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■2010/04/07 (Wed)
シリーズアニメ■
第1話 雪華の都
雪村千鶴は走っていた。京の町は人が消えてしまったように沈黙していた。背後から追跡してくる気配だけが不気味に際立っていた。
本能からか、千鶴はより暗く、望みのない闇へと足を向けてしまっていた。そこに見つけた樽の陰に飛び込んで身を潜める。
追跡者が四つ辻の前で足を止めた。荒く息を吐きながら、せわしなく土を踏む音が聞こえる。
千鶴は熱く火照った体を抑えて、深く呼吸した。吐息が漏れないように自分の口を押さえる。
「そう遠くには行っちゃいまい。探せ!」
2人のやり取りが聞こえた。2人は手短に打ち合わせて、2手に分かれる。
ざっざっと土を踏む音が迫った。千鶴ははっと顔を上げた。正面の白
千鶴は小さく震えた。震える手を律して、刀の柄を握る。掌に力がこもらず、握るというより添えるようだった。
その時、どこかで悲鳴が漏れた。白壁に映った影が振り向き、刀を抜いた。
金属音が跳ねた。刀がぶつかり合っているのだ。千鶴は状況がつかめず、ただ恐怖に捉われて白壁をじっと見ていた。
白壁に影が映った。男の頭に、刀が突き刺さっていた。どさりと男が倒れた。千鶴の側だった。男は頭を刀で抉られ、恐怖に引き攣った瞬間で硬直していた。
千鶴は悲鳴が漏れそうになるのを必死に抑えた。恐怖がこみあげてきて、自分の意思とは無関係に目に涙を浮かべた。火照っていた体が急速に熱を失っていった。
侍が刀を振り上げた。千鶴は身をかばうように両手を突き出し、悲鳴を上げた。
しかし、刀は振り落とされなかった。奇妙に沈黙した間を置いて、どさ
千鶴は目を開けた。さっきの侍が足元に倒れ、空虚な目で雪の景色を見ていた。殺されたのだ。
千鶴は顔を上げた。目の前に、男が立っていた。男は手に持っていた刀をさっと振った。白い土壁にぴちゃりと液体が飛び散った。すっと刀を鞘に収める。
幼く聞こえる男の声が、斉藤と呼ばれる男をからかうように声を掛けた。
「俺は務めを果たすべく動いたまでだ」
斉藤は低く、闇に飲まれそうな声で呟いた。
斉藤がすっと刀の切っ先を千鶴に向けた。
「いいか。逃げるなよ。背を向ければ切る」
その時、偶然にも月明かりが現れた。風がちらつく雪を吹き上げた。男の頬をなでる漆黒の髪に、千鶴は息を飲んだ。その美しく、月明かりに浮かぶ麗人の顔は、まるで狂い咲きの桜のような――。
何か予感めいたものを感じた千鶴は、男装して
新選組の一同は人斬りの目撃者として千鶴を殺そうかと話し合う。しかし千鶴の父親の話しを聞くと一転して、父親が見付かるまでの期間、屯所で保護しようと申し出る。
半ば軟禁状態の千鶴は分が悪く、新選組の申し出を引き受けることにしたのだが――どうやら新選組には知られてはいけない秘密があるらしい……。
◇
少女は江戸という俗世を離れ旅を続け、どうやらその途上でこの世ではない場所に踏み込んだようである。
作品の中心となるのは、美しき少年達の戯れである。少年達は癖の
少年達を彩る唯一のメイクは、赤く際立った血だけだ。白く溶けたよう
どの少年達も鋭角的に輪郭線が区切り取られ、目元は特徴的なアイシャドーでくっきりと浮かび上がらせている。その瞳は異界の人間であることを明かすように、少年達は色とりどりに輝かせている。
少女は監視という名目で美しい少年達の視線を常に集め、翻弄され続けている。やがて少女は身も心も少年達に捉われ、危うく揺り動か
物語の舞台となる屯所はこの世ではない場所だ。歴史上のどの時代にも場所にも符合しない。「新選組」と「屯所」という名前だけを借りているだけだ。
日本家屋がもたらす光と闇のせめぎあい。その狭間に住んでいる幻
少年達は美しい見た目とは裏腹に凶暴な実体を持っている。美と狂気は常にどろどろに交じり合った渾沌の中で両立している。光と闇のように。
光と闇がきわどく混濁した場所に幻想は出現する。その存在は霧の粒のようにはかなく、一瞬の油断で霧散してしまう。幻想を長く抱いていたいのであれば、夢から目を覚まさぬことだ。
作品データ
監督:ヤマサキオサム 原案・構成監修:藤澤経清 原作:オトメイト
キャラクター原案:カズキヨネ キャラクターデザイン:中嶋敦子
美術監督:平柳悟 色彩設計:松本真司 撮影監督:下崎昭
編集:松村正宏 音楽:大谷幸 音響監督:岩浪美和
プロデューサー:小倉充俊 長谷川和彦 山崎明日香
アニメーションプロデューサー:浦崎宣光
アニメーション制作:スタジオディーン
出演:桑島法子 三木眞一郎 森久保祥太郎 鳥海浩輔
〇 吉野裕行 遊佐浩二 大川透 飛田展男
〇 坪井智浩 小林範雄 斉藤龍吾 島崎信長
〇 川野剛稔 吉本秦洋
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■2010/04/06 (Tue)
シリーズアニメ■
「イースト・トーキョー・ユナイテッド(ETU)」はサッカーチームの中でも弱小と知られていた。平均観客動員数が8000人を下回り、台東区がホームタウンからの撤退を検討している。負け続けのチームに監督は次々と入れ替わり、サポーターは荒れる一方だった。
もうこれ以上、負けるわけには行かない。経営陣は起死回生の望みにすがり、達海猛をチーム監督に抜擢する。
達海猛はかつて、ETUのチームリーダーだった男だった。引退後は監督に転身し、各地を点々としつつサッカーを盛り上げてきた。アマチュアリーグであるイーストハムをFAカップベスト32まで導いた功績をもつ男だった。
だが達海猛には曰くつきの過去があった。達海猛はかつてETUの監督を引き受けていたが、突如チームを見捨てて海外のチームの監督に就任。達海猛に見捨てられたチームは惨敗し、結果として2軍に地位を落としてしまっていた。
そんな過去を持つ達海にサポーターたちは納得せず、チームにも不穏な空気が漂う。
達海猛は監督就任初日、ひたすら30メートルダッシュだけをやらせ、そのタイムだけで新しいレギュラー候補を決めてしまう。それはベテランを省いた若手中心のチームだった。
納得の行かないベテラン陣から不満の声が上がる。達海猛はならば、と試合をしようと持ちかける。もし負ければ考え直すが、勝てばレギュラー交代、という条件だった……。

サッカーを題材にしたアニメや漫画は、野球に較べると少ない。その内容も、すべてにおいて選手に光が当てられ、チームの団結と葛藤、勝利がテーマの中心だっただろう。
アニメや漫画はしばしばヒーローを求め、シンボリックなイメージと度外れた力を描き出す。そんなファンタジーに対し、スポーツ選手は現実的な世界に実在するヒーローである。だからこそ作家はスポーツ選手を好んで描いてきた。
