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■2009/11/10 (Tue)
アスラクラインの失敗

〇 イントロダクション

279c030f.jpgアニメ『アスラクライン』は面白くない。原作は未読なので、原案・素材としての『アスラクライン』の良さはどうなのかわからないが、とにかくアニメーションとして映像化された『アスラクライン』は面白くない。しばらく見ていても、心情的に訴えかけてくるものは何もないし、それ以前に、そもそもどういった物語なのかがまるでわからない。
なぜ『アスラクライン』は面白くないのか。なぜ理解しづらいのか。という検証に入る前に、ここで前置きをしておきたい。
批評とは悪口を書くことではない。つまらないのなら、「なぜつまらないのか」あるいは「どうするべきだったのか」これをシュミレーションしていく必要がある。単に面白くない、悪口を書くならそれは幼児でもできる。それは感情を並べただけであって、批評ではない。批評である限りは、理想とする到達点を設定し、実現可能なシュミレーションを提示する必要がある。その批評は、反省として次に創作する機会に充分活用できるものではくてはならない。それが批評の存在する意義である。
という記述を以前にも書いた気がするが、批評を書くときは毎回書く予定だ。単に感情的な悪口を並べるだけなら、プロの批評家など必要ないわけだし、自由に言葉を操れるようになった大人が書くべきではない。プロの批評家であっても、素人の批評家もどきであっても、どういった傾向を持って書くべきなのか、それはそれぞれで目標を持ってかくべきである。単に悪口を書いて、書いた人間がスッキリしたいだけの文章など誰も求めていないし、知性豊かな読者への侮辱にしかならない。
全ての批評はそもそも後出しジャンケンである、という前提も忘れてはならない。あらゆる問題は物語創作という過程に起きる現象であり、作品は結果に過ぎない。その結果をどうこう言ったところで、その時点ですでにフェアではない。作品が駄作となってしまったのは結果なのであって、作品を責めて制作者を非難すべきではない。要は批評に書かれた反省が、創作という渦中に活かせるものであるか、だ。
批評家と創作者の関係は公正ではないのだ。それを心得た上で批評というものを書くべきであり、読むべきだと心得たい。



