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■2009/09/08 (Tue)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
7
千里が先頭に立って、噛み合わず傾いた鉄扉の隙間から体を押し込んでいった。それに続くように、まとい、藤吉、あびる、私、可符香という順番で門を潜り抜けていった。
鉄扉の向うは庭園になっていた。しかしあからさまに手入れされておらず、暗い影を落としていた。芝生だった場所は背の高い雑草だらけになっていたし、樫の木の枝先には蔓植物が絡みついている。そんな場所を、煉瓦で舗装された道がうねうねと奥に向かって続いていた。
藪になりかけた草むらの中から、唐突にガーゴイルが姿を現す。カラスの嘴を持った怪物が闇に潜む様は、なんだかわからない邪悪な生々しさを宿しているように思えた。私は恐くなって可符香の腕にすがりつきながら煉瓦敷きの道を進んだ。
やがて道の向こうに、屋敷が現れた。屋敷は夜の闇を纏い、どっしりと私たちの行く手を遮るようだった。正面には新古典主義様式の柱が整然と並んでいる。アールヌーボー様式の装飾が要所要所に添えられていた。
私たちは、圧倒されて屋敷の前に立ちとどまってしまった。
かつて壮麗であっただろう屋敷は、すっかり荒れ果てている。意匠を凝らした装飾の数々は、今やグロテスクな物体となって、不気味な影を落としていた。
尋ねる者を圧倒させるような佇まい。人の手から放たれた、陰気で沈黙した空気。お化け屋敷と呼ぶには、あまりにも本格的過ぎる雰囲気が一杯に満ちていた。
「ふん。汚い庭に、俗物趣味の屋敷。主の品性はよく現われているわね。行くわよ。」
千里は鼻を鳴らしてばっさり品評すると、のしのしと玄関のブロンズ扉に近付いた。
後にまといが続いた。千里とまといとの二人で、謎のレリーフが施された鉄扉を両側に開けた。ずずずと重い音がして、屋敷の内部に月の光が飛び込んだ。
屋敷の入口に、靴脱ぎ場はなく、いきなり廊下と繋がっていた。白と黒の市松模様に、私たち6人の影が長く伸びていく。
千里を先頭に、私たちは慎重に屋敷の中へと入っていった。屋敷の中に明かりはなかった。月の光で、屋敷の中に漂う暗黒がゆっくりと浮かび上がってくるようだった。
少し進んだところに、巨大な白い像が現れた。私はその像の存在に気付いて、思わず息を吸い込んでしまった。そこに現れたのは、高さ3メートル近い『ジュリアーノ・デ・メディチ』だった。教科書にも載っているから、私でも即座にわかった。
石の玉座に悠然と座る男の姿は圧倒的だった。克明に描写した身体の動き、筋肉の躍動。もし立ち上がったら、何メートルに達するかわからない。私はただただ石の巨人に圧倒されて見上げていた。
「ようこそ。久し振りの客人がこんな少女たちだとは、嬉しいよ。さあ、歓迎しよう」
男爵の低く呟くような、それでいて沈黙した屋敷の隅々まで届くような声がした。
私はブロンズ像の右横に目を向けた。そこに、男爵が杖に両掌を添えて立っていた。ブロンズ像の巨大さと較べると、男爵はちんまりと立っているように見えた。だけど男爵には、もっと生々しい気配があった。黒ずくめの衣装のせいか、暗闇から這い出た、この世の者ではない不気味な何かを背負っているように思えた。
「現れたわね。こっちは一生分の恥を掻いたんだから。絶対に許さないわよ!」
千里は一歩前に進み出て、威勢よく指をさした。
「ほう、ではどうるすつもりなのかね。聞かせてくれたまえ」
しかし男爵は、穏やかな調子でさらりと受け流してしまった。
「えっと、そう、訴訟よ! 集団訴訟してやるわ!」
千里は少し答えに詰まりながらも、それでも勢いよく言葉を続けた。
「何の罪でだね? 私と君たちは今日出会ったばかりだ。私は君たちに、どんな苦痛を与えたかね?」
まるでとぼけるように、男爵は言葉を返した。
千里は次の言葉が浮かばず、「……うう」とくやしそうに目線を落とした。
「あなたなんでしょ。先生を罠に落としたのは。あなたを告発してやるわ」
代わりに、まといが千里の横に並んで怒鳴った。
しかし、男爵はちょっと下を向いて鼻で笑った。
「証拠はどこにあるのかね。動機も不明だ。そもそも私は、この町に戻ってきたばかりでね。私があの男を罠に陥れた? なぜ? どうやって?」
男爵はまるで子供を諭すような高い声で、疑問符を並べた。
私たちは、ついに言葉を失ってしまった。千里もまといも、もどかしそうな顔をして、ただ男爵を睨みつけるだけだった。
男爵はポケットの中から、金の懐中時計を引っ張り出して蓋を開けた。
「9時になったな。来たまえ。夕食もまだなのだろう。食事でもしながら、ゆっくり話し合おうじゃないか」
男爵は右に開いた空間を示して私たちに微笑みかけると、その部屋の闇に消えていった。
「どうする、千里ちゃん」
私は戸惑うように千里に声をかけた。正直、恐かった。肝試しだったら、とっくに逃げ帰っているところだった。
「行くわよ! 相手が誘っているんだから、乗ってやろうじゃないの。そのうえで、相手から謝罪を引き出すのよ!」
千里が顔を上げて、上擦った声で意思表明した。
「油断しないでね」
まといが忠告した。
「わかってるわ。」
千里がまといを振り返った。二人の間に、強い結束で共有された仲間意識が感じられた。
次回 P050 第5章 ドラコニアの屋敷8 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P049 第5章 ドラコニアの屋敷
7
千里が先頭に立って、噛み合わず傾いた鉄扉の隙間から体を押し込んでいった。それに続くように、まとい、藤吉、あびる、私、可符香という順番で門を潜り抜けていった。
鉄扉の向うは庭園になっていた。しかしあからさまに手入れされておらず、暗い影を落としていた。芝生だった場所は背の高い雑草だらけになっていたし、樫の木の枝先には蔓植物が絡みついている。そんな場所を、煉瓦で舗装された道がうねうねと奥に向かって続いていた。
藪になりかけた草むらの中から、唐突にガーゴイルが姿を現す。カラスの嘴を持った怪物が闇に潜む様は、なんだかわからない邪悪な生々しさを宿しているように思えた。私は恐くなって可符香の腕にすがりつきながら煉瓦敷きの道を進んだ。
やがて道の向こうに、屋敷が現れた。屋敷は夜の闇を纏い、どっしりと私たちの行く手を遮るようだった。正面には新古典主義様式の柱が整然と並んでいる。アールヌーボー様式の装飾が要所要所に添えられていた。
私たちは、圧倒されて屋敷の前に立ちとどまってしまった。
かつて壮麗であっただろう屋敷は、すっかり荒れ果てている。意匠を凝らした装飾の数々は、今やグロテスクな物体となって、不気味な影を落としていた。
