飛んだ。兵士は血鮮を残し、破片となって飛び散った。
しかしそれが最後だった。イーヴォールの意識はふつりと途切れて、倒れた。
兵士
「やったぞ! 殺せ! 殺せ!」
兵士達は勝利を確信してイーヴォールに迫ってきた。その体を掴み上げ、喝采の声を上げた。
が、兵士の歓声は急にやんだ。兵士達はある一点を注目し、頭を垂れた。群衆が2つに別れて、何者かが現れる。ブリデン王であり、現ガラティアの城主ヘンリー王だった。
イーヴォール
「…………」
イーヴォールの体に力は残されていなかったが、顔を上げて、ヘンリー王を睨み付けた。
ヘンリー
「……西の魔女であるな。こいつめ、ついに姿を現しおったか。不吉な予言を方々で振りまき、我が同胞を幾人も殺した魔性の女め。ついに先祖の恨みを晴らす時がきたわ!」
イーヴォール
「…………」
怒りにまかせて声を荒げるヘンリー王。だがイーヴォールは、なぜか薄く微笑を浮かべていた。まるで見えざる誰かと対話するように、かすかに口を動かしていた。
ヘンリー
「――この者に考え得るあらゆる拷問を与えよ! 容易に殺してはならんぞ。多くの者たちを悲劇に陥れた罰を、その体にとくと刻みつけてやるのだ。例え朝日が昇ろうとも、この者には決して希望など与えるな! 最後はエドワード2世と同じやり方で処刑しろ。悲鳴が海峡を越えて、我が王国に住む全ての耳に届き、喜びを分かち合えるようにな!」
ヘンリー王は言い捨ててそこを立ち去ろうとした。
イーヴォールはヘンリー王のじっと見ていた。
いや違った。
イーヴォールの目には、ヘンリー王との間に、もう1人男が立っているのが見えていた。それはかつてイーヴォールと取引をした、6本腕の神だった。
僧侶
「よくやった。あんたには拷問は似合わねぇよ」
イーヴォール
「まだ約束は果たしていない」
僧侶
「あいつらがやってくれるさ。お前はよく働いた。千年間も生きた。つらい日々だっただろう。もう充分だ。あんたは充分に務めを果たした」
イーヴォール
「死神らしくない言い草だな」
僧侶
「そっちこそ死神に言う言葉じゃないぜ」
イーヴォール
「そうだな。……ありがとう。最後にはお前達に救われたよ」
6本腕の神が、掌をイーヴォールに伸ばした。その体から、青く輝く珠を抜き取った。
イーヴォールがじっと青く輝く光を見ていた。神はイーヴォールを慈しむような目で見ながら、魂を握りつぶした。
突然に魔法使いの首ががくりと項垂れた。兵士がその様子を見て、騒然と声を上げる。
兵士
「死んでる!」
ヘンリー王も驚いて振り返った。
まだ死ぬような傷ではなかったはずだ。だがそれでも魔女は死んでいた。
思いがけない死に、兵士達が動揺する。ヘンリー王が舌打ちした。
だが魔女の死に顔は、驚くほど穏やかで、かすかな微笑みが浮かんでいた。
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