〇 多すぎる専門用語

1c294cb7.jpg『アスラクライン』には様々な用語が次から次へと登場する。機巧魔神(アスラ・マキーナ)、演操者(ハンドラー)、射影体、洛芦和高校(らくろわこうこう)、第三生徒会、殺人人形(ウィジェット)……。
受け手がまず困惑するのは、この専門用語の圧倒的な多さだ(しかも漢字と読みとなる片仮名がまったく一致しない)。それぞれを個別に見ていくと、実はそれほど難解ではない。アスラ・マキーナとは巨大のロボットのことであり、ハンドラーとはその操縦者。射影体とはハンドラーに取り憑いている幽霊だ。単に物語独自のキャラクターがあり、それを補う用語があるだけの話だ。『アスラクライン』には物語独自のルールがあり、物語のドラマ部分と接するにはまずその構造を理解しなければならない。
この特殊用語というものが桁外れに多いのだ。これらの言葉を複合的に組み合わせて台詞を作ると、何を言っているのか理解不能の代物になる。キャラクター同士がなにやら深刻な顔をして台詞を言いあっているのだが、結局なにについて議論にしていたのかわからない。そこで何が判明したのか、その後の物語にどのような影響を与えたのか。言葉に物語の進行を感じさせるものがないのだ。
専門用語だらけの台詞のやり取りを見ていると、だんだん意味がわからなくなり、受け手はどこか不安定な気持ちになる。物語の展開を読み取れなくて、人によっては破綻していると受け取るかもしれない。どちらにしても、受け手の心理にいい影響は与えない。
『アスラクライン』を詰まらなくしているのは、単に専門用語が多すぎるという話ではない。特殊で専門的な職業について描かれた小説などは、独自的な用語が多く羅列される。だがそれでも、アスラクラインのようにはならないだろう。アスラクラインの問題は、なにもかも台詞で解説しようとすることにある。
例えば、文字だらけの教科書を一読して、即座に理解できる人は少ない。理解できるという人はいるだろうが、それは単にその人間が優秀なだけだ。娯楽に接する場合、ほとんどの人がリラックスした状態で、あるいはリラックスしたくて接するわけで、勉強や仕事と同じ緊張を強要すべきではない。
これを理解しやすくするにはどう描くべきか。単純な解答を言えば図説を添付すればいい。図説による解説があれば、ああなるほど、と思う。実感として体験する機会があればもっとわかりやすくなるだろう。理科の実験のようなものだ。実体的な体験以上にわかりやすい説明はない。
概念とその結果を示したデータだけで何もかも理解できる人間は少ない。概念には概念なりの美意識なるものが存在する。数式などはその典型である。だがそれを理解しろというのは、一般大衆にはあまりにもハードルが高い。私も理解できない。
だからこそ、「体験の過程」を描くことがわかりやすい、受け入れやすい物語において重要になる。漫画は概念のすべてを映像にし、キャラクターが演技して解説する。だから漫画はわかりやすく、支持されるのだ。
『アスラクライン』の世界が特殊であるから説明が難しい、というのは言い訳にならない。むしろ、解説する世界が特殊であれば特殊であるほど、その異世界への疑似体験物語はよりスリリングなものになる。『ガリバー旅行記』などがいい例だ。
独自的な用語の多い作品、特にSFなどは「わかりにくい」と評される傾向が強くなるから注意が必要だ。駄目なSF作品の典型的な例は、冒頭の長々とした解説だけで、物語の背景にある何もかもを解説したつもりになっている作品だ。「スターウォーズ」がマニアックなSFという刷り込みを抜け出られたのは、解説が短く、あとは思考の必要のない異世界を舞台にした冒険物語として描いたからだ(つまり、読む必要がない)