だが『GIANT KILLING』はそんなセオリーと系譜から一歩視点を変え、「監督」を主人公に据えた珍しい作品である。
試合中の動きにはデジタルが使用されているが、一目でアニメーターの動きではないとわかる。走る瞬間に地面を蹴っておらず、躍動感がまったくない。ロングサイズの集団をデジタル処理で済ませる事例は増えているが、表現手法としてではなく技術としての未熟さが目に付いてしまう。まだまだこれからの分野だ。
主人公が「監督」であるから、今までのスポーツアニメ・漫画では描かれなかった側面が深く掘り下げられるようになった。経営陣の苦悩やサポーターとの葛藤。スポンサーとの契約の話まで出てくる。
考えてみれば、裏方とはいえ「監督」はスポーツにおいて重要なファクターであったのに、その描き方は極端にシンボリックな存在であっ
た。シンボリックな父親であり、指導者であり、生々しい人間として描かれてこなかった。
それだけに、『GIANT KILLING』の平均年齢は極めて高い。主人公である監督は35歳。経営陣は白髪の混じる壮年。今時珍しい、若いヒロインの登場しないアニメ作品である。
高速で移動する選手の脚の動きを描写するのは至難の技だ。走りの動きは教科書通りなら一歩3枚(原画1動画2)。さらにその脚を常に意識的に操作し、ボールを蹴り続けねばならない。とてつもなく難易度が高い作画になり描けるアニメーターは僅少。演出家はスタッフ技術の低さをごまかすために様々な手管を用いてきた。サッカーをフェティッシュなレベルで完成させられたアニメーターは、日本アニメ史においてもいまだ前例がない。

サッカーは野球と違って、原作人気が切っ掛けで映像化される例は稀である。常に時代的な影響を受けて、ようやく映像化されるという感じだ。例えばワールドカップでサッカー人気が盛り上がるたび
に、そのタイミングに合わせてアニメの企画が提出されるが、しかしそれほど有名なサッカー漫画が都合よくあるわけではない。
例えば2001年ワールドカップの年に制
作されたアニメ『オフサイド』がそれだ。この作品はすでに1992年に終了しており、映像化された当時、制作を担当したアニメーターの誰も漫画『オフサイド』の存在を知らなかった。『キャプテン翼』なんていうアニメ作品は、唯一の例外であるといっていい。
一時的な世相の影響で制作されるために、予算はその他の作品より
遥かに低く抑えられ、おそらく誰も聞いたことがないであろう中小アニメ会社が実際の制作を引き受けていたりする。
『GIANT KILLING』もやはり同じ切っ掛けをもつらしく、Jリーグの試合中継と連動して放送されているようだ。サッカーアニメの前途はまだまだ続くようである。
『GIANT KILLING』が達海猛のように強力な牽引役としてサッカーアニメの系譜を変えてもらいたい。
作品データ
監督:紅優 原作:ツジトモ 原案・取材協力:綱本将也
シリーズ構成:川瀬敏文 キャラクターデザイン:熊谷哲矢
美術監督:東潤一 色彩設計:北爪英子 撮影監督:近藤慎与
編集:松村正宏 音楽:森英治 音響監督:高橋剛
アニメーション制作:スタジオディーン
出演:関智一 水島大宙 置鮎龍太郎 川島得愛
〇 浅野真澄 ふくまつ進紗 後藤哲夫 デビット・レッジス
〇 儀武ゆう子 蔵合紗恵子 野浜たまこ 多田野曜平
〇 広田みのる 魚建 宮内敦士 伊藤健太郎
〇 中川慶一 深津智義 武藤正史 川野剛念
〇 佐藤献輔 中田隼人 島崎信長 井田国男
〇 岡哲也 廣田誌夢 早坂愛
もうこれ以上、負けるわけには行かない。経営陣は起死回生の望みにすがり、達海猛をチーム監督に抜擢する。
達海猛はかつて、ETUのチームリーダーだった男だった。引退後は監督に転身し、各地を点々としつつサッカーを盛り上げてきた。アマチュアリーグであるイーストハムをFAカップベスト32まで導いた功績をもつ男だった。
だが達海猛には曰くつきの過去があった。達海猛はかつてETUの監督を引き受けていたが、突如チームを見捨てて海外のチームの監督に就任。達海猛に見捨てられたチームは惨敗し、結果として2軍に地位を落としてしまっていた。
そんな過去を持つ達海にサポーターたちは納得せず、チームにも不穏な空気が漂う。
達海猛は監督就任初日、ひたすら30メートルダッシュだけをやらせ、そのタイムだけで新しいレギュラー候補を決めてしまう。それはベテランを省いた若手中心のチームだった。
納得の行かないベテラン陣から不満の声が上がる。達海猛はならば、と試合をしようと持ちかける。もし負ければ考え直すが、勝てばレギュラー交代、という条件だった……。
だが『GIANT KILLING』はそんなセオリーと系譜から一歩視点を変え、「監督」を主人公に据えた珍しい作品である。
考えてみれば、裏方とはいえ「監督」はスポーツにおいて重要なファクターであったのに、その描き方は極端にシンボリックな存在であっ
それだけに、『GIANT KILLING』の平均年齢は極めて高い。主人公である監督は35歳。経営陣は白髪の混じる壮年。今時珍しい、若いヒロインの登場しないアニメ作品である。
例えば2001年ワールドカップの年に制
一時的な世相の影響で制作されるために、予算はその他の作品より
『GIANT KILLING』もやはり同じ切っ掛けをもつらしく、Jリーグの試合中継と連動して放送されているようだ。サッカーアニメの前途はまだまだ続くようである。
『GIANT KILLING』が達海猛のように強力な牽引役としてサッカーアニメの系譜を変えてもらいたい。
作品データ
監督:紅優 原作:ツジトモ 原案・取材協力:綱本将也
シリーズ構成:川瀬敏文 キャラクターデザイン:熊谷哲矢
美術監督:東潤一 色彩設計:北爪英子 撮影監督:近藤慎与
編集:松村正宏 音楽:森英治 音響監督:高橋剛
アニメーション制作:スタジオディーン
出演:関智一 水島大宙 置鮎龍太郎 川島得愛
〇 浅野真澄 ふくまつ進紗 後藤哲夫 デビット・レッジス
〇 儀武ゆう子 蔵合紗恵子 野浜たまこ 多田野曜平
〇 広田みのる 魚建 宮内敦士 伊藤健太郎
〇 中川慶一 深津智義 武藤正史 川野剛念
〇 佐藤献輔 中田隼人 島崎信長 井田国男
〇 岡哲也 廣田誌夢 早坂愛
■2010/04/06 (Tue)
シリーズアニメ■
EPISODE.01 Departure
でもその直後、俺は茫然と空を見ていた。背中に硬いアスファルトのごつごつした感触が触れていた。空は暗く沈んで、雲だけが淡く浮かんでいる。星がちらちらと輝き始めていた。
「……ここは、どこだ?」
妙な気分だった。ここはどこだろう? どうして俺はここでこうして倒れているのだろう?
