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■2009/10/02 (Fri)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P072 第7章 幻想の解体


男爵の屋敷に入ると、私たちは客間へ案内された。客間は10畳ほどの空間で、ソファや円テーブルといったものがまとまりなく置かれていた。
私たちは客間へ入ると、まず部屋の整理をした。無造作に置かれている椅子を一箇所に集めて、全員が円の形に向き合える体勢にした。男爵は作業に加わらず、黒の革張りシングルソファに座り、私たちの作業を悠然と見ているだけだった。私たちは警戒を込めて、男爵から数歩ぶん離れて椅子を並べた。
椅子の整理が終わり、皆それぞれの席に座る頃、誰かがドアを開けて入ってきた。セーラー服姿の可符香……違う、可符香に似た少女だった。私たちはその姿を見ただけで、なんとなくざわっとしてしまった。
可符香に似た少女は、盆にカップを載せていた。可符香に似た少女は私たちの側までやってくると、中央に置かれたソファ用のテーブルにカップを並べた。赤い色を浮かべた紅茶が淹れてあった。私は可符香に似た少女が側に来たとき、思わず体を少し避けてしまった。可符香に似た少女は、そんな私に、無表情のまま微笑んだような気がした。
可符香に似た少女は、盆に載せたカップをすべてテーブルの上に置くと、盆を持ったまま男爵の座るソファの後ろに立った。
「安心したまえ。紅茶には何も入れていない。今は一時休戦だ」
男爵は私たちに微笑みかけた。だからといって、紅茶に手をつける女の子は誰一人いなかった。
「……まあ、それも個人の自由だ。好きにしたまえ。では、そろそろ話を聞こうか」
男爵は自分のカップを手に取り、糸色先生を振り向いて足を組んだ。
「失礼ですが、立ったままで喋らせてもらいます。いつも教壇で喋っている癖で」
糸色先生は側に半径の小さなサイドテーブルを置いて、男爵に断りを入れた。サイドテーブルはダークブラウンの木製で、落ち着きのある唐草模様の装飾が施されていた。サイドテーブルの上に旅行ケースを置く。糸色先生の後ろに、まといが曲線のある足を持った椅子に座っていた。
「いいとも。やりやすいようにしたまえ」
男爵が許可を与えて、紅茶を一口啜った。
「ありがとうございます。では、さっそく。いきなりですが、男爵。あなたの目論見を打ち砕いてみせましょう。あなたの目論みは、自分に罪が被らない方法で、それでいて一切の手を下さず私を殺すことでした。そのために、あなたは一人の少女を用意した。私のクラスの生徒、風浦可符香の双子の姉妹です。男爵、あなたは可符香とその少女を入れ替わらせ、私を殺した後に元に戻すつもりだった。計画通りに進めば、私は自分の生徒に殺されたことになり、糸色家の社会的地位はガタ落ちになります。しかし、私がもしその少女が可符香さんとまったくの別人であるという証拠を突きつければ、あなたの目論みは完全に無意味なものになります」
糸色先生は勢い強く、男爵に言葉を突きつけた。
可符香の姉妹? 私は糸色先生の言葉を聞いて、男爵の後ろに立った少女をじっと見詰めた。他の女の子たちも、同じように可符香に似た少女を見詰めていた。可符香に似た少女は、みんなの視線を受けながら、赤い瞳で糸色先生を見詰めていた。
「つまり、君はこの少女が何者であるかわかっている……。そういうことかね」
男爵はカップを後ろに立っている少女に手渡し、少し身を乗り出すように問いかけた。挑みかけるような低い声で、鋭い目で糸色先生を睨みつけていた。
糸色先生は男爵の視線を受けて、迷いなく頷いた。
「ええ。あなたは私の生徒に言ったそうですね。ある民族には名前を隠す風習がある、と。名前にはその人間の本質が込められ、名前を奪われることは魂を奪われることに等しい……。確かにその通りです。徒に名前を呼ぶものではありません。特に、名前が暗示催眠のトリガーになっている人は、必死で名前を隠すでしょう。だが今は明らかにさせてもらいますよ!」
糸色先生は可符香に似た少女を鋭く指でさした。
赤木杏!
それがあなたの本当の名前です!」
これまでにない、強烈な声での宣告だった。
赤木杏の表情にはっとしたような驚愕が浮かんだ。その手から盆とカップが落ちた。カップが砕け、残っていた赤い液体が飛び散った。
赤木杏の凍りついた無表情に、生き生きとした躍動が与えられた瞬間だった。信じられないことに、真っ赤に輝いていた瞳が、急速に力を失って黒い色と混じり始めた。
それは、赤木杏の封印された魂がその身に戻り、暗示から解放された瞬間だった。“赤木杏”という名前で正しかったのだ。

