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■2009/08/23 (Sun)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P033 第4章 見合う前に跳べ


食事が終って、すぐに千里が立ち上がった。
「私、そろそろ行くわ。時間が惜しいもの。」
「そうね。私も行かせてもらうわ」
千里に続くように、まといが指先をなめながら立ち上がった。
「ちょっと従いてこないでよ!」
「私の前を歩かないで」
千里とまといは、喧嘩をしながら客間を出て行く。
「それじゃ、私もそろそろこれで。使用人を引き払っておりますから、色々と仕事があるんですよ」
時田は執事の丁寧さで私たちに断り、立ち上がった。
次に立ち上がったのはあびるだった。
「私はお庭に行くわ。日も出てきたし、ここって珍しい動物がたくさんいるみたいだから」
あびるは少し声を弾ませていた。今さらだけど、あびるって動物好きなのかも、と私は気付いた。
あびるは靴脱ぎ石の上で草履を履くと、そのまま庭園のほうへ向かっていった。
「私はもう一眠りしたら、また遊戯室に行くわ。あ~あ、あと17時間か……」
カエレが退屈そうに欠伸をして立ち上がった。カエレは胸元を大きく開けてはだけさせていた。帰国子女には、和服姿は締め付けは厳しいらしい。カエレみたいなスタイルのいい女の子が着崩していると、和服もセクシーに思えた。
マリアは満腹のせいか、うつらうつらとさせていた。
「マリアちゃん、寝たほうがいいよ。隣の部屋に、お布団の用意もあるみたいだから」
私は眠たげなマリアの手を掴んで、廊下を挟んだ向かい側の部屋に入った。やはり20畳近くある広い部屋に、布団が畳んで積まれていた。
私は布団を敷くと、マリアを寝かせて、体にタオルケットをかぶせた。マリアは体を横にすると、すぐに寝息を立て始めた。
眠っているマリアは、子供のようにあどけなかった。やはり同じ年頃の女の子には思えない。マリアの実年齢は……いやいや、知るべきじゃないのかもしれない。糸色先生が「知らぬが華」と言うのを思い出していた。
私は客間に戻った。客間に残っていたのは、可符香と、まだ眠っている芽留だけだった。
「奈美ちゃんはどうするの? また行くの?」
可符香は一人で朝食の後始末をしていた。空になった大皿と汁碗を重ねて、カートに載せている。
「ううん。もういい。道に迷って大変だったんだから。私も、ゲームでもしとこうかな」
私は苦笑いを浮かべて、可符香の仕事を手伝った。眠っている芽留のために、おにぎりをいくつか残してそばに置いておいた。
「ふ~ん、そう」
可符香は後片付けが済むと、手拭いで手を拭いた。そのまま、廊下のほうへ進む。
「どこに行くの?」
「内緒」
可符香は私にちらと横顔を見せて、口元に指を当てた。
私はなんだろう、と好奇心を感じて可符香に従いて行った。可符香は客間を出て、廊下を進んで行った。可符香は、知った場所を歩くように、迷わずその先を進んでいく。
やがて中庭に出ると、可符香はさっと廊下の角に身を潜めた。私も可符香に倣って隠れた。
それから、そろっと中庭を覗いてみる。すると、時田が中庭を歩いているのが見えた。
時田が中庭を去ると、私たちも廊下に出た。渡り廊下をくぐって向こう側の部屋を突っ切っていった。
また時田の姿が現れた。時田は廊下に上がっていて、時々周囲を警戒するように見回している。
どうやら、可符香は時田を追跡しているようだった。時田は部屋を突っ切り、廊下を進み、時々中庭を横切り、追跡者を警戒するような複雑な道を選んで進んでいた。
「どこに行くんだろう?」
私は可符香に囁くように問いかけた。
「見てればわかるよ」
可符香は声を潜めて、それでも子供のように声を弾ませていた。
時田が廊下の陰に消えた。私たちは時田が曲がった廊下へ入っていった。しかし、時田の姿はもうなかった。
可符香は、迷いなく障子を開けて側の部屋に入っていった。部屋は10畳くらいの、この屋敷にしては比較的小さな部屋だった。床の間、押入れと標準的な和室で、向こう側が障子になっていた。障子は締め切られていて、畳に幾何学的な形の影を落としていた。
でもその部屋のなかに、時田の姿はなかった。
「見失っちゃったね」
私は部屋のなかをきょろきょろとしながら、可符香に声をかけた。
「こっちだよ、奈美ちゃん」
可符香は真直ぐ床の間に向かい、そこに飾られている幅の広い掛け軸をめくり上げた。するとその裏に、隠し部屋の入口があった。