左を見る。広々とした遊歩道に明かりを点けない街灯がきちんと並んでいる。右を見る。何かの施設――校舎のようなものが見えた。
「目が覚めた?」
凛とした女の子の声が俺に話しかけた。
俺はえっとなって体を起こした。正面の植え込みを前に、女の子がかがみ込んでいた。茂みに隠れるように身を潜め、体に合わない大きさのスナイパーライフルを身構えている。
「ようこそ。『死んで堪るか戦線』へ」
女の子が俺を振り返って微笑んだ。
それだけで、女の子は再びスナイパーライフルの銃底を肩に合わせてスコープを覗き込んだ。名乗りもしない。
「唐突だけど、あなた、入隊してくれないかしら」
「え? 入隊?」
本当に唐突だ。訳がわからない。
「ここにいるってことは、あなた、死んだのよ」
俺は夢を見ているのか、それともからかわれているのか。
「ここは死んだ後の世界。何もしなければ消されるわよ」
「消されるって誰に?」
「そりゃ、神様にでしょうね」
「じゃあ、入隊って何?」
「『死んでたまるか戦線』によ。まあ部隊名はよくかわるわ。『最初は死んだ世界戦線』。でも、『死んだ世界戦線』って死んだことを認めているんじゃね? ということにより破棄。以降、変遷を続けているわ。
次から次へと言葉が出てくる。俺は呆れる気分で女の子の話が終わるのを待った。夢だとしても、よっぽどの電波さんらしい。
「えーっと、それって、本物の銃?」
「……はあ。ここに来た奴は皆そんな反応するのよね。順応性を高めなさい。あるがままを受け止めるの」
『マトリックス』の見すぎか?
「受け止めて、どうすればいいんだよ?」
「戦うのよ」
「何と?」
「あれよ。あれが『死んでたまるか戦線』の敵――天使よ」
俺は尻の埃を払って立ち上がると、女の子が指さした方向を覗き込んだ。植え込みの向うは長い階段になっていて、その下にグランドがあった。トラック一つ分が余裕で納まるかなり大きなグランドだ。そこに、女の子が1人立っていた。女の子は何かを探すように辺りをきょろきょろと見回していた。
「やっぱ『死んで堪るか戦線』はとっとと変えたいわ。あなた、考えておいて」
女の子はスコープで狙いながら言った。
おいおい、どう見たってあれは普通の女の子じゃないか。この銃が偽物で銀玉はじくだけだとしても、痛いだろうな。警告したっていいはずだ。
「あのさ、向う行っていいかな?」
俺はグランドの女の子を指さした。
女の子が逆上して俺を振り返り、飛びついてきた。
「何で! 訳わかんないわ! どうしたらそんな思考に至るの? あんたバッカじゃないの? 一遍死んだら! ……これは死ねないこの世界でよく使われるジョークなんだけど、どう? 笑えるかしら?」
女の子は凄い勢いで捲くし立ててきて、怒った調子で訊ねてきた。まったく笑えない。
「ジョ、ジョークの感想はいいとして、少なくとも銃を女の子に向けているような奴よりかはまともな話ができそうだからさ」
「私はあなたの味方よ。銃を向けるなと言うなら向けないわ。私を信用しなさい!」
女の子の感情はなお治まらないらしく、立ち上がって俺を怒鳴った。不愉快なまでの上から目線だった。
「おい、ゆりっぺ。新人勧誘の手筈はどうなってんだ? 人手が足りない今、どんな汚い手を使ってでも……」
少年が女の子の前に走り寄ってきて、勢
「俺、向こう行くわ」
「うわああぁぁぁ! 勧誘に失敗した!」
女の子の叫びを無視して、俺は階段を降りていった。
訳がわからない。何なんだ、あいつら。
階段を降りて行きグランドへ入っていくと、女の子の側に近付いた。
普通に話しかける。女の子が俺を振り返った。月の明かりのせいか、女の子の髪が白く透き通るように思えた。肌はそれよりもっと白く、暗闇に淡く浮かび上って見えた。
「ああ、こんばんわ。銃で狙われてたぞ。あんたが天使だ、とか何と
意外な美人にドギマギしつつも、俺は後ろを親指で示した。
「私は天使なんかじゃないわ」
女の子は大きな瞳で俺をじっと見て答えた。
「だよなぁ、じゃあ……」
「生徒会長」
「……はあ。アホだ俺は。あの女にからかわれて
俺は女の子に軽く手を振って背を向けた。
「病院なんてないわよ」
俺は振り返り、訊ねた。
「誰も病まないから」
「病まないって?」
「みんな死んでるから」
俺はいきなり沸点に達した。
俺は女の子を指さし、遠慮なしに詰った。
「記憶喪失はよくあることよ。ここに来た時は。事故死とかだったら、頭もやられてるから」
女の子は感情のない声で、淡々と話を進めた。
俺はとどまらなかった。
「じゃあ、証明してくれよ! 俺は死んでるから、もう死なない……」
女の子がすっと近付いた。小さな声で何かを呟く。右袖に光を宿し、月明かりに輝く刃を出現さ
俺は動揺して声を上げた。
女の子が飛びついた。長い髪が月明かりの中を踊った。女の子の右腕の刃が真直ぐ俺の胸に飛びつき――。
◇
『Angel Beats!』は最近では珍しい、原作のないアニメーション・オリジナル作品である。原作・脚本は『AIR』『CLANNAD』などで著名な麻枝准が手がける。麻枝准はアニメーションの脚本を手がけるのは初めてで、アニメオリジナル作品ということを併せて見ても、『Angel Beats!』はなかなか挑戦的な作品であると言える。
学校という場所は誰もが知っている場所だから改めて解説する必要
音無やゆりはそんな場所に所属しつつも、独自の制度を作り出し、既
『Angel Beats!』は思春期の少年少女の物語だ。学校という少年
学校という少年たちにとって絶対的社会に対して、ただの集団の中の1人ではなくいかに自身としての意思と意識を維持していくのか。『Angel Beats!』はその闘争を激烈な形で描き出してく。
重火器が次々に登場するが、戦闘シーンはエフェクトが美しく飛び交うだけで重量感はまったくない。物語の中心はむしろ言葉のユーモアの中にあり、独特の言い回しが絶え間なく飛び出して見る者を映像世界へと引きこんでくれる。そのリズムと工夫の凝らし方は、さすがに人気作家らしい熟練したものを感じさせてくれる。物語の導入から、世界設定の説明まで見る側にストレスを与えない。続けてみようという意欲を挫かないように物語を展開させている。
近年のアニメは、ほとんどが前提となる原作がすでに存在し、視聴者はすでに知っている物語を再確認するためにアニメを見る。原作のあのシーンをどのように再現しているか、批評家の基準はそれがすべてであり、アニメ制作者の独創を軽視する傾向にある(一方で、「テレビでやってるから原作なんて買わなくていい」という考え方も確実に広まっているのだが)。