次回 P073 第7章 幻想の解体3 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/10/01 (Thu)
絵画は自由だ。そして、力を持っている。
画家は具象を自在に変形させ、キャンバスに自らの意識を刻印させる。
レンブラントは、成功した画家だった。
だから成功した者が誰もが抱く、うぬぼれと万能感を同時に持っていた。
それが、レンブラントを失墜へと導いていく。
ac84b7b5.jpg32b3780d.jpgレンブラントと妻のサスキア。二人は多くの肖像画、絵画の中に“出演”しているが、映画の俳優はよく似ている。
132ddea2.jpg
レンブラントはすでに成功した画家だった。
工房を構え、多くの弟子を抱え、いくつもの発注をこなしていた。
そんなレンブラントのもとに、大きな絵の依頼が舞い込んでくる。
da00268c.jpg市民隊隊長バニング・コックを中心とする、18人に及ぶ集団肖像画だった。
渋るレンブラントだったが、サスキアの勧めによって仕事を引き受ける決断をした。
49eda0af.jpgaae6f3ee.jpg仕事を引き受けるレンブラントだったが、なかなか構図が決められない。モデルに様々な格好、ポーズをとらせて試行錯誤する。

9c23dacb.jpgだがすぐには構図が決まらず、レンブラントは悩む。
18人の人物をどのように配し、描けば美しい絵画にまとまるのか。
そんなときに、事件は起きた。
市民隊の一人、ハッセンブルグが殺された。
bda07328.jpg訓練中の事故で、銃弾がハッセンブルグの右目を撃ちぬいたのだ。
同時に、レンブラントは市民隊に関わる、よからぬ噂を聞く。
団員が孤児院で、未成年を強姦をしているというのだ。
レンブラントは、集団肖像画をつかって、市民隊への告発を思いつく。
8a05280f.jpg805b48a8.jpg通常の映画と違い、グリーナーウェイ映画は、セットが一つしかないという事を隠そうとしない。むしろ、そうであることを特色としている。

d79fad0d.jpgピーター・グリーナーウェイらしい映画だ。
グリーナーウェイ監督の作品は、映画から写実的な構造を破壊し、舞台演出的な構成を持ち込むことで自信の個性を刻印する。
カットで分割された時間的連続はなく、グリーナーウェイ映画では、舞台演劇のように、一つの舞台で時間と場所の凝縮が行われる。
92a36980.jpg4bb114f3.jpgレンブラント的な絵画の特徴を再現するカット。ただ、登場人物が多すぎて、頭に入りにくい。あくまでもレンブラントが何をしたか、何を絵画に込めたかを見るべき。
同時に、作品はレンブラントを題材にされている。
だから、構図の一つ一つはレンブラントの絵画を強く意識している。
どの場面も色彩はセピアにまとめられ、レンブラント・ライトと呼ばれるほのかな光線の中に浮かび上がり、ろうそくの明かりが役者の顔を染めている。
光と闇。群がる群衆の顔。
どれもレンブラント絵画に見られる特徴だ。
3b5336ff.jpg下のウェキペディアからのリンクを見てわかるが、実際の『夜景』は昼の光景を描いた明るい絵画だった。他にも、実際と会わない部分は多い。映画中では「すぐに捨ててしまおう」とあるが、実際には70年近く火縄銃手組合集会所に飾られていた。