冒頭にはじめる解説は、まず受け手の頭に入らないものと考えるべきだ。解説は短く、あくまでもこれから始まる物語の気分を作るだけのものと心得たい。知らせるべき重要なキーワードがあるとしても、多くしないこと。読み手が頭に入る単語は1つくらいだろう。その世界が背負っている政治状態や主人公が置かれている環境などは、本編中の描写で語るべきだ。冒頭の解説に本質を置いてしまうと、読み手を置いてけぼりにする作品になってしまう。
解説とは物語の過程に描くべきなのであり、主人公が体験すべき過程のひとつとして描くべき、いや、提示すべきなのである。
物語とは、「登場人物の感情の吐露(ドラマ)と物語背景の解説」に分解されるものと仮定する(解説と解明のみでドラマがないのがミステリ。関係ないけど念のため)。すると重要になってくるのは、解説するべき順序である。どのように解説すると理解されやすいか、あるいはどのような順序で解説するべきか。それらを物語制作の初期段階において徹底的に検証し、ぎっちり構築する。
ドラマが動き出すのはその後でも遅くない。テレビシリーズは回数を使えるのだから焦る必要はない。じっくり受け手への理解を促し、充分引きこんだと思えたところで作品にカタルシスを込めればいい。物語世界が特殊であるならば、その作品でしかない特殊な感動や感慨がそこに現れるだろう。ドラマが動き出すまで主人公が異世界的設定を体験する過程でも構わない。むしろその過程が面白ければ読者を引きこむ切っ掛けになるし、それが異世界設定を疑似体験する手っ取り早く確実な方法だ。だからまずは解説を丁寧に描き、ドラマへの準備活動をしっかり構築するべきである。
この準備段階を怠ると、どんなドラマを展開しても空回りする。どんなに素晴らしい展開を設定しても、受け手は逆に困惑するだけで、意外性を与えようとすればするほど、受け手の気分は物語から遠ざかっていく。
『アスラクライン』は明らかにこの前段階を放り出したまま物語を進めてしまっている。準備段階も充分でないままにドラマに飛びつこうとするが、そのドラマというのが既視感まみれの安っぽい三流ドラマときている。これだと受け手の気分はどこまでも作品から遠ざかって冷ややかな気分になる。
いや、ありきたりなドラマでも構わないのだ。準備段階さえしっかり構築できて主人公の気持ちと受け手の気持ちが一体になっている状態に引き込めれば、平凡でありきたりな言葉のやり取りもでも充分に涙を誘うことができる。
『アスラクライン』の場合、その状態への準備段階からして不十分なのだ。この作品の中でどんなに素晴らしい場面を作っても、受け手の気持ちと乖離して空回りするだけ。『アスラクライン』という作品でしかありえない革命的場面を作っても、注目されず埋もれるだけだろう。そんな作品にまともな批評がつくはずもなく、累々たる駄作の山に埋もれて忘れられるだけである。

追補:どんな凄いシーンを描いても、周辺の設定が不十分だと凄いという気がしない……。代表的な例が『ファイナルファンタジー』シリーズの召喚獣だ。『ファイナルファンタジー』シリーズの召喚獣ビジュアルは毎回毎回たいへんなこだわりで描いているが、まったく凄いという気がしない。むしろ長々と続くムービーシーンが目ざわりとさえ思う。なぜか。そのビジュアルがどう凄いのか、作品中にまったく指標を示していないからである。逆にどう凄いのかわかりやすい基準めいたものが描けていれば、あれだけの壮大なビジュアルは不要だ。
わかりやすい例は……若い人にはわからないと思うが『ボンバーマン』というゲームの火力の増大っぷりを例に挙げておく。あれくらいシンプルなほうが、私は好みだ。



次回 『通俗的な意識』を読む





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■2009/10/08 (Thu)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P079 終章 華やかな少女写真誌