『Angel Beats!』はそんな最中に完全なオリジナルとして制作された作品である。だから我々は『Angel Beats!』の物語がどのように発展し、どのような終わりを目指していくかまったくわからない状態にある。この挑戦がどんな結末を目指し、どれだけの人を取り込んでいくのか。批評や経済的な面でどんな前例を残すのか。挑戦は今、始まったばかりである。
作品データ
監督:岸誠二 原作・脚本:麻枝准(Key/ビジュアルアーツ)
キャラクター原案:Na-Ga キャラクターデザイン・総作画監督:平田雄三
チーフアニメーター:宮下雄次 川面恒介 美術監督:東地和生
色彩設計:井上佳津枝 撮影監督:佐藤勝史 3D監督:山崎嘉雅 編集:高橋歩
特殊効果:村上正博 ラインプロデューサー:辻充仁
音楽監督:飯田里樹 音楽:ANANT-GARDE EYE 麻枝准
アニメーション制作:P.A.WORKS
出演:神谷浩史 櫻井浩美 花澤香菜 木村良平
〇 高木俊 増田裕生 徳本英一郎 小林由美子
〇 斉藤楓子 水島大宙 Michael Rivas 牧野由依
〇 沢城みゆき 島崎信長 松浦チエ
■2010/04/02 (Fri)
シリーズアニメ■
第01話 ビギニング
学校までやってくると、リナが声を掛けた。金髪に青い瞳の容姿端麗の少女だった。チアリーダーをやっているから体がしっかりしていてスタイルもいい。ジョーイより身長は上だった。
リナはジョーイの側に並び、好意を持って話しかけてくる。
「うん」
「チアリーダーのダンスパーティーがあるんだけど、今度こそ一緒に来てね。約束よ」
リナは少し恥ずかしそうに頬を染めながら、半ば強引な誘い方をした。
ジョーイはえっと顔をゆがめて、消極的にリナの誘いを断った。リナはむっと今度は怒りで頬を赤く染めた。
「お馬鹿! もう、いつ誘っても断ってばっかりなんだから」
リナはかっと声を上げると、不満そうに呟いた。ジョーイはリナを宥めようと愛想笑いを浮かべる。
「今すぐリナから離れろ、ジョーイ!」
ウィルはリナの腕を掴んで自分の側に引き寄せると、ジョーイを乱暴に掴みフェンスに押し付ける。
「俺は役立たずが大嫌いなんだ。そんな奴が妹の近くをうろちょとされるのは、迷惑なんだよ!」
ウィルは一方的にジョーイを罵倒して去っていった。
「なあニック、俺にもやらせろよ」「俺にも触らせろ!」
ニックの友人たちがロボットを奪い取ろうとした。するとロボットが暴走し、車道に飛び出していく。そこに、車が横切った。ロボットは車に轢かれ、ぼろぼろに崩れてしまう。
「まあ、いいさ。また新しいのをパパに買ってもらうから」
「もういらないって言ったよね。僕がもらってもいいんだよね」
ニックが捨てていったロボットをジョーイが手にする。すでにボロボロ。手足がちぎれ、内部の基盤を剥き出しにしていた。
もう壊れている、とサイは忠告したが、ジョーイは治すつもりだった。
それから数日後、ジョーイはロボットを修復させ、『ヒーローマン』の名前を与える。
修理が終わってすぐに、バイトの時間がやってきた。ジョーイはヒーローマンを椅子の上に乗せ
だが間もなく街に雨が降り注いだ。そういえば、ヒーローマンを乗せた椅子の上の天窓を開けたままにしていたかもしれない。ジョーイは慌てて店を飛び出し、家へ帰る。
家に帰り、自分の部屋に飛び込むと、やはりヒーローマンは椅子の上で雨に濡れていた。ジョーイは慌てて手に取ろうとするが、その時、落雷が落ちた。閃光
落雷のショックが去り、ジョーイは恐る恐るヒーローマンに近づく。ヒーローマンは少し姿勢を崩し、蒸気を吹き上げていた。壊れたようには見えない。指を近づけてみると、静電気がビリッと光を放った。帯電しているのだ。
ふとジョーイのポケットの中で音がした。何だろう、と引っ張り出してみると、ロボットの操作盤が青い光を放っていた。
突如、操作盤が強い輝きを放った。操作盤がばらばらに砕け、ジョーイの腕の周囲で回転した。やがて操作盤は形を変えて、ジョーイの左腕を包んでしまった。
「すごい! すごい、僕のヒーローマンだ!」
ジョーイが興奮して声を上げる。
ヒーローマンは沈黙してジョーイを見詰め、次に窓の外を振り
ジョーイの左腕のアイコンが変わった。押してみると、ヒーローマンが動き始めた。ヒーローマンはジョーイを背に乗せて家の壁を破壊しながら道路に飛び出した。凄まじい速度で疾走し、雨粒を切って進む。
やがてヒーローマンは高速道路へ到着した。ちょうど事故現場の側だった。ジョーイは倒れている車を見て、もしかして、と近付く。
「お願い、助けて! リナを助けて!」
ジョーイはヒーローマンに懇願した。するとジョーイの左腕のアイコンがまた違う記号に変わった。拳の記号だ。
ジョーイは力強くアイコンを叩いた。ヒーローマンがアクションを始めた。車のボンネットに腕を突っ込むと、そのまま引き剥がしてしまった。
ジョーが起き上がると辺りは真っ赤な炎で包まれていた。ジョーイは茫然と炎を見ていた。すると炎の中から、ヒーローマンが現れた。リナとリナの父親を肩に乗せていた。
その中でも主人公のジョーイは驚くほど没個性的に描かれているように思える。いや、アメリカが舞台だからこそジョーイはむしろ際立って
ジョーイは年齢不詳(バイトをしているくらいだから、高校生くらいだろうか?)だが、周囲の少年達に較べて極端に幼く描かれている。体の線はもろく崩れそうなくらい細く、柔らかな容姿で男性とは思えない高い声で会話している。ジョーイのルックスは幼形成体のアジア人
その幼く見える容姿は、アメリカが舞台だからこそ油のように浮かび上がり、主人公としての特異性を(多分)獲得している。
アメリカ人の作家には決して描けない感性だし、欧米圏のどこで放送しても子供たちは受け入れてくれないだろう。日本で放送するのに相
そんなジョーイの前に現れるのは力の象徴であるヒーローマンであ
第1話のクライマックスである、リナを事故から救い出す場面。かすかに記憶を戻したリナが見るのはヒーローマンであるが、奇怪な姿に変
その力の獲得が宇宙からやってきた悪の軍団との闘争という望まぬカオスを引き連れてくるが、いずれ望むすべてをジョーイに与えるだろう。『ヒーローマン』は創作に込められる願望を一切隠蔽せず、ストレートな形で描き出している。
地球を侵略しようとするエイリアンは、人間にゴキブリを足したような姿である。そのエイリアン・スクラッグが乗る円盤のデザインと動きは、通俗的なテレビでうんざりするほど見せられたUFO映像をそのまま再現している。あまりの捻りのない没個性的な発想に驚かされてし