映画は、レンブラントが大作『夜警』を完成させ、その後の失脚した理由を描く。
『夜警』はレンブラントの代表作であり、美術の教科書には必ず掲載される作品だ。
だが、レンブラントは『夜警』を切っ掛けに、なぜか仕事の発注がなくなり、築き上げた財産をなくしてしまった。
それは何故なのか?
55aa419a.jpg映画の出来に不満の火縄中手組合。レンブラントを失脚させようと企む。しかしどう見ても、メイドの色仕掛けに引っ掛かって勝手に転落していっただけ。映画中の転落は監督の想像。実際は死後急速に批評家達に伝説化された作家で、生前から忘却が始まったわけではない。レンブラントが突然、画業を辞めてしまった理由は謎のままだ。
『夜警』は実に謎めいた絵画である。
精密な光を描いた作品だが、どの人物も光のあたり方、影の向きが違う。
最も大きな謎が、絵画の中央、やや左にいる女性だ。
周囲の男達に較べて極端に小さく、まるでスポットライトのような光が当てられている。
『夜警』は団員たちが帯びている品や、光や構図、その圧倒的印象にも関わらず、細部において不可解な部分が多い。
もし、この『夜警』に我々が知らない秘密が込められているとしたら?
映画は、『夜警』に込められた秘密に肉迫していく。

ウィキペディアの『夜警』へ

映画記事一覧

作品データ
監督・脚本:ピーター・グリーナウェイ
出演:マーティン・フリーマン エミリー・ホームズ
〇〇〇マイケル・テイゲン エヴァ・バーシッスル
〇〇〇ジョディ・メイ トビー・ジョーンズ
〇〇〇ナタリー・プレス ジョナサン・ホームズ



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■2009/10/01 (Thu)
「子供が子供だった頃、腕をブラブラさせ、小川は川になれ、川は河になれ、水たまりは海になれ、と思った」

e8af7e91.jpge83ff0d4.jpgベルリンの遥か天空――。街を見下ろす黒い影の男。
有翼の天使。彼らは、いつもベルリンの街を見下ろし、触れた者に希望を与えている。
52227bef.jpg6b9f5894.jpgベルリンの住人は、時々視線を感じたように空を見上げる。
――そこに何かいる?
決して視覚の中に現れない存在。天上の住人。肉体を持たぬ者。天使。

115a2585.jpg「語れ、詩の女神よ! 世界の果てに流れ着いた、幼児にして老人。万人の鏡である語り部、ホメロスを。わが聞き手は、時とともに読み手となり、もはや車座にならず、孤独に机に向かい、他人は意に介さない」

8b36bb25.jpgやがて天使は肉体を渇望し始める。
彼らにとって、世界は概念でしかない。世界のすべてを知っているが、肉体に触れるものは何もない。全てがその身体を透き通っていく。
だからこそ、肉体を渇望し始めた。
体の重さを、風の冷たさを、苦しみと痛みを。刺激と苦痛。地上の者を捉えている全ての試練。あるいは、快楽。
切っ掛けは恋だった。
サーカスのブランコ乗りであるマリオン。
天使はマリオンに恋した。天使はマリオンに会うために翼を捨て、人間世界に降りた。
92e8abe6.jpg45c28dea.jpg地球儀は世界のモデルであり、写真は現代の記憶様式だ。かつてのように、言葉で語り継ぐものは少なくなった。言葉で記憶していても、やがて読む者も言葉を知る者もいなくなってしまうだろう。