私たちは男爵の屋敷を出た。時刻は午後3時過ぎといったところ。でも鬱蒼とした前庭は、晴れた夏の午後とは思えないくらい薄暗い闇を落としていた。荒れ放題に伸びた藪と、オークの垂れ落ちる枝に囲まれた煉瓦敷きの通りは、お化け屋敷雰囲気で重たく沈黙していた。
「ねえ、先生。可符香ちゃんの本当の名前って、結局なんだったんですか?」
私は可符香を意識するように、声を潜めて糸色先生に訊ねた。可符香は私たちより少し先に進んだところで、あびるや藤吉と一緒に並んで歩いていた。
「さあ、知りませんよ」
糸色先生は何でもないできごとのように、さらっと言葉を返した。
「知らないって、先生、裁判所に行ったんじゃないんですか?」
私はびっくりしたけど、それでも声を抑えた。
「いえ、調べたのは赤木杏さんの名前だけです。なんせ時間に限りがありましたから。可符香さんの本当の名前を調べるには、本人確認の印鑑とか必要になるんじゃないですか?」
糸色先生はいつもの頼りない大人みたいに、無関心そうな口ぶりだった。
「先生、いいんですか? 本名不明の生徒がクラスにいて。そういうの、きっちりしてください。」
千里が私たちの会話に気付いて、さりげなく近付いてきた。
「まあまあ。もういいじゃありませんか。事件は解決したんですから」
糸色先生は優柔不断な微笑を浮かべて、私と千里を宥めようとした。
可符香がなんだろう、というみたいに私たちを振り返って、かわいらしく首を傾げた。私はごまかすように微笑み、それから溜め息を落とした。かっこいい糸色先生はどこに行ったのかしら?
私は、歩きながら男爵の屋敷を振り返った。そういえば赤木杏はどうしたのだろう。赤木杏の寂しげな表情が、私の胸に留まっていた。でもあの部屋を出て行ったきり、赤木杏の姿は見えなくなってしまっていた。
振り返ると、夥しい数の窓が光を宿すのが見えた。そのどこかに、赤木杏がいないか、こちらを見ていないかと探した。もし見ていたら、手を振ってあげよう。いや、声をかけてあげよう、と思っていた。“一緒に学校に行こうね”って。
どこからか視線が向けられるのを感じた。でも、どこにも赤木杏の姿はなかった。赤木杏は、はじめて見たときと同じような印象で、白昼夢の中に消えていってしまったみたいだった。
私は諦めて視線を前に戻した。糸色先生が私の肩に手を置いた。顔を上げると、気遣わしげに微笑む糸色先生の顔があった。
ようやく屋敷の敷地の外に出た。門の前には、陰気な空き地の風景が広がっている。そこも男爵の庭みたいな感じだったけど、私たちは解放感を感じて、皆で足を止めて背伸びをしたりした。
「臼井君、やったじゃない。大手柄だよ!」
藤吉が臼井の背中をばーんと叩いた。強烈だったらしく、臼井がふらふらと吹き飛びそうになっていた。
いや、別にそれほどのものでも
臼井は調子に乗ってふんぞり返り始めた。
「ねえ、他にどんな写真撮ったの? 見せてよ」
藤吉は言いながら、臼井のデジカメを分捕った。私たちは興味半分で集って、デジカメを覗き込んだ。
ああ、駄目!
臼井が慌ててデジカメを奪い返そうとした。藤吉が的確な後ろ蹴りで、臼井を退けた。
藤吉がデジカメの電源を入れた。はじめに、ニセ時田が可符香を引きずり出すあの写真が現れた。次の写真を写すと、びっくりするものが現れた。着物姿の私たちが胸元を晒し、太股を大開にして眠っている写真だった。
すぐに私は思い出した。見合いの儀が終了したあの朝。奇妙な機械音。正体は、臼井がデジカメのシャッターを切る音だったのだ
写真はそれだけではなかった。臼井はずっと私たちと一緒だったのだ。続きを見ると、信じられないくらい恥ずかしい場面や、親に見せられないようないけない写真が次から次へと出てきた。
「何よ、これ?」
千里と藤吉が、臼井を振り返った。二人の背中に、不動明王が浮かぶのが見えた気がした。
いや、これは、その、できごころというやつで……
臼井がしどろもどろに言い訳をしようとしていた。
後の惨劇については、あえて言うまい。とりあえず、今回の事件でただ一人、病院送りになった者がいた、とだけ説明しておこう。
振り向くと、糸色先生が一人で歩きだろうとしていた。私は糸色先生の側へ走り、その手を握った。
「一緒に帰ろう、先生」
私は少し恥ずかしい気持ちを感じながら、微笑みかけた。
「駄目よ」
いつの間にか側にまといが現れて、私の頬に掌を当てて押しのけようとした。
「え、まといちゃん?」
私は動揺してしまって、ふらふらと糸色先生から離れた。
昨夜は見逃してあげたけど、あれは特別だから。もう事件は解決したのよ。いつまでも先生とべたべたしないで」
「できれば、あなたもべたべたしないでほしいのですが……」
まといは刺のある言葉を私に向けて、糸色先生を後ろから抱きしめた。糸色先生が笑顔を引き攣らせていた。
「昨夜って、ええ?」
私はびっくりして、口をぽかんと開けた。
「私たちが気付かなかったと思っていたの? なんなら、録音したものを聞かせようかしら」
まといが懐から小さな録音機を引っ張り出した。
私は全身の血がいきなり沸騰したような気分になって、慌てて首を振った。
「そうよ。抜け駆けは許さないんだから。あの夜は、仕方がないから許してあげたけど、ちゃんと順番というものがあるんだから、きちんと守ってください。先生とお付き合いしたければ、まず、私たちと勝負して、勝ってからじゃないと駄目よ。」
千里が乱れた髪をさらっと直しながら、私たちの前に進み出てきた。
「……辞退します。私、普通の女の子だから」
私は千里とまといの二人に睨まれて、プライドが折れる気分で遠慮した。というか、死にたいくらい恥ずかしかった。糸色先生と私だけの思い出だと思っていたのに……。
「まあまあ、皆で一緒に帰りましょうよ。私には、皆さんを無事に家まで送り帰す義務もありますから。それに、明後日から始業式です。また皆で会えますよ」
糸色先生が私たちを宥めるように、間に入ってきた。
「ウソ! 始業式って、そんな、今日って何日?」
私はあまりにも意外な事実に、糸色先生に身を乗り出させた。
「何を言ってんのよ。よく考えなさい。見合いの儀で先生の家に行ったのが8月24日でしょ小石川に戻ったのが26日。その後、男爵の家で二日監禁され、その翌日。だから今日は8月29日でしょ。」
千里は呆れたふうに説明した。
「ええー、宿題、ぜんぜん終ってないー!」
私は頭を抱えて、その場でぺたりと座り込んでしまった。しかも、両腕は男爵にやられて動かせないままだった。
そんな私の姿を見て、糸色先生が思いついたように微笑んだ。
「おお、そうだ。こんな時ですから、みんな一緒にどうですか。さあ、皆で一緒に。せーの、