特に際立っているのがアクションだ。『ヒーローマン』第1話には後半数分しかアクションはなかったが、その印象は圧倒的だ。線の少ない画から想像できないくらい立体的でダイナミックな破壊シーンが繰り出される。地味に思えた作品が別領域に一気に飛躍し、輝きだす瞬
『ヒーローマン』はストーリーにしてもキャラクターにしても潔いくらい作品の独自性を主張していない。あらゆるものが直線的に描かれている。今時は見られない(パロディ以外)、直球的な作品だ。アニメが少年の立場に戻って、改めて今の子供たちに問わんとしている。
しかしそれだけに物語の展開やアクションの力強さでどれだけ作品を魅力的に描けるかが勝負だ。制作側に突きつけられたプロットを、どの領域まで昇華させられるかが作家の腕の見せ所だ。
次回 第02話『エンカウンター』を読む
HEROMAN 目次
HEROMAN 公式ホームページ
作品データ
監督:難波日登志 原作:スタン・リー
シリーズ構成:大和屋暁 キャラクターデザイン:コヤマシゲト
チーフアニメーター:川元利浩、富岡隆司 デザイン協力:ねこまたや
クリーチャーデザイン:武半慎吾 タイトル・アイコンデザイン:草野剛
メカ・プロップデザイン:田中俊成 石本剛啓 ディスプレイデザイン:佐山善則
美術デザイン・美術監督:近藤由美子 色彩設計:岩沢れい子
撮影監督:木村俊也 3DCGIディレクター:カトウヤスヒロ 太田光希
編集:定松剛 音響監督:原口昇 音響効果:倉橋静男
音楽:METALCHICKS・MUSIC HEROES
音楽プロデューサー:山田勝哉 美登浩司 音楽制作:愛印
プロデューサー:奈良初男 山西太平
アニメーション制作:BONES
出演:小松未可子 木村良平 小幡真裕 チョー
〇 進藤尚美 保村真 陶山章央 石塚運昇
〇 長克巳 伊井篤史 石井康嗣 井上剛
■
つづきはこちら
■2010/03/20 (Sat)
その他■
東京都の青少年健全育成条例の改正において議論されていた『非実在青少年規制』が先送りされるようです。先送りであって否決ではありません。今後も油断ならない状況が続くだろうと考えられます。
改めて『非実在青少年規制』とは何であるのか振り返りましょう。以下が『非実在青少年規制』の概要です。
一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
何ともわかりにくい言葉が羅列しますが、要するに「存在しない青少年」を取り締まる法律です。何となく見た目が幼いとか、若作りしているキャラクターでもアウトです。一部の成人向けコミック、それもロリコンを題材にした作品だけ取り締まり対象になると思っている人もいますが、それは勘違いです。ほぼすべての成人向けコミックが対象になります。
規制対象は一般向け漫画にも向けられ、キャラクター作りに対しても制限がかけられます。恋愛をテーマにした漫画は全滅の恐れすらあります。声優の演技や声なども規制の対象になるらしく、声質が幼い声優は失業します。人気の高い女性声優などはほぼ全員が規制対象になると思われます。作家や出版社は、警察の検閲にビクビクしながら創作をしなければならなくなるわけです。
私はこれを知った段階でブログに取り上げようと思ったのですが、知ったときにはもう可決まで何日もない状態でした。情報を収集している間にも時間は過ぎて行き、今に至ってしまったわけです。
今回の『非実在青少年規制』における問題は、その内容以上に誰も知らないうちにこっそり法案を決めようとしたその方法にあります。私の家で購読している読売新聞には、『非実在青少年規制』の文字は一度も掲載しなかったと思います。3月19日になって、なにげなくテレビをつけると、この問題について報道されていたのですが、「『非実在青少年規制』とは何か?」という説明から始めていたので今までまったく報道していなかったのだと思います。インターネットがなければ、そんな法案が提示されていたことすら知ることができなかったと思います。
「サブカルチャー叩き」は戦後以来、周期的に繰り返され、およそ15年から20年周期で発生し、その時代の作家が標的にされ指弾されています。今回の件もその一端であるという見方はありますが、私は少し違うと思います。
まず第一に、世間に対してサブカルチャーの有害性をアピール、扇動活動など一切行っていない。一般の人々を巻き込み、思考や行動に影響を与えようというのを目的としていません。
第二に、その上でこっそり法改正してしまおうと強行したことです。今までのやり方よりよっぽど巧みで、効果的な方法です。
第三に周期がこれまでより短く、より反対派の勢力が強大になっているという点です。漫画、アニメと少し違う分野ですが、2002年7月に出版された森昭雄の『ゲーム脳の恐怖』があります。こちらはゲームですが、同じサブカルチャー叩きと括れば、期間はたったの8年です。2008年日本ユニセフが中心となった『準児童ポルノ』から見ると、期間はさらに短い2年です。
過去のサブカルチャー叩きは感情論に過ぎず、その感情を多数の人々に伝播して啓蒙(洗脳?)を促すという手法でしたが、最近は似非とはいえ科学的な考証を背景にしているし、都知事が先頭に立って法改正まで行おうとしました。『非実在青少年規制』に限っていえば、今後、毎年この時期に取り沙汰されるかもしれません。
今回の件はインターネットを通じてその存在を知ることができました。会議での信じがたい罵詈雑言を文章化した生々しい記事に行き当たることができたし(大葉ナナコ先生によれば私は認知障害者に当たるそうですよ)、都知事本人の映像も動画サイトなどで見ることができました。しかし、これまでの規制派の傾向を見ると、行動や手段が確実に複雑化、巧みになっています。ひょっとしたら、今回の件でインターネットに情報が漏れるということを学習したかもしれません。次はインターネットですら情報を得ることができないかもしれません。
私見ですが、『非実在青少年』という造語はSF的だと思います。SFとは現実をベースにしながら、その概念を飛躍させる何かを導入し、それで社会や人間がどうなっていくのかをシュミレーションしていくエンターティメントです。私はずっと以前、『視聴率保護法制定』というSF小説を構想したのですが、発想は似ていると思います。