尋ねる者を圧倒させるような佇まい。人の手から放たれた、陰気で沈黙した空気。お化け屋敷と呼ぶには、あまりにも本格的過ぎる雰囲気が一杯に満ちていた。
「ふん。汚い庭に、俗物趣味の屋敷。主の品性はよく現われているわね。行くわよ。」
千里は鼻を鳴らしてばっさり品評すると、のしのしと玄関のブロンズ扉に近付いた。
後にまといが続いた。千里とまといとの二人で、謎のレリーフが施された鉄扉を両側に開けた。ずずずと重い音がして、屋敷の内部に月の光が飛び込んだ。
屋敷の入口に、靴脱ぎ場はなく、いきなり廊下と繋がっていた。白と黒の市松模様に、私たち6人の影が長く伸びていく。
千里を先頭に、私たちは慎重に屋敷の中へと入っていった。屋敷の中に明かりはなかった。月の光で、屋敷の中に漂う暗黒がゆっくりと浮かび上がってくるようだった。
少し進んだところに、巨大な白い像が現れた。私はその像の存在に気付いて、思わず息を吸い込んでしまった。そこに現れたのは、高さ3メートル近い『ジュリアーノ・デ・メディチ』だった。教科書にも載っているから、私でも即座にわかった。
石の玉座に悠然と座る男の姿は圧倒的だった。克明に描写した身体の動き、筋肉の躍動。もし立ち上がったら、何メートルに達するかわからない。私はただただ石の巨人に圧倒されて見上げていた。
「ようこそ。久し振りの客人がこんな少女たちだとは、嬉しいよ。さあ、歓迎しよう」
男爵の低く呟くような、それでいて沈黙した屋敷の隅々まで届くような声がした。
私はブロンズ像の右横に目を向けた。そこに、男爵が杖に両掌を添えて立っていた。ブロンズ像の巨大さと較べると、男爵はちんまりと立っているように見えた。だけど男爵には、もっと生々しい気配があった。黒ずくめの衣装のせいか、暗闇から這い出た、この世の者ではない不気味な何かを背負っているように思えた。
「現れたわね。こっちは一生分の恥を掻いたんだから。絶対に許さないわよ!」
千里は一歩前に進み出て、威勢よく指をさした。
「ほう、ではどうるすつもりなのかね。聞かせてくれたまえ」
しかし男爵は、穏やかな調子でさらりと受け流してしまった。
「えっと、そう、訴訟よ! 集団訴訟してやるわ!」
千里は少し答えに詰まりながらも、それでも勢いよく言葉を続けた。
「何の罪でだね? 私と君たちは今日出会ったばかりだ。私は君たちに、どんな苦痛を与えたかね?」
まるでとぼけるように、男爵は言葉を返した。
千里は次の言葉が浮かばず、「……うう」とくやしそうに目線を落とした。
「あなたなんでしょ。先生を罠に落としたのは。あなたを告発してやるわ」
代わりに、まといが千里の横に並んで怒鳴った。
しかし、男爵はちょっと下を向いて鼻で笑った。
「証拠はどこにあるのかね。動機も不明だ。そもそも私は、この町に戻ってきたばかりでね。私があの男を罠に陥れた? なぜ? どうやって?」
男爵はまるで子供を諭すような高い声で、疑問符を並べた。
私たちは、ついに言葉を失ってしまった。千里もまといも、もどかしそうな顔をして、ただ男爵を睨みつけるだけだった。
男爵はポケットの中から、金の懐中時計を引っ張り出して蓋を開けた。
「9時になったな。来たまえ。夕食もまだなのだろう。食事でもしながら、ゆっくり話し合おうじゃないか」
男爵は右に開いた空間を示して私たちに微笑みかけると、その部屋の闇に消えていった。
「どうする、千里ちゃん」
私は戸惑うように千里に声をかけた。正直、恐かった。肝試しだったら、とっくに逃げ帰っているところだった。
「行くわよ! 相手が誘っているんだから、乗ってやろうじゃないの。そのうえで、相手から謝罪を引き出すのよ!」
千里が顔を上げて、上擦った声で意思表明した。
「油断しないでね」
まといが忠告した。
「わかってるわ。」
千里がまといを振り返った。二人の間に、強い結束で共有された仲間意識が感じられた。
次回 P050 第5章 ドラコニアの屋敷8 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
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■2009/09/08 (Tue)
映画:外国映画■
ペベンシー四兄弟が英国に戻って、1年の時が過ぎていた。
ペベンシー四兄弟は、今もナルニアでの日々を忘れられず、英国での日常に馴染めないでいた。
ナルニアに戻れないだろうか。
地下鉄でそう考えていたとき、突然にルーシーは体に魔力を感じる。
ナルニアが呼んでいる。そう直感した四兄弟は手を繋ぎ、ナルニアを心で念じた。
次の瞬間には、四兄弟は美しい砂浜にいた。
ナルニアだ!
ペベンシー四兄弟は、大喜びで砂浜に繰り出す。
本格的な剣でのアクション。前作では無用の長物だった弓矢。やわらかな童話世界だったナルニアは、過酷な現実が漂う別世界となっていた。
すぐにでも、何かがおかしいと気付く。
「あの廃墟はなんだろう?」あんな廃墟は、ナルニアにはなかったはずだ。
行ってみると、そこは城の跡だった。かつてペベンシー四兄弟が過ごしたケア・パラベル城だった。
しかも、城には戦争の爪痕も残されていた。
あれから、どれだけの時間が流れてしまったのだろう。地下に、かつてペペンシー四兄弟が使っていた服や装備品が残されていた。
ペベンシー四兄弟は、城の周囲に何かないか散策してみた。
とそこに、小人を川の中に投げ込もうとしている男たちを発見する。
とっさに小人を救ったペベンシー四兄弟は、その小人からナルニアで1000年の時が過ぎ去ってしまったことを聞く。
今回の語り手である小人は『スター・ウォーズ』に出演経験をもつ有名人だ。出演者のほとんどは、ハリウッド映画に出演経験の浅いものから選ばれている。
ナルニアの統治者はテルマール人たちに変わっていた。
ある夜。
テルマール人の王子、カスピアンの寝床に、家庭教師の老人が入ってくる。
「今すぐ逃げるのです」
その夜、カスピアン王子の叔父、ミラースの妻が息子を出産したのだ。
ミラースはこの機会にカスピアン王子を亡き者とし、自分の息子を王位に就かせようと画策していた。
刺客は、すでにカスピアンの元に迫っていた。
カスピアンは急いで準備し、夜の闇に紛れて城を脱出する。
カスピアンを狙う追っ手が、すぐに迫ってきた。
カスピアンは、森へと逃げ込むが、間もなく追い詰められてしまう。
そのとき、カスピアンの目の前に、すでに伝説となったナルニア人が立ち塞がった。
物語の性質が変わってしまって、もう出てくれないかと思った動物キャラたち。やはり、彼らないないと。ナルニア独特の柔らかさは、動物キャラがいてくれてこそだ。
ここはどこだろう?