次回 P034 第4章 見合う前に跳べ10 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/08/23 (Sun)
2027年のロンドン。
原因不明の不妊症が広がり、世界から子供の姿が消えた。
世界で最も若い少年で知られるディエゴ・リカルドだったが、その日の朝、死亡したとニュースが告げていた。
ディエゴ・リカルドのファンの者が、路上で刺し殺したのだ。
18年の短い生涯だった。
7dff5ad1.jpga740e1db.jpg思い出写真、ペット、鑑賞する者のない芸術。セオは麻薬を吸ってジョークを飛ばしあう。希望のない未来では、自分を慰め、子供がいないから昔を語り合う。映画は人類の黄昏を描くようである。
希望を失った未来社会の物語だ。
社会は後退し、世界の先進都市は崩壊し、政治機能は停止した。世界でロンドンだけが鎖国を敷くことで、かろうじて秩序を保たれていた。
だが現実には、ロンドンは不法入国者で溢れ、治安は悪く、反政府組織があちこちで危険な地下活動を行っていた。
a8da6d27.jpg絶望に流されるままだったセオは、妊娠しているキーを見て衝撃を受ける。希望というのは、いつも知らないどこかではぐくまれているものだ。だが、社会の中心は希望に気付かず、政治的攻防を繰り返し続ける。


ある朝、セオは路上を歩いていた。
9fef43ff.jpg崩れた壁の向うに、檻に入れられた人たちの群れが見えた。不法入国者たちだ。これから、イギリスの外に送り返されるのだ。
不法入国者たちがあげる声で、雑踏は喧騒で満ちていた。
一方の壁のこちら側は、ディエゴ・リカルドの死で嘆く人たちで沈黙していた。
道の端に写真が飾られ、写真の周囲に献花が一杯に集まっていた。献花を捧げる人たちが、膝をついて、泣き声を押し殺そうとしている。
セオは、そんな人たちの側を、無感情に通り抜けようとした。
そうして道路に出ようとすると、突然に背後から襲われた。セオは手を縛られ、目隠しされて車の中に押し込まれた。
連れて行かれた先にいたのは、かつてのセオの恋人、ジュリアンだった。
「ひどいな……」
セオは茫然と、20年ぶりに見たジュリアンの顔を見詰めた。
ジュリアンは今は“フィッシュ”と呼ばれる反政府活動に身を置き、指名手配されていた。
「芝居じみてた? 警察の目が厳しくて、他に方法がなかったの。元気だった」
一方のジュリアンは楽しげに微笑んでいた。
だがジュリアンは、かつての恋人に会いに来たのではなかった。
ある女性のために、通行証を手配して欲しい、という。
その女性は、キーという名前で、8ヶ月目になる子供を胎に宿していた。
出産すれば、世界が18年ぶりに目撃する子供である。
d82eb4b5.jpg最初に『トゥモロー・ワールド』を観たとき、この車の長回しが疑問だった。どうやって撮影されたのか?答えは天井を抜いてコントロール式カメラを設置し、カメラが俳優から外れた瞬間をデジタルで繋いでいたわけである。答えを聞かされると、なるほど、と思う。デジタルはいかにも大袈裟な場面のみに使うのではなく、こんな使い方もあるのだ。