ただ作家はそれを空想の世界という前提で描くのですが、中には現実に実行しようする人も出てきます。現実と非現実の境目の曖昧さについて考えさせられます。まあ、宗教という現実と非現実の境目が曖昧なものが人類始まって以来あるのだから、そこを批判するつもりはありませんが。
ポルノと犯罪の因果関係はよくわかっていません。アメリカでは児童ポルノに関する取り締まりは非常に厳しく、FBIは捜査として偽の児童ポルノサイトを作り、そのサイトにやって来た者を逮捕しました。イギリスでは児童ポルノ一斉摘発作戦(オペレーション・オー)が決行され多くの逮捕者を生みましたが、逮捕された者の中から32人が自殺しました。それでアメリカでもイギリスでも性犯罪、児童に対する強姦が減ったのかといえば、そういう話はまったく聞きません。逮捕者だけ増えて、実際の犯罪発生率はまったく変わらなかったようです。
この結果を規制派は知っているはずでしょう。それでも規制を強行しようとしているのだから、規制派の心理的背景に狂信と妄執を疑うしかありません。「統計データがなければ禁止できないのはナンセンスだ」という発言もあるようですから、データがあろうがなかろうが、自分の思想・妄想の実現のためなら手段を選ばないようですが(いまだにピューリタズムは梅毒の恐怖に怯えて、価値観を他人に押し付けようというのか……。あっ、独り言です)。
少数意見ですが「一度法改正して駄目なら戻せばいい」という意見もあります。これは、私個人的にはどうかと思います。というのも、「戻せない」だろうと思うからです。一度法改正したら過去に引き返せません。人間の意識が変わってしまうのだし、何より政治家にとっては自己否定に繋がります。もし悪化しても、意地でも規制を強めていくのではないか、と私は思うのです。根拠のない意見ですが。
※ 『視聴率保護法制定』。近い未来、「テレビ以外の全ての映像メディアは有害」という見解の下、テレビ以外の情報が規制される。人々の暮らしにとって有益で健全な思想を育むという名目で、一定以上の視聴率を維持するのが日本人の新たな義務となった。政府公式発表の放送は視聴率100%維持が絶対で、視聴しなかった者は特定され罰則を受ける。そんな法律が制定された最中、凶悪事件が発生。容疑者となったのは主人公の親しい友人。主人公は友人が無実である確信を持っていたが、報道はその友人を犯罪者と見做して調査を始める。……という内容の小説。
私は素人なのでよくわかりませんが、日本の漫画とアニメが世界的な支持を得るようになった背景には、日本の娯楽表現に規制があまりなく、その一方で外国には強力な規制があったからだ、という意見があります。アメリカのコミック、フランスのバンド・デシネといった西洋の漫画も法的な規制や時代の抑圧を受けていたようです。その規制が強かった時代に日本の漫画が広まり、人々の深層に「漫画といえば日本」という意識が強く定着していったというのです。この「メディア史観」が正しいのかよくわからないので、詳しい解説はちゃんとした先生に聞いてください。
現在はどの国でも日本の漫画を目標に追いつけ追い越せという活動を始めています。これまでの漫画表現の規制なども見直され、どの国でも自由な表現で描けるようになっています。そんな最中、かつて外国で実施されたような規制を日本で行ったらどうなるか。せっかく輸出産業としての力を得た漫画の勢いを大幅に削ぐ結果になるでしょう。日本を目標とする外国の漫画に立場を奪われるのは確実です。輸出産業として力も失うはずです。
石原慎太郎都知事は、枯れたとはいえかつては作家だった人間です。表現の規制や制限が作家と作品にどんな影響を与えるかよく知っているはずです。知った上で規制をかけようとしたのだから、度し難い人物としか言えません。石原慎太郎は自国の輸出産業のひとつを自分の手で殺そうとしたのだから、政治家としての能力を疑います。
頻繁に見かけた噂ですが、サブカルチャーが標的にされるのは天下り可能な団体がサブカルチャー関連の企業にないからだ、という意見があります。
これは噂に過ぎません。妄想と恐れという歪みが作り出した都市伝説的な思考です。私はサブカルチャー叩きの背景にあるのが“狂信”であると考えているので、“お布施”くらいでサブカルチャー叩きがなくなるとは思えません。
とはいえ、そういった考えに至る“気持ち”は理解できます。パチンコのような、常に実際的な社会問題を作り出している賭博行為を規制しようという人がまったく現れないのも、天下り可能だから、という考えもあります。
アニメ、漫画、ゲームといったサブカルチャーは技術や芸術性はさて置くとして、市場はかつてないほど大きく膨れ上がり、今や世界を巻き込む勢いを持っています。アニメ『けいおん!』が放送されいた三ヶ月は、日本は不況の最中とは思えないくらい活発に経済が動きました。いっそ、このまま『けいおん!』が放送され続けたら日本経済持ち直すのではないかとすら思ったくらいです(まあ、素人の妄想ですが。経済がそこまで簡単じゃないくらいわかってます)。
それくらいに大きな利益を作り出すのですから、ヤクザや準ヤクザ(公務員)といった人たちが「ショバ代よこせ!」と言ってくるのも無理はありません。または、事件の背後でそういった要求があったのかもと想像する人もいるでしょう。
もし今回の事件の後、どこかで謎の公的機関がこっそり作られ、アニメの制作費と収入がその企業に流れていたらアタリです。私はそういう企業やお金の流れといった話がわからないので、知り得た人はそれぞれの媒体で大いに盛り上がってください。私も乗っかりたいと思います。実際そんな機関が作られたら、「規制だ!」なんて大騒ぎする人もいなくなるのだろうけど、犠牲は大きすぎます。ただでさえアニメーターが苦しい生活をしているのだし、この状態での搾取は業界の底辺を崩壊させます。
東京にいて規制だの利権団体だのといった話に疲れて創作に集中できないのなら、いっそ引越ししたほうがいいです。出版社印刷所アニメ会社全員で大移動です。その期間、サブカルチャー文化は供給停止するでしょうけど、繰り返しうるさく騒ぐ隣人がいるなら、引越しも考えの一つとしてありかもしれません。
だいたい、東京なんて土地は人の住む場所じゃありません。人が多すぎだし、ヤクザやカルト宗教だらけで犯罪の数も非常に高いです。気候が厳しく、雪で交通機関が麻痺するのはしょちゅうだし、しかも大地震の不安が常に取り巻いています。運動しようと外出しても排ガスだらけで空気は悪いし、人が多いので何某のトラブルに巻き込まれるかもしれません。土地代が高くて一戸建ては無理。ビルを立てて会社を作るのも無理。暮らしは小さなアパートとか、仕事は貸しビルのワンフロアで満足するしかありません。よくもまあ、あんなゴミ箱の中に我慢して住んでいるなとは思います。