絶望した!

〇〇〇


こちらの作品は以下の書籍を参考にさせていただきました。
『子供たちは屋敷に消えた』ロバート・カレン著 広瀬順弘訳 早川書房
『悪徳の栄え 上』マルキ・ド・サド著 澁澤龍彦訳 河出文庫
『悪徳の栄え 下』マルキ・ド・サド著 澁澤龍彦訳 河出文庫

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/10/07 (Wed)
この小説は、『さよなら絶望先生』を題材にした2次創作小説です。2次創作に関する法的問題については、こちらをご覧下さい。【著作物】【二次創作物】【パロディ】【パロディ裁判

P078 第7章 幻想の解体


私たちは沈黙して、遠藤を注目した。遠藤の顔は、変装が剥がれ落ちてしまいそうなくらいに、汗をかいていた。全身を小刻みに震わせて、糸色先生を細く閉じかけた目で睨みつけていた。もうその姿を見て、時田という感じはしなかった。
「遠藤、君はこれから警察に出頭したまえ。蘭京殺しの犯人としてな」
男爵が遠藤に指示を与えた。男爵の言葉に、少し疲労が浮かんでいる感じがあった。何もかもが暴かれて10年越しの計画を潰された徒労のようなものがあったのだろうか。それでも男爵は、自分が設定したゲーム・ルールに従い、潔く敗北を認めたのだ。
「御意」
遠藤が執事のような恭しい礼を男爵にした。もともと、執事体質の人間だったのかもしれない。
「先生、それじゃ時田さんは? 殺されちゃったの?」
私は急に本物の時田が心配になって、糸色先生を振り返った。
「いいえ。多分、殺されていません。さっきも言いましたが、死体を隠すのは難しいんですよ。計画が終了するまで、死体は発見されるわけにはいきません。だから絶対に発見されないという自信のある場所で、生きたまま隠しているのでしょう」
糸色先生の言葉から緊張が解放されていく感じがあった。糸色先生の表情に、心配は浮かんでいなかった。
「それは、どこですか?」
千里が心配そうな顔をして糸色先生を見上げた。
「あの坑道です。私の実家の地下。あそこなら、隠すのにうってつけでしょう。私の実家で、あそこだけあまり管理されていない場所でしたから。私は見合いを避けて、地下の坑道に逃げ込みました。しかし、そこで思わぬものが現れて気を失ってしまいました。あの玩具ですが、実は警備室のコンピューターと連動していて、特殊なパスワードを打ち込むと動く仕組みになっているんですよ。遠藤さんは私をあれ以上先に進ませないために、あの玩具を動かしたのでしょう」
糸色先生は普段の穏やかさに戻りながら、私たちに説明した。
私は今さらながら、警備室で見かけたニセ時田の行動を思い出していた。なにやら謎めいたウインドウを開き、複雑なキー入力をしていたニセ時田。あれはコンピューターに、地下の玩具を動かすよう命令を与えていたのだ。
私は信じられないくらいあからさまなニセ時田の細工を、目の前で見ていたのだった。もっとも、コンピューターの知識がなく、気がつかなかったのだけど。
「大した男だな。正解だ。あの坑道の真直ぐ進んだところで、時田が幽閉されている。飢えてなければ、まだ生きているだろう」
遠藤が時田の顔をにやりとさせて答えた。声の低い凶悪そうな声だった。
「ご心配なく。すでに家の者に知らせてありますので」
糸色先生が遠藤を振り返って、挑発を押し返すように言った。
その直後、見計らったように携帯の着信音がした。糸色先生は懐から携帯電話を引っ張り出すと、通話にした。
電話の相手は倫からだったらしい。糸色先生は短くやり取りを終えて、電話を切った。
「報告がありました。あの坑道から、本物の時田が発見されました。それから、実家の警備員リストの中から遠藤喜一の名前が発見されました。一年半前、退職したようですが。時田と入れ替わったのも、その頃でしょう」
糸色先生の言葉は、謎が明かされてストレスから解放されたみたいだった。
そんなとき、ふと客間のドアが開いた。なんとなく、部屋に明るい暖かな気持ちになれるものが流れ込むような気がして、私は振り返った。皆も振り返っていた。部屋の入口に、ワンピース姿の赤木杏が立っていた。ううん、違う。風浦可符香だ。顔はまったく一緒だけど、あの雰囲気は絶対に風浦可符香だ。
「あら、みんなでお茶会?」
皆に注目されて、可符香は少しびっくりしたみたいだったけど、それでもいつもの包み込むようなポジティブな言葉を掛けてきた。やっぱり可符香だ!
私はソファから飛び上がって可符香の側へ走った。そのまま可符香の体を抱きしめた。皆も立ち上がって、可符香の前に集ってきて、順番に抱擁した。あびると藤吉が、感激のあまり泣いてしまっていた。可符香はきょとんとしていたけど、それでも笑顔で私たちの抱擁に応じてくれた。
そんなふうに大騒ぎしている最中、私は一人、糸色先生はどうしたのだろうと振り返った。糸色先生は一人きりで、男爵の前に進んでいた。
「全て終了、ですかね」
「そのようだな」
糸色先生が世間話でもするように切り出した。男爵はソファに座ったまま、糸色先生を見上げた。その顔に、少しも痛手は浮かんでいなかった。
「あなたのことです。諦めていないんでしょう」
糸色先生の顔と言葉に、少しの緊張が宿った。
「もちろんだ。君は興味深い人間だからね。私は正直なところ、10年間の事件なんてなんとも思っていないのだよ。ただ君と、もう少しゲームを楽しみたい。それから、君が苦しみ、骸を晒す様を見たい。それだけなのだよ」
男爵がにやりと口元をゆがめた。私は男爵の微笑を直感的に嫌悪した。その微笑に、なぜか性的なものを感じていたからだ。
「何度でも挑戦を受けましょう。何度でも挑戦を受け、その度に打ち砕いてみせます」
糸色先生は静かに、それでいて決定的な言葉を突きつけた。
「それは人生に楽しみができたな」
男爵は同意を求めるみたいに、糸色先生に微笑みかけていた。
糸色先生が踵を返した。私が見ているのに気付いて、糸色先生はあっと顔を伏せて、それから笑顔を作った。
「さあ皆さん。帰りますよ!」
「はい!」
糸色先生が歩きながら、私たち全員に明るい声をあげた。私たちは糸色先生を振り返って、返事を返した。

次回 P079 終章 華やかな少女写真誌

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■2009/10/07 (Wed)
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P077 第7章 幻想の解体