映画『トゥモロー・ワールド』が描く未来社会の風景は、どんよりと重く、絶望的空気が濃く満ちている。
セオの毎日は、仕事にも行かず友人の家へ行き、麻薬を吸って夜を過ごしている。
セオに限らず、『トゥモロー・ワールド』の社会は誰もが絶望的な気分のなかを過ごしている。
政府すら状況を変える力はなく、イギリスの住民に坑欝剤と自殺薬を配給として配っていた。
子供の姿が消えて、未来から可能性と希望が失われた近未来社会。
だからといって人間が平和的に結びつくこともなく、むしろ政治的渾沌を深め、社会はどこまでも荒廃して秩序は後退している。
反政府組織フィッシュは、妊娠しているキーに希望を望んでいるのではなく、それを利用して、政治的な転覆だけを画策している。
97bbff90.jpg荒廃したSF描写はリドリー・スコットが描いたものから脱却している。イギリスの風景に、被災地の荒廃を加え、そのうえにテクノロジー追加している。このちぐはぐな感じが、映画独特の異世界的空気を作り上げている。


『トゥモロー・ワールド』が描くSF的風景は、どのSF映画より重く、暗い。
多くのSF映画は世紀末的“雰囲気”を描いてきたが、『トゥモロー・ワールド』はもっと“確定的”な絶望を描いている。
実写、アニメを問わず、SFを描く作法は、実景をどこかに残しながら手を加えていくことであった。
『ト39c5fc87.jpgゥモロー・ワールド』の描き方は、SFの作法を丁寧に踏襲している。
実際のロンドンの風景を汚し、テクノロジーを追加しつつも、時代錯誤としか言いようのないファッションや、古びた車両を走らせている。
だが、それ以上に、“子供が誕生しない”という設定が、SF的な倦怠感を増幅させている。
そんなどこまでも深く、重い絶望を描きながらも、映画はささやかな希望を与えている。
世界から姿を消した、新たな誕生の予感。
絶望しかないと思える未来に、かすかな希望を与えて、映画は終わる。

映画記事一覧

作品データ
監督・脚本:アルフォンソ・キュアロン 原作:P・D・ジェイムズ
音楽:ジョン・タヴナー 脚本:ティモシー・J・セクストン
出演:クライヴ・オーウェン ジュリアン・ムーア
    マイケル・ケイン キウェテル・イジョフォー
    チャーリー・ハナム クレア=ホープ・アシティ
    パム・フェリス ダニー・ヒューストン
    ピーター・ミュラン ワーナ・ペリーア



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■2009/08/23 (Sun)
国際刑事法廷。
窓の外は様々な国旗がはためいている。その日、ハン大使が大事な発表を行う予定だった。
問題の中心にあったのは、世界中で暗躍する中国系犯罪組織の存在だった。組織(トライアッド)は秘密結社であり、本部がどこであり、リーダーが誰なのかも不明だった。ハン大使は、組織(トライアッド)の秘密を暴く、重要な情報を掴んでいた。それは、『シャイシェン』と呼ばれる謎の何かに秘密が隠されていた。
だがハン大使が『シャイシェン』について口にしようとしたその時、何者かが狙撃する。
fbd4975a.jpg5be94d8d.jpg護衛官と勤めているカーター刑事。一方リー警部は交通整備を任されていた。リー警部は警察無線でハン大使の狙撃を知り、駆けつけようとする。
当日、ハン大使の護衛官を勤めていたカーター刑事は、即座に犯人追跡に乗り出す。
間もなくカーターは狙撃手を路地裏に追い詰める。だが狙撃手はカーターの幼馴染であるケンジだった。
カーター刑事は衝撃を受け、ケンジを見逃してしまう。
落胆するカーター刑事は、ハン大使が入院している病院に向かう。だが護衛は一人もおらず、病院を何者かが襲い掛かる。
カーター刑事はリー警部とともに襲撃者を倒し、その一人から証言を聞きだす。
「『シャイシェン』の謎を解く手掛かりがフランスにある」。
カーター刑事はリー警部とともにフランスへ向かう。
ac2145a8.jpgケンジ役を演じるのは真田広之。ゲストがヒールを演じるのはアメリカ映画の基本ルールだ。舞台はフランスで敵は中国犯罪組織、なのにボスは日本人という奇妙な組み合わせの映画だ。