9764bb28.jpg「世界は黄昏ていくようだが、私は語り続ける。昔と変わらぬ、歌の調子で。物語は、世の混乱に足を取られず、未来に向かう。幾世紀をも往来する、かつての、大いなる物語はもう終わった。今は一日一日を思うのみ。勇壮な戦士や王が主人公の物語ではなく、平和な者のみが主人公の物語」
7bf17b7d.jpg4dfdd3f8.jpgマリオンは主人公である肉体の象徴である。だから肉体を強調する仕事に就いているし、肉体はエロティックに描かれる。


07af34ec.jpg映画『ベルリン・天使の詩』は言葉とイメージの断片で綴られていく。映画中に、大きな事件やドラマは起きない。
空中を散策する天使と、その天使が見て聞いている全て。天使は人々が心の中に封じた言葉を聞くことができる。多くが絶望と哀しみ、人生の黄昏。天使がそっと触れると、ネガティブな感情にほんの少し0ebd5deb.jpgの希望が与えられる。
8d485473.jpgわれていくものが歴史だ。言葉は歴史である。歴史の断片が言葉だ。生と死は、いずれも歴史を残す行為である。歴史を語るのは生きる者の義務だ。

2c7b889b.jpg
言葉だけがかつてを記憶している。我々は時間をいつも前方向に追いかけ続け、前方向に引き摺られていく。それに矛盾するように、我々は過去を求め探り、とどまろうとする。
だが過去は失われ行くものだ。
88386daf.jpg世を去った英雄も、失われた場所も――言葉の狭間にすべてが残されている。
語り継ぐ間だけ、その人間と場所を記憶される。言葉が語り継ぐ世界は、神話的な夢想世界を彷徨い、いつか虚構となる。言葉の狭間に落ちていった記憶は、いつの間にか現実の世界から消え去ってしま25e8686a.jpgう。
天使は実体世界の存在ではない。遥かな上空を彷徨う、概念の存在だ。あるいは、言葉が作り出した存在。人間の思念が言語で構築されるように、天使は言語概念の雲の上を歩き、人々に希望という名の言葉を与えている。
天使は概念でしかないからこそ、普遍でいられる。しかし概念の存在だからこそ、何も感じることはできず、色彩を感じることもできない。
cfe5d4cd.jpgちなみに、この映画はドイツの東西分裂を題材にした映画とされている。モノクロとカラーで描き分けられるのも、壁の向こう側とあちら側を意味している(カラーで描かれるのが東側、だろうか?西側がモノクロで憂鬱に描かれるのは?)。戦争の映像が挿入されるのもは、東西分裂の切っ掛けとなる事件を描くため。だからタイトルも『ベルリン』なのだそう。

7b4d2bee.jpgef274705.jpg印象的な言葉と画像の羅列である。
フィルムも映画も俳優も、言葉という概念に過ぎない。その概念を刻印するように映像が綴られている。
映画『ベルリン・天使の詩』には多くの人5d4e6637.jpg間の想念の集まりのように描かれている。ある種の群像劇であるかもしれない。
大きな事件は起きないが、いくつもの言葉の積み重ねによって描かれていく。様々な人間の、まとまりのない言葉の集り。ただの愚痴でしかないものもある。
それが不思議と詩の情緒を持ち始める。そんな映像と言葉の集積が、映画そのものを語り始めるのだ。

映画記事一覧

作品データ
監督:ヴィム・ヴェンダース 音楽:ユルゲン・クニーパー
脚本:ヴィム・ヴェンダース ペーター・ハントケ
出演:ブルーノ・ガンツ ソルヴェーグ・ドマルタン
〇〇〇オットー・ザンダー クルト・ボウワ
〇〇〇ピーター・フォーク



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■2009/10/01 (Thu)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P071 第7章 幻想の解体