私たちは食い入るように写真に注目していた。デジカメのディスプレイに写っていた写真は、あまりにも鮮明で、絶大な威力を持った証拠品だった。
私ははっと意識が過去に吸い込まれていった。見合いの儀が終了して、一人きりで目を覚ました、あの朝。竹林を歩く私の前に、青ざめた顔の臼井が飛び出してきた。竹林の先にあったのは、赤木杏が眠る沼。そうだ、臼井は決定的な瞬間を目撃し、写真に収め、それで恐怖に捉われて逃げ出していたのだ。
そういえばあの時、沼の近くの草に泥が混じって濡れていた。あれはニセ時田が赤木杏を引きずり出したためだ。
それに私はあの後、赤木杏を目撃した。みんなで帰ろうと向かった玄関先で、私を見詰めていたセーラー服姿の赤木杏。その肌の色が緑色だった。
違和感そのもののように思えた赤木杏の存在。私は白昼夢を見たのではないかと思っていた。でも赤木杏は、確かに存在していた。
それにしても、赤木杏はどうしてあの場所にいたのだろう。隠れていればいいのに、どうして私たちの前に、姿を見せたのだろう。
私は、ふと赤木杏が部屋を出るときに見せた表情を思い出した。……寂しかったのかもしれない。沼の中で10年間眠っていて、ぼんやりした意識しかなかったという赤木杏。それでも、寂しさを感じていたのかもしれない。
「いつ、気付いた。俺が偽者だと?」
時田の声に、私の意識が現実に引き戻された。
私は時田を振り返った。時田は顔を苦しそうに歪め、汗を浮かべていた。顔も声も、すでに時田ではない別人だった。
「昨日ですね。あなたの変装は見事なものです。恥ずかしながら、私も気付きませんでした。しかし、昨日あなたが持ってきた男爵の生徒リスト。あれを見て、私はすぐにおかしいと気付きました。だってあのリストには、“12人”しかいませんでしたからね」
糸色先生は旅行ケースを開けて、用紙を一枚引っ張り出し、テーブルに置いた。昨日の夜、命先生の診療所で見た救出された子供のリストだった。
でも私はリストを覗き込んで、首を傾げた。
「先生、ちゃんと13人いますけど。」
千里が私より先に、顔を上げて疑問を口にした。
糸色先生は首を振って否定した。
「いいえ、12人です。よく御覧なさい。1番目と13番目。これは名前を反転させただけの同一人物です。住所は、慌てていたのでしょう、ただのコピーですね」
糸色先生がリストの1人目と12人目を指して説明した。
私はあっとなった。1番目の「三田智菜美」と、13番目の「源民」。平仮名にすると「みたともなみ」と「みなもとたみ」となる。単に反転させて、漢字を当てはめただけだ。それに、苗字が違うのに住所が一緒。明らかな捏造だった。
「私はこれを見て、ただちに何者かが証拠品に手を加えていると察しました。しかし、これだけでは時田を疑うには判断材料に欠けます。資料を改竄したのは、時田ではない、他の誰かという可能性は充分ありますからね。そこで、もう一つの証拠品です。私は兄の命医院で、あるカルテを見ました。あなたが整形外科に通った証拠であるカルテです。私ははじめ、時田が若作りでもしたのかと思いました。でも、改めて兄に電話して確かめたのですが、“皺を増やすため”の整形手術だったそうです。この段階で、私は確信しました。あなたは偽者であり、男爵の弟子である、と。今は手袋をしていますけど、その掌、随分と若々しいらしいですね。ちらとしか見えませんが、首に皺がなさすぎです。あなたの本当の年齢は30代半ば、といったところではありまんせんか?」
糸色先生は旅行ケースの中から問題のカルテを引っ張り出し、テーブルの上に置いた。それから、ニセ時田を振り向き、畳み込みかけるように言葉を重ねる。
私はカルテを覗き込んだ。専門的な医学用語が羅列されていて、よくわからなかった。その代わりに、糸色医院で聞いた、命先生とのやりとりを思い出していた。
命先生は「“一応身内であるから”」と言った。“一応身内”すなわち、「限りなく身内に近い立場であるけど他人である」という意味だ。
それに見合いの儀の時、時田に糸色先生の幼少時代の思い出を聞くと、真っ先に17歳の事件が話に出てきた。あれは、17歳の時に起きた事件のインパクトがあったからではない。ニセ時田が17歳の糸色先生しか知らなかったからだ。
糸色先生の話はまだ終っていない。私は自分の推測から逃れて、顔を上げた。
「……それで私は裁判所へ行き、当時の正しい資料をコピーさせてもらいました。当時の事件当事者だといえば、簡単にコピーさせてくれましたよ。これがそのコピーです」
糸色先生はとどめのように宣言すると、旅行ケースから最後の資料を引っ張り出した。
資料には、次の名前が列挙されていた。

〇〇名前      当時の住所 
三田 智菜美  東京府調布市20-7
楠田 陽子   東京府調布市4-98
群 市太郎   静岡県駿河区31-121
火田 健次郎  福岡県福岡市5-21
帆府 茅香   東京府市川市3-55
市女笠 吉武  東京府守谷市大粕7-14
桜 妓市    東京府杉並区3-83
山形 富一   宮城県仙台市66-65
吉川 和海   千葉県茂原市11-534
幸田 邦仁   茨城県閲沼市3-8
池谷 彰    東京府久坂市2-35
遠藤 喜一   北海道札幌市8-1

次回 P078 第7章 幻想の解体8 を読む

小説『さよなら絶望先生~赤い瞳の少女~』目次




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■2009/10/07 (Wed)
第1話 駄弁る生徒会