80928e5a.jpgジャッキー・チェン、クリス・タッカー共演のヒットシリーズ第3作目だ。
物語はロサンジェルスからフランスに移り、前2作のような大騒ぎを繰り広げる。
舞台となるのはいずれも有名な観光名所で、フランス旅行で巡る場所は概ね登場する。凱旋門やシャンゼリゼ通り、エッフェル塔。観光旅行の気分を味わうには最適な映画だろう。
6540233a.jpgアクションもコメディも、物語の合間に無理矢理突っ込んだ印象の映画。映画の売りになる描写が物語と調和せず、浮き上がってしまっている。どんでん返しもなく、映画としては極めて単調で凡庸。


映画の物語に見所は少ない。大きなうねりもなく、映画の最後までストンと落ちていくような物語だ。
5e5bea84.jpgアクションシーンには切れがなく、カメラワークがむしろ俳優の動きを殺してしまっているように見える。コメディシーンは物語の合間に突っ込んだ感じで、展開の速度を停滞させてしまっている。
どんな危機に直面しても、大きな困難はなく簡単にすり抜けてしまう。所詮はコメディ映画だから、と開き直っているようにすら見えてしまう。
大味な映画と写るかもしれないが、あくまでもこの作品はフランス観光旅行を楽しむ映画だ。日曜日の1時間半を埋める最適な映画だろう。

映画記事一覧

監督:ブレット・ラトナー 脚本:ジェフ・ネイサンソン
音楽:ラロ・シフリン 撮影:ジェームズ・ミューロー
出演:ジャッキー・チェン クリス・タッカー ヴィニー・ジョーンズ
    真田広之 ノエミ・ルノワール マックス・フォン・シドー
    イヴァン・アタル 工藤夕貴 ロマン・ポランスキー
    ジュリー・ドパルデュー チャン・チンチュー ツィ・マー



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■2009/08/23 (Sun)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P032 第4章 見合う前に跳べ


時田が2台のカートを押してきた。私たちは、カートにおにぎりを載せた大皿とポッドと、そのほか汁碗やいろいろのものを乗せた。そうしてカートを押して、もとの客間に戻った。
客間に残っていたのは芽留だけだった。芽留は携帯電話を握りしめたまま、畳の上で眠っていた。無理に起こす必要はないだろう、とその体にタオルケットを掛けておいた。小さな芽留の寝顔は、子供みたいで可愛かった。
私とマリアで、客間に大皿を運び、インスタントのお吸い物の準備をした。時田は客間を離れ、放送で朝食の準備を呼びかけた。しばらくして、可符香、あびる、カエレという順番に戻ってきた。最後に千里とまといが一緒に戻ってきた。
私たちはおにぎりを乗せた大皿を、背を向けて囲み、食事を始めた。目を合わせないようにするため、とはいえ不思議な食事風景だった。
「千里ちゃん、先生、もう見付かった?」
私はおにぎりを頬張りながら、右隣に座った千里に話しかけた。
「いいえ。北の茶室まで追い込んだのだけど、秘密の抜け道から逃げられたわ。それから2時間程、姿を見てないの。」
「一晩中やってたんだ」
千里は少し悔しそうだった。どうやら、着物姿で一睡もせず走り続けたのだろう。改めて、千里とまといの情熱には勝てないと思った。というか、千里とまといの執念はちょっと恐かった。
「もう、先生ったらどこへ行ったのかしら」
千里のさらに右隣で、まといが呟いた。少し、心配そうな色があった。
「譲らないわよ。」
千里がまといを挑発するように言った。
「ええ、わかってるわ」
まといが挑発を受けて返す。
「時田さん、そういえば、倫さんは? 倫さんは屋敷に残っているんでしょう?」
私はふと思いついて、左隣の時田に尋ねた。時田も一緒に朝食のおにぎりを頬張っていた。
「倫様は見合いの儀の期間中、部屋に鍵を込めて篭城しております。食事と水を持ち込んでいるので、何も心配いらないでしょう」
時田はおにぎりを素手で掴みながら、淡々と答えた。
「時田さん、糸色先生が逃げ込みそうな場所に、何か覚えはありませんか?」
千里がちょっと後ろに体をそらして、時田の背中に訊ねた。
「もう日が昇りましたからな。望ぼっちゃまのことですから、下手に動かず、日が沈むのを待ってどこかに潜んでいるでしょう。探すのは困難でしょうな。軒下などを丹念に探してみてはいかがでしょう」
時田は考えを探るようにして答えを返した。
私はなんとなく、ふ~ん、と思って時田を振り返った。
「へえ、時田さん、手、綺麗ですね。何かやっているんですか?」
私はおにぎりを掴む時田の手に気づいて、感心した声をあげた。時田の手は、まだ若いみたいに艶があった。時田くらいの年齢だと、意外な若々しさがあるように思えた。
「毎日の鍛錬の結果ですな。望ぼっちゃまやそのご兄弟を常に気配らねばならぬ立場にあります。多少は体を鍛える必要もあるんですよ」
時田は誇らしげに胸をそらして説明した。
「へえ~」
私は素直に尊敬の目で時田を見た。痩せてひょろっとしている時田が、意外に逞しいものに思えた。