もし大移動するなら岡山がいいですよ。あそこは静かで暮らしやすいです。
続き:6月21日『非実在青少年規制』否決へ
関連情報リンク
第28期東京都青少年問題協議会委員名簿(PDF)
東京都青少年健全育成条例改正法問題のまとめサイト
ニコニコ大百科 非実在性少年とは
「反オタク国会議員リスト」メモ
たけくまメモ
→都条例「非実在青少年」規制問題について
→精華大学による「東京都青少年健全育成条例改正案」に対する意見書
→まんが・条例ができるまで(1992年作品)
改めて『非実在青少年規制』とは何であるのか振り返りましょう。以下が『非実在青少年規制』の概要です。
□□□□□□□□
一 青少年に対し、性的感情を刺激し、残虐性を助長し、又は自殺若しくは犯罪を誘発し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
二 年齢又は服装、所持品、学年、背景その他の人の年齢を想起させる事項の表示又は音声による描写から十八歳未満として表現されていると認識されるもの(以下「非実在青少年」という。)を相手方とする又は非実在青少年による性交類似行為に係る非実在青少年の姿態を視覚により認識することができる方法でみだりに性的対象として肯定的に描写することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を阻害し、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの
□□□□□□□□
何ともわかりにくい言葉が羅列しますが、要するに「存在しない青少年」を取り締まる法律です。何となく見た目が幼いとか、若作りしているキャラクターでもアウトです。一部の成人向けコミック、それもロリコンを題材にした作品だけ取り締まり対象になると思っている人もいますが、それは勘違いです。ほぼすべての成人向けコミックが対象になります。
規制対象は一般向け漫画にも向けられ、キャラクター作りに対しても制限がかけられます。恋愛をテーマにした漫画は全滅の恐れすらあります。声優の演技や声なども規制の対象になるらしく、声質が幼い声優は失業します。人気の高い女性声優などはほぼ全員が規制対象になると思われます。作家や出版社は、警察の検閲にビクビクしながら創作をしなければならなくなるわけです。
私はこれを知った段階でブログに取り上げようと思ったのですが、知ったときにはもう可決まで何日もない状態でした。情報を収集している間にも時間は過ぎて行き、今に至ってしまったわけです。
今回の『非実在青少年規制』における問題は、その内容以上に誰も知らないうちにこっそり法案を決めようとしたその方法にあります。私の家で購読している読売新聞には、『非実在青少年規制』の文字は一度も掲載しなかったと思います。3月19日になって、なにげなくテレビをつけると、この問題について報道されていたのですが、「『非実在青少年規制』とは何か?」という説明から始めていたので今までまったく報道していなかったのだと思います。インターネットがなければ、そんな法案が提示されていたことすら知ることができなかったと思います。
「サブカルチャー叩き」は戦後以来、周期的に繰り返され、およそ15年から20年周期で発生し、その時代の作家が標的にされ指弾されています。今回の件もその一端であるという見方はありますが、私は少し違うと思います。
まず第一に、世間に対してサブカルチャーの有害性をアピール、扇動活動など一切行っていない。一般の人々を巻き込み、思考や行動に影響を与えようというのを目的としていません。
第二に、その上でこっそり法改正してしまおうと強行したことです。今までのやり方よりよっぽど巧みで、効果的な方法です。
第三に周期がこれまでより短く、より反対派の勢力が強大になっているという点です。漫画、アニメと少し違う分野ですが、2002年7月に出版された森昭雄の『ゲーム脳の恐怖』があります。こちらはゲームですが、同じサブカルチャー叩きと括れば、期間はたったの8年です。2008年日本ユニセフが中心となった『準児童ポルノ』から見ると、期間はさらに短い2年です。
過去のサブカルチャー叩きは感情論に過ぎず、その感情を多数の人々に伝播して啓蒙(洗脳?)を促すという手法でしたが、最近は似非とはいえ科学的な考証を背景にしているし、都知事が先頭に立って法改正まで行おうとしました。『非実在青少年規制』に限っていえば、今後、毎年この時期に取り沙汰されるかもしれません。
今回の件はインターネットを通じてその存在を知ることができました。会議での信じがたい罵詈雑言を文章化した生々しい記事に行き当たることができたし(大葉ナナコ先生によれば私は認知障害者に当たるそうですよ)、都知事本人の映像も動画サイトなどで見ることができました。しかし、これまでの規制派の傾向を見ると、行動や手段が確実に複雑化、巧みになっています。ひょっとしたら、今回の件でインターネットに情報が漏れるということを学習したかもしれません。次はインターネットですら情報を得ることができないかもしれません。
私見ですが、『非実在青少年』という造語はSF的だと思います。SFとは現実をベースにしながら、その概念を飛躍させる何かを導入し、それで社会や人間がどうなっていくのかをシュミレーションしていくエンターティメントです。私はずっと以前、『視聴率保護法制定』というSF小説を構想したのですが、発想は似ていると思います。
ただ作家はそれを空想の世界という前提で描くのですが、中には現実に実行しようする人も出てきます。現実と非現実の境目の曖昧さについて考えさせられます。まあ、宗教という現実と非現実の境目が曖昧なものが人類始まって以来あるのだから、そこを批判するつもりはありませんが。
ポルノと犯罪の因果関係はよくわかっていません。アメリカでは児童ポルノに関する取り締まりは非常に厳しく、FBIは捜査として偽の児童ポルノサイトを作り、そのサイトにやって来た者を逮捕しました。イギリスでは児童ポルノ一斉摘発作戦(オペレーション・オー)が決行され多くの逮捕者を生みましたが、逮捕された者の中から32人が自殺しました。それでアメリカでもイギリスでも性犯罪、児童に対する強姦が減ったのかといえば、そういう話はまったく聞きません。逮捕者だけ増えて、実際の犯罪発生率はまったく変わらなかったようです。