ペベンシー四兄弟ではなくとも、変わり果てたナルニアに戸惑いを覚える。
ナルニアは、かつてのような夢の王国ではなかった。
タムナスさんもビーバーさんもいないし、創造主アスランも姿を消した。
魔法で満ちた森は、今は沈黙し、動物は言葉を語りかけてくれない。
かつてのような、何でも受け入れてくれそうな温かみは、ナルニアにはもうない。
前作のように、唐突にサンタクロースが現れ、魔法の武器が授けてくれそうな雰囲気もない。
そこはすでに、人間達が世界する、神秘も奇跡もない世界だった。
異世界風景を作るミニチュアはWETA制作だ。ピーター・ジャクソンの指導のかいあって、WETAのミニチュア制作の精度は上がっている。今やフィギュアを作って販売するほどだ。『ナルニア物語第2章』はメルヘンの色調は弱くなり、自然の風景や、人間の闘争がクローズアップされる。奇しくも『ロード・オブ・ザ・リング』と同じ構成だ。
この物語は、人間の勢力と、森の妖精たちの戦いのドラマだ。
ペベンシー四兄弟が留守にしていた1000年の間に、人間たちが森を切り開き、そこからあらゆる神秘を取り除き、魔法の力を迷信に変えてしまった。
大地が失われて石の城がそこに現れ、人間達は自分達の政治闘争に明け暮れている。
森の小人や喋る動物たちは、そんな人間達に怯えながら、森で息を潜めて隠れている。
現実に戻ったペベンシー四兄弟も、今のナルニアに魔法の力を信じられなくなっていた。
ただルーシーだけが魔法の存在を信じ、アスランの帰還を信じていた。
ルーシー役のジョージー・ヘンリーは美形ではないが、今作でもいい表情を見せてくれた。美人に育ってくれるだろうか……。ところで次回作はどうなったのだろう。まったく話を聞かないのだが。
ファンタジーは、実は現実世界のあちこちに散らばっている。
だが、それは小さな断片だし、感受性の弱い我々は魔法の力になかなか気付かない。
だから作り手は、魔法の断片を集めて、芸術的な感性で集めたものを縒り合わせる。
ファンタジーは、映画や漫画やゲームの中で結集される。
我々は、日常から峻別された映画や漫画やゲームに接して、ようやくここではない向うの世界に没入する。
異世界を冒険するためには、心を異世界へと飛び立たせねばならない。
我々は、ペベンシー四兄弟と共に、ナルニアの国を願い、ナルニアへと飛び立つ。
だが、ナルニアからファンタジーが失われつつある。
だから我々の心は、今度はペベンシー四兄弟と共に、人間達と戦う。森の神秘と魔法の力を取り戻すために。
映画記事一覧
作品データ
監督・脚本:アンドリュー・アダムソン 原作:C・S・ルイス
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
脚本:クリストファー・マルクス スティーヴン・マクフィーリー
出演:ジョージー・ヘンリー スキャンダー・ケインズ
〇〇〇ウィリアム・モーズリー アナ・ポップルウェル
〇〇〇ベン・バーンズ ピーター・ディンクレイジ
〇〇〇ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ セルジオ・カステリット
〇〇〇ワーウィック・デイヴィス コーネル・ジョン
〇〇〇ケン・ストット リーアム・ニーソン
ペベンシー四兄弟は、今もナルニアでの日々を忘れられず、英国での日常に馴染めないでいた。
ナルニアに戻れないだろうか。
地下鉄でそう考えていたとき、突然にルーシーは体に魔力を感じる。
ナルニアが呼んでいる。そう直感した四兄弟は手を繋ぎ、ナルニアを心で念じた。
次の瞬間には、四兄弟は美しい砂浜にいた。
ナルニアだ!
ペベンシー四兄弟は、大喜びで砂浜に繰り出す。
本格的な剣でのアクション。前作では無用の長物だった弓矢。やわらかな童話世界だったナルニアは、過酷な現実が漂う別世界となっていた。
すぐにでも、何かがおかしいと気付く。
「あの廃墟はなんだろう?」あんな廃墟は、ナルニアにはなかったはずだ。
行ってみると、そこは城の跡だった。かつてペベンシー四兄弟が過ごしたケア・パラベル城だった。
しかも、城には戦争の爪痕も残されていた。
あれから、どれだけの時間が流れてしまったのだろう。地下に、かつてペペンシー四兄弟が使っていた服や装備品が残されていた。
ペベンシー四兄弟は、城の周囲に何かないか散策してみた。
とそこに、小人を川の中に投げ込もうとしている男たちを発見する。
とっさに小人を救ったペベンシー四兄弟は、その小人からナルニアで1000年の時が過ぎ去ってしまったことを聞く。
今回の語り手である小人は『スター・ウォーズ』に出演経験をもつ有名人だ。出演者のほとんどは、ハリウッド映画に出演経験の浅いものから選ばれている。
ナルニアの統治者はテルマール人たちに変わっていた。
ある夜。
テルマール人の王子、カスピアンの寝床に、家庭教師の老人が入ってくる。
「今すぐ逃げるのです」
その夜、カスピアン王子の叔父、ミラースの妻が息子を出産したのだ。
ミラースはこの機会にカスピアン王子を亡き者とし、自分の息子を王位に就かせようと画策していた。
刺客は、すでにカスピアンの元に迫っていた。
カスピアンは急いで準備し、夜の闇に紛れて城を脱出する。
カスピアンを狙う追っ手が、すぐに迫ってきた。
カスピアンは、森へと逃げ込むが、間もなく追い詰められてしまう。
そのとき、カスピアンの目の前に、すでに伝説となったナルニア人が立ち塞がった。
物語の性質が変わってしまって、もう出てくれないかと思った動物キャラたち。やはり、彼らないないと。ナルニア独特の柔らかさは、動物キャラがいてくれてこそだ。
ここはどこだろう?