私たちは小石川植物園を後にすると、そのまま男爵の屋敷へ向かった。
時刻は昼の2時頃。でも男爵の屋敷に至る通りに入っていくと、昼の騒音は一気に遠ざかってしまった。あれだけ騒々しいセミの鳴き声すら聞こえない。風すら、そこを通るのを避けているようだった。
通りの両側を覆う藪は、暗く影を落としている。空気が冷たく、鳥肌が立つのを感じた。確かに昼の風景なのに、その周辺はあまりにも陰気で、異界の空気が流れているようだった。
そんな通りに入ったところで、意外な人物と合流した。時田だった。
「あれ? 時田さん、どうしたんですか?」
私はそんな場所にいる時田が、あまりにも不思議に感じてしまった。
「望ぼっちゃまに協力を要請されたのですよ」
時田はいつもの黒の燕尾服で、恭しく私たちに頭を下げた。
「時田は重要な証言者ですから。そのために来てもらう必要があったんですよ」
糸色先生は簡単な説明をして、先頭を進んだ。
アスファルトの通りは真直ぐ奥まで続いている。夜と違って周囲の光景がくっきりと浮かんでいる。100メートルほど進んだところに、男爵の屋敷が見えた。
しかしそれでも私は、理屈ではない不気味な気配を感じていた。みんな同じように感じているらしく、広い道なのに私たちは小さく固まって寄り添い、両手を誰かに繋いでもらいながら進んだ。
やがて屋敷の門前までやってきた。糸色先生が門柱に設置されたインターホンを押す。しかしインターホンは手ごたえなくカスッと押し込まれてしまった。
「何の用かね。糸色望よ」
それでも、インターホンの向うから声が返ってきた。男爵の声だった。私はその声を聞いただけでも背筋にぞっと凍えるのを感じて、側に立っていたあびるの体にすがりついてしまった。
「あなたに用事があるのですよ。敷地内に入らせてください」
糸色先生が毅然と要求を告げた。
「いいだろう。入りたまえ」
男爵が淡々と許可を与えた。
糸色先生は格子状の門を覗き込んで、その裏に手を回し、閂を解除した。門の右側を、全員が通れるくらいに大きく開ける。
「皆さん、大丈夫ですよ。入りましょう」
糸色先生が私たちを振り返った。その顔がいつも以上に厳しい感じだった。
糸色先生が煉瓦敷きの道に入っていった。私たちはやはり寄り添うように固まりながら屋敷の敷地に入っていった。通りの両側を囲むオークの大木が、ざわざわと葉をこすり合わせている。まるで誰かいるような気配だった。
やがて、屋敷の前に出た。屋敷は昼の光の中にも関わらず、真っ黒な色を浮かべて沈黙していた。扉の片側が開かれ、男爵が杖に両掌を添えて立っていた。
「これはこれは。大勢での訪問とは。保身のために少女たちを生贄に差し出しに来たのかね。だったら大歓迎だよ。もっとも、それで君を殺すのを断念するつもりはないがね」
男爵が私たちを見て、冷酷な微笑を浮かべた。あれだったら、好色な微笑のほうがよっぽどましだと思った。
「いえ。あなたの挑戦を受けにきたのですよ」
糸色先生はパナマ帽を外し、鋭い眼差しで男爵を睨み付けた。
「ほう、それは面白い。入りたまえ。話を聞こう」
男爵は危機感のない微笑を糸色先生に向けると、踵を返し屋敷の中へ入っていった。屋敷の中は真っ暗で、黒い装束の男爵の姿が、闇に溶けていくように見えた。
糸色先生が私たちを振り返った。
「行きましょう、皆さん。日塔さん、もし危ないと思ったら、私の背中に隠れてください。私の背中、結構広いですから。まといさんも、よろしくお願いします」
私が糸色先生の側に近付くと、糸色先生は私だけに語りかけるように囁いた。私とまといは「はい」と返事をして、手を握り合った。
私は糸色先生の背中を追いながら男爵の屋敷に入っていった。糸色先生は長身で、確かに背中が広く、それを見ていると抱かれるような気分になった。恐怖も少し癒される気がした。

次回 P072 第7章 幻想の解体2 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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P070 第6章 異端の少女