この結果を規制派は知っているはずでしょう。それでも規制を強行しようとしているのだから、規制派の心理的背景に狂信と妄執を疑うしかありません。「統計データがなければ禁止できないのはナンセンスだ」という発言もあるようですから、データがあろうがなかろうが、自分の思想・妄想の実現のためなら手段を選ばないようですが(いまだにピューリタズムは梅毒の恐怖に怯えて、価値観を他人に押し付けようというのか……。あっ、独り言です)。
少数意見ですが「一度法改正して駄目なら戻せばいい」という意見もあります。これは、私個人的にはどうかと思います。というのも、「戻せない」だろうと思うからです。一度法改正したら過去に引き返せません。人間の意識が変わってしまうのだし、何より政治家にとっては自己否定に繋がります。もし悪化しても、意地でも規制を強めていくのではないか、と私は思うのです。根拠のない意見ですが。
※ 『視聴率保護法制定』。近い未来、「テレビ以外の全ての映像メディアは有害」という見解の下、テレビ以外の情報が規制される。人々の暮らしにとって有益で健全な思想を育むという名目で、一定以上の視聴率を維持するのが日本人の新たな義務となった。政府公式発表の放送は視聴率100%維持が絶対で、視聴しなかった者は特定され罰則を受ける。そんな法律が制定された最中、凶悪事件が発生。容疑者となったのは主人公の親しい友人。主人公は友人が無実である確信を持っていたが、報道はその友人を犯罪者と見做して調査を始める。……という内容の小説。
私は素人なのでよくわかりませんが、日本の漫画とアニメが世界的な支持を得るようになった背景には、日本の娯楽表現に規制があまりなく、その一方で外国には強力な規制があったからだ、という意見があります。アメリカのコミック、フランスのバンド・デシネといった西洋の漫画も法的な規制や時代の抑圧を受けていたようです。その規制が強かった時代に日本の漫画が広まり、人々の深層に「漫画といえば日本」という意識が強く定着していったというのです。この「メディア史観」が正しいのかよくわからないので、詳しい解説はちゃんとした先生に聞いてください。
現在はどの国でも日本の漫画を目標に追いつけ追い越せという活動を始めています。これまでの漫画表現の規制なども見直され、どの国でも自由な表現で描けるようになっています。そんな最中、かつて外国で実施されたような規制を日本で行ったらどうなるか。せっかく輸出産業としての力を得た漫画の勢いを大幅に削ぐ結果になるでしょう。日本を目標とする外国の漫画に立場を奪われるのは確実です。輸出産業として力も失うはずです。
石原慎太郎都知事は、枯れたとはいえかつては作家だった人間です。表現の規制や制限が作家と作品にどんな影響を与えるかよく知っているはずです。知った上で規制をかけようとしたのだから、度し難い人物としか言えません。石原慎太郎は自国の輸出産業のひとつを自分の手で殺そうとしたのだから、政治家としての能力を疑います。
頻繁に見かけた噂ですが、サブカルチャーが標的にされるのは天下り可能な団体がサブカルチャー関連の企業にないからだ、という意見があります。
これは噂に過ぎません。妄想と恐れという歪みが作り出した都市伝説的な思考です。私はサブカルチャー叩きの背景にあるのが“狂信”であると考えているので、“お布施”くらいでサブカルチャー叩きがなくなるとは思えません。
とはいえ、そういった考えに至る“気持ち”は理解できます。パチンコのような、常に実際的な社会問題を作り出している賭博行為を規制しようという人がまったく現れないのも、天下り可能だから、という考えもあります。
アニメ、漫画、ゲームといったサブカルチャーは技術や芸術性はさて置くとして、市場はかつてないほど大きく膨れ上がり、今や世界を巻き込む勢いを持っています。アニメ『けいおん!』が放送されいた三ヶ月は、日本は不況の最中とは思えないくらい活発に経済が動きました。いっそ、このまま『けいおん!』が放送され続けたら日本経済持ち直すのではないかとすら思ったくらいです(まあ、素人の妄想ですが。経済がそこまで簡単じゃないくらいわかってます)。
それくらいに大きな利益を作り出すのですから、ヤクザや準ヤクザ(公務員)といった人たちが「ショバ代よこせ!」と言ってくるのも無理はありません。または、事件の背後でそういった要求があったのかもと想像する人もいるでしょう。
もし今回の事件の後、どこかで謎の公的機関がこっそり作られ、アニメの制作費と収入がその企業に流れていたらアタリです。私はそういう企業やお金の流れといった話がわからないので、知り得た人はそれぞれの媒体で大いに盛り上がってください。私も乗っかりたいと思います。実際そんな機関が作られたら、「規制だ!」なんて大騒ぎする人もいなくなるのだろうけど、犠牲は大きすぎます。ただでさえアニメーターが苦しい生活をしているのだし、この状態での搾取は業界の底辺を崩壊させます。
東京にいて規制だの利権団体だのといった話に疲れて創作に集中できないのなら、いっそ引越ししたほうがいいです。出版社印刷所アニメ会社全員で大移動です。その期間、サブカルチャー文化は供給停止するでしょうけど、繰り返しうるさく騒ぐ隣人がいるなら、引越しも考えの一つとしてありかもしれません。
だいたい、東京なんて土地は人の住む場所じゃありません。人が多すぎだし、ヤクザやカルト宗教だらけで犯罪の数も非常に高いです。気候が厳しく、雪で交通機関が麻痺するのはしょちゅうだし、しかも大地震の不安が常に取り巻いています。運動しようと外出しても排ガスだらけで空気は悪いし、人が多いので何某のトラブルに巻き込まれるかもしれません。土地代が高くて一戸建ては無理。ビルを立てて会社を作るのも無理。暮らしは小さなアパートとか、仕事は貸しビルのワンフロアで満足するしかありません。よくもまあ、あんなゴミ箱の中に我慢して住んでいるなとは思います。
もし大移動するなら岡山がいいですよ。あそこは静かで暮らしやすいです。
続き:6月21日『非実在青少年規制』否決へ
関連情報リンク
第28期東京都青少年問題協議会委員名簿(PDF)
東京都青少年健全育成条例改正法問題のまとめサイト
ニコニコ大百科 非実在性少年とは
「反オタク国会議員リスト」メモ
たけくまメモ
→都条例「非実在青少年」規制問題について
→精華大学による「東京都青少年健全育成条例改正案」に対する意見書
→まんが・条例ができるまで(1992年作品)