ペベンシー四兄弟ではなくとも、変わり果てたナルニアに戸惑いを覚える。
ナルニアは、かつてのような夢の王国ではなかった。
タムナスさんもビーバーさんもいないし、創造主アスランも姿を消した。
魔法で満ちた森は、今は沈黙し、動物は言葉を語りかけてくれない。
かつてのような、何でも受け入れてくれそうな温かみは、ナルニアにはもうない。
前作のように、唐突にサンタクロースが現れ、魔法の武器が授けてくれそうな雰囲気もない。
そこはすでに、人間達が世界する、神秘も奇跡もない世界だった。
異世界風景を作るミニチュアはWETA制作だ。ピーター・ジャクソンの指導のかいあって、WETAのミニチュア制作の精度は上がっている。今やフィギュアを作って販売するほどだ。『ナルニア物語第2章』はメルヘンの色調は弱くなり、自然の風景や、人間の闘争がクローズアップされる。奇しくも『ロード・オブ・ザ・リング』と同じ構成だ。
この物語は、人間の勢力と、森の妖精たちの戦いのドラマだ。
ペベンシー四兄弟が留守にしていた1000年の間に、人間たちが森を切り開き、そこからあらゆる神秘を取り除き、魔法の力を迷信に変えてしまった。
大地が失われて石の城がそこに現れ、人間達は自分達の政治闘争に明け暮れている。
森の小人や喋る動物たちは、そんな人間達に怯えながら、森で息を潜めて隠れている。
現実に戻ったペベンシー四兄弟も、今のナルニアに魔法の力を信じられなくなっていた。
ただルーシーだけが魔法の存在を信じ、アスランの帰還を信じていた。
ルーシー役のジョージー・ヘンリーは美形ではないが、今作でもいい表情を見せてくれた。美人に育ってくれるだろうか……。ところで次回作はどうなったのだろう。まったく話を聞かないのだが。
ファンタジーは、実は現実世界のあちこちに散らばっている。
だが、それは小さな断片だし、感受性の弱い我々は魔法の力になかなか気付かない。
だから作り手は、魔法の断片を集めて、芸術的な感性で集めたものを縒り合わせる。
ファンタジーは、映画や漫画やゲームの中で結集される。
我々は、日常から峻別された映画や漫画やゲームに接して、ようやくここではない向うの世界に没入する。
異世界を冒険するためには、心を異世界へと飛び立たせねばならない。
我々は、ペベンシー四兄弟と共に、ナルニアの国を願い、ナルニアへと飛び立つ。
だが、ナルニアからファンタジーが失われつつある。
だから我々の心は、今度はペベンシー四兄弟と共に、人間達と戦う。森の神秘と魔法の力を取り戻すために。
映画記事一覧
作品データ
監督・脚本:アンドリュー・アダムソン 原作:C・S・ルイス
音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ
脚本:クリストファー・マルクス スティーヴン・マクフィーリー
出演:ジョージー・ヘンリー スキャンダー・ケインズ
〇〇〇ウィリアム・モーズリー アナ・ポップルウェル
〇〇〇ベン・バーンズ ピーター・ディンクレイジ
〇〇〇ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ セルジオ・カステリット
〇〇〇ワーウィック・デイヴィス コーネル・ジョン
〇〇〇ケン・ストット リーアム・ニーソン
■2009/09/08 (Tue)
シリーズアニメ■
前巻までのあらすじ(第十一集より)
プロ市民に家の建設を阻止された事を発端として起きた吉祥寺赤白解放デモに巻き込まれる望。そんなに赤白が嫌なら年末の紅白も中止すべきの世論をバックに麻生さんがまさかの「オタクの皆さん三色ならOKですよ」発言。紅白がもう一色を混ぜて放映される事になる。しかし赤でも白でも無い茶緑組という馴染みの無い色の組に選出された大物演歌歌手が大激怒。望は命と貞操を狙われる羽目になる・・・・。一年に及ぶ逃亡生活の果てに逃げ入った店の名が「オールゲイズ2丁目の夕日」CHEMISTRY(ケミストリー)川畑似のママが言うには「昔は良かった。ケータイもパールもビーズも無かったけど、アスへの夢があった。」「うまいこと言ったつもりか」のツッコミとともにプロ市民登場!腕に巻かれた茶緑の腕章に「若草四姉妹」の文字が・・・・。
クラックな卵
原作176話 昭和84年4月8日掲載
今日はイースターエッグ。糸色望が教室へ行くと、教壇の上にバスケットに入れた色とりどりの卵が置かれていた。原作176話 昭和84年4月8日掲載
「卵が先か、ニワトリが先か?」
望は卵のひとつを手に取り、神妙な顔で呟いた。
それから卵を置くと、教室を出て行く。
「どちらへ?」
風浦可符香が望の後を追って、訊ねた。
望が向かった先は宿直室だった。がらりとガラス戸を引き開けると、座敷に小森霧が毛布に包まってうずくまっていた。
「引きこもりが先か、家が先か?」
望は重大そうな口ぶりで、命題を口にした。
「家でしょう。でないと、引きこもれないって。」
木津千里がシラッと訂正しようとした。
しかし望は命題を引っ込めるつもりはなく、さらに深く考えるように顎に手を当てた。
「いや、そうでもないと思うんですよ。人類が家とか建てる前にも、引きこもり的な人はいたと思うんですよ。――森とか穴に」
「森に……。それは、まだずいぶんアウトドアな、引きこもりですね。」
千里は納得するというか、望の意見に呆れたような表情をした。
とそこに、マリアが飛び出してくる。短いスカートがひらりとまくれ上がった。
千里が「あっ!」とマリアを引き止めた。
「また、パンツ穿いていない。恥ずかしくないの!」
千里は怒ってマリアを嗜めようとした。
「待ってください。これにも疑問を持たざるを得ません。パンツが先か、羞恥心が先か?」
つまり、先に恥ずかしいと思ったからパンツ穿くようになったのか――パンツを穿くようになったから、いざ脱ぐと恥ずかしくなったのか?