11

糸色先生が櫂先生の向かい側のソファに座った。
「それではさっそく本題に入らせてもらいます。男爵はこの研究所に所属していたのですよね。研究室は今も残っていますか?」
糸色先生は両膝に両肘を置いて、少し身を乗り出すようにして単刀直入に切り出した。
「ええ、使っていたのは、そこの廊下をずっと進んだ一番奥の研究室です。事件の後は資料室にしたのですが、利用する人は少ないですね。事情を知らないはずの若い学生さんも、なんとなくあそこは使いたがらないようで」
櫂先生は頷いて、研究室の外の廊下を指で示した。やはり男爵の話となると空気が重くなるのか、櫂先生の言葉に暗い影が漂い始めた。
「男爵はどのくらいの期間、この研究所に勤めていたんですか?」
「10年前後、といったところですね。もっとも、教授職というのではなく、ある日ふらりとやって来て、研究所の一室を根城にした感じでした。私たちともあまり交流を持ちませんでしたね。当時の学長と違法的な交流会などで接点があったらしく、それで研究室を得たらしいのです。これは後で知ったことですが」
糸色先生は調子を変えず、淡々と質問を重ねた。櫂先生はゆっくりと話を組立てながらのように話す。落ち着いていて、わかりやすい話し方だった。話に嘘があるような感じはなかった。
「男爵はこの研究所で人体実験を?」
糸色先生は一気に話の核に飛び込もうとした。でも櫂先生が首を振った。
「まさか。男爵は周到な男ですからね。ここでは専らラットの実験のみでしたよ。おそらくここでの実験の成果を屋敷に持ち帰り、監禁していた子供で試していたのでしょう」
櫂先生の言葉の調子が、少し高くなった。櫂先生も、男爵の事件をよく知っているのだ。その顔が緊張で歪むのを感じた。
「実験の内容はどんなものでした? レポートなどは見ませんでしたか?」
「植物と哺乳動物の融合、と言うべきものでしたな。哺乳動物に特殊な葉緑体を寄生させ、光合成で得た栄養素をエネルギーに変換し、対象となる実験動物に供給するというわけです。つまり、最低限の水と日光があれば、植物と同様、動物を永久に活動させられるわけです」
櫂先生は淀みなく言葉だけで解説をした。この辺りから、私はついていけない感じがした。
「でも人間を活動させるとなると、相当のカロリーが必要になるでしょう。成人男性なら1800キロカロリー前後。そんな実験に成果なんてあったのですか? そもそも生命の維持すら危うい気がするのですが」
糸色先生は少し姿勢を起こして、疑問を口にした。
「仰るとおりです。ほとんど活動不能の状態になります。男爵の生成した葉緑体は特殊なDNA構造を持っていて、通常の数百倍のエネルギーを生成できます。しかし、これをもってしても、ラットすら活動させることはできません。最低限の呼吸と、心拍の維持。まあ眠っているような状態ですな。これが限度でした。ちなみに、男爵が生成したDNAは、現在も解明できておりません。思考さえまともなら、優秀な研究者になれたでしょうね」
櫂先生は研究結果を思い出すように、宙を見上げながら答えた。空論を話すように、少し言葉が軽くなるように思えた。
「すると、人間に転用した場合は?」
糸色先生がさらに話を進めていく。
「考えたくありませんが、可能性として仮定すると、まず、人間としての活動は一切駄目になるでしょう。意識もぼんやりとあるかないか、といった状態が続くはずです。永久にまどろんだ状態で、脳だけは活動が維持されるから、多分、ひたすら夢を見続けるのでしょうな。まさに植物状態ですよ」
櫂先生は考えながら答えを見つけるようだった。
「その状態からの蘇生は可能なんですか?」
「それはわかりません。男爵本人に聞いて見ない限りには。意図的に作り出した植物状態ですし、身体の機能に問題がなければ、栄養を与えれば状態が回復するかもしれません。もっとも、かなり過酷なリハビリが必要になるでしょう」