次回P033 第4章 見合う前に跳べ9 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/08/22 (Sat)
02ca84e4.jpg暗い夜の闇を、蛍の光が点々を瞬いていた。草むらを少し下ったところに田圃があった。まだ田植えが始まったばかりで、背の低い草がぽつぽつと生えているだけのように見えた。
「父ちゃん、竜って見たことある?」
「ああ、小っちぇころ、一度だけな。ひでぇ旱があったとb1a6d33f.jpgき、長老達が雨を降らせるために呼んだ」
河童の親子が言葉を交わしていた。
夜は深く、虫の声も次第に遠くなりかけている。涼しげな空気が辺りを満たしていた。
そんな夜の闇に、提灯の明かりが浮かび上がった。河童の親子が振り返った。草ばかりのあぜ道を、侍と提灯を持った商人が寄り添って歩いていた。
a3916f9c.jpg「いやあ、よい心地に酔うた」
侍の頬が、ほのかに赤く染まっていた。提灯の明かりでも、酒に酔った侍の顔が僅かに確認できた。
「何を仰います。またいつでもお越しを……」
商人の男がしまりのない微笑を侍に向けた。
「そう度々とお金は作れぬ。帳面を書き換えるのは容易だが、どこから疑われるやもしれんからな。近頃は上も何かとうるさい。ばれない程度にやっているが、なにしろ俺たちがやっているのは、必要のない農地開拓だ。百姓の懐ではなく、俺たちの懐を肥やしている」
「まったくで」
商人の男がにやにやと笑った。侍もつられるように、喉の奥を鳴らすように笑った。
9decd8c4.jpgそんな商人たちの前に、河童の父親が姿を現した。
「晩でやす。ああ、たまがすつもりはねがったです。勘弁してくだせえ。お手間は取らせません。ちょっくら話を聞いてくだせえ。実はお役人様にお願いがございまして。私は竜神沼に住んでいる者でございます。聞くところによると、この度、竜神沼を開拓し、田圃にする話がc24130ca.jpg進んでいるとか……。その話、どうか考え直してくれないでしょうか。あの沼を奪われては、私どもが生きていくことができねえです。なにとぞ、ご再考くだせえ」
河童の父親は、侍と商人を脅かさないように慎重に言葉を選んで頭を下げた。
「妖怪風情が調子に乗りおって。おい、河童。貴eefd5ab3.jpg様、俺たちの話を聞いておったであろう」
「ええ。何の話か、わかんねえかったですが……」
「嘘を申せ! 開拓をやめねば聞いたことを代官に出も訴えるか!」
侍が刀を抜いた。はっとする間もなく、河童の父親の腕を切り落とした。
河童の子供は、驚いて逃げ出そうとした。だがその時、地震が襲いかかった。地面が引き裂け、河童の子供はその裂け目へと落ちていく……。
d3815d93.jpg上原家の家族構成、玄関の眺めを見て、「おや?」と思った人は多いはず。『クレヨンしんちゃん』そのままだ。数年後の『クレヨンしんちゃん』といったところか。『クレヨンしんちゃん』での監督が長く、まだ引き摺っているところがあるのだろう。