そう。世の中、卵が先かニワトリが先かのように、どちらが先なのかわからない現象がいくつもある。
利権があるから族議員が生まれるのか。
単行本を出すために雑誌に載せるのか、雑誌に載せて溜まったから単行本にまとめるのか。
地名があって企業名になったのか、企業があって地名になったのか。
明らかにどちらが先かわかっているような対象であっても、充分注意して吟味しなければならないのである。
アニメがあるからオタクが生まれるのか/オタクがいるからアニメが生まれるのか/生きていくために作品を作るのか/作品を作るために生きているのか/スケジュールが崩れているからスタッフが壊れていくのか/スタッフが壊れているから/スケジュールが崩れていくのか
絵コンテ・演出:近藤一英 作画監督:原田峰文 色指定:大谷和也 制作協力:スタジオイゼナ
君よ知るや隣の国
原作156話 昭和83年10月8日掲載
スパイ天国日本――。原作156話 昭和83年10月8日掲載
現在日本国内に潜伏する某国の工作員だけでも2万人いると言われている。日本社会を混乱に陥れるために。
そこはコンビニのレジ前。ずらりと人が並んでいる。行列に並ぶ人たちから、苛々とした空気をぴりぴりと感じた。一番後ろに並ぶ望自身も、なかなか進まない列に苛々としたものを感じていた。
列の先頭にはおばちゃんが立っていた。覗き込むと、店員の前に小銭を並べ、さらに見付からない2円をバッグの中から探ろうとする。
……ああ、もう。レジでそんなに懸命に小銭を探さなくても。後ろで大行列になっているじゃないですか。
望は苛々しながら口にできない不満を頭の中で訴える。その後ではっとした。
あのおばちゃんは、社会をちょっとした混乱に陥れている。もしや――、
「円滑な社会生活を妨害する、工作員の仕業に違いない!」
望は結論付けるように宣言した。
「何を馬鹿なことを。」
と望の後ろに並んだのは木津千里だった。いつも後ろについている常月まといと入れ替わる。
「ただの迷惑な人でしょう。」
千里はさらりと望の珍妙な発想を正した。
「いや、しかし実際こーして何人もの人間が足止めをくらい、経済的な損失が出ているわけですよ。日本経済を衰退させ、国家の衰退を目論んでいるのかもしれない。あのご婦人は工作員かもしれません」
しかし望はそれでも自説を曲げず、むしろ発展させた。
「だったら、あれも工作員の仕業?」
千里を押しのけて入れ替わったのは小節あびるだった。
先日の図書館でのできごとらしい――。
静かな図書館で、いちゃいちゃと絡み合う若者二人。
「みんな相当、集中力乱しているようでした。私はそんなに気にならなかったけど」
「図書館でいちゃいちゃするカップル……。それはもう工作員の仕業に違いありません! 日本人の学力低下を目論み、国力の弱体化を狙っているのです!」
望は危機感に震えながら、同意して頷いた。
「だったら、先生。あれも工作員の仕業ですか」
とあびるを押しのけて日塔奈美が飛び込んできた。籠に新品のモグピープルが入っていた。
「あれも工作員の仕業ですか?」
話をはじめる奈美――。
先日の電車でのできごと。自動改札口の前では、粛々と行列が進行している。しかし、男が進行を止めてしまう。ゲートが閉じて、行列がぶつかりあってしまう。
「交通機関を麻痺するなんて。典型的な妨害工作です! 工作員の仕業に違いありません!」
望はさらに切迫した声をあげた。
「だったら、あれも工作員の妨害活動だったんですね」
いつの間にやらまた後ろに並んでいる女の子が入れ替わって、藤吉晴美が発言を始めた。
映画館にて。座席に座って映画の鑑賞をする藤吉。その手前には、スクリーンを遮らんばかりのまきまきに盛り上げたヘアスタイルのご婦人。(ああ、あるある。私のときは……また今度にしよう)
「それは日本のアニメ文化を衰退させ、親日外国人の減少させ、日本を世界から分断するのが目的です! 思い当たる節が多すぎます。円滑な日常生活を妨げる数々。そう、あれはすべて、スパイによる妨害活動に違いありません!」
望はもう動かない真実を発見したように結論付けた。
間もなく、
「次の方、どーぞー」
気付けば目の前の行列は無くなり、望が先頭になっていた。
望が購入しようとしていたのはお茶のペットボトル一つだけ。すぐに済むと思ったが――財布には1万円札しかなかった。
「い、一万円札でいいですか」
「店長ー、両替お願いしまーす」
両替をしている間、望の後ろにはずらずらと行列ができあがってしまう。
望は愕然とした。
――私も、工作員だったのか。
原画さんが体調を崩す/作画監督が見つからない/演出がいなくなる/総作画監督二人が化物語を手伝う/地震で海底ケーブルが断線して、データが届かない/ひだまり、ネギま!化物語と納品日が重なる
絵コンテ・演出:近藤一英 作画監督:原田峰文 色指定:大谷和也
制作協力:スタジオイゼナ
制作協力:スタジオイゼナ
ジェレミーとドラゴンの卵 パート2
原作169話 昭和84年2月4日掲載
「何?」原作169話 昭和84年2月4日掲載
いきなりやってきた訪問者に、霧は少し不機嫌そうに応じた。
「引きこもりがどこまで遠くにジャンプを買いにいけるか」
糸色倫がお題を霧に伝えた。
「これは飛距離でないでしょ。引きこもりだけに」
まといが挑発するようににやりと霧を笑った。
霧は「むかぱっ!」と怒りを表した。
「私、バーディくらいなら出せるよ!」
ちなみに規定スコアは、
〇+1(ボギー)ネットで買う
〇±0(パー)お母さんに買ってきてと言いに行く
〇-1(バーディ)近くのコンビニなら
〇-2(イーグル)駅前の本屋さん
小森霧は毛布を羽織って裸足のまま、学校を飛び出した。しかしその敷地を一歩踏み越えた瞬間、背後で音がした。
霧は驚いて振り返った。学校全体に亀裂が入り、がらがらと崩れ始めた。
「座敷童が外に出ると、学校が滅ぶ!」
「忘れていました! 誰か止めてください!」
可符香と望が慌てて霧を学校に引き戻した。学校の崩壊はおさまった。どうやら全壊の危機を脱したようだった。引きこもり少女の外出は、中断となった。
「意外と皆さん、飛距離出ませんね」
色々なもののスコアを見て、望が呆れるように呟いた。
「お兄さまも人のこと言えなくありません。行ってらっしゃい」
倫が反論して、望を宿直室から追い出した。
説明も受けず、なんだろうと思いながら、望はとりあえず学校を離れて出かけようとした。だけど、学校の敷地から出て間もなく――。
ガスの元栓締めたっけ。
望は慌てて宿直室に駆け戻った。
「閉めたっけ!」
「ほら、ぜんぜん飛距離でないじゃないですか」
扉を開けると、倫が待ち構えていたように言った。
望はきゅっとガスの元栓を確認した。
「確認したのでもう大丈夫です。今度は飛ばしますよ」
望は安心した笑顔を浮かべて、再び廊下に出た。
が、少しも進まないうちに――。
玄関の鍵、かけたっけ?