3c73965d.jpg79615007.jpgくりむ「メディアの違いを理解せよ!」
桜野くりむが今回のお題を力いっぱい声にした。ホワイトボードには『メディアの違いを理解せよ!』と大きく書かれている。背後の天井近い壁には『生徒会アニメ化緊急会議』の横断幕が張り込まれていた。
鍵「……はあ」
しかし一同の反応はそれぞれだった。
椎名深夏は漫画本をぺらぺら。深夏の妹の真冬はノートパソコンのキーを叩いている。紅葉知弦は読書に集中している。この場でホワイトボードを見ているのは、くりむの右手前に座っている、唯一の男性、杉崎鍵だけだった。
88e2a696.jpga7a51390.jpg深夏「てか、本当にアニメ化するのか? 『生徒会の一存』だぞ?」
知弦「アニメ、というよりドラマCDで充分って声は大きいわね」
18458011.jpgae48f91e.jpg真冬「密林さんの書評はどの巻も同じだ、とか相変わらず話は進んでない、とか……」
くりむ「自虐ネタやめいぃ! ともかく、これは碧陽学園生徒会の世界戦略の第一歩。メディアミックスを展開すれば、お小遣いアップも夢じゃないわ!」
くりむが夢を膨らませてニヤニヤと笑顔。
鍵「お小遣いって……」
くりむ「それには、メディアの違いを理解した展開が必要なの!」
深夏「アニメはアニメなりの見せ方をしたほうがいいと?」
真冬「それって、原作クラッシュ」
くりむ「アレンジ! だいたい部屋の中だけで成立しているアニメなんて、いまどき日曜夕方にしか生息していないわ!」
くりむがテーブルを叩き、激しく捲くしたてる。
28b2a427.jpg深夏が手を上げた。
深夏「はーいはーい! 映像化といえば、やっぱアクションだろ! そうだ、七つ集めると何でも願いが叶う……」
と拳を握る。
鍵「改!」
拳が鍵に落ちた。
7fbfe938.jpg真冬「あの、やっぱりこれからの作品は女性に受けることが大切だと思うんです。なので杉崎先輩の他に、もう一人の男性キャラを登場させて、許されない二人のフォーリングラブ要素を……」
鍵「て、これ誰!」
真冬「東池袋近辺じゃ大人気ですよ? 黒い執事さんに続く、大ヒッ3b11d2e2.jpgト御礼ですよ」
知弦「それよりまず、アニメのタイトル決めたほうがいいんじゃない?」
深夏「え? 『生徒会の一存』だろ?」
知弦「それは最初の巻だけでしょ?」
知弦が鋭い視線を深夏に向けた。
真冬「『碧陽学園生徒会議事録』とも書いてありますが……」
知弦「長すぎるわね。『生徒会の一存』、略して――“生存”」
くりむ「じゃあさ、ひらがなにしようよ。そんで真ん中に☆とか」
“せい☆ぞん“
深夏「星か! じゃあついでに、星が入った珠を七つ集める話に……」
深夏が拳を握って立ち上がる。
鍵「……エボリューション」
深夏「そっちは口にするな!」
c151b94d.jpg13c436de.jpgくりむ「仕方ない。じゃあ、いっそのこと新しいタイトルを……」
くりむがホワイトボードにきゅきゅっと文字を書く。
涼宮……
くりむ「憂鬱ってどう書くんだっけ?」
8ed31403.jpg鍵「書いちゃ駄目!」
くりむ「書いとけばみんな騙されて見てくれるよ」
鍵「犯罪です!」
唐突に衣装チェンジ。知弦はSFふう全身スーツ。深夏はファンタジー風に半裸の鎧姿と剣。真冬は学園祭ふうゴスロリファッション。
0046e528.jpg鍵「って何しているんですか?」
知弦「何事も最初が肝心」
深夏「やれることはやっとかないとな」
くりむが魔法少女ふう衣装で、たったっと知弦たちの前に飛び出してくる。そしてカメラを指さし――。
2ef55c26.jpg知弦「さあ、始めるザマスよ!
真冬「行くでガンス
深夏「フンガー
くりむ「まともに始めなさいよ!
鍵「……2重の意味でやばくないですか?」
c596fa77.jpg6863189b.jpg4f174b31.jpgbdf3cb65.jpg
『生徒会の一存』は冒頭から堂々とごまかしも避けもせず内輪ネタから始まる。そもそも物語が始まっておらず、観る者はどんな物語なのかどんなキャラクター設定なのか知らされないまま、内輪ネタとパロディが延々続く。
しかしこれこそが『生徒会の一存』という作品なのである。この後も『生徒会の一存』は同じキャラクターで舞台を一切動かさず、延々対話を、それも内輪ネタとパロディを繰り返し続ける。だからこの冒頭数分間のシーンは、まさに『生徒会の一存』という作品を直裁的に解説した場面であるといえる。
f2864233.jpg08c8d376.jpg『生徒会の一存』にオリジナルとして提示される部分は多分ない。すでに他作品で提示されたパターンからキャラクターと物語がカスタマイズされる。もっとも、『生徒会の一存』の個性はキャラクターや物語、背景などにはなく、語りにありそうだ。