それから数百年後。物語は現代の埼玉に移る。
7c9756ee.jpg上原康一少年は、河川敷で大きな石を発見する。その石の中に、半ミイラ化した河童が封印されていた。
水をかけると河童は蘇生し、クゥと鳴き始めた。体は衰弱してたが、食べ物を与えると次第に回復していった。
上原康一は河童にクゥと名付けて、秘密の共生生活を始める。
7249a735.jpg物語は黒目川流域を中心にしている。そのあたりは、比較的に穏やかで落ち着いた風景が見られる場所だが、映画で描かれるほど美しい場所ではない。都会人が抱きそうな幻想を描いている。ところで、この川は鯉が非常に多い。



物語の中心にあるのは、少年と河童の交流の物語だ。だが、物語は少年と河童だけに閉鎖せず、家族や現代社会を巻き込んでいく。
bae5910b.jpg少年と河童の交流、それから家族との絆という暖かなテーマが大半だが、河童という闖入者によってその人間の社会性がどのように変質していくかを描いた作品である。
河童という秘密を抱えた少年は、少年のコミュニティから遠ざかっていき、河童との関係を深めていく家族に6093409b.jpg対して、妹の瞳は河童への不満から秘密を暴き出そうとする。
物語はやがて、家族スケール、地方都市スケールの物語から、日本そのものを取り巻く巨大メディアを中心にした大騒動へと発展していく。
河童という異端者が人間の本質的な光と闇を暴き出し、人間が持つ野獣性をむき出しにさせていく。それは社会性やモラルといった言葉に隠蔽された、日本人が普遍的に持っている、ひたすら環境に振り回されだけの盲目的で付和雷同的な性格そのものである。
b3e1920a.jpg子供社会は『ドラえもん』などと較べるとはっきりと違いがわかる。消費できるのが当然だと考える現代の子供の傲慢さを描いている。子供は人間関係すら消費としか考えず、快楽が引き出せない相手を仲間外れする。動物じみた今時の子供を描写している。



クゥとは現代に残された自然の象徴そのものだ。失われつつある自然の体現者として、現代人の前に現れた使者であるといえる。
だが日本人は、そんな最後の資源すら、お祭り騒ぎの具にして消費してしまう。
日本人にとって、あらゆる自然は消費する対象としか見ていない。ただひたすら消費し、自分の周辺から自然が失われていくことに対して、無関心と無自覚を決め込んでいる。
問題はテレビの向こう側に押し込んで、昼も夜もない狂騒に踊り狂う。
日本人は最後のときまで、ただただ群がってお祭り騒ぎを続けるのだろう。
ff87a21b.jpgもともとは2時間50分の長尺の映画だった。アニメには編集以上に絵コンテを重視する考え方があり、編集で切り貼りされるのは例は非常に珍しい。




『河童のクゥと夏休み』は映画としては極めて段取りが悪く、歯切れもよくない。
映像の感性は凡庸で、前衛的なエネルギーも、繊細さも感じない。物語の展開は進んだり停滞を繰り返して、連続性は弱く、見る者を引き込む力は弱い。後半の展開も、順序立てが充分ではなく強引に押し込んだ感じで、自然な流れとは言いがたい。
f5ca9a65.jpgだが中盤にかけて、印象的な場面が多くなってくる。遠野に旅立ち、クゥと少年が交流を深めていく過程はなかなか見るべきものがある。
クゥと接した少年がどのように変化し、成長していくか、その過程を追った物語だ。それから、少年が失った絆を取り戻す過程を描いた作品だ。
夏になると、再び見る機会が巡ってくるかもしれない映画だ。

監督:原恵一 原作:木暮正夫
キャラクターデザイン:末吉裕一郎 美術監督:中村隆
色彩設計:野中幸子 撮影監督:箭内光一 編集:小島俊彦
デジタル監督:つつみのりゆき 音楽:若草恵 音響監督:大熊昭
アニメーション制作:シンエイ動画
出演:冨澤風斗 横川貴大 田中直樹 西田尚美
    松元環季 安原義人 なぎら健壱 植松夏希
    羽佐間道夫 藤本譲 富田耕生 一城みゆ希
    岩田安生 稲葉実 定岡小百合 井上里花
    藤原啓治 矢島晶子 優希比呂 子安武人



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