結局、望は学校に駆け戻ってしまった。
「ゴルフのドライバーは飛距離もさることながら、アプローチショットでどれだけそばに寄せられるかってのも醍醐味ですね」
唐突に現れて言い出す可符香。
街に繰り出し、可符香はその実例を示す。
「おや、ご主人。こんなご近所でナイスアプローチ」
そう、それはどこまで近所で不倫ができるか。
次は、
「凄腕の奥様。だんなの不在中に家の中まで寄せちゃいます。ナイスアプローチ!」
「それはもう、カップインしてませんか?」
ゴルフのアプローチはどれだけ寄せるか。だが、世の中には寄せてはならないアプローチショットもあるのだ。
どこまで労働基準法ぶっちぎれるか/どこまでスケジュール引っぱれるか/どれだけ睡眠時間を削れるか/どれだけ保険料を滞納できるか/どれだけ食費を削れるか/どこまでこの仕事を続けることができるのだろうか
絵コンテ:龍輪直征 演出:宮本幸裕 作画監督:小林一三 色指定:石井理英子
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作品データ
監督:新房昭之 原作:久米田康治
副監督:龍輪直征 キャラクターデザイン・総作画監督:守岡英行
シリーズ構成:東富那子 チーフ演出:宮本幸裕 総作画監督:山村洋貴
色彩設計:滝沢いづみ 美術監督:飯島寿治 撮影監督:内村祥平
編集:関一彦 音響監督:亀山俊樹 音楽:長谷川智樹
アニメーション制作:シャフト
出演:神谷浩史 野中藍 井上麻里奈 谷井あすか 真田アサミ
〇〇〇小林ゆう 沢城みゆき 後藤邑子 新谷良子 松来未祐
〇〇〇矢島晶子 後藤沙緒里 根谷美智子 堀江由衣 斎藤千和
〇〇〇上田耀司 水島大宙 杉田智和 寺島拓篤 高垣彩陽
〇〇〇立木文彦 阿澄佳奈 中村悠一 麦人 MAEDAXR
この物語はフィクションです。実在するジョン・ブルックフィールド、デビット・パピノウ、秋本康、正男とは一切関係ありません。
■
さのすけを探せ!
■2009/09/08 (Tue)
創作小説■
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判】
6
日が暮れる頃になると、宴もたけなわと野次馬たちは自分達の家に帰って行った。糸色先生の借家を占拠した警察たちも、少しずつ数を減らしていった。周囲の道路封鎖も解除されたけど、糸色先生の家は封鎖されたままで、私服警官の見張りが立った。
私たちは、一人ずつ婦人警官の事情聴取を受けた。糸色先生との関係や、普段の学校生活とか、あれこれ質問された。私は始終不機嫌なまま、婦人警官と目を合わせず機械的に答えを返してやった。
それが終って解放された時には、すでに8時を回る頃だった。警察の人からすぐに帰るように言われたけど、もちろん私たちは指示に従わず、公園で集合した。
「最低だわ。こんな屈辱、人生ではじめてよ。私と先生との関係を、あんな汚れた目で見るなんて!」
千里が腕組をして苛立った声をあげた。
「千里はいいわよ。私なんてお宝没収だよ。せっかく稼ぎで買ったのに……」
藤吉がしょんぼりした顔でしょんぼりした声を上げた。
「黙んなさい! あんなものは没収されて正解よ! この仕返しはきっちりすべきよね。異議のある者は回れ右をしなさい!」
千里が厳しい声で私たちに宣言した。
私たちは誰も異議を唱えず、振り返る者もなく、千里に頷いて返事した。藤吉だけがショックで首をうなだれさせていた。
「異議なしよ」
真っ先に答えを返したのはまといだった。まといと千里は目を合わせて頷きあった。はじめて千里とまといが意見を一致させた瞬間だった。
「先生のためじゃないけど、私も許せないと思うので異議なし」
あびるがクールな声で手を上げた。
「私も行くわ。千里一人だけ行かせると無茶するに決まってるから」
藤吉はしょんぼりしたままの声で同意した。
「私も異議なし。でも、どうするの?」
私は手を上げて千里に意見を求めた。
「決まってるでしょ。あの男爵とかいう男の家に押しかけるのよ!」
千里が拳を握りしめて啖呵を切った。
というわけで、私たちは行動を開始した。
男爵の家はすぐにわかった。というか、私に憶えがあった。小石川町の外れを進んだところに、辺りに家一軒もない地域があった。その周辺一帯は森になっていて、森に近い家や工場は誰も近寄らずゴーストタウンになっている。そこに、私の子供時代からお化け屋敷と囁かれた洋館があった。しかもそこに、最近人が入居したという噂もあった。それこそ、まさしく男爵であった。
私たちはその男爵の屋敷に向かった。男爵の屋敷に近付くと、辺りから一切の喧騒が消えた。夏の夜とは思えない肌寒さが包み込む。道が真直ぐに伸びているが、街灯の明かりはほとんどなく、真っ暗闇を手探りで進んでいるみたいだった。道の左右に置かれている森は、茨や蔓植物ばかりで鬱蒼としていた。目を向けても、蔓植物が壁のように立ち塞がっているように見えた。
そんな通りをひたすら真直ぐに進んだところに、男爵の屋敷があった。煉瓦を積み上げて造られた立派な門柱に、鉄の格子扉が訪ねる人を拒んでいる。門灯がひっそりとした光を入口周辺に投げかけていた。
だがそんな鉄扉も、すっかり錆ついてしまっている。左の鉄扉が傾いて、右の鉄扉と噛み合わなくなっていた。
私はまず門柱の表札に目を向けた。黒く照り返す御影石の表札には、『江口』とあった。
……エロ男爵。いや、言うまい。
「どうする、入るの? インターホン押す?」
私はここまでやって来て、すっかり怖気ついていた。辺りの空気は鳥肌が立つくらいに冷たかったし、暗闇に浮かぶ屋敷の姿は、かつてお化け屋敷と呼ばれた佇まいを堂々と身にまとっている。
「当り前でしょ。ここで引き下がってどうするのよ。」
千里は厳しい顔で私を振り返る。しかし、一歩も進まない。千里だけではなく、そこに集まった誰も、最初の一歩を踏み出せず、互いの顔を見て譲り合っているだけだった。
「よく来た。歓迎するよ。遠慮なく入りたまえ。それとも、ここで逃げ出すかね?」
インターホンからいきなり男爵の声が聞こえた。
「いい度胸じゃない。相手が招いたんなら、入るのが礼儀だわ。不法侵入じゃなくなるから都合がいいし。行きましょう。あえて飛び込んで、逆にエロ男爵を突き飛ばしてやろうじゃない。」
千里は私たちを振り向いて、決意表明みたいに宣言した。
次回 P049 第5章 ドラコニアの屋敷7 を読む
小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
P048 第5章 ドラコニアの屋敷
6
日が暮れる頃になると、宴もたけなわと野次馬たちは自分達の家に帰って行った。糸色先生の借家を占拠した警察たちも、少しずつ数を減らしていった。周囲の道路封鎖も解除されたけど、糸色先生の家は封鎖されたままで、私服警官の見張りが立った。