これは櫂先生にもわからないようだった。櫂先生は両膝に肘を置き、眉間に皺を寄せて宙を見上げた。
「男爵はどんな目的で、そんな研究をしていたのですか? そういった対話をしたことは?」
糸色先生は少し言葉の緊張を解いた。話が別方向に進んでいる感じだった。
「交流は少なかったですからね。レポートの概要には、障害者や飢餓地域の救済など、もっともらしい言葉が書かれていましたよ。確かに実験が成功すれば、食べ物に振り回される心配なく、永久に生命が維持されるわけですから。ですが、実体は男爵の趣味を補強するためでしたね。男爵が子供を監禁して拷問していると、後で知りました。だから思うのですが、子供を飢餓状態において、その状態で永久に苦痛が続くようにしたかったのではないでしょうか。事件の後、警察の要請で資料に目を通したのですが、保護された子供の中には、間違いなくこの実験に使われた子供がいました。皮膚が緑色になっていましたね。体から植物を生やした子供もいましたよ」
櫂先生はゆったりとソファに体を預け、言葉を憂鬱そうに沈めた。10年前の事件は、今でも櫂先生に重くのしかかっているのだろう。
私は話を聞いているだけでも気持ち悪くなってしまって、胸を抑えてうつむいた。周りの女の子も、なんとなく具合悪そうにうつむいてり、頭を支えたりしていた。
でも、話はそろそろ終わりだったみたいだ。
「わかりました。本日は時間を作っていただき、ありがとうございます。おかげで参考になりそうです」
糸色先生は緊張を解くように微笑むと、立ち上がって丁寧に頭を下げた。
「いえいえ。力になれたかどうか」
櫂先生も立ち上がって、挨拶を返した。
「糸色先生、今ので何がわかったんですか?」
糸色先生が振り向くと、千里が一歩前に進み出て訊ねた。千里は顔に、少し不安そうな色を浮かべていた。
「全て繋がりましたよ。これから男爵の屋敷に行きましょう。決着をつけます。と、そうそう、忘れるところでした」
糸色先生は歩き出そうとするが、不意に足を止めて、何もない奥の窓を振り向いた。
「ここでお知らせです。この段階で、事件を解決するためのすべての手掛かりが出揃いました。最重要なのはただ一つ。いかにして男爵の計画を中止させるか。それから、風浦可符香の救助です。男爵は私を殺害するために、周到に罠を用意しました。殺人の罪を私の生徒、風浦可符香に着せるために、そっくりの少女を用意しました。あの謎の少女は、そもそも何者だったのか。すでに宣言された通り、私は男爵自身に一切手を出すことはできません。警察も余程の例外がないかぎり、男爵を逮捕しようとしないでしょう。ただし一度だけ、私は警察という手段を行使できそうです。蘭京太郎の事件も未解決であります。蘭京太郎の事件は男爵とどのような関わりを持っているのか。生徒の死体がなぜ私の借家で発見されたのか。ここまでに提示された手掛かりで、すべてが一つの糸のようにつながり、解明され、私は事件を解決することが可能になります。
ただし、一つだけ物語中であえて提示しなかった情報があります。それはすでにネットで充分すぎるくらい議論され尽くしているので、あえて物語中で取り上げませんでした。ある程度の『さよなら絶望先生』読者なら、おそらくすでに知っているのでは、と作者が判断したためです。
これから当小説は、“解決編”へと移ります。すべて了解し、思考の整理ができたら“解決編”にお進みください」

糸色先生は誰かに語りかけるように、長々と演説を始めた。
「君、何を言っているのかね?」
櫂先生は窓を振り向いて怪訝な顔をしていた。
「いえ、お約束というやつですよ。では」
糸色先生はもう一度、櫂先生に丁寧なお辞儀をすると、パナマ帽を頭に被った。

解決編へ進む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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