6e7f31d2.jpg『生徒会の一存』はある高校の生徒会を舞台にしている。もちろん、実地的な取材に基づく作品ではない。登場するキャラクターたちの口から「生徒会って何をするんだ」と告白されてしまう。――第1話にして、だ。
だから生徒会を舞台にしているが生徒会の活動は物語の中心になりc3544e34.jpgえない。生徒会室と呼ばれる密室空間は、あくまでもキャラクターを寄せ集める場所に過ぎず、そこを「生徒会」としているのはただそう呼称しているだけだ。その生徒会と呼ばれる場所で、キャラクターたちはテーマ設定もせず、物語の進展を目的とせず、意味のない対話を延々と続けるのだ。
da339884.jpg対話の内容はパロディが多いせいか接地点は低い。物語中で交わされる対話はどれも聞き覚えのある内容ばかりだ。聞き覚えのある台詞回しに、聞き覚えのある用語、流行語、スラング……。「誰もが知っている」言葉と知識を、大量に羅列しているだけだ。
言葉の中に新しい何かが見出される機会はない。「誰もが知ってい0dafd4c0.jpgる」という範疇から物語を飛躍させられず、新しい知識や哲学が、あるいはそこを出発点とする何かが誕生しそうな期待は抱けそうにない。あえて言うなら、「駄弁る生徒会」ではなく「駄弁るオタク」と呼ぶべきだろう。
624a1428.jpgとにかく台詞量が多い。登場人物数が5人。新キャラfe1ad9c7.jpgクターの追加はほぼなしで、舞台もそこから移せない。だから5人が常に連続的に掛け合って台詞を紡ぎだしていかねばならない。見ていると楽しい雰囲気だが、作り手は相当緊張するはずだ。
しかし、実際この種類の作品を描くとなれば、作り手にとって大きな949f5fad.jpg試練となる。
一幕劇はただでさえ難易度が高い。並みの脚本家ならば、簡単に弾かれてしまうだろう。そのうちにも台詞が一行も出てこなくなり、途中で作品趣旨を捻じ曲げてでも別展開に活路を、あるいは救いを求めるようになる。
8ccc93c6.jpgどうにかこうにか書いてみせても、読者がついてこないだろう。同じ場面でどこまで物語を、あるいは言葉を延長させられるか。よほどうまく書かない限り、読者はそこに停滞を感じてしまう。
読者が物語にストレスを感じ、投げ出してしまうパターンには2つある。物語がよく理解できないか、物語が停滞しているように感じるか……。この場合作家は、読者の気持ちを鋭く察して、主人公がその場面からの痛快の脱出劇を描いて物語を別展開へと飛躍させる。
しかし一幕劇は“舞台を移動させない”が絶対的ルールだ。足枷であるといっていい。舞台を移さず、それでいて確実に物語を進行させ、読者に停滞感を与えてはならない。しかも『生徒会の一存』はシリーズ作品として1クール描こうと試みている。……狂気の沙汰としか思えない。
『生徒会の一存』の言葉のやり取りは冒頭から勢いよく、流暢に流れていき、一瞬でも停滞しない。まるで閉所恐怖症のように、台詞が交わされ言葉で埋め尽くされていく。一瞬でも、読者の気分がどこかに逸れる隙すら作らない。
一幕劇は難易度が高いばかりではなく、リスクが異常に高い。書くには相当の能力と労力、それから引き出しの数が必要になる。だが悲しいことに、脚本家の苦労はほとんど理解されない。例えて言えば、未開の地への無謀な冒険に出かけて、宝を得て帰還しても、誰も誉めてくれなくれなければ気付いてさえくれない、という感じだ。よほどの傑作でない限り、読者の痛烈な批判を受けるだけだ。
それでも『生徒会の一存』という作品は、その無謀さに挑戦した。『生徒会の一存』は徹底的に言葉で埋め尽くされる。会話に一瞬でも隙を作らず、笑いに間を作ろうとしない。ただとにかく、持てるすべてを注ぎ込むように、言葉で埋め尽くされる。『生徒会の一存』はライトなデザインとは裏腹に、難題に挑戦している最中なのだ。

作品データ
監督:佐藤卓哉 原作:葵せきな 狗神煌
シリーズ構成・脚本:花田十輝 キャラクターデザイン:堀井久美
美術監督:東潤一 中村恵理 セットデザイン:青木智由紀
CGIディレクター:佐野秀典 色彩設計:松本真司
撮影監督:川口正幸 編集:松村正宏
音響監督:岩浪美和 音楽:かみむら周平
アニメーション制作:スタジオディーン
出演:近藤隆 本多真梨子 斉藤佑圭 富樫美鈴
〇〇〇堀中優希 小菅真美 能登麻美子



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