私たちは、一人ずつ婦人警官の事情聴取を受けた。糸色先生との関係や、普段の学校生活とか、あれこれ質問された。私は始終不機嫌なまま、婦人警官と目を合わせず機械的に答えを返してやった。
それが終って解放された時には、すでに8時を回る頃だった。警察の人からすぐに帰るように言われたけど、もちろん私たちは指示に従わず、公園で集合した。
「最低だわ。こんな屈辱、人生ではじめてよ。私と先生との関係を、あんな汚れた目で見るなんて!」
千里が腕組をして苛立った声をあげた。
「千里はいいわよ。私なんてお宝没収だよ。せっかく稼ぎで買ったのに……」
藤吉がしょんぼりした顔でしょんぼりした声を上げた。
「黙んなさい! あんなものは没収されて正解よ! この仕返しはきっちりすべきよね。異議のある者は回れ右をしなさい!」
千里が厳しい声で私たちに宣言した。
私たちは誰も異議を唱えず、振り返る者もなく、千里に頷いて返事した。藤吉だけがショックで首をうなだれさせていた。
「異議なしよ」
真っ先に答えを返したのはまといだった。まといと千里は目を合わせて頷きあった。はじめて千里とまといが意見を一致させた瞬間だった。
「先生のためじゃないけど、私も許せないと思うので異議なし」
あびるがクールな声で手を上げた。
「私も行くわ。千里一人だけ行かせると無茶するに決まってるから」
藤吉はしょんぼりしたままの声で同意した。
「私も異議なし。でも、どうするの?」
私は手を上げて千里に意見を求めた。
「決まってるでしょ。あの男爵とかいう男の家に押しかけるのよ!」
千里が拳を握りしめて啖呵を切った。
というわけで、私たちは行動を開始した。
男爵の家はすぐにわかった。というか、私に憶えがあった。小石川町の外れを進んだところに、辺りに家一軒もない地域があった。その周辺一帯は森になっていて、森に近い家や工場は誰も近寄らずゴーストタウンになっている。そこに、私の子供時代からお化け屋敷と囁かれた洋館があった。しかもそこに、最近人が入居したという噂もあった。それこそ、まさしく男爵であった。
私たちはその男爵の屋敷に向かった。男爵の屋敷に近付くと、辺りから一切の喧騒が消えた。夏の夜とは思えない肌寒さが包み込む。道が真直ぐに伸びているが、街灯の明かりはほとんどなく、真っ暗闇を手探りで進んでいるみたいだった。道の左右に置かれている森は、茨や蔓植物ばかりで鬱蒼としていた。目を向けても、蔓植物が壁のように立ち塞がっているように見えた。
そんな通りをひたすら真直ぐに進んだところに、男爵の屋敷があった。煉瓦を積み上げて造られた立派な門柱に、鉄の格子扉が訪ねる人を拒んでいる。門灯がひっそりとした光を入口周辺に投げかけていた。
だがそんな鉄扉も、すっかり錆ついてしまっている。左の鉄扉が傾いて、右の鉄扉と噛み合わなくなっていた。
私はまず門柱の表札に目を向けた。黒く照り返す御影石の表札には、『江口』とあった。
……エロ男爵。いや、言うまい。
「どうする、入るの? インターホン押す?」
私はここまでやって来て、すっかり怖気ついていた。辺りの空気は鳥肌が立つくらいに冷たかったし、暗闇に浮かぶ屋敷の姿は、かつてお化け屋敷と呼ばれた佇まいを堂々と身にまとっている。
「当り前でしょ。ここで引き下がってどうするのよ。」
千里は厳しい顔で私を振り返る。しかし、一歩も進まない。千里だけではなく、そこに集まった誰も、最初の一歩を踏み出せず、互いの顔を見て譲り合っているだけだった。
「よく来た。歓迎するよ。遠慮なく入りたまえ。それとも、ここで逃げ出すかね?」
インターホンからいきなり男爵の声が聞こえた。
「いい度胸じゃない。相手が招いたんなら、入るのが礼儀だわ。不法侵入じゃなくなるから都合がいいし。行きましょう。あえて飛び込んで、逆にエロ男爵を突き飛ばしてやろうじゃない。」
千里は私たちを振り向いて、決意表明みたいに宣言した。
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小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次
■2009/09/07 (Mon)
映画:外国映画■
西暦1080年。
スペインの領土は、キリスト教徒と、ムーア人との争いで、分断されていた。
ビバールの貴族であるロドリゴは、ムーア人との戦いに勝利し、その王を捕虜とする。
仲間たちは「処刑すべきだ」と主張するが、ロドリゴは「捕虜を殺せば、争いの火種になるだけだ」と判断。
捕虜の命を助け、解放する。
すると捕虜であったムーア人の王は、ロドリゴに“エル・シド”の称号を授け、忠誠を誓う。
しかし、捕虜の解放はスペイン王の反逆であった。
ゴルマス伯爵は謁見場において、ロドリゴを反逆罪として告発する。
さらにゴルマス伯爵は、弁護に訪れたロドリゴの父を殴打し、侮辱する。
その日の夜、ロドリゴはゴルマス伯爵の前に現れる。
ロドリゴは、剣を手に、父を侮辱した謝罪を求める。
ゴルマス伯爵は、強情に謝罪を拒否。
ロドリゴはゴルマス伯爵と剣での戦いになってしまい、殺してしまう。
ゴルマス伯爵の娘シメンは、ロドリゴと結婚を誓い合っていた。
それもゴルマス伯爵殺害によって、引き裂かれてしまう。
王の死とともに、貪欲な二人の王子が領地を巡って口論。ナイフを手にとって、殺し合いをはじめてしまう。
その後間もなく、フェルディナン王が死亡する。
すると二人の王子が、互いの領有権を巡って争いを始める。
どちらも譲れずに決別。国は、二人の王子のために分裂してしまった。
そんな最中、イスラム教徒のユサフはこれを機会に、とスペイン進行を計画していた。
映画『エル・シド』は露骨にキリスト教側の視点で描かれている。イスラム教徒は、黒ずくめの悪の集団という描き方だ。今、再び『エル・シド』を制作したら、そのようには決して描かれないだろう。
“エル・シド”は実在の人物だが、その実像はやや神話めいている。
死しても馬にまたがり、敵の軍勢を蹴散らしたとか、愛用した剣は、妖精が鍛えたエクスカリバーと同じ由来を持つ剣であるとか、そうした伝説がいくつも語り継がれている。
セットや衣装、小道具はどれも堂に入った作りだ。歴史的な風格や趣を感じさせる。デジタルを使用しない時代の大作映画の作り方だ。実際の古城なども登場するので、セットとの見極めが難しい。
映画は、1961年に製作され、上映時間は3時間を越える大作である。
チャールトン・ヘストンやソフィア・ローレンといった名優が共演する。
実物大の城のセットを製作し、煌びやかな衣装に、豪華な装飾品や、調度品の数々。夥しい数の群集。
デジタル技術のない時代、目に映るすべてを人間の力だけで制作した。紛れもなく、映画史上最大規模の作品だ。
現代の視点で見ると、残念ながら荒が目立つ映画である。特に後半の戦いのシーンは、技術の水準が映画の求めているレベルに達していない。デジタル云々ではなく、カットスピードの進歩、スティディカムやハンディカムの発明、映画文法の発達。映画の規模、風格は申し分ないが、技術面で早すぎた映画といわねばならない。
ただし、難点は、敵として登場とするイスラム教徒の描き方だ。
残虐な性格で、イスラムの軍勢は黒ずくめで、いかにも悪者の軍団という感じだ。しかも、イスラム教徒なのに英語を話している。
映画史に残る傑作だが、この当時の特色が難点だ。
伝説に彩られたエル・シド。題材としては今でも充分に通用する英雄譚だ。だが作品の規模や予算以上に、映画自体が『エル・シド』という題材に追いつけていない感じだった。現代の技術、感性、視野の広くなった知性ではどのように描かれるだろう。作品が大きすぎてリメイクの話は聞かないが、少し想像を巡らしたい作品だ。
映画の中のエル・シドは、伝説上の人物ではなく人間として描かれる。
ただし、とてつもなく高潔な英雄だ。
例え王であろうとも、誠実でなければ従おうともしない。
真に国のために、決して腐敗と結びつかず、たった一人でも戦いを挑もうとする。
そんな人物の姿に、民衆は、王よりエル・シドの元に集結する。
エル・シドは、後に伝説として語り継がれる人物だ。
しかしその生き様は、生きている頃から、素晴らしい輝きを放っている。
この映画も同じように、永久に輝きを放ち続けるだろう。
ウィキペディアの『エル・シド』の記述
ウィキペディアの『レコンキスタ』の記述(この物語はレコンキスタの時代を背景に描かれている)
映画記事一覧
作品データ
監督:アンソニー・マン 音楽:ミクロス・ローザ
脚本:フレドリック・M・フランク フィリップ・ヨーダン
出演:チャールトン・ヘストン ソフィア・ローレン
〇〇〇ジュヌヴィエーヴ・パージュ ジョン・フレイザー
〇〇〇ゲイリー・レイモンド ハード・ハットフィールド
スペインの領土は、キリスト教徒と、ムーア人との争いで、分断されていた。
ビバールの貴族であるロドリゴは、ムーア人との戦いに勝利し、その王を捕虜とする。
仲間たちは「処刑すべきだ」と主張するが、ロドリゴは「捕虜を殺せば、争いの火種になるだけだ」と判断。
捕虜の命を助け、解放する。
すると捕虜であったムーア人の王は、ロドリゴに“エル・シド”の称号を授け、忠誠を誓う。
しかし、捕虜の解放はスペイン王の反逆であった。
ゴルマス伯爵は謁見場において、ロドリゴを反逆罪として告発する。
さらにゴルマス伯爵は、弁護に訪れたロドリゴの父を殴打し、侮辱する。
その日の夜、ロドリゴはゴルマス伯爵の前に現れる。
ロドリゴは、剣を手に、父を侮辱した謝罪を求める。
ゴルマス伯爵は、強情に謝罪を拒否。
ロドリゴはゴルマス伯爵と剣での戦いになってしまい、殺してしまう。
ゴルマス伯爵の娘シメンは、ロドリゴと結婚を誓い合っていた。
それもゴルマス伯爵殺害によって、引き裂かれてしまう。
王の死とともに、貪欲な二人の王子が領地を巡って口論。ナイフを手にとって、殺し合いをはじめてしまう。
その後間もなく、フェルディナン王が死亡する。
すると二人の王子が、互いの領有権を巡って争いを始める。
どちらも譲れずに決別。国は、二人の王子のために分裂してしまった。
そんな最中、イスラム教徒のユサフはこれを機会に、とスペイン進行を計画していた。
映画『エル・シド』は露骨にキリスト教側の視点で描かれている。イスラム教徒は、黒ずくめの悪の集団という描き方だ。今、再び『エル・シド』を制作したら、そのようには決して描かれないだろう。
“エル・シド”は実在の人物だが、その実像はやや神話めいている。
死しても馬にまたがり、敵の軍勢を蹴散らしたとか、愛用した剣は、妖精が鍛えたエクスカリバーと同じ由来を持つ剣であるとか、そうした伝説がいくつも語り継がれている。
セットや衣装、小道具はどれも堂に入った作りだ。歴史的な風格や趣を感じさせる。デジタルを使用しない時代の大作映画の作り方だ。実際の古城なども登場するので、セットとの見極めが難しい。
映画は、1961年に製作され、上映時間は3時間を越える大作である。
チャールトン・ヘストンやソフィア・ローレンといった名優が共演する。
実物大の城のセットを製作し、煌びやかな衣装に、豪華な装飾品や、調度品の数々。夥しい数の群集。
デジタル技術のない時代、目に映るすべてを人間の力だけで制作した。紛れもなく、映画史上最大規模の作品だ。
現代の視点で見ると、残念ながら荒が目立つ映画である。特に後半の戦いのシーンは、技術の水準が映画の求めているレベルに達していない。デジタル云々ではなく、カットスピードの進歩、スティディカムやハンディカムの発明、映画文法の発達。映画の規模、風格は申し分ないが、技術面で早すぎた映画といわねばならない。
ただし、難点は、敵として登場とするイスラム教徒の描き方だ。
残虐な性格で、イスラムの軍勢は黒ずくめで、いかにも悪者の軍団という感じだ。しかも、イスラム教徒なのに英語を話している。
映画史に残る傑作だが、この当時の特色が難点だ。
伝説に彩られたエル・シド。題材としては今でも充分に通用する英雄譚だ。だが作品の規模や予算以上に、映画自体が『エル・シド』という題材に追いつけていない感じだった。現代の技術、感性、視野の広くなった知性ではどのように描かれるだろう。作品が大きすぎてリメイクの話は聞かないが、少し想像を巡らしたい作品だ。
映画の中のエル・シドは、伝説上の人物ではなく人間として描かれる。
ただし、とてつもなく高潔な英雄だ。
例え王であろうとも、誠実でなければ従おうともしない。
真に国のために、決して腐敗と結びつかず、たった一人でも戦いを挑もうとする。
そんな人物の姿に、民衆は、王よりエル・シドの元に集結する。
エル・シドは、後に伝説として語り継がれる人物だ。
しかしその生き様は、生きている頃から、素晴らしい輝きを放っている。
この映画も同じように、永久に輝きを放ち続けるだろう。
ウィキペディアの『エル・シド』の記述
ウィキペディアの『レコンキスタ』の記述(この物語はレコンキスタの時代を背景に描かれている)
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作品データ
監督:アンソニー・マン 音楽:ミクロス・ローザ
脚本:フレドリック・M・フランク フィリップ・ヨーダン
出演:チャールトン・ヘストン ソフィア・ローレン
〇〇〇ジュヌヴィエーヴ・パージュ ジョン・フレイザー
〇〇〇ゲイリー・レイモンド ハード・ハットフィールド